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2020年4月 清楽月琴WS@亀戸!

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斗酒庵 WS告知 の巻2020.4.25 月琴WS@亀戸! うずうず場所の巻


*こくちというもの-月琴WS@亀戸 4月 のお知らせ-*


 さてさて,三月の会にもご来場いただきありがとうございました。

 2020年4月の月琴WSは25日(土)の開催予定!


 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。

 いつものとおり,参加費は無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼下りの,うずうず開催。

 美味しい飲み物・お酒におつまみ,ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか阮咸とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。
  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)

 さて現在修理中の62~64号…一面くらいは修理が終わってるといいなあ。(^_^;)

 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

月琴63/64号(1)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴63号/64号 (1)

STEP1 どこの家庭にもある日常の光景

 いつものこと,と言えばいつものことなのですが……(^_^;)

 ぼたんちゃんと鶴寿堂4の修理を引き受けたとたんに,清琴斎62号が舞いこんでできたかと思ったら----まさに「楽器が楽器を呼んで」おりますねえ。
 63・64号が,連続して到着いたしました。


 63号は比較的状態の良い楽器です。

 全体に少し白っぽくはなっちゃってましたが,汚れも少なく。糸巻も4本全残,なくなってる部品はフレットが5枚。
 あとは5・6フレット間のお飾りが一部欠けちゃってるくらいでしょうか。

 故障としては,天の側板の右肩のあたりが接合部からはずれて,ちょっと浮いちゃってますねえ。
 あと,そこも含めて天地の側板に表裏板のハガレが発生しております。

 それとこれは「故障」ではないんですが,胴のほぼ中央,バチ皮のすぐ上のあたりに,木目に由来すると思われるけっこう深いエグレがあります。使用上の支障はないものとは思われますが,目立つ場所なんで,ちょっと気にはなります。

 半月には糸孔の擦れ防止に大き目の骨材の円盤が埋め込まれており,やや小さめのサイズとあいまって,シンプルながらなかなか小洒落た姿になっております。

 工房到着時にはほぼ完全な姿でしたが,触ってたら蓮頭がとれちゃいましたね。蓮頭の下になっている糸倉の先端部分も接着がトンでおり,ちょっと触ったら間木もポロリとはずれてきちゃいました。

 蓮頭を留めてたニカワが白くポロポロになってましたから,放置されていたのはけっこう乾燥していた場所だと思いますよ。蔵とか納屋の,天井に近いあたりかな?

 最後に,ネオクの画像で見た時点では,作者まで確定はできなかったのですが。工房到着後に裏板に残ったラベルの残骸を精査いたしました。

 ほおぅううう……ほんと「残骸」ですねえ。

 部分的わずかに印刷が残ってるようですが,肉眼では外枠の一部ぐらいしか判別できません。

 ともあれ,楽器の作りとラベルのカタチだけで,ある程度の作者はしぼれます。
 庵主の知ってる中で,このカタチの楽器を作り,このカタチのラベルを使っているのは,日本橋本石町の唐木屋こと林才平と,上野黒門町の栗本桂三郎の二人です。

 それぞれのラベルの画像はありますので,ラベルをデジカメで撮り,ちょー拡大してこれらと重ねあわせた結果,

 63号のラベルにうっすらと残っていた文字の断片が,まず唐木屋のラベル左端の「唐」の字と「屋」の屋根の部分,

 そして左下の「林」の下半分と一致しました。
 すげぇ…カガクのシンポ,すげぇよ。(www)

 元のラベルの刻印は「諸楽器/販売舗大/日本東都/本石街林/唐木屋」----いまちょうど帰ってきてる「ぼたんちゃん」と同じメーカーの楽器ですね。
 ぼたんちゃんが呼びこんだのかしらん?

 糸倉や胴側に,オリジナルの染めが色濃く残ってますね。
 棹背は手の擦れで落ちちゃってますが,もとは全体,スオウとオハグロあたりで紫がかった褐色に染められてたものかと。
 そのほかにも使用痕はあり,ちゃんと楽器として使われてたようですが,かなり大切に弾かれていたものでしょう。
 いまのとこ,落としたり踏んづけたり振り回して誰かを殴ったような痕は見つかってません。(w)

 さて,例によって一見状態のいい「キレイな楽器」は,その身に毒を抱えておるものですが----この子はどうでしょう?



 さて,最後に来た一面。

 正直な話,62・63号は何気なく入札してたら偶然落ちちゃったのですが,この楽器だけはちょっと落しにいきました。

 長い棹,薄く大きめな胴体,そして前向きの菊の花のニラミに下縁部の角ばった半月----神田錦町もしくは南神保町,石田楽器店主,石田義雄こと初代不識の月琴ですね。

 この人は渓派の流祖である鏑木渓菴の弟子でもあるので,「清楽月琴」ってのをちゃんと分かって作っている人です。そのためもあり,彼の作る楽器の規格は,鏑木渓菴自作の楽器に最も近く,棹が長くて,第4フレットが棹の上に位置しています。

 庵主が最初に手にした清楽月琴の作者さんでもあり,楽器としてのポテンシャルも高いのでお気に入りなのですよ,ハイ。

 ともあれ,64号・石田不識(初代)----重症ですねえ。

 いや壊れてるのも壊れてるんですが…それ以上に前修理(?)者のシワザがなかなかにスゴいです。

 まず目につくのがこの塗り。

 棹といわず糸倉と言わず塗りたくられてますが…なんでしょうねえ。
 なんでこんなにムラムラなんでしょう?
 いや,いくらシロウトさんでも,塗るならいっそ,もうちょいキレイに塗ってくれてもイイものじゃないかと。

 胴側にもべっとり。
 表裏板の木口木端口も塗りこめられちゃってます。

 左画像は27号についてたオリジナルの完品。
 同じようなデザインの蓮頭を付ける人は他にも何人かいるんですが,真ん中に丸い花芯みたいな模様のあるのが,このタイプの月琴での不識の定番です。
 ここも塗料べっとりながら,カタチはだいたい残ってますね……とんがってる前縁部分が欠けちゃったようです。


 胴表右がわに大きな割れ,上下貫通して少し開いちゃってます。
 裏板には中央付近に割れが上下から2本,こちらはどちらも中央部辺りまで走ってますね。

 そのほか,表裏板の縁にカケや打痕多数,右と地の側板にヒビ,地の側板中央にはけっこう大きなカケもあります。

 さて……この天地の側板は,表裏板からほぼ剥離しているんですが,なぜかはずれて落っこちてません。
 さらに上の地の側板のカケた部分。
 真ん中がなにやらウロンな縦ミゾになっちゃってますよね?

 これはもしや………と,板の縁を指でなぞると----あった。

 …クギ,ですね。

 目視で7本,うち1本は竹か木の釘のようです。

 裏板のほうも……うん,何本か打たれてるようです。
 あらためて調べてみたら,蓮頭もクギ2本でとめられてました。

 いやはや……なかなかにワイルド。(顔は笑ってるが表情は笑っていない)

 太清堂クギ子さん以来のクギまみれ楽器…ですか。

 …とりあえず呪っておきましょう。

 あ,これから一生,お尻から紫色のケムリがぷぅぷぅ出続けますからね。


(つづく)


月琴62号清琴斎(2)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴62号 (2)

STEP2 黒の戦士-胎動編-

 さて,ひさしぶりの自腹月琴62号。
  こちらも調査開始ですぞ。

 前回も書いたとおり全身真っ黒に汚れており,蓮頭,糸巻全損ですが,胴体は比較的健全な状態のようです。

 てっぺんから見ていきましょうかね。

 蓮頭はありません。
 糸倉も真っ黒な状態ですが比較的健全。蓮頭を取付ける部分とちょうど真ん中のあたりのオモテがわに,少しネズミに齧られた痕があるくらいですね。
 棹上は山口のみが残っており,フレットは全損。
 黄色っぽい木に薄い指板を貼りつけてあるようですが,指板表面も真っ黒でなにが残ってるやら分からん状態です。

 延長材の接合部が片側割れており,裏板がわが開く状態になってます。

 ううむ…さすがにこんだけ真っ黒だと,見たいとこもよく見えズ。
 調査が進みませんので,先に棹だけ,軽く洗っときましょう。



 ………おおおおおおおお,山口さん。

 アンタ,実は白かったんだね!!

 てっきり黒っぽい唐木製品だと,思い込んでましたヨ。(w)
 胴のほうはまだ真っ黒なままですが,棹のほうが黒さ厚盛りでしたからね----これでようやくフィールドノートに色々書き込めます。

 糸倉の先端,背側のほうから左右側面にかけて薄いヒビが入ってるのを見つけました。
 どうやら補修済のようでハガレもグラつきもしません。

 あと細かいですがいちばん上の糸巻の小さいほうの孔に開けそこなったかした下孔の痕が残っちゃってるのと,一番下の糸巻の大きいほうの孔がやや端に寄りすぎかな?強度としてはギリギリなところかと。

 ふぅむ………

 初回にも書いたとおり,清琴斎の月琴は数打ちの量産品が多く,楽器としてはレベルがそんなに高くはありません。しかし,加工に近代的なというか西洋的な動力工具のようなものを使っているらしく,部品の工作精度がやたらと高いのが特徴----のはずなんですが。

 この棹,なんか微妙にヘンですねえ。

 ひとつには,先にヒビが入ってるのを見つけた糸倉の先端。
 ここがやたらと分厚い。
 ふだんの清琴斎のだと1センチあるかないかくらいですね。
 しかもこれ,よく見ると間木がない----弦池(糸の入る部分)が完全な彫りぬきになってるじゃないですか!

 量産品の楽器でこの部分の加工は,左画像の楽器みたいに,二股フォークのように間をざっくりと切りぬき,最後にてっぺんの開いてるところに木片をつめこんでふさぐのがよく見る方法。
 この楽器の棹のように,弦池全体を彫りぬいてゆくやりかたは,いちばん単純そうに見えますが,意外と職人技が必要なうえ時間も手間もかかり,経済性が悪い。
 二股フォーク法だと,途中までは手ノコ一本で一気に済ませられますからね。そのくらいまでは近所の奥さんアルバイトでもOK,最後に根元のところで真ん中を打ち落とすのだけ職人さんがやる----ってとこかなあ。電動糸鋸みたいな動力工具があるなら,それだけで全部済ませることもできなくはないです。

 ふたつに……ずいぶん仕上げが粗いなあ,これ。

 糸倉左右のバランスが悪く,先端に向かってちょっとねじれてるみたいになっちゃってますし,表がわの仕上げはガタガタ。
 糸倉背がわのいちばん盛り上がってる中心のあたりが少し平らになってるし,輪郭のカーブも見ての通り上下ともにかなりヘロヘロです。
 そのうえ,単純に表面処理が足りなく,全体に少しザラザラした感触。
 滑らかさがもっとも肝要な,棹横とか棹背の部分にも,指先に触るくらいのエグレやヘコミが残っちゃってますね。


 もしかしてこれ……棹だけ後補なんじゃないのかな?



 ここまでにも書いたとおり,清琴斎の楽器は当時としては高度な加工機材をもって,けっこうな工作精度で作られています。ゆえに素材が比較的安価な木材でも,各部材の精度が高く,組立てがしっかりしているので堅牢で長もちなわけですね。
 量産のため,各部品分業制で作ってた可能性も高く,棹と胴体の加工が違っていても不思議はないのですが,いままで扱った楽器でも,このレベルの棹が組み合わされていた例はありませんでした。ううむ,どうしてくれよう----

 とりあえずさらに棹の観察を続けます。
 材質はたぶんサクラですね。
 清琴斎だとホオが定番ですが,それよりはいくらか上等。

 後で作った棹だとすると,山口と指板はオリジナルから剥がしたのを使ったんじゃないかな。指板の材質と形状は,いままでの清琴斎でも見たものと同じですね。
 ただし,カタチはあちこち歪んでガタガタ,慣れてない感あふれる工作ではあるものの,シロウトの仕業ではなさそうです。

 三味線屋さんあたりか?

 なんかあまり扱ったことのない楽器の棹をお客にむりやり作らされ,壊れたオリジナルを横に置いて,見ながら作ってる様子が目に浮かびますね。
 仕事が粗いのは,そのうえかなり急かされてたんじゃないかな。

 うううう…想像したらなにやら可哀想になってきたぞ(w)

 とりあえず今はそんなとこで。
 オリジナルでないと分かったのなら,それはそれでいろいろと方法があります。
 材質はそんなに悪くないし,本人も自分が慣れてないのを分かってるのか,全体にかなり余裕を持った作りにもなっていますしね。

 さて観察を続けましょ。

 胴オモテ左肩の接合部がハガれて,側板に小食い違い,さらにその接合部のところから表板に裂け割レが入ってます。
 あとは同じく胴オモテ,半月の左,バチ布痕の左端あたりにやや大きなヒビ。ここも三四本が断続的に続く裂け割れになっています。

 この2箇所のほか,胴体に損傷・故障はいまのところ見つかりません。

 よくある表裏板のハガレもほとんどありませんし,内桁もしっかりと固定されています。何度も書いてるように,高い工作精度のたまものですね。
 オリジナルの棹はどうにかしてなくなっちゃったようですが。
 胴体のほうは,作られて百数十年たち,これだけ真っ黒になる劣悪な状況だったにもかかわらず,損傷・故障が小さな割れ2箇所………ある意味,驚異的な堅牢さです。(w)

 お飾りは左右のニラミが菊。
 5・6フレット間には扇飾りじゃなく四角い飾りが付いています。
 庵主は獣頭唐草,と名付けてますが,たぶん龍ですねこれ。

 胴体中央には凍石製の円飾り,こちらはよく見る鳳凰の意匠。
 いづれのお飾りにも損傷はありません。

 バチ皮・バチ布はなく,糊付け痕だけが残ってます。
 その糊痕の凸凹に,うっすらと布の模様がうつってますねえ。
 色は分かりませんが,細かな花唐草の布だったようです。

 半月は曲面タイプで模様が彫られています。
 ここも真っ黒ですが,糸孔に擦れ防止の骨材が埋め込まれているのが分かります。
 模様からオリジナルだと思われますが,よく見る清琴斎の楽器ではあまりない工作ですので,普及品より少し上のタイプだったのかもしれませんね。

 棹口の表板がわの角が少し潰れてエグレたみたいになっちゃってますね。
 これがたぶん,オリジナルの棹の壊れた時についたキズでしょう。

 内部はさほど汚れておらず。棹口からの観察や触診でも,上下内桁や響き線にさしたる異常は発見できませんでしたので,今回,胴はとりあえず開かずにおくこととします。

 観察結果をいつものようにフィールドノートにまとめました。下画像クリックで別窓拡大されまあす。

 んでは修理に向け,まずははずせるものをはずしちゃいましょか----と,その前に。

 半月とバチ布痕の横にヒビが走ってるわけですが。
 そのすぐ横,バチ布左端の中央あたりに,何か小さいながら黒くてかたくて丸いモノが……クギが1本打ってありました(^_^;)

 とりやいず,これは周囲をホジって引っこ抜いておきましょう。

 作業前に見つかってあわてて再検査したんですが,クギはこれ1本だったようですね。
 打たれてた場所は下桁の上----おそらくは表板のヒビ割れによる板の浮きを防止しようとしたんでしょうね。ちなみに板はほとんど浮いてません。さすがに堅牢。(w)

 お飾りやフレットの周縁にお湯を刷き,濡らした脱脂綿をかぶせてニカワをゆるめます。

 せっかく損傷の少ない胴なのですから,濡らし過ぎると余計なところにまでヘンな影響が出かねませんので,なるべく短時間で終わらせたいところです。しかし片方のニラミと真ん中の凍石飾りがなかなか頑固で----最終的に円飾りがバラバラになっちゃいましたが,なんとか無事剥離に成功。

 ああ,このくらいならほぼ元通りにできますんでぜんせん大丈夫ですよ。
 もともと,楽器としての操作性や音にあまり関係のない部品ですので,なによりそちら優先です。



(つづく)


鶴寿堂4(2)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 鶴寿堂4 (2)

STEP2 昼間助けていただいたツルですと言ってコアラが来た

 鶴寿堂という作家さんは,木の仕事がうまく,造形のセンスも良い。
 曲線・曲面はなめらかで美しく,直線はキリリとまっすぐ,手に触れるところはすべて滑らかに表面処理が施され,飾りの細工・意匠は繊細にして流麗。そのどれをとっても一流の仕事と言えます。
 しかしながら,ただ一点----

 接着がヘタ。

----なことがまさに玉に瑕。

 初期のころにはニカワでなく「そくい」(米から作る接着剤)が使われたりもしていましたが,あれはこの人がもともと三味線屋さんだったせいもありましょうか。三味線では皮を胴体に接着するのに使われますからね。
 いえ,木部の接着剤として「そくい」を使うのがいけないというわけではありません。たとえば日本刀の鞘なんかはこれで組み立てます。現代の強力瞬間接着剤のご先祖様でもありますので,その接着力と耐久性はお墨付きです。

 ニカワより,虫にも狙われにくいですしね。

 この人の場合,たんに 「木と木を接着する」という行為がヘタクソなのです。原因のほとんどは接着剤のつけすぎ。毎回修理のたびに「これでもか」ってくらい盛られた接着剤を掻き出すのがタイヘンです。(^_^;)


 このブログでしょっちゅう言ってるように,木の場合,接着剤の量は必要最小限,よーく表面を整え,じゅうぶんに湿らせ,滲ませ,そして軽い圧。これで接着された場合が最強なのです。
 うまく接着された木と木の間にはスキマも見えないことがあります。接着剤の滲みこんだ層と層がぴったりとくっついていて,これを分離するのにはたいへんな労力が必要となります。接着剤を盛りすぎると,木と木の間に「接着剤の層」ができます。接着剤の層はそれ自体ではさしたる強度も持ちませんので,軽く衝撃がかかれば割れてしまいますし,空気に触れているところから劣化して長保ちもしません。いくら「これでもか」と厚盛りしたところで,何の役にもたたないんですよ。

 今回の鶴寿堂も,楽器を構成している板や各部材は新品同様の状態ですが,それを楽器のカタチに保つための接着剤が,あちこちで劣化し,ハガれております。
 もうこりゃ,ガワはキレイなものですが,あんがいバラバラ寸前なのかもしれませんな。


 こうした未使用に近い楽器というものは,古物として見るぶんにはたいへん美しいものなのですが,修理するがわとしてはけっこう厄介なシロモノなのですね。
 楽器というのは音を出すための「道具」ですんで,研いでは使う刃物のように,本来いろいろとメンテナンスしながら使ってゆくものです。使い込まれた楽器なら,そのメンテを繰り返すうち,弱いところは補修されて強くなり,強すぎるところは矯められて,ほどよいバランスとなるポイントが出来ており。ちょいと長いこと使われてない時期があっても,そこに近づけてやれさえすればいいんですが。
 未使用の楽器では,ただ置物様に放置された結果,ふつうなら壊れないようなところが壊れちゃってたり,ふつうなら歪まないようなところに歪みが出ちゃってたりしてることが珍しくありません。おかげで,かえって使える「道具」の状態にもどすのが難しかったりするものです。

 さて----楽器の観察にもどりましょう。

 糸巻が一本欠損しています。
 長さ110,太さも最大で24くらいしかなく,月琴の糸巻としては細くて短めですね。六角形になった握りの各面に二本づつ溝が刻まれています。1本溝,3本溝がよくあるパターンで,2本溝はあんがい珍しいほうです。

 ほか部品の欠損は棹上の第1フレットのみ。
 山口は唐木製で,糸溝もちゃんと切られています。
 第2フレットの上下に,透明な接着剤がハミてますねえ…ここは最近の補修かも。

 棹は健全,割れ欠けは見当たりません。
 蓮頭は飾りのない無地の板,たぶん紫檀とか黒檀とかの類でしょう。

 指板としてカリンの薄板が貼られていますが,これの工作が少し変わっており,左右の端が棹の幅より若干広めになっています。
 握ってみると指先に感じるていどですが,左右がわずかに棹本体からハミでてるわけですね。
 さて,これはいったい何のための工作なのか?
 いまのところは不明。

 棹の基部の表がわに漢数字で「二」。
 いまのところ製作年は不明ですが,22号が「第六号」だったのが,いままでだといちばん小さい数字だったかな?

 延長材を含めた基部の長さは130ミリ,ちょっと短めですね。延長材には棹本体と同じカヤ材が継がれています。

 同じ材で継ぐんなら,いっそ上から下まで一木で作っちゃえばいいじゃん----とシロウト目には思ってしまうんですが。この楽器の場合,ここを一木で作っちゃうと,材料は高くつくわ工作はレベル上るわ,出来た後での調整やメンテが難しくなるわで,作るがわにも使うがわにも意外とメリットが少ないんですね。
 唐木製の古渡りものなんかでも,棹の延長材には安い針葉樹材が使われてます。庵主の知る中で一木にこだわってるのは田島勝(真斎)と石田義雄(初代不識)くらいかな。ほかの作家さんは,よほどの特注品か高級タイプでもないかぎり,だいたい延長材を継ぐ構造にしてます。

 うむぅ…(汗)
 その棹なかごのオモテがわ先端,がっつりエグってますね。ウラにはでっかいスペーサー…ねえ,これならそれこそ一度延長材をはずして,取付角度調整しなおしたほうが早かったんじゃないの?----とは思いますが,これはこれで努力の痕が見取れて可哀想なんで言えない(w)

 飾りは左右のニラミが鳳凰----つか「鸞(らん)」ですね。

 大陸のパターンだと,一匹は「笛」,一匹は「笙」を吹いてることになっており,ものすごーく単純化されたデザインになっちゃってますが,月琴のお飾りでもたまにそれらしきモノをそれぞれ銜えてることがあります。(といっても前者は横棒,後者は90度曲がった棒ていどwww)

 今回のお飾りにその類の別はなし。
 一見唐木っぽいですが,たぶんホオかカツラの染め木ですね。右のニラミが少し浮いてるのと,スオウが褪せて左右で色味が若干違っちゃってますね。

 扇飾りは雲ですか。
 土台が「月琴」左右のニラミが「鳳凰」で,板上を天上の世界になぞらえているのでしょう。
 この端々のちょっととんがったデザインは,この人のオリジナルですね。かなり繊細な彫りで,見た感じ,左右ニラミと違ってここはマジ唐木製かもしれません。

 半月は無地のカヤ材。
 棹と違って木目のある板を使ってます。蓮頭とここが無地材なあたりは,かつて扱った5号鶴寿堂と同じですね。シンプルですが,どちらにもけっこう良い材料を使ってるので,これはこれでセンスは良い。

 胴左肩に裏板のハガレ,地の側板に表裏両方のハガレ。

 側板の飾り板の浮きが数箇所あり,そのうち何箇所かには,過去に修復しようとした痕跡が見られます。

 ただまあ,浮いた板のスキマから接着剤を流し込んで,上からむりくり押さえつけた,って感じかな。当然そんなやっつけ作業に効果はなく,板はまたハガれ,単に表面をベコベコにしやがったていどで終わってますね。

 さてあとは中身ですが----

 まずは棹孔から覗きましょう。
 飾り板の合わせ目は棹孔のところになってます。ここはふつう棹基部に隠されててキレイなんですが,ちょっと何やらゴベゴベしてますし,小さいですが板に欠けも出来てますね。
 どうやらここも,飾り板のハガれを補修したことがあったようです。

 さて中もキレイですね。四角い棹なかごの受け孔,左右に四角く細長い音孔が見えます。
 音孔から金色の響き線もちらちら見えてますね。この楽器の響き線も真鍮のようです。

 そして表裏板ウラの状態ですが…………んんんッ,これは!?



(つづく)


ぼたんちゃん再々/鶴寿堂4/月琴62号 (1)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ ぼたんちゃん再々/鶴寿堂4/月琴62号 (1)

STEP1 ひさしぶりにきた!!

 ひさしぶりの依頼修理,そして自出し月琴です。

 まず最初に到着したのは依頼修理の楽器。
 半月がはずれたぼたんちゃんといっしょでした。

 ぼたんちゃんの作者はお江戸日本橋の老舗・唐木屋
 うちで扱った自出し月琴18号と同じメーカー,ほぼ同じ意匠の楽器で,2014年にはじめて修理し,一昨年には棹が根元からボッキリ逝っちゃう大怪我からも回復。

 運の強い子ですね。

 さいしょの修理時,半月にはネズミの食害による欠損があったものの,取付そのものには異常がなかったためそのままに。前回の修理時にもここには手をつけませんでしたが,さすがにいつしか劣化してたみたいですね。

 月琴はだいたいにおいて糸張りっぱなしで大丈夫な楽器ですが,そのテールピースはフレットや山口同様,表面板にニカワでへっつけてあるだけですので,たまさかこうやってふッとんじゃうことがあります。

 そのせいか,古物ではこの部品がなくなってる楽器もよく見かけますね。

 月琴という楽器は弦も短く,そのテンションも弦楽器としては低いほうです。
 ですので,たとえば異常に強いテンションで弦を張ってみた,とか,知らないで中国月琴の金属弦ギターのナイロン弦みたいなのを思いっきり張っちゃった,というように,ムリクリ強い力でひっぺがされたケースでなく,通常の状態でトンだ場合は,下地の板に損傷がなければニカワつけて貼り直せばいいだけです。

 基本的にはフレットポロリの大物程度の故障なので,元の位置に貼り直せば良いだけではありますが,いちおう計測もしておきましょう。棹から糸を引いて,中心線と左右のバランスを確認…………

 …………ズレてますね,右に約3ミリ。(^_^;)

 山口の糸溝の切りかたなどで修正可能な許容範囲ではありますが,せっかくなので正確な位置に付けなおしておきましょう。
 流行期の量産楽器にはままあることです気にしない気にしない。(怒)

 なんども確認しながらマスキングテープなどで印をつけ,接着中にズレないように数箇所当て木を噛ませてからクランプかけて圧着します。

 バチ布もいちどハガし,裏打ちをし直しました。
 今回は柿渋も染ませてあるので,使ってゆくうちにいい感じに色変わってゆくと思いますよ。

 あとは前回の大手術の後,一年ちょっとたってますから,補修部分の木が縮んだんでしょうねえ----棹の取付けが少し甘くなってました
 棹基部にスペーサを噛ましてキッチリスルピタに。この影響で3~4フレットに少しビビりが出ましたので,再度調整して修理完了です。

 何度か書いてますが,こういう「死線をくぐりぬけた」楽器は良く鳴ります。

 まあ修理者としましてはもちろん,どの楽器も事故なくブジに使われ続けてほしい,とは願うのですが。(w)
 ぼたんちゃんも前に比べると,音の胴体が少し太くなったというか,音がはっきりくっきりしてきた感じがしますね。

 これからも大事に弾いてやってください。



 さてもう一面。
 今回はこちらがメインですか。

 事前にどんな楽器だか,誰が作者だかは知らされてなかったんですが。
 箱から出してこの棹を見ただけで,庵主には作者が分かっちゃいました。

 鶴の頸のように美しいカーブを描く棹。

 名古屋の「鶴屋」林治兵衛,

 「鶴寿堂」の楽器ですね。


 胴体を出して裏返すと----ほらね。

 「鶴寿堂」のラベルがばっちり貼られてました。

 ああ,そういやこのオーナーさんの楽器,ぼたんちゃんもこれも,どっちも「林さん」の楽器だ。(w)
 唐木屋の旦那も「林才平」って名前でしたね。

 江戸時代から名古屋は芸事が盛んで,木材の流通・集積地が比較的近いこともあって,京都・大阪・東京に次いで腕のいい楽器屋がけっこう育っておりました。この鶴屋の月琴は,姿も良いし性能もけっこうなものなので人気だったのか,名古屋の作家さんの中では一番よく見かける楽器ですね。

 今回の楽器も,いい保存状態です。

 糸巻が1本なくなってますが,表裏の板も白く,ラベルも欠けなく残ってて,ほぼ「新品同様」といって良い状態です。
 関西方面の楽器でよく使われるカヤを主材に,カリンを側板に貼り回してます。特徴的な棹背のカーブは言わずもがな,薄い糸倉も指板左右の微妙なラインも美しい。

 鶴寿堂はこういう木の仕事が素晴らしいんですが………アレさえなけりゃなあ。(w)

 古物としてはじつにキレイな状態ではあるのですが……
 庵主の危惧するこの作者特有の「アレ」の片鱗が,楽器のあちこちにすでに見て取れます。ココとか……ココとか。



 と,ひさびさに出会った鶴寿堂に見惚れているうち,もう一面の月琴がとどきました。

 こちらはわたしが自腹で買いこんだいわゆる「自出し月琴」。
 62面めなので「62号」となります。

 うわあぁあ……きちゃない。(^_^;)

 棹といい胴体といい,真っ黒ですわあ。

 作者は清琴斎二記・山田縫三郎
 「二記」というのは「二代目」という意味ですね。初代は頼母木源七という人で,縫三郎はその弟子となり,蔵前片町にあった楽器工房をそのまま引き継いだようです。
 二人とも清楽器のみならず,鈴木政吉が台頭してくる以前からヴァイオリンなどの洋楽器も手掛けていたようで,日本における初期の国産ヴァイオリン製作者の一人としても名が挙がっています。ちょっと前に修理した明笛50号の作者・吉田源吉なんかもヴァイオリンを作っており,縫三郎とともに博覧会に出品してましたね。
 ただしヴァイオリン作家としてのウデマエはまあたいしたものじゃなかったようで,博覧会の寸評でも「ガワだけじゃ,音はぜんぜんダメ。」みたいなこと書かれてます。(w)
 しかし蔵前片町の楽器店は,この山田縫三郎の代で成長を続け,清楽器が廃れてから後も,尺八やお箏,吹風琴といった新楽器も含め和洋限らず手広く扱うちょっとした大店になっていたようです。また同じ苗字の関係でしょうか,山田流のお箏の組合の関係者だったみたいで,以前偶然行った葛飾区のお寺さんにあった山田検校の碑に名前を見つけ,びっくらこいたことがあります。三味線の石村近江の顕彰碑だかにも出てたかもせん。一時は東京の楽器商組合の理事みたいなとこまでのぼりつめてたみたいですね。

 これもまた偶然ですが,今回の依頼修理の楽器の作者,鶴寿堂・林治兵衛と清琴斎・山田縫三郎のプロフィールについては,以前----

 月琴の製作者について(3)

という記事でもいっしょに取り上げてますので,興味があるかたはそちらもどうぞ。

 さて,楽器に戻ります。

 はじめに書いたとおり全身真っ黒ですねえ。

 糸巻全損,棹頭についてる蓮頭もなくなってますが,胴体は比較的健全。一箇所接合部に割レ,板2箇所にヒビ割れは見えるものの,板のハガレはなく,構造は今もなおしっかりとしています。

 ラベルに第5回内国勧業博覧会(明36=1903)のメダルが見えるので,それ以降の製造ってことですね。
 過去に扱った楽器では,23年の第3回勧業博覧会のメダルだけのラベルも確認されています。そこからすると清琴斎山田の月琴・後期型----ってとこかな(w)

 ヴァイオリンなども手掛けていたせいか,山田縫三郎の楽器では,その加工にボール盤やジグソーのような近代的な動力工具が使われていたらしく,同じような楽器でも,ほかの作家の同等品に比べると,抜群に工作の精度が高いんですね。
 まあ基本数打ちの量産品なので,楽器としては中の上を越えることはめったにありませんが,工作が良く,部品同士がしっかりと噛合っているため,堅牢で壊れにくく,今もなおけっこうな数が残っております。

 さて,新品同様の鶴寿堂と,真っ黒くろな清琴斎。

 キレイな楽器ときちゃない楽器がいっしょに来た場合,修理で苦労するのはどちらの楽器か?

 いままでの経験から,庵主は知ってます。

 キレイなバラにはトゲがある。

 今回もたぶん----真っ黒くろな清琴斎より,新品同様の鶴寿堂のほうが,タイヘンなんだろうなあ。(^_^;)


(つづく)


楽器製作・名前はまだない(7)

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斗酒庵ひさびさの製作 の巻2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(7)

STEP7 腹黒い日曜日(代官屋敷にて)

 庵主が生まれて初めて作った楽器,というのがこの「ゴッタン阮咸」でした。
 材料は近所の工事現場で拾ってきた端材に,銘木屋でもらってきた唐木の端材少々。むかし古道具屋で見た壊れかけの骨董品の記憶と,当時はまだ数少なかった文献資料などから寸法等をでっちあげ,いろんなとこで見た職人技のごったまぜで組上げた清楽阮咸(中国では双清と言う)で,ほとんど建材で出来てるんで「ゴッタン」と。これが意外とうまくいってこれがいまにつながってるんでしょうなあ。
 そんなわけで----「阮咸」という名前の楽器は,庵主にとってある意味「ハジマリの楽器」なのですが,それからおよそ15年……こんど作ってるのも「阮咸」といえば「阮咸」,材料も建材ではないものの,まあ同じようなもので出来てるわけすがまた「ゴッタン阮咸」じゃあ区別がつきませんがな。はて,どうしたものか(w)

 というわけで新楽器。

 ほんとは棹が着脱式でなく,胴に組み付けだとか,表板以外は硬い木で出来てるとか,いろいろ材質や構造とかは異なりますが,今回の製作で目指すところは伝承上の「ハジマリの"月琴"」こと「阮咸」(清楽のじゃないほうの),いろんなことを調べたいですね。

 主目的は「弦制」,つまりどういう音の弦をどういうふうに組み合わせるかとどうなるか,ということと,「柱制」つまりフレットの位置によって音階がどうなるか,の関係などを知りたいわけですが。この二つは実のところ,「知るだけ」なら計算でほとんどどうにかなります。
 ピタゴラスさんはエラいので,開放の音と長さが分かれば,糸の質により若干の違いは出ますが,だいたい何センチ何ミリのところでどんな音が出るのか,は計算で知ることができるんですね----しかしそれはあくまでも「物理的な」糸と振動との関係性。

 Aという弦制でBという柱制の楽器を,Cという弦制に変えた時,「どういう(音的な)変化が起きるのか」ということが分かったらからと言って,その変更が「その楽器の弾き手にどういう影響を与えるのか」ということは,必ずしも分かりません。いえ,その「影響」の原因と理由は判然としているのですが,「変わった,だからどうなる?」のところは,実際に楽器を弾いてみないと分からないのです。
 Aという弦制でBという柱制の楽器が,Cという弦制に変わったことで,その楽器は「弾きやすくなった」かもしれませんし,その逆かもしれません。「新しい曲が弾けるようになった」反面「前弾けてた曲が弾けなく」なる可能性だってあります。

 前から言っているとおり,弦楽器が小さくなる理由は,基本的に携帯の便のためか,高音を必要とする場合のみで,「唐代からの阮咸」が「短い棹月琴」に変化した理由として一般的に言われている「速弾きのため」とかいうことはありえないのですが。それでも「速弾きのため小さくなった」と言いたいのなら,「唐代の阮咸」の柱制と弦制では「短い棹の月琴」より「速く弾けない」ということを,実験で証明すればよろしい。
 まあ,今回庵主が実験で「知りたいこと」ってのはそれだけじゃありませんが,とりまそういう類のことですね。


 ----ということで,さて仕上げとまいりましょう。
 前回,塗装が終わり,仮糸を張って耐久テストで終わった製作ですが,この後,庵主,1ト月実家に雪かきに行ってましたので,ちょっと間があきました。
 まあ,そのおかげで。
 長期間の耐久テストもクリア,生乾きだった塗料もしっかり乾きました。さあ,実験に向けて再開です。

 まず弦をいろいろと用意しました。
 基本は唐琵琶と同じく長唄用の細めの絹弦1セットに,二の糸だけ1~2番手太いのを1本ですが,未知の楽器なのでさらにいくつか違う番手の糸を買ってあります。一の糸も数本,買ってみましょう。
 ふだんはだいたい同じ番手の二の糸と三の糸しか使いませんからねえ。一の糸見るとなんか違和感が……(^_^;)

 調弦は4単弦C・Eb・G・C,琵琶の「清風調」,今わかる唐代阮咸の弦制です。深草アキさんのブログやら,林謙三先生の本やら参考に決定。一昨年,音律関係の漢文古書読みまくったんですが---なんせ庵主,音楽の勉強ナゾしたことない民俗学屋ですので---まあくそも役に立ちァしません。(w)もちろん正倉院なんかにある本物の唐代阮咸とは寸法も弦も違いますので,基音をCとして弦間の音の関係を変更しています。
 最初,指での計算を間違えて,CEGCにしちゃってたんですが…うむ,これだとかなりバタ臭い,ほとんどギターみたいな音の並びになりますね。2弦を短2度上げるとCFGC,これは唐琵琶の「正工調」の並びとなります。

 フレットを作ります。

 今回のフレットは庵主「はじまりの楽器」であるゴッタン阮咸と同じく,竹の板を2枚貼り合わせた分厚い竹フレットです。
 高さや幅を調整しながら棹にのせてゆきます。
 実験中なので,底にかるくニカワを塗っての仮止めです。
 ちょっと違う方向から力をかけるとポロポロはずれちゃいますが,実験としてふつうに演奏する上ではあまり問題はありません。
 フレットは13枚。フレット間の音の関係は

開放10111213
開放2律1律1律1律2律1律1律1律2律2律1律1律1律

 1律が短1度,開放弦を3Cとしたとき,1弦の音階は----

開放10111213
3C3D3Eb3E3F3G3G#3A3Bb4C4D4Eb4E4F

 となります。

 この柱制でフレットをならべると,左画像で見るように,唐琵琶と同じく,あいだのちょっと開いてる場所が2箇所できます。
 この部分が短2度離れているところで,ここを境に音域が,上隔・中隔・下隔という3つの領域に分かれてます。ベース音,中メロ,高音域,と用途別になってるみたいな感じで分かりやすいですね。上から下までが単純に1度刻みじゃないあたりが,いかにも古い東洋の楽器って感じかなあ。

 弾いた感じは----そう,音の並びはやはり琵琶に近いんですが。音の出てくる場所がかなり異質な感じがしますね。琵琶よりも上,棹の部分から余計に音が出てる感じがします。そのへんはお三味の太棹なんかに近いかもしれませんが,扱いは三味線よりもっとギター寄りですね。ただしこれは,構造をスパイクリュートとしたせいかもしれませんので,本物の阮咸もこうかは分かりません。
 もっと古臭い,弾きにくそうな印象があったんですが,意外とこれは……長モノの割りには弾きやすい楽器ですね。梨胴の琵琶に比べると,上から下まで腕の動きがほぼ直線的なため,身体のポジショニングも運指もラクです。とくに高音域で変に指の角度を気にしなくていいところがイイ。

 いやほんと,なんで廃れちゃったんだろ?

 ありそうなのは琵琶ほど音圧のある音が出せなかったからかな。
 本物は胴裏面が堅い木で表面のみ桐板ですので,これよりは音が前方に飛ぶでしょうが。胴内の共鳴空間はどっこいどっこいですんで,音量そのものは大して違いありますまい。弦にもっと太いのが張れると少しは違うかもしれませんが,それでも劇的な変化はない感じです。
 清楽月琴と同じく,単体や少構成の合奏ではいいんですが,大勢種々な楽器といっしょだと埋もれてしまいそうですね。

 ためしに1弦を番手かなり上の津軽三味線用のにしてみました……あ,これ,さすがに壊れますね,弾けるくらいのテンションで張ると。(w)
 ヤバげなのでヤメて,1・2弦を2~3番手あげてみましたがまあ,弦圧が変わるので弾き心地にやや違いは出ますが,やっぱりさしてそれほどナニは……それに太くするとチューニングがやや難しくなるくらいですか。C・Eb・G・Cの調弦を同じ関係で1度2度変えたほうがラクですね



(つづく)


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