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月琴63/64号(1)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴63号/64号 (1)

STEP1 どこの家庭にもある日常の光景

 いつものこと,と言えばいつものことなのですが……(^_^;)

 ぼたんちゃんと鶴寿堂4の修理を引き受けたとたんに,清琴斎62号が舞いこんでできたかと思ったら----まさに「楽器が楽器を呼んで」おりますねえ。
 63・64号が,連続して到着いたしました。


 63号は比較的状態の良い楽器です。

 全体に少し白っぽくはなっちゃってましたが,汚れも少なく。糸巻も4本全残,なくなってる部品はフレットが5枚。
 あとは5・6フレット間のお飾りが一部欠けちゃってるくらいでしょうか。

 故障としては,天の側板の右肩のあたりが接合部からはずれて,ちょっと浮いちゃってますねえ。
 あと,そこも含めて天地の側板に表裏板のハガレが発生しております。

 それとこれは「故障」ではないんですが,胴のほぼ中央,バチ皮のすぐ上のあたりに,木目に由来すると思われるけっこう深いエグレがあります。使用上の支障はないものとは思われますが,目立つ場所なんで,ちょっと気にはなります。

 半月には糸孔の擦れ防止に大き目の骨材の円盤が埋め込まれており,やや小さめのサイズとあいまって,シンプルながらなかなか小洒落た姿になっております。

 工房到着時にはほぼ完全な姿でしたが,触ってたら蓮頭がとれちゃいましたね。蓮頭の下になっている糸倉の先端部分も接着がトンでおり,ちょっと触ったら間木もポロリとはずれてきちゃいました。

 蓮頭を留めてたニカワが白くポロポロになってましたから,放置されていたのはけっこう乾燥していた場所だと思いますよ。蔵とか納屋の,天井に近いあたりかな?

 最後に,ネオクの画像で見た時点では,作者まで確定はできなかったのですが。工房到着後に裏板に残ったラベルの残骸を精査いたしました。

 ほおぅううう……ほんと「残骸」ですねえ。

 部分的わずかに印刷が残ってるようですが,肉眼では外枠の一部ぐらいしか判別できません。

 ともあれ,楽器の作りとラベルのカタチだけで,ある程度の作者はしぼれます。
 庵主の知ってる中で,このカタチの楽器を作り,このカタチのラベルを使っているのは,日本橋本石町の唐木屋こと林才平と,上野黒門町の栗本桂三郎の二人です。

 それぞれのラベルの画像はありますので,ラベルをデジカメで撮り,ちょー拡大してこれらと重ねあわせた結果,

 63号のラベルにうっすらと残っていた文字の断片が,まず唐木屋のラベル左端の「唐」の字と「屋」の屋根の部分,

 そして左下の「林」の下半分と一致しました。
 すげぇ…カガクのシンポ,すげぇよ。(www)

 元のラベルの刻印は「諸楽器/販売舗大/日本東都/本石街林/唐木屋」----いまちょうど帰ってきてる「ぼたんちゃん」と同じメーカーの楽器ですね。
 ぼたんちゃんが呼びこんだのかしらん?

 糸倉や胴側に,オリジナルの染めが色濃く残ってますね。
 棹背は手の擦れで落ちちゃってますが,もとは全体,スオウとオハグロあたりで紫がかった褐色に染められてたものかと。
 そのほかにも使用痕はあり,ちゃんと楽器として使われてたようですが,かなり大切に弾かれていたものでしょう。
 いまのとこ,落としたり踏んづけたり振り回して誰かを殴ったような痕は見つかってません。(w)

 さて,例によって一見状態のいい「キレイな楽器」は,その身に毒を抱えておるものですが----この子はどうでしょう?



 さて,最後に来た一面。

 正直な話,62・63号は何気なく入札してたら偶然落ちちゃったのですが,この楽器だけはちょっと落しにいきました。

 長い棹,薄く大きめな胴体,そして前向きの菊の花のニラミに下縁部の角ばった半月----神田錦町もしくは南神保町,石田楽器店主,石田義雄こと初代不識の月琴ですね。

 この人は渓派の流祖である鏑木渓菴の弟子でもあるので,「清楽月琴」ってのをちゃんと分かって作っている人です。そのためもあり,彼の作る楽器の規格は,鏑木渓菴自作の楽器に最も近く,棹が長くて,第4フレットが棹の上に位置しています。

 庵主が最初に手にした清楽月琴の作者さんでもあり,楽器としてのポテンシャルも高いのでお気に入りなのですよ,ハイ。

 ともあれ,64号・石田不識(初代)----重症ですねえ。

 いや壊れてるのも壊れてるんですが…それ以上に前修理(?)者のシワザがなかなかにスゴいです。

 まず目につくのがこの塗り。

 棹といわず糸倉と言わず塗りたくられてますが…なんでしょうねえ。
 なんでこんなにムラムラなんでしょう?
 いや,いくらシロウトさんでも,塗るならいっそ,もうちょいキレイに塗ってくれてもイイものじゃないかと。

 胴側にもべっとり。
 表裏板の木口木端口も塗りこめられちゃってます。

 左画像は27号についてたオリジナルの完品。
 同じようなデザインの蓮頭を付ける人は他にも何人かいるんですが,真ん中に丸い花芯みたいな模様のあるのが,このタイプの月琴での不識の定番です。
 ここも塗料べっとりながら,カタチはだいたい残ってますね……とんがってる前縁部分が欠けちゃったようです。


 胴表右がわに大きな割れ,上下貫通して少し開いちゃってます。
 裏板には中央付近に割れが上下から2本,こちらはどちらも中央部辺りまで走ってますね。

 そのほか,表裏板の縁にカケや打痕多数,右と地の側板にヒビ,地の側板中央にはけっこう大きなカケもあります。

 さて……この天地の側板は,表裏板からほぼ剥離しているんですが,なぜかはずれて落っこちてません。
 さらに上の地の側板のカケた部分。
 真ん中がなにやらウロンな縦ミゾになっちゃってますよね?

 これはもしや………と,板の縁を指でなぞると----あった。

 …クギ,ですね。

 目視で7本,うち1本は竹か木の釘のようです。

 裏板のほうも……うん,何本か打たれてるようです。
 あらためて調べてみたら,蓮頭もクギ2本でとめられてました。

 いやはや……なかなかにワイルド。(顔は笑ってるが表情は笑っていない)

 太清堂クギ子さん以来のクギまみれ楽器…ですか。

 …とりあえず呪っておきましょう。

 あ,これから一生,お尻から紫色のケムリがぷぅぷぅ出続けますからね。


(つづく)


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