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明笛について(25) 明笛38号(2)
MIN_25_4.txt
明笛について(25)
明笛38号(2)
STEP2 鳴らぬなら鳴るまでホジくれホトトギス
さて,鳴らない笛はただの筒。
いや,
ただの筒ならむしろ,
息を吹き入れさいすれば,何かしらの音が出てもおかしくないはずですが,それすら鳴らないというのですから……これはいったい,何なのでしょう?(www)
唄口の塗装は全周ハガれ,周辺内部の塗りもボロボロですが,見た感じ唄口自体に欠ケや傷はなく,縁もきれいにピンっと切り立った状態になっています。
まずはも一度,ふつうに吹いてみましょか。
それ,フーーーッとな。
…………ピーもプーもありませんね。
息が完全,唄口にスルーされてる感じ。
ふつうに鳴る笛の場合。唄口に息を吹きかけると,音が出るのと同時に唇に若干抵抗が感じられるものなんですが,これはまあ見事に無感触。
ちょっと前にも書きましたが,古いタイプの明笛の唄口は,篠笛などのそれに比べて小さいので,息を吹きかけて音の出るスィート・スポットが小さい。
もしかすると庵主,ちゃんと唄口に息を向けてなかったかもしれん----そこでも一度,こんどはしっかり目視で確認,さらに上唇で孔の位置をしっかり確認してから。
フーーーーーーーッ
……ストローでも吹いてるみたいな感じです。
吹いた直後に管の表面の曇りを確認すると,息はちゃんと唄口に向けて流れているようす。
----にもかかわらず,音が,出ない。
はてさて,理解不能。こりゃまた
ちょっとした怪奇現象……
いや,ワレワレは科学の子。
まずは前回言ったとおり,この笛のことを徹底的に調べ上げるところからハジメてみましょう!!
----ハイ,キターーーーッ!!
調べはじめて10分
(ww)……ご覧ください。
唄口が指孔の正中線からかなりズレちゃってますねえ。
前所有者はこれに気がついて,上の画像で見るところの
左がわの縁を広げて調整
しようとしたみたいなんですが,それでも音は出なかった,と。
まあ,おそらくこれが 「吹いても音が出ない」 原因の最たるものであろうとは思われるのですが。
実はこの唄口,ほかにもヘンなこと…いやまあ,ヘンと言いますか,
ナットクのゆかないところが何点かございます。
左を図1,右を図2とします。
唄口のところでぶった切ったものを,
管のお尻のほうから
見ていると思ってください----
材料がポリパイプとかでない限り,実際にはこんな真円であることはありませんがね。(w)
オレンジ色の部分が唄口です。
通常,明笛の唄口というものはこんな感じ,篠笛だともう少し幅(β)が広くなってましょうか。
とまれ,唄口が管の正中線 i に合わせて貫かれていれば,図1のように,唄口の縁から管内側部の端までの距離
γ と δ の寸法はほぼ同じ
なはずです。
それで,38号の唄口はこの絵でいうと
左がわにズレてる
わけですから,単純に考えると図2のように,唇に当るがわの
γ はせまく,
向かいがわの
δ が広く
なってるはずですよね----しかし。
実際の笛を調べてみますと
なぜかδがわのほうがせまい
----せまいどころか,唄口の縁が内壁ギリギリになってます。
さらにも一つ。
図1の状態ですと,唄口βの両端 c と d の縁は,ほぼ
同じ高さ
にあります。そして,38号の唄口が左にズレているとすると,図2のように c と d の関係は
d(高)>c(低)
となるはず。
でも,なぜでしょう----
笛を図2のように,本来の正中線に対して直角に立ててみても,c のがわから d の縁が見えません。
指孔をふさいで,吹く時の構えにしてみると,
dの縁がcの縁よりも「下に」なっている
のです!
d が c より低い位置にあると,吹いた時の息は d の角に当らず,管の表面をただそのまま通り過ぎてしまいます。横笛は集束された息が d の角に当って内外に分かれ,渦を巻くことで音が出る(
----らしい。
横笛の発音の正確な原理については難しすぎて庵主には分かりませんww)ので,ここに息が当らないということは,いくら息を吹きかけても,音には変換されないわけですね。
そりゃこの笛,どやったって鳴りませんわな(w)
………でもナゼだ。
庵主のさんすう脳が沸騰してきたぞ。
唄口の孔βの中心が,管の正中線iよりも左がわにズレているのに,
γ>δであり,
かつ,
唄口の縁 d が c よりも低い
とするなら,これはいったいどうなっているのか?
たすけてぇッ!!
さんすう先生ーーーーッ!!
(泣)
うむ………おそらく,基本のところはこんな感じでしょうか。
正確な角度とかは分かりませんがこの作者,唄口を
かなり妙な角度で斜めに貫いて
しまったのだと思われます。
ただ,それだけだと左右の空間が γ>δ となっている問題は解決されますが,
唄口の縁の高さの問題
は残ります。 そこでさらにしつこく観察を続けていきますと,この唄口のあたりで管が
わずかながら平たく潰れている
らしいことが判ってきました。
左図の濃い緑色のラインは,それを少し大げさに描き入れてみたものです。
その上で前所有者が縁を削って加工してしまった(図の青色の部分)ため
状況がさらにこじれ,
上述のよう,ウンともスンとも鳴らない物体になってしまった,と。
……ようやく,解決。(泣)
三日ばかり修理もせず,竹ざっぽをあーでもないこーでもないと眺めていたわけですが----むかし知識の深淵に到ろうとして,友人といっしょに
庭の竹を何日もニラミ続けた先生
がいた,というハナシをおもわず思い出しましたわいな。(ちなみに,数日したら友人はおかしくなり,さらに数日したら自分までおかしくなってきたみたいなのでやめたそうですww)
しかし分かってみますと………
エラい笛売りやがったものですな,この作者は(汗)
唄口というのは,
笛の孔でいちばん最初に穿たれるもの
です。ふつう,竹はみんな太さや長さが微妙に違うので,最初に唄口をあけてその竹筒の音を確認し,指孔や詰め物の位置を調整しながら作ってゆきます。
もしこの笛が最初からこの状態だったとすれば,音が出ないのですから,この笛の作者はその確認をしていない----ということは,彼は
竹筒に孔をテキトウにあけるだけの作業をしていた,
ということになります。
まあもちろん,唄口や指孔の位置は何らかのスケールシートやテンプレートのようなもので決められていたんでしょうが……同じような例は月琴のフレットの工作なんかでもありましたので,同様に薄利多売楽器である明笛で同じようなことがされていたとしても,庵主的には何ら不思議はありませんが----
どうれ,とりあえずその頭を出せ,このゲンノウで殴ってやろう
(怒々 笑っているが目が笑っていない)
前所有者の行為や最初に見た保存状態から考えますと,この笛はおそらく,笛屋の店先でちゃんと選んで買ったのではなく。
通販か何かでお取り寄せ>
吹いてみた>ダメ。
イジってみた>やっぱりダメ。
>ハイ押入れ行き決定!!
というような過程をへてウチに来たのではないか----と推察されます。
ホレ今だって,
雑誌やTVの通販とかネットのお取り寄せ
で同じような目にあったオボエのある人----周りにけっこういますよね?(www)
唄口の問題も含めて,観察から判明したこの笛の要修理個所をまとめると,だいたいこんなものでしょうか。
まずは唄口にいろいろと
部分的な補修・調整
をやってみましたが,どれも音が出る,まではゆくものの実用的なレベルには達しませんで。もう少し,もう少し,と調整してゆくと,こんどはまた音が出なくなるというのの繰り返し……原作者のあけたこの孔,よっぽど
絶妙にイヤな位置と角度
であけられてたみたいですね。
これはもう根本療治,これしかありません----
いちど埋めてあけなおしましょう。
範囲が広く,後で精密な加工をする必要がありますので,パテの骨材にはいつもの竹粉ではなく
ツゲの木粉
を使っています。
あらかじめ管の中に
ラップを巻いたガリ棒
を差し込んで固定し,内がわにあふれないようにしてから。
たっぷりのパテを唄口に盛り付け,半固まりの状態の時,さらにしっかりと押し込みます。
用心のため数日置いてきっちり硬化させ,表面を平らに整形したら穴あけ作業です。
こんどはしくじらないよう,
管の中央を出すのと,唄口の中心決めはかなり神経質に何度もやり直しました。
さらに工作でも万全を期すため,
穴あけのさいに位置がズレないよう,
角材ではさみクランプでしめて管をがっちり保定します。
最初はネズミ錐。
竹に孔をあける時の手工具は主にこれです。穿孔の際に竹が割れにくいんです。
指孔の正中線上に丸い孔があきました。
吹いてみましょうかね----うむ,笛というよりまさしく瓶の口に息かけた時のような,ぼーっていう音が鳴ります。
あとは吹いて音の出具合を確かめながら,ナイフやリューターで慎重に慎重に広げてゆきます。
指孔とほぼ同じか,わずかに大きいくらい
がふつうですね。
あるていど広がったところで中を覗いてみますと----埋めこみの際,パテが内がわにあふれないよう,いちおう処置はしておいたんですが,それでも漏れた少量のパテが反射壁や内部の周縁にへっついて固まっちゃってました。こういうのももちろん音の邪魔になりますんで,ガリ棒やリューターで掻き出し削って取り除きます。
こんどの唄口の中心は,指孔の正中線とほぼ同じです!
(つづく)
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