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明笛について(26) 明笛49号/50号

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斗酒庵 平和の世に天民の明笛を鳴らす の巻明笛について(26) 明笛49号/50号

STEP1 明笛49号

 さて新作の実験楽器製作ちゅう,この年の瀬になってとつぜん,明笛が2本やってまいりました。(W)

 まず,箱に入った1本が到着。
 こちらを49号といたします。

 お暇なかたは過去記事から「李朝華竹横笛」の記事などご覧くださると分かると思いますが,「箱入りの古物」 ってのは概してロクでもないことが多いです。今デキの贋物をそこらにあった古めかしい箱に入れるってのは,安物をさも高価なものに見せかける一番容易な常套手段ですものね。
 まあ「李朝華竹横笛」の場合,中身自体の質もさりながら,ヨゴレの上から書かれた箱書きとか,蓋が別の木だとか問題にもならないシロモノでしたが,「筋のいい」古物商の方ですと,同じようなことをするにしても(するんかい-ツッコミ-ww)古色付けにせよ箱の選別にせよ,それなりの手間とコストをかけてやらかしますので,素人さんが見てそうそう分かることはございませんよ,ほほほほほ。

 「ほんとうに良いもの」というのは,良いだけにしょっちゅう使われるので,どんなに大切にされててもどこかしら壊れてる確率が高いものです。出し入れされる回数も多いので,箱なんかも壊れてたりなくなってるのがふつう。だからほんとうの 「掘り出し物」 ってのはハダカで出回っていることが多いのです。

 まあ元・古物屋の門前小僧として,そのように散々脅されてましたので,今回も正直さほどの期待はしてなかったんですが………あ,ひさびさの「当たり」だわコレ。(www)

 まず,箱を見て分かりました。
 これ,「共箱」 ですね。

 こうした古物の笛には,掛け軸なんかの箱が流用されるのが定番です。しかし,軸物の箱というものは寸法やカタチが決まっていますので,見慣れていればそうと分かってしまうものなのですが。この箱は作りと寸法がかなり特殊----一目で軸物の箱でないことは分かります。

 そしてこのブツの収まり具合(w)----ギチギチでもなく,スカスカでもない。
 これはこの箱が,この笛を入れるために作られたものであることを如実に語っていますね。

 箱頭に貼られた「明笛」と言う貼紙の年季も問題なさそうです。
 まあ古い「明笛の箱」にサイズの合うほかの笛を入れるなんてシワザは,そもそも「明笛の箱」というもの自体がレアなことから考えてもあり得ないでしょうな。

 蓋はスライド式になっていて,箱上面の溝にはめこむようになっていますが,箱側面,その溝になってる部分に割れがあります。片面はこの部分からいちど完全にバッキリと逝ったらしく,全面に継いだ痕も見えますが……まあ構造としてこれはしょうがないか。ほかにも上下に接合の剥離,部品の欠損,ネズミに齧られた痕なども多少ありますが,明治時代の箱の状態としては上々----よくいままで,この笛を護ってくれました。

 全面に漆塗りの施された,すらりとした細身の美しい笛です。
 ほんとに細い……明笛の管体にはホウライチクのような,節間が長くやや太目(径2センチくらい)の竹が使われることが多いのですが,そういうむこうから輸入された竹ではなく,国産の篠竹あたりが材料でしょうかね。
 漆塗りの黒地に金銀で装飾が施されております。

 管頭部分には 「仙管鳳凰調」 と文字。
 響孔上下に金銀彩・細筆で描かれているのはのようですね----指孔第六孔の少し上あたりに頭があるんですが,かなり薄くかすれてほとんど見えなくなっちゃってます。

 ちょっと変わった工作だなと思われるところは,黒塗りが管体の竹の部分だけでなく,上下のお飾りの一部にまでかかっているところでしょうか。

 塗りの端部分には,細かな筆でぐるりと輪模様が描きこまれていますが,頭尾管飾りの接合部はそこより手前----管と一体となるように整形されているため,一見すると継ぎ目がどこか分からないような作りになっています。

 そしてこの立派な房飾り----
 笛が細いものでなおのことでっかいく見えますね,この房飾りは。

 笛自体とほぼ同じくらいの長さがあります。
 平紐で編まれていて----蝶と吉祥紋かな?

 では,採寸----

 サイズ,特に管の太さからすると明笛18号が一番近いかな?
 管体は細いですが唄口から裏孔までが325もあるので,おそらく 全閉鎖BもしくはBb の清楽に使われた明笛だと思われます。

 唄口まわりをさっとエタノで拭いて吹いてみましたら,音は出ました。

 外からざっと見た感じでは,あちこちに小さな塗りのハガレや塗膜の浮きはあるみたいですが,それほど深刻そうな損傷は見当たりません。まあ,古いものですからどっかしら壊れている,とは思いますが,楽器自体の状態はさほど悪くなさそうです。

 箱の蓋の端のほうに2センチ角ほどの正方形の紙が二枚,上下に貼られておりよく見るとなにかハンコが押されているようです。

 最近はまあ目も悪くなってきましたので裸眼だと何だか分かりません(w)
 デジカメで撮って拡大,SNSの伝手で何て彫ってあるのか読んでもらったところ,上の白字が 「瑞清」,下の朱字印が 「呉×民(一文字不明)」 とのことです。

 「瑞清」 がこの笛の名前,「呉×民」 が所有者もしくは製作者でしょうなあ。
 不明の2文字目は「ムギ」を本字の「麥」でなく 「麦」 の字体に近く篆字に仕立てたもの…にも見えなくはないんですが定かにあらず…検索では「麦民」 だと何にも出てきませんねえ。

 辛亥革命の先鞭者であった康有為とか梁啓超の仲間が,日本で中国語の雑誌を出したことがあるんですが,その同人の一人に 「呉天民」 という人がいました。明治のころの日本に留学していたみたいですが,革命成る前に行方不明になっているとか…………

 ……たぶん,この笛を修理してゆくと,中から固く巻き締めた紙縒りのようなものが出てきます。

 それを開くと,いくつもの茶碗の絵と短い工尺譜が描かれた手紙。
 さらに小豆粒ほどの小さな宝石と,妙なる芳香を放つ細いお香の欠片のようなものが出てくるわけですね。

 茶碗の絵は革命派を支持していた青幇の暗号で,これを解いてゆくと大運河沿いに山西省にある謎の土地へと至る道筋の地図が。

 そして,そこまで解読した瞬間,

 「ほあたああああああああああッ!!」

 -----と奇声を挙げ,斗酒庵工房四畳半の窓を蹴破って,謎のパンダ顔拳士が!!!

 どうなる庵主!仙管鳳凰調の謎とは!?

(もちろん妄想ですがなにか)




(つづく)

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