明笛について(26) 明笛49号/50号(4)
明笛について(26) 明笛49号/50号(4) STEP5 明笛49号 明笛49号の修理は,まず細かくヒビが入り,塗膜の浮いている響き孔周辺の剥落止めから。 ゆるめに溶いたニカワを小筆で刷いては,布で軽く押して吸い取ります。 管頭のお飾りの接合部周辺以外に竹自体にヒビは入ってませんし,この周辺以外の塗膜は比較的無傷ですので,このあたりのヒビ割れはおそらく,もともとの漆塗装の下地処理か,塗装作業自体に問題があったのだと思います。 一晩おいて,触ったらプラプラしててハガレそうになってたあたりが,いちおうへっついてるのを確認----ものが笛ですからね,ツバもかかれば息でも湿る,手汗もつくしヨダレも垂れます----道具としての使用を考えるなら,このニカワによる処置は,あくまでも次の作業のための一時的な応急処置です。 修理作業中にボロボロ逝かれたらたまらんですからね。 次の作業のための準備をしましょう。 まずは薄い和紙を小さく丸めたものを用意します。 お腹の赤丸薬くらいの大きさかな。 これにニカワをふくませ,反射壁の欠けたところ(上右画像参照)に押し込みます。 今回の虫食いはこの欠けたところから,90度曲がって横方向へも少し広がってますので,濡らした紙玉をさらに小さくちぎっては,ピンセットや曲げたハリガネで,少しづつ,なるべく深く,奥のほうまできっちり詰め込んでゆきました。 穴から紙玉が顔を出すようになったら,筆で少量の水をふくませ,管尻から挿しこんだ棒のあたまで表面を軽く叩いて潰す。そしてまたハリガネでつついて押し込み…これを何度かくりかえしました。 うむ,場所が場所だけに手先の感覚だけでやったみたいなところもあったんですが----なんとか埋まったようですな。 充填箇所がかっちり乾いたところで,管内を塗装。 赤と透を半分くらいづつ混ぜ,元の色に合わせてます。 先に,修理した反射壁と唄口の周辺だけ何度かこってり塗りこめておき,後の部分は保護塗りていどにあっさりと塗りあげました。 管頭飾りとの継ぎ目あたりに,何本か割れ目が出来てます。唄口にかかってないあたりなので,楽器としての使用上は問題ありませんが,使ってるうちに開いてきちゃったりしたら嫌ですからね----ここも埋めこんでおきましょう。 修理で出た黒檀の粉を茶こしでふるい,微細な粉をエポキで練って充填します。 あとは最初に表面の剥落止めをした部分ですが,漆塗りを塗りで補修するのは難しいですので,エタノで緩めたエポキをヒビに沿って流し,固定します。塗膜がめくれちゃってる部分なんかは,アートナイフなどでこそいで落し,パズルよろしく元の場所にハメこみました。 とりあえず響孔周辺が,竹紙を貼ったりハガしたりしても大丈夫なくらいになってればよかろうもん。 唄口や指孔など,この笛の各孔には金で縁どりが施されていました。各孔の壁を塗装し直すついでに,この孔の縁もちょちょいと補彩しておきましょう。 まあ「金彩」っていってももちろん,本物の黄金の粉末が使われているわけでもありません。色合いから言って元のも,いろんなのの混じった工芸用の偽金粉ですね。 このあたりは使用でかすれて消えちゃうでしょうから,軽く百均の金粉マニキュアを使いましょう。 もちろん,直接塗ったりはしませんよ。 まずは,クリアフォルダの切れ端などにマニキュアを塗り,乾かします。次に保護塗りちゅう孔の縁に押し当てますと,軽くハミ出た生乾き状態の塗料にへっついていい感じでプリントされました。 保護塗りの塗料が固まったところでクリアを軽く上塗りして完成とします。前にも書いたと思いますが,この笛の金彩はもともと,庵主のやったのと同じように,塗料で絵を描いて上から粉ふっただけの 「なんちゃって蒔絵」 なので,強く擦るとほとんど消えちゃうようなシロモノです。上塗りして砥ぎだしたものだと,ちょっとやそっとじゃ消えないんですけどねえ。(^_^;) あとは管内の塗装が乾くのを待って,磨いたら完成です! STEP6 明笛50号 ヒビ割れの処理の終わった50号。 しばらく放置して,ヒビが再発したり新しくバッキリ逝ったりしないか様子を見ます。 中性洗剤でザブザブしましたし,ヒビの修理であちこちコスりましたので,内外ともにパッサパサな感じですが。 一週間ほどたってもバッキリ鳴ったりパックリ逝ったり(w)しません。 …………だいじょうぶのようですね。 内部にハミ出たエポキを削るのといっしょに,管内の塗装もあらかた削ってハガしてしまいました。 もともと塗ってあった塗料は,明治~大正期の量産品明笛でよく使われていた正体不明のやつで,水ではビクともしないのに,エタノールを流すとベトつきます----たぶんスピットニスみたいなアルコールで溶かして使う手の顔料だったんだと思います。 酔っぱらって吹いたらエラいことになりそう(www) そういえば----前のほうの回で紹介しましたが,この笛の作者の吉田源吉さんはヴァイオリンの作家でもありました。 今回の笛の管表の染め色は,ふつうの明笛よりやや赤みがありましたが,これってヴァイオリンの胴染めると同じ染料か塗料が使われてたのかもしれませんね。 管の内外を塗ります。 管内は赤に透を混ぜたものを唄口や指孔から筆で垂らし,細めの棒切れの先に使い切ったSHINEXの切れ端をくくりつけたもので均して,まんべんなく塗りこみます。 管表はもともとの色合いを損ねないように,透とクリアを半々くらいにしたものをゆるめに溶いて二度ばかり拭き漆風に滲みこませ,下地を作ってから,ごく薄く表面を塗りあげました。これもそうでしたが----大正期以降の明笛は竹管表面の扱いが雑で,古い管にくらべるとちょっとガサガサした感じなのが多いのですが,補修箇所の保護もありますし,オリジナルより少し塗りを厚くしておきましょう。 これでこちらも,後は塗料の乾くのを待つだけです! それぞれどんな音が出るのか----一週間後が楽しみですねえ。 (つづく)
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