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明笛について(22) 明笛45号

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斗酒庵 ひさびさにまた明笛を買う の巻明笛について(22) 明笛45号

 

STEP1 明笛45号


 ひさびさ…でもないか。(W)


 そういやちょっと前に44号がありましたっけ----
 今回は2本同時の出品でしたが,1本は比較的状態良好だったものの,もう1本はお飾りもなく,管もあちこちヒビヒビのワレワレはウチュウジンだ。

 庵主,月琴に比べると明笛のほうはけっしてまったく----いえいえ,ケンソンとかそういうのじゃなく,もう割と本気と書いてマジなほうで(^_^;)----得手でなく,いまだにドレミに毛の生えた程度の演奏がせいぜいではありますが。清楽という音楽分野を研究するうえで,基音楽器である明笛という楽器のデータは,曲の音階や奏法を考える上でのもっとも大切な資料の一つですからな。
 なんとかせめて。
 音階だけはふつうに吹き出せるようになろうと荒川河川敷で練習中,酸欠で倒れた頭の上をキジが走ってゆくという事態(事実ですww)に遭遇してなお,その探求だけは絶賛続行中。こうして,手に入るものは修理して,データを採っておるのでございます。

 とりあえず状態の良い黒いほうを45号。
 ヒビヒビの斑管を46号とします。



 まずは45号から。

 修理前の所見・採寸は以下。

 


 明笛でよく見る この黒い色の管は,竹の表面を硫酸などの薬品で焦がしたもの。
 黒竹とか紫竹とか,もともと色つきの材料を使ったようなわけではありません。

 ちなみにもう1本の46号管表面の斑模様も自然のものではなく,同じように薬品で処理した模様です。明治時代の 『新発明なんたら』 という類のDIY裏ワザ本には 「牙骨に色を付けるやりかた」 とか 「人造金の製法」「人造珊瑚製造法」(w) なんてのに並んでかならず,この 「人工斑竹の作りかた」 が紹介されてたりしますね~。
 つてもまあ,皮つきの竹の表面に薬品をてきとうにふりかけるだけのことなんですが…全体をズポっと漬ければこんなふうに黒竹風になりましょうし,棒かなんかにつけてパッパと振り撒けば斑模様になるし,型紙様のものを使えばもう少し複雑な模様を作り出すことも可能----ふつうの斑模様のほかに豹柄っぽい不定型な輪模様のある管も時折見かけますが,あれもおそらくはこの手での加工によるものでしょうね。

 焼印は「竹雨」か「竹両」。

 


 二文字目が少し潰れてるのでハッキリしません。
 ただ,この焼印,ちょっとヘンなところに捺されてます。
 ふつうこの手の刻印は,管背中心線上のどっかか,管頭の背側にそッと刻まれてるものですが,これは歌口のすぐ横あたり。
 焼印の熱でバッキリ逝ったら,せっかく作った笛が台無しになっちゃう危険のあるような場所ですね。工作によほど自信があったのかもしれませんが,あまり感心はいたしません。

 響孔のところに何か貼ってありますな。

 模様があるからラベルかな?----と,はじめは思ったんですが,そもそもここにラベルを貼るのもヘンなもの。
 周縁にちょっとギザギザが残っているし……古い切手かな,証紙の類かもしれん。
 最初から裏にノリがついてますので,竹紙・笛膜の代用品として使ってみたのでしょう。

 


 あと,管頭のほうにあるコレ----前所有者が「銘」を刻もうとしたみたいですね。

 「月魄」 でしょうか?
 ザンネンながら(w)「月」の2画めで挫折したようですが…ふっ……庵主も以前やろうとして苦労しましたっけね。
 けっきょくはルーターでガリガリっとやっちゃいましたが,竹になんか彫り込むのって手工具だとかなり難しいんですよね。繊維が一方方向でやたら頑丈なので,刃がぜんぜん思った方向に進まないんですよ。

 管頭・管尾の骨製お飾りが完備。  この両端の骨飾りが,明笛とほかの日本の笛を区別する時まっさきに目につく特徴の一つなんですが。今回の46号もそうなように,古物だとよく,ハズれてなくなっちゃってることのほうが多いですね。
 これも前所有者のシワザだと思いますが,かなりガッチリと接着固定してあります。管頭のお飾りの縁に,はみ出たニカワをぬぐった痕がバッチリとついてます。
 そして----この管頭のお飾りの中か,管のほうの反射壁の詰め物との間かに,なにか詰め物がされているみたいです。
 管頭のほうが不自然に重くなってますね。

 31号や44号なんかもそうですが,古い明笛は歌口から管頭の飾りまでの間がこれよりもずっと長く,そこにカウンターウェイト-----演奏時のバランスを衝る重しとして,たとえば鉛,たとえば唐木の棒とか鉄砂なんかを詰め込んであることがあります。
 同じようなことをして,演奏時の笛のバランスを調整したのでしょう。

 管頭のお飾りの付け根あたりと管尾の裏の飾り孔周辺に何本か,割レを補修した痕。
 歌口周辺もけっこうイタんでます。前所有者はこの笛をかなり大事に使い込んでたみたいです。

 要修理個所をまとめると,こんなとこでしょうか。(画像クリックで拡大)

 


 管尾裏孔のあたりにかなり長い未補修のヒビが1~2本見つかりました。
 これらはおそらく,使われなくなってから後,放置されてる間に生じたものでしょう。管長の半分くらいまで伸びてはいますが,ごく表面的な薄ヒビのようですから,保護塗りで固めるていどでも問題はなさそうですね。
 ほか大きなヒビはだいたい補修済で,さほど問題となるような割れもないようです。ただいくつか,小さなヒビやキズをウルシではなくニカワで埋めようとした素人修理がありますので,そこらはいちどキレイにしてからやり直しておかなければなりますまい。


 歌口の内がわ,
 とくに息があたる唇と対面がわの壁面は,塗装もボロボロでほとんど竹の下地が出ちゃってます。ごか上下にちょちょっと,濃い緑色の塗料で補修塗りしようとした痕跡も見えますな----なんでミドリ色?

 反射壁の塗りはだいじょうぶそうですが,その周辺はけっこうボロボロですね。
 とはいえ,このあたりは使用による通常の劣化で,管内のそのほかの部分の状態は比較的よく。例によって灰色一色になってたのをジャボジャボと水洗(w)してもビクともしませんでした。
 エタノールを使うと若干溶けてきますので,ベンガラと柿渋かそれにスピットニスを混ぜたような類の顔料系の塗装だったのでしょうか。

 洗った後,ちょっと吹いてみましたが,現状でも音が出せなくはない状態です。

 ----まあもっとも,かなり出しにくいし不安定ではありますが。

 このいちばんの原因は,歌口の周縁がガタガタになっちゃってることでしょう。

 歌口のふちに比較的大きなエグレが2箇所,上下の縁にも細かいキズが見えます。
 これじゃ吹きつけた息が乱れて,ちゃんとした鳴りませんね。

 では,今回の修理は,この歌口の補修からはじめることといたしましょう。

 


 まずは月琴の修理で出た唐木の粉を茶こしで軽くふるい,特に細かいのを集めて,エポキでよく練り,なめらかなパテにします。
 喰いつきが良くなるよう,歌口の周縁はあらかじめ綿棒や布を使って,エタノでよく拭っておきましょうね。

 これを----こうと。

 パテを盛ったあとは,こういうクリアフォルダの切れ端などをかぶせ,軽く押しつけておきます。
 こうしますと少ないパテを細かな凹にきっちりと押し込められ,余計なぶんが自重で流れたりもしにくい。
 無駄に竹の表面を荒らしたくないので,パテ自体の量も盛りつける範囲も,必要最小限にしときたいですもんね。

 


 一晩ほど置いてから整形。

 木片に目の細かなペーパーを貼ったもので,軽く軽くこすりながら余分を削り落とし,均してゆきます。
 試し吹きしながらの作業でしたが,表面の凸凹がなくなるほど息の流れがまとまってゆくのが,吹いた直後の曇りから分かります----面白いものですね。

 繊細な作業なので,けっこう時間がかかりました。

 


 新しくできたヒビの類には,ゆるめたエポキを流して留めておきましたので,これであとは管の内外を保護塗りすれば,まず大丈夫でしょう。

 


 まずは管の内がわから。

 最初にカシューの「透(スキ)」をジャブジャブに溶いて,これを細めの筆を使って歌口や指孔から流し込むよう置き,先端にShinexの切れ端をくくりつけた細い棒を出し入れして均して,管の内壁にじっくりたっぷりムラなく染ませます。
 これで顔料の層が残っている箇所は,そのまま固めて下地にしてしまうわけですね。

 

 最初の塗りは三日以上置いて,キッチリカッチリ乾燥させます。
 何回も書いてますが,カシューの塗りは最初のコレが大事。(w)

 しっかり固まったところで,#1000くらいのペーパーを先に巻いた丸棒で管内を軽く均し,上塗りに入ります。
 今回は「朱」で。最初に特に荒れてる歌口周辺や指孔の縁を部分的に塗ってから,使い古しのShinex(薄いスポンジっぽい研磨用具)を細棒にくくりつけたのに塗料を吸わせ,全体を塗りこめてゆきます。

 外がわは「透」の拭き塗り。
 塗っては布で拭き取り「拭き漆」風に仕上げますが,使用で荒れやすい歌口・響き孔の周縁とヒビ割れの補修箇所は,別に何度か筆塗りして部分的に少し厚めに塗膜を作っておきましょう。

 


 一週間ほどおき,ピッカピカに磨いたら修理完了!!

 5月の晴れた日の昼下がり,近所の公園で試し吹きをしてきました。
 清楽の運指での音階は以下の通り。

  ○ ■ ●●● ●●● 合 5C+25
  ○ ■ ●●● ●●○ 四 5D+30
  ○ ■ ●●● ●○○ 乙 5E
  ○ ■ ●●● ○●○ 上 5F+40
  ○ ■ ●●○ ○●○ 尺 5G+30
  ○ ■ ●○○ ○●○ 工 5Bb-21
  ○ ■ ○●● ○●● 凡 5B

 筒音(全閉鎖)がドの30%上,ミとシをのぞいて西洋音階と比べると全体に2~3割高めとなっていますが,清楽器の音階は西洋楽器のそれと比べると,第3音が2~30%低いのが特徴。全体が高くて第3音の「乙」がピッタリなんですから,「明笛」という楽器としては音階,合ってるわけですね。(W)
 まあ耳で聞くかぎり,筒音をドとしたときの音階に,そんな不自然な感じはありません。ふつうにドレミ音階の笛として使えそうです。

 古いタイプの清楽の明笛は,全閉鎖がBからBbですので,全閉鎖Cのこの笛は音階からも全体のカタチからも明治後期から大正時代にかけて作られた,比較的新しいタイプの明笛で,清楽の演奏に使われたかどうかには疑問がありますが----まあ「月魄」なんていう漢文厨二病的な銘(w)を刻もうとしていたところからすると,もしかしたら使ってたかもしれませんね。
 全閉鎖Cなので,清楽の楽譜をそのまま使っての合奏は出来ませんが,うちのWSでやってるみたいに,月琴がC/Gの調弦なら演奏に合わせること自体はふつうに可能です。ただしその場合のメロディは,本来の笛のパートじゃなく,月琴と同じのをユニゾンで演奏することになっちゃいますけどね。(w)

 吹きやすい笛です。

 古い明笛は歌口が極端に小さいので,勘所(息を吹きかける場所というか角度というか…)をつかむのがちょっと難しいんですが,これは篠笛風に改良され,歌口がやや大きめなんで,比較的ラクに音が出せます。

 ただ,庵主はふだん筒音の1オクターブ上を

  ○ ■ ○●● ●●●

 という運指で出すことが多いんですが。この笛だと音の安定が悪く,むしろふつうに甲音を使ったほうが安定して鳴りますね。これも歌口が大きめなおかげだと思いますが,古いタイプの明笛よりずっと甲音が出しやすいです。ヘタクソの庵主でも2オクターブ上くらいまでは余裕で出せました!(甲音,ふだんうまく出せないのでとてもウレしいwww)

 清楽の資料としてはあまり価値がありませんでしたが,楽器としては面白く使いやすい----悪くない笛でした。

 

 



(つづく)

 

 

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