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明笛について(25) 明笛47号(2)

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斗酒庵 ひさびさにまたまた明笛を買う(W) の巻明笛について(25) 明笛47号(2)

STEP2 タマネギ畑で皮むいて!

 今回入手した47/48号は,内外多少ヨゴれてはおりますが,どちらもヒビやら割レといった深刻な故障は少なく,唄口の状態もほぼ健全。管内のクモの巣とかをはらって少しキレイにしたら,現状でもそこそこ音は出ました。
 とはいえ,内外の塗装の劣化もありますし,ヨゴレやらいろんなモノが表面にこびりついてもいますので,掃除してすっぽんホイではさすがに終われませぬわいね。(w)

 47号の修理はまず指孔4-5間のヒビ割レから。
 エタノをしませてヒビ内部と周辺をキレイにしてから,緩めたエポキを流し込み,ホースクランプで締めて固定。


 翌日,残った薄ヒビの溝に例の粉を盛り上げ,もう一晩置いて整形。
 あとはこの上から保護塗りをほどこせば問題ありますまい。
 この一箇所の処置だけで,基本的には管の部分----笛という楽器としての部分の修理は完了です。

 塗りは内がわを小豆色で,外がわを本透明にすこし透を混ぜたぐらい----前回の46号でも使いましたな,これ。
 元の色合いをあまり損ねないていど,一度でサぁーーーっと済ませてしまいたいとこだったんですが……この笛,管表面のオリジナルの仕上げ加工が若干粗く,竹の表皮を落とした時の細かな作業痕がそのまま,あちこちに残っちゃってます。そこらを埋め込むため,少し塗りを重ねなきゃなりません。
 47号は 「紫山」 銘----いちおう現代でも続いている老舗メーカーさんの古作なんですが,この仕上げは………(^_^;)
 月琴と同じく,明笛という楽器も比較的廉価な薄利多売系の商品だったので,老舗とはいえ数打ちのために,仕上げとかかなり手ぇぬいてたんでしょうねえ。明笛の内塗りが漆じゃなく,顔料系の塗料が多いのも,同じ理由だったことが多いんだと思います。

 管を塗っている間に,お飾りの補修をやっちゃいましょう。
 ふつう明笛のここは,先端の少し開いた長いラッパ型の部品であることが多いのですが,この笛の管頭飾りは少し特徴的です。
 資料を調べてみますと,タマネギの先端がこれよりちょっと尖ってるのと焼印が少し違うようですが,同じ 「紫山」 銘の笛に似たものがありました。

 メーカーさんの独創かな?----とちょっと思ったんですが,さらに調べてみますと 「胡山」銘の笛 にも似たようなお飾りのついてるものが見つかりました。一時期,この種のデザインが流行ったことがあったのかもしれませんね。
 とはいえこれ,笛のお飾りというよりは杖とかステッキの先端,握りの部分なんかに使われるような意匠ですよね。タマネギ部分を掌に握りこんでると,手触り的にも何かキモチいいですが,明笛でここをこんなふうに握って持ち歩くようなことはありませんし(w)……そういえば「明治大正楽器商リスト」の作成で見つけた製作者さんにも,竹杖と笛の両方を作ってた人がいました。材料が同じですからね,こらぁ分からあでもない。
 明治から大正にかけての時代。モダーンな紳士たちの間でステッキが流行するなか,案外そういう部品の流用があったのかもしれませんね。

 おっとイケねぇ脱線だ………修理に戻ります。(w)


 管尾のラッパと白いタマネギ部分にはキズひとつありませんが,その下の黒い牛角の部分にネズミの齧った痕があります。
 そんなに深くはありませんが,一部分かなり集中的にヤラれちゃってる箇所もありますねえ。

 唐木の粉を混ぜて練ったエポキのパテを盛りあげて整形します。
 開口部の小さい深いキズや充填するだけのミゾなら,エポキにアクリル絵の具混ぜたもののほうが色合わせもラクでイイんですが,硬化後の整形が必要なものだとこの唐木や木粉を混ぜたののほうがイイようですね。絵の具や顔料混ぜただけのものだと,モロモロしててくずれやすく,精密な整形がしにくい----こういう浅いキズの補修にはあまり向かないようです。

 少したっぷりめに盛り上げて……ほかのものを混ぜると多少硬化時間が長くかかりますので,二三日置いてから整形。よーく見ると,補修部分に混ぜ込んだ木粉のツブツブ感で分かっちゃいますが,このくらいならまあ一目で分かっちゃう人はかえって詐欺師認定 (その人はプロです!関わっちゃあなんねえwww) のレベルでしょうね。

 塗りの乾くのを待って,管体を磨き上げます。
 最初のほうで書いたように,表面仕上げが粗く,オリジナルではちょっとザラザラした感触でしたが。
 それをほーれ…ピッカピカのツルッツル!

 工房に来た時すでに,47号のお飾りは頭尾どちらもニカワが落ちて取付けはユルユル。手を放すとポロリとはずれちゃうような状態でした----ただでさえなくなってることの多いこの部品,むしろよくついたまま残ってたなあという感じでした。
 この部品,修理者としましては,はずしたい時にスッポリ手間なく気持ちよくはずれてくれるくらいのほうが有難いんですが(w),さすがにこれでは,吹いてる時に気持ちよく飛んでゆきかねないものですので。
 お飾りをはずれにくくするため,接着部となる両端凸の部分に,ニカワで薄い和紙を巻き重ねます。
 もっともこのタマネギ……笛のお飾りとしてはけっこう重さがあるんで,何かの拍子にまたいづれ取れちゃうこともあるかもしれません。

 何度も書いてるとおり明笛の管頭には,演奏時にバランスをとるカウンターウェイトの役割があります----ただしそれが本当に必要なのは,60センチを越える大型の笛の場合ですね。47号くらいのサイズでこれだとちょっと重すぎる気が----このデザインが大きく流行らず,けっきょく主流にならなかったのは,これも理由でしょうねえ。

 あとはお飾りをガッチリと組み付けて,明笛47号,修理完了です!

 テープによると思われる日焼け痕は,擦っても洗っても抜けませんで若干残っちゃいましたが,楽器としての本体である管部分の損傷はきわめて軽微でしたので,性能・機能的な部分に関してはオリジナルの状態をほぼ損なわないまま再生できたかと思われます。

 ほかの明笛を知ってると,頭のタマネギ飾りのデザインに好嫌肯否があるかもしれませんが。
 これもまあ,明治末から大正ごろのモダーンな雰囲気とかが好きな人にはかえってポイント高いかもしれませんな。(w)

 (試奏と音階計測の結果については,あとでまとめて報告します)

(つづく)

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