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楽器製作・名前はまだない(6)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(6)

STEP6 そしてわたしは のぞむ それを 塗って まっくろけのけ

 「長い棹の月琴」 が「短い棹の月琴」になったとする説には,納得のゆかない点がいくつもあります。

 その最大の問題が「短い棹の月琴」にしかない 「響き線」 という構造です。

 いまのところベトナムや台湾の長い棹の月琴に,こうした構造が入っている,もしくは過去には入っていたという情報はありません。もちろん,正倉院の阮咸にも入ってませんし,韓国のウォルグムにもありません。
 ではなぜ----

 長い棹の月琴が短い棹の月琴になるに際し,
  「響き線」が入れられるようになったのか。

 日本で清楽器を作っていた人たちは,音楽におけるメインの楽器である月琴に仕込まれていたのだから,と琵琶から弦子から果ては洋琴(ピアノにあらず,短いお箏に金属弦を張った和製ダルシマー)にまで,何でもかんでもこの構造を仕込んでおりますが,オリジナルの中国琵琶や向こうで作られた双清(清楽で「阮咸」と呼ばれた長棹八角胴の楽器)にこの構造はありません。*

 中国の楽器の研究書などには 「(短い棹の)月琴には響き線が入っている」 といったような説明しかありません。それはあたかも,どの楽器にでもある普通のことみたいに書かれているのですが,実際にいろいろ調べてみますと,中国の楽器でこの構造を有していると確実に分かるものは,ほぼこの「(短い棹の)月琴」だけということになります。

 同じ「月琴」という名前の楽器でも,古い輸入品の月琴と国産の清楽月琴にしかないもの----それがこれら表板に貼られた薄板や凍石製の飾りと,この響き線。

 「長い棹の月琴」が「短い棹の月琴」を産んだとするのなら,そこには必ず,この二つの起源と理由がなければならないのです。

 *ベトナムの琵琶---ダン・ティパの覆手(テールピース)の接合には接着剤のほかやや長めの鉄釘が用いられており,釘の先端が胴内部に出ていて,共鳴音にわずかな金属味を与えている。また弦子(中国蛇皮線)の皮のいちばん端の部分は,胴をぐるりと巻いた真鍮線によって止められている。この線もまた,主なる目的は胴皮の固定であるが,月琴の「響胆(響き線)」のように弦音に金属的な余韻効果を与える部品ともなっている。同様の例はほかにもないではないが,月琴の響き線のような,余韻効果のための独立した構造を持つ例はほぼ見当たらない。



 さて,製作です。

 黒よりも黒く,闇よりも深き漆黒に,
    我が真紅の混淆を臨みたまふ----

 むかし,染めの人が言ってたのですが。
 黒く「塗った」ものと黒く「染めた」ものの色味の差異は,
 「壁」と「闇」の違いなのだとか………

 「向こうの無い」黒さ と「向こうのある」黒さ,とでも言いましょうか----分かるような分からないような。(w)
 我らが闇をのぞきこむとき,闇もまた我らをのぞいておるのですな。

 いちど真っ赤に染めた楽器に,黒ベンガラを塗ります。

 ベンガラは隠蔽性の高い----すなわち下地を覆い隠して見えなくできる----塗料です。
 国産月琴ではけっこう使われていますね。
 高価な楽器は,なにか塗ってあってもまあ生漆をさっとていどで,木地が見えてるのがふつうですが,特に安価な楽器では,その「隠蔽性」を利用して,材料や工作の粗を隠すため,こんなふうにどばちゃとばかり塗ったくられていることがあります。
 実際こうして塗ってみると分かるように,表面はべったらとして艶もなく,いかにも「安物」っぽい感じに仕上がります。しかしこの塗料,もともと漆塗りなどで,貴重なウルシを節約する目的でも使われていたわけで。使い方次第ではいくらでも高級っぽい感じに仕上げることが可能です。

 ベンガラはあらかじめエタノールで溶いてしばらくなじませ,使う寸前で柿渋で溶いて塗りあげます。

 このままベンガラ塗りで仕上げたい場合は,ベンガラが乾いた上から柿渋と亜麻仁油などの乾性油を塗り重ねますが,今回は乾いたところで,糸倉や基部の部分をのぞき,布で擦ってほとんど落としてしまいます。
 「落とす」と言っても,服なんかに着いたらちょっとやそっとじゃ落ちないくらい頑固な塗料ですんで。けっこう拭いても,棹の表面には薄くまんべんなくベンガラがかかっております。糸倉と棹基部のあたりを残したのは,異材を継いでますので,その継ぎ目を隠すためですね。
 ベンガラの上から,こんどはオハグロをかけてゆきます。
 スオウの上から直接オハグロをかけても反応がイマイチなんですが,いちどベンガラをかけて落としてからだと,かなり染まりがいいのですよ。
 何度か塗り重ねてゆくうちに,ベンガラとスオウ,オハグロとスオウが再び反応し,これによって,ベンガラの「塗り」の黒が,より「染め」の黒に近い,木地の透けた奥のある黒になってまいります。

 染まったところで木地を軽く整えて,上塗りに入ります。
 「黒」を使わない「黒塗り」…ってのも不思議なものですが。ここで塗るのはカシューの「透(すき)」ですね。

 下塗りをしっかり乾かして固め,中塗りをなんどか重ねて,中砥ぎ,上塗り,仕上げ磨き。

 棹頭の飾りと半月も磨いて,胴の表裏板はヤシャブシで染めます。

 出来てきましたねえ。

 山口(トップナット)はツゲ。糸を張って半月を接着する位置を探ります。有効弦長は651と決まってますが,棹が細くて長いので左右のバランスとるのがけっこうタイヘンですね。なんせ今回は2弦でも3弦でも4弦でも,いちおう弾けるようにせにゃなりませんし。

 半月がついたところで,とりあえず手元にある糸を張って耐久テスト。
 一見丸胴の箱三味線ですが,弦高が高いのでまだ開放弦しか音は出せませぬよ,おほほほほ。

(つづく)


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