楽器製作・名前はまだない(1)
2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(1)
STEP1 楽器はステキな実験場 ひさびさの 「楽器製作」 となります。 いつぶりだったかな~,とあらためて調べてみますと。 カメ琴2号「ルナ」を作ったのが2013年……うむ,もう6年もやっておらなんだか。 もちろん庵主,ものづくりはけしてキライ,ではありませんが----そもそも庵主の楽器作りは,月琴の構造だとか工程だとか材質による差異だとかを調べるための実験が主目的。紙資料や既存楽器の修理からでは得ることの出来ない部分を補完するための作業です。 2006年から4年ばかりの間に,ウサ琴シリーズを20面近くも作りまくり,そちら方面での主要な問題はだいたい片付いてますので,またなんにゃら新たな問題や疑問が生じてこない限り,再開する必要があまりないのですよね,ハイ。 まあそれでも,いつでも製作にとりかかれるように,棹や胴体の素体は複数面ぶんこさえたりはしてたのですが----作り置きの棹なんか,何本か首ナシ月琴の修理に使っちゃったりしましたね。 今回の製作は,このところの研究から生じてきた新しい疑問への挑戦。 とりあえず小難しいことは,これからの製作報告の中で明らかにしてゆきましょう。 さて,では6年ぶりの製作,作業開始です。 まずは棹です。 上にも書いたように,ウサ琴用に作っておいた棹の作り置きもまだ何本か残ってるんですが,今回は使いません。 今回の楽器の棹の材料はこちら---- 長いのは米栂(べいつが 針葉樹)の角材,25ミリ角で長40センチ。 糸倉はカリン(ブビンガ)で,以前八角胴の阮咸をもう1面作ろうと考えて,切り出してあったもの。 厚さ1センチ。 かたーい材なんで切り取るのにエラい難儀したキオクがありますね。そのせいでしょうか。片方の下端,少しだけですが欠けちゃってます。ここはあとで継いでおきましょう。 指板はむかし銘木屋さんからもらってきた3ミリ厚の黒檀を使用。 赤太(黒檀になりきれなかった部分)が混じってたため切り落とされた部分ですが,ほとんど最高級のマグロ黒檀ですよコレ。 大きさや厚みがちょうどよかったんで,ずっと定規がわりや板を接着するときの当て木に使って重宝してました。 赤太の部分に少し虫食いがありますので,唐木粉をエポキで練ったパテで軽く埋めておきましょう。 あとてっぺんの間木として,端材袋から見つけたメイプルの欠片を少々使います。 ちょいと予算がこころもとないので(w),なるべく材料箱に入ってたモノでこさえます。 まずは米栂の角材の先端を凸に削り,さらに左右の角を三角形にえぐって,糸倉左右の板を挿しこむように組み込みます。 糸倉の幅はおよそ3センチ。 棹本体より5ミリほど太くなったこの糸倉と棹との接合部分が,山口(トップナット・乗絃)の乗る 「ふくら」 となります。 この「ふくら」のところから,胴体に挿しこむ基部の手前まで,棹の上面に指板として黒檀の板を貼りましょう。 糸倉の材は,もともとほかの楽器を作るためのものだったので少し大き目になってます。 少し余分に切り欠いて,指板の先端が少し糸倉に埋まりこむ感じになるよう接合しますね。 糸倉左右の接着に一晩,指板に一晩。 さあ,ただの角材になにやかやへっつけただけのシロモノを 「弦楽器の棹」 にしてゆきましょう。 指板左右の余分をざっと切り取り,糸倉も切り削ってカタチをととのえてゆきます。 棹の本体部部分はまだ四角いですが,だんだん楽器の部品っぽくなってきました。 棹裏を角材の四角から船底U字型に,半分から上(糸倉がわ)はそこからさらにシェイプして,V字に近いU字型に削ります。 角材がだんだん楽器の棹になってゆく----庵主の知る限り,このあたりの作業が嫌いな楽器職はいないと思いますね。(w) 棹背全体を整形する前に,胴体に挿しこむ基部に近いところに小さな部材を足します。 今回の棹材は25ミリ角と細いので,そのまま全体を均一にU字なりV字に削っちゃうと基部の部分もいっしょに細くなります。 そうするとまあ,そこから削り出すホゾの部分はさらに小さく細くなってしまうので,接合部の強度や安定に不安が出てしまいます。 そこで基部に近い部分を少しだけ厚くして,棹裏の整形加工によりこの部分が細くなってしまうのを防止しようというわけです。 格好としては,ギターでいうところのネック基部の 「ヒール」 ってやつみたいになりますね。 高さ1センチほどの端材ですが,この付け足された余裕のおかげで,棹背の峰部分をよりせまく,握りやすく滑らせやすい棹に削ることができます。 それやれ削れ!ショコショコショコ……… ……まあ,まだちょっと太めちゃんですが(w) 棹の整形がだいたいできたところで,基部を刻んで胴体への差し込み部をこさえましょう。 指板面から10ミリ,棹背がわと左右を3ミリくらいづつ落として四角い凸のカタチにととのえます。 幅2センチ,長3センチ,厚さ1.2センチ----ヒール追加のおかげで,なんとか実用に耐えうる太さですね。 胴体はウサ琴・カメ琴でもおなじみのエコウッド。 厚さ5ミリほどのスプルースの板をほぼ円形に加工したもので,直径は清楽月琴の一般的なものからすると5センチほど小さい31センチ。 もとは5センチほどの幅があるのですが,これを横半分に切り分けたものを1面ぶんとして使い。接ぎ目のところにエンドブロック,その反対がわにネックブロックとして2センチほどの厚さのカツラ材を貼りつけて補強してあります。 これに内桁を入れて表裏に桐板を貼れば,月琴の胴体としてほぼ完成ですが,今回はまず表板だけを貼っておきます。 このあたりからふだん通りのニカワ作業になります。 やや薄めに溶いたニカワを,お湯をふくませた接着面にじゅうぶんにしませ,クランプをかけて一晩。 余分を切り落とし,さらに削って整形します。 本格的な整形は裏板接着後にやるんで,とりあえずは棹の入るネックブロックの周辺だけしっかり削ってあれば良いかと。 棹孔を貫きます。 まずはそこらのものを組み合わせて作業台を……見栄えは悪いですが,これでじゅうぶん。 胴体がしっかり固定できてりゃなんの問題ありません。 ドリルで貫き,彫刻刀やヤスリ,回し挽き鋸などで整形します。 ちょっと棹挿してみましょう。 表板がわで指板の間に1ミリほどの段差が付いてますが,後で表板を削る予定なのでこれは問題ナシ。 裏板のほうには削らないそのままの厚さの板を貼りますので,とりあえず余った板を当て,ヒールの高さを調整しておきましょう。 うむ,5ミリほど高かったみたいですね。 つぎは内桁と延長材です。 内桁はヒノキ,今回は1枚桁です。 真ん中に棹の受け孔・左右に音孔をあけます。 取付け位置は中央よりすこし上になります。そこにぴったりおさまるように,両端を胴の内面に合わせて少し削っておきましょう。 延長材には端材箱から出てきたイチイを使いました。 針葉樹の中でもトップクラスの硬さとしなやかさを持つ材----切るのがタイヘンでしたあ。 棹の接合部にV字の切れ目を入れて,きっちりハマるように加工した延長材を接着します。 延長材が接着されたところで,ちょっと組んでみましょうかね。 このあと,棹と胴体のフィッティングをするので,内桁はまだ接着していません。 ここまでのところ,製作中の楽器の全長は820。 棹上の指板相当部分の長さは400,胴体はすでに書いたよう310ですから,指板の先っぽから楽器のお尻までの寸法は710ミリ。 ここに今回は651の有効弦長をつめこむ予定。 そうすると,半月(テールピース)と山口(トップナット)に使える余裕は,合わせて5センチくらいしかないわけですね----山口にだいたい1センチ,あとは半月を楽器のお尻がわにギリギリに下げて……さて,どうしたものか。 ----と,いったあたりで次回に続く。 (つづく)
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