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明笛について(25) 明笛38号(3) »
明笛について(25) 明笛47/48号(3)
MIN_25_5.txt
明笛について(25)
明笛47/48号(3)
STEP3 彩湖ぱす
7月もおしませってきましたので。
仕事先から一日おヒマをもらい,朝から近所の公園へ。
修理の終わった笛の試奏と,音階の計測に行ってまいりました。
これに合わせて新しい計測表も作成。
ふつうだと考えられない----というか,
ふつうの人は考えない変態的な運指
も含め,「可能性」として吹いてみます。
金属やプラスティックの笛と違い,竹笛の場合はほんの小さな管の状態・加工の差が原因となって,
通常のピタゴラスさんでは考えられないような現象
が生じちゃってることもなきにしもあらず……というか,そういう結果をもとに管に異常がないか,あらためて確かめるのも目的の一つです。
まずは47号タマネギ----
○ ■ ●●● ●●●:合 5C-5C
#
○ ■ ●●● ●●○:四 5D-5E
b
○ ■ ●●● ●○○:乙 5E
+30
○ ■ ●●● ○●○:上 5F
#-25
○ ■ ●●● ○○○:上 5F
#
○ ■ ●●○ ○●○:尺 5G
#+5
○ ■ ●●○ ○○○:尺 5G
#-15
○ ■ ●○○ ○●○:工 5B
b-10
○ ■ ●○○ ○○○:工 5B
b
○ ■ ○●○ ○●○:凡 6C
-30
○ ■ ○●● ○●○:凡 6C
-35
○ ■ ○●● ○●●:凡 5B
+40
「上」
から
「工」
には2種類,
「凡」
には
3種類の指遣い
があります。
おもに教則本による違いですね。このほかに長原春田らの提唱した,全閉鎖を
「凡」
とする音階法がありますが,清楽の音階とは関係がないので,ここでは用いません。
う…うむ,
波瀾な音階
ですな。
全閉鎖と1孔開は音の安定がイマイチ。
「上」
以降は比較的安定してます。
「工」
が
B
b
なことから,筒音を
C
#
としての配置だったと思われますがさて。
次にいろんな指遣いを呂音の息遣い(ふつうに吹いた場合)で試してみます。
やはり筒音が
C
#
だと,半開きをしないと
F
は出せませんでしたが,
G
は
○ ■ ●●○ ●●●
の運指で,+20 ほどで安定した音が出ました。
A
は
○ ■ ●○● ●●○
もしくは
○ ■ ●○● ●○○
という変態的運指で比較的安定した音が得られます。
呂音の最高は----
○ ■ ○●● ●●●
で,
6C
#-35
,やはり
C
#
のちょっと高めなあたりが基音となってるみたいです。
続いて48号。これは吹きやすい笛ですね。
47号と比べると管自体がやや太めなのもあり,比較的軽めの息で安定した音が出せます。
長さからして,もしかすると
全閉鎖BかB
b
の清楽笛
かも----と思ってたんですが,
全閉鎖Cのドレミ笛
でした。
○ ■ ●●● ●●●:合 5C
○ ■ ●●● ●●○:四 5D
+30
○ ■ ●●● ●○○:乙 5E
○ ■ ●●● ○●○:上 5F
+35
○ ■ ●●● ○○○:上 5F-5F
#
○ ■ ●●○ ○●○:尺 5G
+20
○ ■ ●●○ ○○○:尺 〃
○ ■ ●○○ ○●○:工 5A
+25
○ ■ ●○○ ○○○:工 5A(やや不安定)
○ ■ ○●○ ○●○:凡 5B
+15
○ ■ ○●● ○●○:凡 5B
-30
○ ■ ○●● ○●●:凡 〃
呂音の最高は----
○ ■ ○●● ●●●
で,
6C
ピッタリくらいが出せました。
高音域が少々安定しない
時がありますな,あと,ちょっと甲音が出しにくい。
吹きはじめはほとんど出ませんで,10分ほどやってたら出るようにはなりましたが多少安定が悪い。
大甲音(2オクターブ上)は無理っぽいなあ。
STEP4 調整湖の調整
----修理は終わっても,「調整」は続きます。
楽器の場合,外見上また機構的に問題がなくなったとしても,
「音」との関係はまた別物。
そこからまた,最適な音を出すための細かな調整を経ていなければ,音を出す道具としての復活はあり得ません。
前回修理の46号も,修理後の試奏の結果を踏まえて唄口の向こう岸や反射壁のへりを小整形したら,かなり吹きやすくなりました。庵主はこの「調整」というのを「穴を埋める」とか「ヒビ割れを継ぐ」といった修理工作とは,
まったく別次元
の作業だと思っています。時には「音のため」にせっかく修理した箇所を,自分自身を呪いながら(w)破壊したりしなければならないこともありますしね。
47号は試奏の結果,音階等にさほど問題はない(全閉鎖が
C
から
C
#
の中間である事を「問題」としないなら)ものの。呂音で吹いている時,
響孔の効果とは関係なく倍音のノイズ
が混じることがありました。
この手の異常の原因はたいてい唄口にあるため,あらためて調べてみますと,ちょうど向こう岸の真ん中あたりの縁に,小さなキズが見つかりました。
おそらくここで息が乱れて,出る音にノイズをかぶせちゃってたんでしょうねえ。
エポキを盛って補修します。
見た感じ,ひっかき傷程度の浅いものだろうと思ってたんですが,削って整形してみるとこれが
意外と深く,
底が頂点であるV字型の谷間のようになってました。
おそらくは何か四角くて硬い物体……たとえば
机の角
のようなものにぶつけた痕かと愚考いたします。
唄口の周辺は笛で最も大事なところなので,ふだんこんなキズがつかないように
いちばん注意する箇所
だと思うんですが……この笛の状態や状況をいろいろと考えてみますと,この事故の原因はおそらく
----タマネギでしょうねえ。
前回も書きましたが,アレ,ちょっと重すぎるんすよ。
演奏姿勢で構えてる時はまだいいんですが,
ふつうに持って歩く時とか
少しバランスが悪い。
それで取り落とした時にはアタマのほうから行きますわな,その結果かと。
48号は保護塗りをした唄口内壁の塗膜に浮きがあり,すこし凸凹していましたので,下地になっている
オリジナルの塗料層までいちど削り落とし,
均してから再度塗り直しました。
あとは唄口向こう岸の縁にあった
微小なキズ
を補修。
47号と同じく,このあたりのキズは微細なものでも,ノイズや不調の原因になることがありますので,ちょっと丁寧にやっておきます。
これもまた小さい割に意外と深かったため,エポキで充填。練ったエポキをキズの上に盛り,少し固まってきたところで,上からクリアフォルダの切れ端をかぶせて指で押さえつけ,キズの奥まで確実に押し込みます。
一晩置いて整形----せっかくの黒々ツヤツヤにキズつけたくないので,きわめて精密に加工(w)。
キズの補修後,47・48号ともに作業部分を塗り直し,磨きなおしました。
STEP5 調整池の伝説
Web記事でときどき見かける笛子の伝説に,
管尾の「飾り孔」は紙を貼って笛の調子を変えるためのもの
----という
アホゥなもの
があります。
実物の笛を見て,
ちょーっと考えていただければ分かると思うのですが。
笛子・明笛の筒音すなわち笛の音の高低は
「裏孔」の位置
で決まります。一般の笛では,唄口から管尻の先端までの長さでその音の高さが決まりますが,笛子や明笛の場合には
それより手前に
空気の漏れる孔があいてるわけですから,そこで音が決まっちゃうわけですね。
そして問題の2コの「飾り孔」は,たいてい
「裏孔」より管尾がわ
にありますので,ピタゴラスさんから言ってここを塞ぐことで大きくナニカが変わることは
ふつうありえません。
しかしながら,庵主とて。左腕に邪龍が封印されている人もおり,右目を解放すると世界が滅ぶという人のいることくらいは知っており,
そのていどにはロマンを信じて
おります。過去の笛でも何かの原因で,ピタゴラスさんに対し叛乱を起していた例がないではないので,
いちおう確認してみる
ことにします。
47号で実験してみましょう。
まず管表の
「飾り孔」だけをふさいだ
場合ですが
----ピタゴラスさんは偉大なり(w)
計測結果は何も変わりません。
次に
飾り孔と裏孔をぜんぶふさぎ
ます。
あたりまえですが全閉鎖の音が低くなります……
4B
+35
くらいになりましたね。
おお,これは確かに調子が…と一瞬思い,第1孔をあけてみます。
従前と変わらず D の音が出ました
(物理学的にはwあたりまえ)
あたりまえのハナシ,「調子が変わる」というなら,全閉鎖が
B
になれば第2音も
C
なり
C
#
になってなきゃならんのです。このままだと,
第1音と2音の間が長2度
あいちゃってるわけですね
----どこの超古代音階ですか?
ほかいろいろなパターンでやってみましたが,まあマトモな音階になることはなく。
Webの記述とそのコピペ虫どもが,こういう簡単な実験もせずにテキトウたれ流し,拡散してるのが判明したわけですが。
ただ,この47号の場合。
マステで裏孔を半あけ状態にすると全閉鎖が
C
のプラマイ10くらいで安定します。その状態で使うと,最低音がCの
比較的マトモなドレミ音階
になりました。(デフォルトのあまり嬉しくない最低音wは上記事参照)
----これがまあ今回の実験のケガの功名,みたいなもので(w)
この「裏孔」には通常,
飾り紐
が通されます
----ということはですな。
紐が少し太めのものなら,紐をかけることでマスキングテープと同様の効果があるかもしれないわけ……
まあ作りから見て,
原作者がそこまで考えてたとは思えませんが
また,最初のほうの記事でも書いたように,47・48号の前所有者は管尾の飾り孔や裏孔を絶縁テープでふさいでいたようですが,これが「調子を変える」という目的のものでなかったことは,上の実験からも明らかで。さらに47号の場合,テープによる日焼け痕の痕跡は,裏孔のほか管尻と管頭のギリギリにあるので,おそらくは47号のともまた違って,取付がユルユルだった
頭尾のお飾りを固定
しようとしたものであろうと思われ,そこにWeb記事や庵主の実験のように「管の調子を変えよう」という意図はなかったものと考えられます。
(おわり)
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