明笛について(24) 明笛46号(2)
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明笛について(24) 明笛46号(2) STEP2 フラットウッズへようこそ! 管本体がワレワレのヒビヒビ補修の養生に入ったところで。 この間にお飾りでも作っておきましょうか。 管頭・管尾のお飾りともになくなっていますから,もとどんなのがついてたのかは分かりませんが,やや細身でスマートな感じの笛なので,あんまり凝ってない,シンプルなのがいいでしょう。 材料は百均のめん棒(長33センチ)を使います。 ちょっと前に44号(招月園)の修理で使った余りですね。 庵主の修理ではおなじみ,月琴の糸巻の材としてよく使ってるもの----そういやこのお飾りも,整形の途中までは糸巻の工程とあんまり変わりがありませんな。 まずは根元になる部分に,糸ノコで平均3ミリほどの深さの溝を1本,ぐるりと刻みます。 そこに向けてカッターや小刀で削ってゆき,全体を先の開いたラッパ状に整形。 ある程度カタチになってきたところで先端に孔を穿ち,リーマーで内がわもラッパ状にエグってゆきます。 前まで使っていたブナパイプだと,この真ん中の孔をあける手間はなかったんですが,カタくって----切削の加工はこの百均めん棒のほうがずっとラクですね。 中心の孔があるていど広がったところで首チョンパ。 こんどは反対がわの取付部をえぐります。 こちらの孔にはテーバーをつけず,中心孔をそのまま広げて,まっすぐ凹状に彫り込んでゆきます。 この頭飾りは長さが8センチもあるので,手持ちのドリルビットでは反対がわまでとどきませんが,両方から穿ってうまく貫通させました。 構造と機能からすれば,頭飾りのほうは演奏時のバランスをとるカウンターウェイトとしての意味合いのほうが強いので,べつだんパイプ状にする必要はあまりないのですが……まあ今回は気分ということで。(ww) 管尾のお飾りは3センチ。 工程は同じようなものですが,小さいぶんこっちのほうが加工はタイヘンです。 首チョンパのあとは適当な丸棒をさしこんで,回しながら整形。こうでもせんと保定できません(w) 本来は旋盤とかで作る部品ですもんね。 肉の厚みを確かめながら,整形してゆきます。 けっこう薄くしてもまあそう壊れることはありませんが,削りすぎて穴でも空いちゃったら,そこまでの苦労がダイナシですからねえ。 同じような手旋盤で,一次整形段階ではほとんどまっすぐな側面だった頭飾りも,端の方が少し反り立ったなだらかなラッパ型に整形します。 このめん棒の材は削るとボサボサした質感で,そのままだといかにも「木」----といったちゃッちイ感じですが,色自体はきれいな白ですので,しっかり磨いて導管を埋めると存外に骨っぽい質感になります。 今回は百均エポキをエタノでシャブシャブに緩めたものをシーラー(下塗り剤)の代わりに塗ってみました。 2度ほど塗って表面を磨くと----うむ,ちょっと見木っぽくなくなって悪くありません。 一回めの補修で 割レ自体は継がれ,ヒビもかなり薄くなりましたが,まだ表面近くに浅いミゾが残っています。 ここに再び緩めたエポキを2度ほど流し込み,最後に秘蔵の「粉」をかけて盛り上げます。 ふふふふふ…ダンナ,粉ですよ,例の粉。 前にも使ったことがありますが,これは煤竹の虫食い部分に詰まってた虫の食いカス----竹というのはながーい糸状繊維のカタマリで,通常は削っても砕いてもボサボサになるだけ,なかなか「粉状」にはなってくれませんが,これは虫さんが分解して粘土質の土のようにしてくれたもの。砕いて擂ってふるいにかけると,こんなふうにすごく微細な粒子状に…「粉」に変ります。 竹由来の物質ですので,竹との相性がいいんですね。 こういう修理は,深いミゾより----浅いミゾのほうが難しい。 そもそもミゾ状のところにエポキをきっちり行き渡らせるためには,その粘度を下げなければなりませんが,エタノで緩めるとそのぶんわずかに引ける(エタノールの蒸発した分が減る)のと,蒸発時にエポキがエタノに引っ張られ,塗った範囲の外がわに寄ってしまうので,肝心の中央部分がいつまでも埋まってくれないという目に遭います。もろんその作業を繰り返せばいつかは確実にキッチリと埋まってくれはしますが,何度も充填と整形を繰り返すことになり,埋めたいところよりもその周辺が傷ついたり削れたりしてしまいがちです。 まあ結局,どうやっても整形の時にどっかこっか削っちゃったり傷つけちゃったりはするんですが(^_^;)。 作業の回数を減らし作業による損傷を少なくするためにはどうすればいいか----そう(w) 凹 をいッそ 凸 にしてしまえばいいのです。 まずは浅いミゾに緩めたエポキ(ここはもう強度も硬化時間もさほど要らないので,硬化時間の短い百均のでおけいww)を筆で流し込んだら,粉をかけて軽く払い落し,10分ほど置きます。 エポキを吸って少し固まり,粘土状になった粉をヒビの上に寄せて盛り上げ,さらに10分後,その上にクリアフォルダの欠片やラップの切れ端をかぶせ,指の腹で軽く押し付けて,溝の中にキッチリと埋め込みましょう。 固まったらカバーをはずし,上からシャブシャブに緩めたエポキを2度ほど染ませて完了----ヒビの上の狭い範囲だけに,凸った部分を作り出します。 もちろんあらかじめ粉をエポキで練ったパテを使う方法もあるのですが,いくぶん手間は少なくなるものの,「充填箇所の上で直接パテを作る」このやりかたにくらべると,やはり粘度の問題があるため確実さと精密さが劣るようです。 ヒビ埋め箇所を整形したら,あとは内外の保護塗り。 内がわの塗りは,ハミ出してる接着剤を軽く削ったあと,すでに塗られているオリジナルの顔料系塗料にカシューを滲ませ,下地として固めた上で2度ほど上塗り。 最初のほうでも書いたよう,オリジナルの塗装に劣化や損傷が少なかったので,こちらはあまり問題なく仕上がりました。 最後に外がわ。 いつもなら拭き漆ていどで済ませますが,46号の管は皮つき(ニセの斑模様をつけるためですね)。皮のついた竹はもともと割れやすいですし,補修箇所も多いので,今回は補強のため表面に薄く塗膜を作るくらいに塗りこめます。 カシューの本透明に透を混ぜ,古管っぽく少し飴色に見える感じに---- と………庵主,ここでちょいとしくじりまして。 一度塗り終わったところで,塗装を全面ハガすハメに…… 詳細はハブきますが,まあ 「ちョしちゃイケない時にちョした」 結果----このブログでも,自戒を込めて何度も書いてるくせに----とのみ書いておきましょう。(^_^;) この塗装のほうの失敗をとりもどす関係で,ちょっと作業に間があいてしまいましたので,気をそらす意味も兼ねて少々悪戯を---- 頭飾りにこれを仕込みます。 自作の明笛や胡琴の棹,あとエレキなカメ琴シリーズなんかでも仕込んでますが,庵主はこれを「金鈴子(チンリンツ)」って呼んでます。 太清堂の月琴の響き線から思いついた構造ですね。 管体がうまく共振すると,金属っぽい余韻がわずかにつきます。 笛の場合,聞いてるほうに聞こえる影響はわずかなんですが,吹いてるほうの耳のすぐそばにあるので,むしろ演奏者のほうにハッキリと聞こえます。吹音がちゃんと管に伝わって,全体ブルブルの状態,すなわち楽器のスペックがじゅうぶんに発揮されていないと作動しないので,これが聞こえない時には,聞こえるようになるように角度とか傾きとかを微調整し,ベストポジを探すわけです。その時の息とか唇の具合や調子とかを測るメーター,なんといいますか----「演奏者のためのエフェクター」って感じですね。 さてさて,自らなしたしくじりの影響で塗装作業は大幅に遅れ,二週間で終わるはずの作業が,けっきょく一ヶ月近くもかかっちゃうこととなりましたが。(泣) 最後の捨て塗りを乾かし一週間----右手に封印された邪悪な龍をおさえこみ,左手の邪鬼王の力を解放せぬよう,聖衣で編んだ包帯を巻き付け拘束しつつ,今回は無事に最後までちョさないでいられました(www…バンザーイ!!!) #1000のShinexで磨いて表面に付着したホコリや凸凹を削り落とし,亜麻仁油とコンパウンドで均し,#3000で磨いてカルナバ蝋で仕上げます。 亜麻仁油の乾燥を待ってさらに数日。 梅雨の合間を見計らい,お待ちかねの試奏へ---- うむ----予想はしていましたが,ちょいと難しい笛ですわ。 もともと,明笛はほかの笛類に比べると唄口が極端に小さいので,息を吹きかけて音が出るスィートスポットが篠笛とかよりずっと小さいんですね。さらにこの笛は管がやや細めなので,その範囲がさらに狭くなってるみたいです。 慣れてくると唇のカタチで調整できるんでしょうが,ふつうの笛と同じつもりで吹いた場合,息の量に対し音に変換されるぶんが少なく,慣れてない現状ではしっかり音を出そうと思うとそれなりに息量が要ります。 まあ庵主,もともと息継ぎが上手ではないせいもあるのですが,最初の1時間くらいはドレミだけでもうゼーハーの状態でした。(w) 清楽における基本的な運指をもとに試奏してみた結果は,以下のようになりました。 ○ ■ ●●● ●●●:合 4Bb+15 ○ ■ ●●● ●●○:四 5C+32 ○ ■ ●●● ●○○:乙 5D-5 ○ ■ ●●● ○●○:上 5Eb+22 当初の予想通り筒音,全閉鎖「合」はBbでした。 古い清楽音階の基音ですね。全閉鎖からここまでは順調。 続く「尺」が---- ○ ■ ●●○ ○●○:尺 5F+30 ○ ■ ●●○ ○○○:尺 5F#-24 とやや乱調。本にあるこの2種類の指ではやや安定しませんでしたが,いろいろ試してみて---- ○ ■ ●●○ ○○● という変則運指がF+15で,音も比較的安定していました。「工」は ○ ■ ●○○ ○●○:工 5G+35 ○ ■ ●○○ ○○○:工 5G+25 で,右手を全開放したほうが安定がよかったです。対して「凡」は ○ ■ ○●● ○●○:凡 5A-5 ○ ■ ○●● ○●●:凡 〃 と,どちらの運指でも問題ありません。 呂音の最高は---- ○ ■ ○●● ●●● で,筒音のほぼオクターブ上,5Bb+25が出ました。 ピッチはだいたい合っているみたいですね。 べつだん音が出ないわけじゃありませんが,ふつうに勘所をとらえるようになれるまでがちょっとタイヘンそうです。 甲音もはじめはほとんど出せませんでした。 集束した息がひっかからず,スカー,スコーっと唄口を通り抜けちゃう感じ。 何度かくりかえし,少し慣れてくるとふつうに出せるようになりましたが…全体にクセのある,「プロ用の道具」って感じがします。 「初心者用」は誰が使っても比較的使いやすく,そこそこのパフォーマンスを発揮しますが,プロ用ってのは性能的につきぬけたところがあるぶん,扱いが難しいものです。見栄張って「初心者用」でなく,いきなり「プロ用」の楽器とか道具買っちゃって,けっきょく放り投げたヒト----周りにもけっこういますよね?(ww) なるほど 「ほとんど未使用」 の状態で放置されちゃったわけだ。 使い込むとけっこうなパフォーマンスを発揮するでしょうが,すくなくとも庵主みたいな(w)初心者向けの笛ではありませんねえ。 塗りがまだ完全に乾いてないので本意気の響きはしませんが,塗膜がカッチリしてきたらかなり鳴りそうです。 同じ理由で「金鈴子」システムの効きがまだ悪いんですが,こちらも管体が乾いたらリンリンと金属音ひびかせてくれると思います。 とまあ,自業自得の失敗の結果ではあったものの,思いがけず試奏までに時間のかかってしまった明笛46号の修理ではありますが----実はこれに手間取っている間に,さらに2本ばかり増えてまして…… 次回からもまだしばらく,笛の直しが続きますです,ハイ。 (つづく)
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