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明笛について(26) 明笛49号/50号(3)

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斗酒庵 平和の世に天民の明笛を鳴らす の巻明笛について(26) 明笛49号/50号(3)

STEP3 明笛49号あらため "封印されし邪黒龍の笛"


 黒い笛です…うん,黒いね。
 そしてだいぶかすれちゃってはいますが,管オモテには金銀で龍(ドラゴン)の線画……これはもう。

 明笛49号あらため----命名 "黒龍を封印せし闇の明笛"。

 この笛の "所有者(マスター)" となるためには,一定の条件を満たすことが必要である。まず最低限必要な装備として----

 1)黒革の指出し手袋(甲に銀糸でドーマンセーマンを刺繍,左手のみ)
 2)同材・眼帯(中心に朱で,梵字もしくはルーン文字が描かれているもの)
 3)編み上げブーツ
 4)古代文字の書かれた布テープ(あらかじめ笛に巻きつけておく)

 ……ほか,マントなどあるとなおよろしい。

 そして左足に体重を寄せるようにしながらやや斜めに立ち,その内部から噴き出さんとする強大な闇の力を押さえつけるかのように笛を握りしめ,開いた右手の指を額に翳すようにしながら以下の台詞をつぶやき,吹くのである。

 ふっ………永劫の時を経て還って来たか我が半身よ。
     いまこそあの忌々しき古代の神々による封印を破り,
  すべてを渾沌へと帰するため,
    その闇の力のすべてを現世に解き放たん!!

 「ぽーーーーーーー。」

 さあ出でよ!

 封印の黒龍よ!
   汝とこの世界の支配者たる我が命ず!
 煉獄にたちのぼる漆黒の炎にて,
   すべてのもの焼き尽くせ!!

 「ぴーーーーーーー。」

 ----とか,いうことをやりたいと思うのですが。
 誰か手袋と眼帯,持ってませんか?


 49号,調査の続きです。

 前回も述べたよう,現状,吹けばいちおう音は出る状態ではありますが,古物の楽器はかならずどっかしら壊れているものです。
 この笛で中二病的なこともしたいので,まずはしっかりと直してまいりましょう。

 外見的には唄口や指孔,響孔周辺を中心とした塗膜の劣化と剥離が若干ある程度ですがさて内部は……と管尻のほうからのぞきこみましたら。

 うわわわわわ…

 管頭の詰め物----反射壁になってるところが一部分,ぞろっとなくなっちゃってるみたいですねえ。
 到着時に露切り通して掃除したんですが,さしてゴミも出ませんでしたから,この崩れたぶんはおそらく,前の持ち主か古物屋さんに掃除されちゃってたんでしょう。唄口のほうからだといまいち見えないんで気づかなかったんですが,こりゃタイヘン。

 明笛の反射壁は,管頭から和紙や新聞紙の丸めたのをつっこんで固めたものが一般的ですが,ハリガネなどを用いて触診してみますと,この紙の詰め物の部分は3~5ミリほどしか厚みがないようで,そこから先には何か硬いものが詰まっています。
 管頭のほうからつついてみても,詰め物のずっと手前で行き止まりになっていますので,おそらくは下図のような構造になっているのではないかと考えられます。

 最初のほうでも述べたようにこの笛の管体はかなり細いので,お飾りを固定するのにじゅうぶんなホゾを作れなかったのでしょう。そこで管内に細い棒を挿して笛本体とお飾りを接合しているのだと思われます。
 明笛の詰め物は,和笛などのように蜜蝋で一時的に固定したものではなく,ニカワなどで固定し唄口がわは管内ごといっしょに塗り固めてあるのが一般的です。
 紙のカタマリを固めるためや固定のためにニカワを使うので,そこを虫に狙われる可能性もないではないのですが,この楽器の場合,管頭がわは上に書いたようお飾りを固定するための棒でふさがれていますし,唄口がわはウルシでカッチリ固められちゃってますから,通常侵入ルートがなく,こんなふうにはならないはずなのですが……おそらくは,使用によって表面の塗膜が劣化し,部分的にハガれたところから侵入されたのでしょうねえ。

 とまれ,ここがこの楽器最大の要修理個所のようです。

 これもふくめ,要修理個所はこんなところでしょうか。(下図クリックで拡大)

 この楽器は頭尾の飾りがとりはずせない構造になってますので,反射壁の修理も唄口がわからするしかありません。また,全体に塗りが施されているため,内部の保護塗りやヒビの補修などの作業も,オリジナルの塗りをなるべく損なわないようにやらなければならないでしょう----ちょっとタイヘンそうです。


STEP4 明笛50号,ランポー怒りの大修理

 50号は修理に入ります。

 まずは洗おう,ジャブジャブジャブ。
 ぬるま湯に中性洗剤で管の内外を……真っ黒ですわあ。
 洗い終わっても乾かさず,濡らした脱脂綿で包み,ラップをかけて2時間ほど放置します。

 ほおら…開いてきましたよぅ。
 前のヒトが連邦の白い悪魔(w)で「修理」したところがねぇ。

 割れ目周りに固まったのはShinexでこそぎ落とし,割れ目の内がわに入ってるぶんは,クリアフォルダの切れ端やアートナイフの刃を入れてほじくりだします。

 こうしてまず,前修理者の「修理」を「なかったこと」にするまでに,3時間くらいかかりました。

 割れ目の清掃が終わったところで,もう一度軽く全体を濡らしてから,パイプクランプを軽めにかけて矯正します。この時点でギッチギチにしめあげちゃうと,別のところが割れ始めたりしますんで。管の形がくずれないていど 「割れ目がせまくなってる」 あたりでよござんす。

 数日乾燥させてから,あらためて割れ目の継ぎに入ります。
 接着剤はエタノールで緩めたエポキ。

 パックリ逝っちゃってるところは,クリアフォルダなどを切ったものをつっこんで両岸まんべんなく,薄物も入らないようなせまいところには,最初にエタノを流し,そこに接着剤を小筆で垂らして何度も流し込み,ヒビの奥まで浸透させてゆきます。エポキだけだとそこに留まってしまいますが,最初にエタノールを流し込んでおくと,そのエタノールに引っ張られる形で接着剤が流れてゆきますので。
 そこそこの作業時間がかかるので,接着剤は硬化までの時間が長めのものをおススメいたします。
 また,今回のように上から下までバッキリ逝っちゃってる場合は,いちどきにやらず,数回に分けて作業するほうが確実です。

 今回は笛全体を4つか5つに分け,管尻のほうから3日かけて順繰り接着してゆきました。

 充填剤としてのエポキシは,作業後の「ひけ」が少ないのが特徴なのですが,ひび割れの修理では,溶剤をせまい箇所の奥まで浸透させるためにエタノールを使っておりますので,硬化後,エタノールが蒸発したぶん,どうしても「ひけ」が生じ,表面にうすーいミゾが残ってしまいます。
 明るいとこだと見える程度であり,内部はしっかりくっついてますから構造上さほど問題はないのですが。唄口周辺はいわずもがな,響孔の周縁だと竹紙を貼るのに影響が出ますし,指孔でもわずかな凸凹が原因で,演奏に何らかの支障が出ないとは言い切れません。
 ま,なにせ吹いてる本人には見えちゃいますしね。
 気にならないといえばウソになる(w)

 これを埋めるのに,も一度エポキを流すのですが。
 このとき,緩めたエポキをただミゾの上に流してもミゾは埋まってくれません。
 ミゾにあるていどの深さがある場合は,筆でふくませれば勝手に吸い込まれていってくれるのですが,ミゾが浅いとエタノを落としても,蒸発するさい混じってるエポキだけ外がわに散ってしまうんですね。

 これを防止するため,補修箇所にエポキを垂らした後,細く切ったクリアフォルダの切れ端をかぶせます。

 こうするとエポキ&エタノの溶剤は,表面張力かなんか知らん力(w)によって蓋のがわにひっぱられ,そのままそこで固まってくれます。
 指定の場所に軽く 「盛った」 感じになってくれるわけですね。

 一晩ほどおいて固まったところで整形します。

 管内にはみ出したぶんは,細棒にSHINEXをくくりつけたやつを管尻から挿しこんでこそぎとりました。

 さあて,これであとは内外を保護塗りしたら完成ですね。



(つづく)

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