楽器製作・名前はまだない(7)
2019.10~ 楽器製作・名前はまだない(7)
STEP7 腹黒い日曜日(代官屋敷にて) 庵主が生まれて初めて作った楽器,というのがこの「ゴッタン阮咸」でした。 材料は近所の工事現場で拾ってきた端材に,銘木屋でもらってきた唐木の端材少々。むかし古道具屋で見た壊れかけの骨董品の記憶と,当時はまだ数少なかった文献資料などから寸法等をでっちあげ,いろんなとこで見た職人技のごったまぜで組上げた清楽阮咸(中国では双清と言う)で,ほとんど建材で出来てるんで「ゴッタン」と。これが意外とうまくいってこれがいまにつながってるんでしょうなあ。 そんなわけで----「阮咸」という名前の楽器は,庵主にとってある意味「ハジマリの楽器」なのですが,それからおよそ15年……こんど作ってるのも「阮咸」といえば「阮咸」,材料も建材ではないものの,まあ同じようなもので出来てるわけすがまた「ゴッタン阮咸」じゃあ区別がつきませんがな。はて,どうしたものか(w) というわけで新楽器。 ほんとは棹が着脱式でなく,胴に組み付けだとか,表板以外は硬い木で出来てるとか,いろいろ材質や構造とかは異なりますが,今回の製作で目指すところは伝承上の「ハジマリの"月琴"」こと「阮咸」(清楽のじゃないほうの),いろんなことを調べたいですね。 主目的は「弦制」,つまりどういう音の弦をどういうふうに組み合わせるかとどうなるか,ということと,「柱制」つまりフレットの位置によって音階がどうなるか,の関係などを知りたいわけですが。この二つは実のところ,「知るだけ」なら計算でほとんどどうにかなります。 ピタゴラスさんはエラいので,開放の音と長さが分かれば,糸の質により若干の違いは出ますが,だいたい何センチ何ミリのところでどんな音が出るのか,は計算で知ることができるんですね----しかしそれはあくまでも「物理的な」糸と振動との関係性。 Aという弦制でBという柱制の楽器を,Cという弦制に変えた時,「どういう(音的な)変化が起きるのか」ということが分かったらからと言って,その変更が「その楽器の弾き手にどういう影響を与えるのか」ということは,必ずしも分かりません。いえ,その「影響」の原因と理由は判然としているのですが,「変わった,だからどうなる?」のところは,実際に楽器を弾いてみないと分からないのです。 Aという弦制でBという柱制の楽器が,Cという弦制に変わったことで,その楽器は「弾きやすくなった」かもしれませんし,その逆かもしれません。「新しい曲が弾けるようになった」反面「前弾けてた曲が弾けなく」なる可能性だってあります。 前から言っているとおり,弦楽器が小さくなる理由は,基本的に携帯の便のためか,高音を必要とする場合のみで,「唐代からの阮咸」が「短い棹月琴」に変化した理由として一般的に言われている「速弾きのため」とかいうことはありえないのですが。それでも「速弾きのため小さくなった」と言いたいのなら,「唐代の阮咸」の柱制と弦制では「短い棹の月琴」より「速く弾けない」ということを,実験で証明すればよろしい。 まあ,今回庵主が実験で「知りたいこと」ってのはそれだけじゃありませんが,とりまそういう類のことですね。 ----ということで,さて仕上げとまいりましょう。 前回,塗装が終わり,仮糸を張って耐久テストで終わった製作ですが,この後,庵主,1ト月実家に雪かきに行ってましたので,ちょっと間があきました。 まあ,そのおかげで。 長期間の耐久テストもクリア,生乾きだった塗料もしっかり乾きました。さあ,実験に向けて再開です。 まず弦をいろいろと用意しました。 基本は唐琵琶と同じく長唄用の細めの絹弦1セットに,二の糸だけ1~2番手太いのを1本ですが,未知の楽器なのでさらにいくつか違う番手の糸を買ってあります。一の糸も数本,買ってみましょう。 ふだんはだいたい同じ番手の二の糸と三の糸しか使いませんからねえ。一の糸見るとなんか違和感が……(^_^;) 調弦は4単弦C・Eb・G・C,琵琶の「清風調」,今わかる唐代阮咸の弦制です。深草アキさんのブログやら,林謙三先生の本やら参考に決定。一昨年,音律関係の漢文古書読みまくったんですが---なんせ庵主,音楽の勉強ナゾしたことない民俗学屋ですので---まあくそも役に立ちァしません。(w)もちろん正倉院なんかにある本物の唐代阮咸とは寸法も弦も違いますので,基音をCとして弦間の音の関係を変更しています。 最初,指での計算を間違えて,CEGCにしちゃってたんですが…うむ,これだとかなりバタ臭い,ほとんどギターみたいな音の並びになりますね。2弦を短2度上げるとCFGC,これは唐琵琶の「正工調」の並びとなります。 フレットを作ります。 今回のフレットは庵主「はじまりの楽器」であるゴッタン阮咸と同じく,竹の板を2枚貼り合わせた分厚い竹フレットです。 高さや幅を調整しながら棹にのせてゆきます。 実験中なので,底にかるくニカワを塗っての仮止めです。 ちょっと違う方向から力をかけるとポロポロはずれちゃいますが,実験としてふつうに演奏する上ではあまり問題はありません。 フレットは13枚。フレット間の音の関係は
1律が短1度,開放弦を3Cとしたとき,1弦の音階は----
となります。 この柱制でフレットをならべると,左画像で見るように,唐琵琶と同じく,あいだのちょっと開いてる場所が2箇所できます。 この部分が短2度離れているところで,ここを境に音域が,上隔・中隔・下隔という3つの領域に分かれてます。ベース音,中メロ,高音域,と用途別になってるみたいな感じで分かりやすいですね。上から下までが単純に1度刻みじゃないあたりが,いかにも古い東洋の楽器って感じかなあ。 弾いた感じは----そう,音の並びはやはり琵琶に近いんですが。音の出てくる場所がかなり異質な感じがしますね。琵琶よりも上,棹の部分から余計に音が出てる感じがします。そのへんはお三味の太棹なんかに近いかもしれませんが,扱いは三味線よりもっとギター寄りですね。ただしこれは,構造をスパイクリュートとしたせいかもしれませんので,本物の阮咸もこうかは分かりません。 もっと古臭い,弾きにくそうな印象があったんですが,意外とこれは……長モノの割りには弾きやすい楽器ですね。梨胴の琵琶に比べると,上から下まで腕の動きがほぼ直線的なため,身体のポジショニングも運指もラクです。とくに高音域で変に指の角度を気にしなくていいところがイイ。 いやほんと,なんで廃れちゃったんだろ? ありそうなのは琵琶ほど音圧のある音が出せなかったからかな。 本物は胴裏面が堅い木で表面のみ桐板ですので,これよりは音が前方に飛ぶでしょうが。胴内の共鳴空間はどっこいどっこいですんで,音量そのものは大して違いありますまい。弦にもっと太いのが張れると少しは違うかもしれませんが,それでも劇的な変化はない感じです。 清楽月琴と同じく,単体や少構成の合奏ではいいんですが,大勢種々な楽器といっしょだと埋もれてしまいそうですね。 ためしに1弦を番手かなり上の津軽三味線用のにしてみました……あ,これ,さすがに壊れますね,弾けるくらいのテンションで張ると。(w) ヤバげなのでヤメて,1・2弦を2~3番手あげてみましたがまあ,弦圧が変わるので弾き心地にやや違いは出ますが,やっぱりさしてそれほどナニは……それに太くするとチューニングがやや難しくなるくらいですか。C・Eb・G・Cの調弦を同じ関係で1度2度変えたほうがラクですね (つづく)
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