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楽器製作・名前はまだない(3)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(3)

STEP3 長いアナタと短いワタシ

 長い棹の月琴と短い棹の月琴の関係は良く分かっていません。

 また棹の長い「月琴」と呼ばれるよく似た構造の楽器同士の関係についても,前回述べたように,今のところきちんとした資料に基づいた研究は出されていないようです。
 まあ棹の長い連中(w)は,古代に「月琴」と呼ばれていた「阮咸」にカタチが近いのは自分たちの楽器だからこちらのほうが古く,現代の短い棹の月琴は,うちらの楽器が縮んだモノだろう----てなことを言いたがる,とは思いますが。

 事態はそう簡単に問屋がおろし金。

 そもそも,弦楽器が小さくなる理由は古今,高音が必要か,携帯の便のためかのいづれでしかありません。以前から書いてるように,一部の資料でもっともらしく書かれている 「月琴は清代に音楽の変化に伴い,速弾きする必要から縮んだ」 なんてことはありないわけです。

 台湾にもベトナムにも,長い棹の月琴のほかに,わたしたちの清楽月琴や中国の現代月琴と同様の,棹の短い円形胴の楽器が存在しています。台湾ではとくに名前を違えず,どちらも「月琴」と呼ばれています。分ける必要のある時は長い棹のほうを「南月琴」とか「丐仔琴」と呼んだり,短い棹のほうに「大陸の」とか「北の」とか「小さいほうの」みたいに言ったりするようですね。使用される音楽分野が異なるらしく,伝統的な音楽の演奏ではこの大小の月琴が合奏しているような例をあまり見たことがない。

 台湾の短い棹の月琴は,外見上4弦2コースの中国月琴--古い型の--とよく似ています。大陸の楽器がそのまま使われてたりすることもありますが。台湾製のものでは響き線がなく,胴側が木片の組み合わせではなく,ギターとかと同様に薄い板を曲げたもので出来てる,きわめて軽量な楽器をよく見かけますね。(上画像の楽器などがそう)
 細かいところを言うなら,胴がぶ厚く,棹が大陸で一般的なものよりやや長くなってますね。大陸の月琴では棹上のフレットは2枚が一般的ですが,台湾のは3枚----日本の清楽月琴の関西型に近いでしょうか(関東型,とくに渓派の月琴は,棹が長く棹上のフレットは4枚ある)

 ベトナムでは短い棹の月琴は 「ダン・ドァン」 と呼ばれています。
 前にも書いたように 「ダン」 は弦楽器につく冠詞ですが,「ドァン」 は数の 「4」 のことですので 「四弦」 とか 「四本弦の楽器」 と言った意味になります。
 中国の西南少数民族にも,自分たちの弾く短い棹の月琴の類の楽器を 「四弦」 と言っている例がありますから,地域的にもそちらと同じと考えています。
 これも作りは古型の中国月琴とほぼ同じですが,フレットの形状胴の厚みにやや違いがあります。長い棹の月琴「ダン・ングイット」と同様に,全体にインレイ装飾が入っている美しい楽器をよく見ますね。
 最近はうちのウサ琴みたいにエレキになっているものもあるようです----ううん,興味深い。

 さて,前回も述べたように,唐宋代の阮咸と「月琴」という楽器との関係は,文献上の名称のみの符合で。弦制や楽器としての構造を考えると,長い棹の月琴と古代の阮咸の間の共通項は「棹が長くて胴が丸い」というごく浅い外見上の部分でしかありません。さらに,長い棹の月琴には,短い棹の月琴にも増して文献上での裏付けがない。
 これらの楽器が短い棹の月琴より前から存在していたかどうか,そしてそれが短くなって今の月琴となったということを証明するだけの根拠となるような資料は今のところ見つかっておらず。今ある資料からはどちらの楽器の存在も,それほど大昔までさかのぼることはできません。

 基本的に,庵主は 「阮咸が(長い棹の)月琴」 になったという説をちゃんちゃらアホらしく,可笑しなものとしてしか捉えていません。

 その大きな理由の一つが 「弦の数」 です。

 唐宋の阮咸は4単弦,琵琶と同じく4本の弦がそれぞれ違う音階に調弦された楽器です。
 清楽月琴の弦も4本ですが,2本づつ同じ音に揃えられており,実質,弦が2本しかない楽器と同じです。
 有効弦長が同じだったとしても,4単弦の楽器と4弦2コースの楽器では,出せる音の数がまったく異なります----そうですねフレットの数が同じだとしたら,複弦楽器のほうは単弦楽器の半分ぐらいでしょうか。

 4弦2コースの楽器が4単弦の楽器になることがあるとすれば,その理由はまさにその 「出せる音の数」 です。実際,現代中国月琴は「改良」の結果,4単弦もしくは3単弦で弾くことのできる楽器となっていますね。逆に,4単弦の楽器が4弦2コースの複弦楽器になったとしたならば,演奏家としては,出せる音の数が半分以下になることを許容しなければならないわけです。
 まあ,ふつうに考えるなら……音楽が幼児退行レベルで単純化されたような状況----たとえば 北斗の拳の世界レベルで文明が崩壊した とかぐらいしか原因が思いつきませんね。

 弦を複弦にするのは,同じ弦長でより大きな音を出すためか,音に深みを与えるためか。どちらにせよ演奏上影響の大きな音の数には関係なく,むしろ音色表現の上での必要からで,基本的には4単弦の楽器が複弦化するなら,通常8弦の楽器になるはずです。複弦と同じような効果は,アルペジョーネとかシタールみたいにもっそい共鳴弦を仕込むとか,ドブロみたいにリゾネーターを付けるといった構造によっても得られるので,それ自体は演奏家にとって,楽器の音の数を半分に削ってまで追求するようなものではないと考えられます。

 これ以外にも推論上はいろんな理由で否定できますが,それでも 「4単弦の楽器が音数を半分以下に減らしてまで4弦2コースに変った」 というなら,そこには音の数が半分に減っても問題がないくらいのメリットか,あるいは互換性のようなものが存在している必要が出てくるのですが,残念ながら既存の研究でそれらのことを実験により調査した例は見つかりません。

 ないならば,いっちょうやってみようではないですか。(w)


 さて製作です。
 今回はまず糸倉の孔あけから。

 孔の数は8コ----4本ぶんですね。
 半月の孔は4単弦なら等間隔,4弦2コースなら2本づつ寄せてあけなけばなりませんが,糸巻のほうは基本的に同じ間隔でいいわけですね。

 毎度のことですが,糸巻の孔は単に左右にぶッ通せばよいのじゃなく,使い勝手を考えて微妙に角度をつけます。
 糸巻は,糸倉に対して垂直に出てるよりは,わずかに上下に開き,楽器前面方向に傾いでいるのが,人間工学的に正解です。

 で,糸巻と反対がわ,テールピースのほうですが。

 前回書いたように,台湾月琴のテールピースはベトナム月琴や唐琵琶と同じ凸形のものと,清楽月琴などと同様の半円半月形の2種類があります。正倉院の阮咸のテールピースは楕円形ですが,弦を止める部分は基本的に現代の薩摩や筑前琵琶の覆手と同じような構造になっています。『皇朝礼器図式』の「丐弾双韻」と韓国のウォルグンは凸型ですね。

 今回は資金難からくる材料上の制限(w)もあり,全長800ほどのなかに651の有効弦長を確保しなければならないため,テールピースの取付け位置も胴体のかなり端っこのほうにせざるを得なくなっております。
 円形胴の端っこのせまいスペースなため,横幅もさほど広げられません。こうなると凸型の場合,接着面がせまくなり,安定に若干不安が出ないでもない。
 弦を替えていろいろと実験する関係上からも,より接着面を広くとれ,安定の良い半月形にします----まあそのほうが,ウサ琴や月琴の修理で作り慣れてるのもありますしね。

 さて素材をどうするか----と端材箱をひっくり返してましたが,どうもいいものに当らない。
 それでふと手周りを見渡してましたら,大きさがちょうど手ごろだったため,切削の時の定規としてずっと使っていた紫檀の板材が目に留まりました。

 幅は35ミリ。
 月琴のテールピースとしてはやや小さめですが,現在のベトナム月琴のテールピースとほぼ同じ大きさですね----これでいきましょう。
 横幅は月琴の普通サイズの半月と同じ10センチ,やや縦長の半分に切った木の葉に近い半円形に切りだし,下縁部を整形。

 上面の直線になった上端部から5ミリほど下がったところに,5ミリ幅の溝を一本彫り込んでおきます。
 ひっくり返して,ポケットになる部分も刳っておきましょう。
 糸鋸や回し切りで切れ目を入れて,鑿でほじくり,ヤスリで整えます。

 上面に彫った溝の中心に,2ミリ幅でもう一段溝を彫り込み,底を丸く整形しておきます。
 今回はここにピックアップを仕込みます----そう,基本的に実験とは関係ないんですが,今回の製作楽器はエレキ仕様なのですよ,ハイ。

 え,聞いてない?
 はい,いまハジメテ言いましたから。(www)

 今回使うピックアップはワイヤータイプのピエゾで,本来はギターやウクレレのブリッジのサドルの下に仕込むやつです。
 ギターだとブリッジのところでサドルの上に弦が乗っかって,その下にあるピエゾ----すなわち圧電素子が圧迫され,振動が電気信号に変わるわけですが,月琴のテールピースにはその形式でピエゾに圧をかけれるような場所がありません。

 そこで今回は,糸孔の位置をふつうより若干下げ,この溝に上面よりわずかに高い板を渡して,その下にピエゾを仕込みます。
 半月に弦を結わえると糸の輪がこの板の上にかかり,それが締まってピエゾが圧迫固定されるわけですね。

 ウサ琴1号やカメ琴シリーズでは,共鳴板である表板の裏がわに板型のピエゾを貼りつけていたのですが,それだと胴体が小さいせいもあって,楽器に手が触れたり服が擦れたりするような音までけっこう大きく拾ってしまうんですね。
 こちらとしてはより「弦の音」だけを拾ってもらいたいので,今回このような工作にしてみたわけで----
 まあはじめての工作なので上手くゆくかどうかはお楽しみですが,上手くいったら今使ってるカメ琴なんかも同じ形式に改造しようかと思っております。

 さまざまな実験に対応するため,糸孔は7つ。

 孔の裏がわは,前方向に軽く溝を刻んでおくと,糸を通す時に糸先が半月の外に出やすくなります。関西の松音斎なんかがやってる細かい気遣いの一つですね。

 半月での間隔は4弦2コースの時が外弦間27,内21,内外3ミリ。
 4単弦の時で8~9.5(現の太さが違ってくるため)。
 棹が細いので,山口のほうでの間隔は4弦2コースと4単弦の時でほとんど変わりません。4単弦の時に内弦が糸1本分中心がわにズレるくらいかな?

 もとよりマルチな楽器にするつもりはなく,実験後はこの楽器に最も合った弦制のものに調整し直すつもりですので,不要な糸孔・糸溝はその折埋めてしまってもいいでしょう。


 エレキにするのは既定路線なわけですが。

 もちろん生音の検証も実験項目に入ってますので,カメ琴のようなシースルーのサイレント楽器ではなく,胴体がちゃんと箱になったエレアコ・スタイルでまいります。

 まずはレイアウト。
 なにをどこに置くかを決めます。
 表板上に取付けられる部品は,電源スイッチ,スピーカー,ボリューム抵抗,外部出力のジャックとスピーカー or Line-OUT の切り替えスイッチ。

 こういう時は,紙をそれぞれの部品の大きさに切って,福笑い式でやるのがいちばん分かりやすいですね。
 電源となる9Vの箱型電池とアンプの回路は裏板のほうにつける予定ですので,表板の部品が干渉しないように,軽く検証もしておきます。
 ピエゾからのワイヤーは,表板に専用の小孔をあけるとか,半月内の陰月なりから内部に取り込むことも考えたのですが,後でピエゾ自体をより良いものに交換することも考えて,ゾロっとそのまま出しておくことにしました。胴側,スピーカーとボリュームポッドの中間くらいにミニプラグを通す孔をあけて,ここに挿しこみます。
 楽器をアコでしか使わないようなときは,ワイヤーごとピエゾを取り外してしまってもいいでしょう。

 各部品の位置が決まったところで穴あけです。
 いちばんデカい,スピーカーの穴からまいりましょう。

 まずは中心位置に小径のドリルをブスリと通し,それを目印に板の裏がわにコンパスで,表に開ける穴より2ミリほど大きな円を描きます。
 つぎにその円の内がわに溝を彫り,表から所定の大きさですっぽんとくり貫き,周縁を軽く整形。

 んで,表板の端材を円形に刻んで取手をつけ紙ヤスリを貼ったものを,段になった板裏にハメこんでグリグリグリ……っと。
 ----ホイ,キレイなクボミができました。
 ここにスピーカーがはまるわけですね。

 電源スイッチは最後に表がわからハメこむだけなので,孔はただの穴でいい。
 ボリュームのノブと Line-OUT のジャックのところは,動かしたり抜き差ししたりするんで,補強しとかなきゃなりませんね----両方とも,スピーカーの板裏と同様に一段彫り下げて底を均し,薄く削った黒檀の板を貼っておきます。
 切り替えスイッチはポッチが少し出るくらいでいいので,小さな長方形の孔を穿ち,操作しやすいように長辺の左右をすこし丸く抉りました。

 まだぜんぜんですが----ここまでの作業の確認とモチベ向上のため,ちょっと仮組みしてみましょう。

 といったあたりで,今回はここまで----


(つづく)


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