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鶴寿堂4(2)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 鶴寿堂4 (2)

STEP2 昼間助けていただいたツルですと言ってコアラが来た

 鶴寿堂という作家さんは,木の仕事がうまく,造形のセンスも良い。
 曲線・曲面はなめらかで美しく,直線はキリリとまっすぐ,手に触れるところはすべて滑らかに表面処理が施され,飾りの細工・意匠は繊細にして流麗。そのどれをとっても一流の仕事と言えます。
 しかしながら,ただ一点----

 接着がヘタ。

----なことがまさに玉に瑕。

 初期のころにはニカワでなく「そくい」(米から作る接着剤)が使われたりもしていましたが,あれはこの人がもともと三味線屋さんだったせいもありましょうか。三味線では皮を胴体に接着するのに使われますからね。
 いえ,木部の接着剤として「そくい」を使うのがいけないというわけではありません。たとえば日本刀の鞘なんかはこれで組み立てます。現代の強力瞬間接着剤のご先祖様でもありますので,その接着力と耐久性はお墨付きです。

 ニカワより,虫にも狙われにくいですしね。

 この人の場合,たんに 「木と木を接着する」という行為がヘタクソなのです。原因のほとんどは接着剤のつけすぎ。毎回修理のたびに「これでもか」ってくらい盛られた接着剤を掻き出すのがタイヘンです。(^_^;)


 このブログでしょっちゅう言ってるように,木の場合,接着剤の量は必要最小限,よーく表面を整え,じゅうぶんに湿らせ,滲ませ,そして軽い圧。これで接着された場合が最強なのです。
 うまく接着された木と木の間にはスキマも見えないことがあります。接着剤の滲みこんだ層と層がぴったりとくっついていて,これを分離するのにはたいへんな労力が必要となります。接着剤を盛りすぎると,木と木の間に「接着剤の層」ができます。接着剤の層はそれ自体ではさしたる強度も持ちませんので,軽く衝撃がかかれば割れてしまいますし,空気に触れているところから劣化して長保ちもしません。いくら「これでもか」と厚盛りしたところで,何の役にもたたないんですよ。

 今回の鶴寿堂も,楽器を構成している板や各部材は新品同様の状態ですが,それを楽器のカタチに保つための接着剤が,あちこちで劣化し,ハガれております。
 もうこりゃ,ガワはキレイなものですが,あんがいバラバラ寸前なのかもしれませんな。


 こうした未使用に近い楽器というものは,古物として見るぶんにはたいへん美しいものなのですが,修理するがわとしてはけっこう厄介なシロモノなのですね。
 楽器というのは音を出すための「道具」ですんで,研いでは使う刃物のように,本来いろいろとメンテナンスしながら使ってゆくものです。使い込まれた楽器なら,そのメンテを繰り返すうち,弱いところは補修されて強くなり,強すぎるところは矯められて,ほどよいバランスとなるポイントが出来ており。ちょいと長いこと使われてない時期があっても,そこに近づけてやれさえすればいいんですが。
 未使用の楽器では,ただ置物様に放置された結果,ふつうなら壊れないようなところが壊れちゃってたり,ふつうなら歪まないようなところに歪みが出ちゃってたりしてることが珍しくありません。おかげで,かえって使える「道具」の状態にもどすのが難しかったりするものです。

 さて----楽器の観察にもどりましょう。

 糸巻が一本欠損しています。
 長さ110,太さも最大で24くらいしかなく,月琴の糸巻としては細くて短めですね。六角形になった握りの各面に二本づつ溝が刻まれています。1本溝,3本溝がよくあるパターンで,2本溝はあんがい珍しいほうです。

 ほか部品の欠損は棹上の第1フレットのみ。
 山口は唐木製で,糸溝もちゃんと切られています。
 第2フレットの上下に,透明な接着剤がハミてますねえ…ここは最近の補修かも。

 棹は健全,割れ欠けは見当たりません。
 蓮頭は飾りのない無地の板,たぶん紫檀とか黒檀とかの類でしょう。

 指板としてカリンの薄板が貼られていますが,これの工作が少し変わっており,左右の端が棹の幅より若干広めになっています。
 握ってみると指先に感じるていどですが,左右がわずかに棹本体からハミでてるわけですね。
 さて,これはいったい何のための工作なのか?
 いまのところは不明。

 棹の基部の表がわに漢数字で「二」。
 いまのところ製作年は不明ですが,22号が「第六号」だったのが,いままでだといちばん小さい数字だったかな?

 延長材を含めた基部の長さは130ミリ,ちょっと短めですね。延長材には棹本体と同じカヤ材が継がれています。

 同じ材で継ぐんなら,いっそ上から下まで一木で作っちゃえばいいじゃん----とシロウト目には思ってしまうんですが。この楽器の場合,ここを一木で作っちゃうと,材料は高くつくわ工作はレベル上るわ,出来た後での調整やメンテが難しくなるわで,作るがわにも使うがわにも意外とメリットが少ないんですね。
 唐木製の古渡りものなんかでも,棹の延長材には安い針葉樹材が使われてます。庵主の知る中で一木にこだわってるのは田島勝(真斎)と石田義雄(初代不識)くらいかな。ほかの作家さんは,よほどの特注品か高級タイプでもないかぎり,だいたい延長材を継ぐ構造にしてます。

 うむぅ…(汗)
 その棹なかごのオモテがわ先端,がっつりエグってますね。ウラにはでっかいスペーサー…ねえ,これならそれこそ一度延長材をはずして,取付角度調整しなおしたほうが早かったんじゃないの?----とは思いますが,これはこれで努力の痕が見取れて可哀想なんで言えない(w)

 飾りは左右のニラミが鳳凰----つか「鸞(らん)」ですね。

 大陸のパターンだと,一匹は「笛」,一匹は「笙」を吹いてることになっており,ものすごーく単純化されたデザインになっちゃってますが,月琴のお飾りでもたまにそれらしきモノをそれぞれ銜えてることがあります。(といっても前者は横棒,後者は90度曲がった棒ていどwww)

 今回のお飾りにその類の別はなし。
 一見唐木っぽいですが,たぶんホオかカツラの染め木ですね。右のニラミが少し浮いてるのと,スオウが褪せて左右で色味が若干違っちゃってますね。

 扇飾りは雲ですか。
 土台が「月琴」左右のニラミが「鳳凰」で,板上を天上の世界になぞらえているのでしょう。
 この端々のちょっととんがったデザインは,この人のオリジナルですね。かなり繊細な彫りで,見た感じ,左右ニラミと違ってここはマジ唐木製かもしれません。

 半月は無地のカヤ材。
 棹と違って木目のある板を使ってます。蓮頭とここが無地材なあたりは,かつて扱った5号鶴寿堂と同じですね。シンプルですが,どちらにもけっこう良い材料を使ってるので,これはこれでセンスは良い。

 胴左肩に裏板のハガレ,地の側板に表裏両方のハガレ。

 側板の飾り板の浮きが数箇所あり,そのうち何箇所かには,過去に修復しようとした痕跡が見られます。

 ただまあ,浮いた板のスキマから接着剤を流し込んで,上からむりくり押さえつけた,って感じかな。当然そんなやっつけ作業に効果はなく,板はまたハガれ,単に表面をベコベコにしやがったていどで終わってますね。

 さてあとは中身ですが----

 まずは棹孔から覗きましょう。
 飾り板の合わせ目は棹孔のところになってます。ここはふつう棹基部に隠されててキレイなんですが,ちょっと何やらゴベゴベしてますし,小さいですが板に欠けも出来てますね。
 どうやらここも,飾り板のハガれを補修したことがあったようです。

 さて中もキレイですね。四角い棹なかごの受け孔,左右に四角く細長い音孔が見えます。
 音孔から金色の響き線もちらちら見えてますね。この楽器の響き線も真鍮のようです。

 そして表裏板ウラの状態ですが…………んんんッ,これは!?



(つづく)


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