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月琴62号清琴斎(2)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴62号 (2)

STEP2 黒の戦士-胎動編-

 さて,ひさしぶりの自腹月琴62号。
  こちらも調査開始ですぞ。

 前回も書いたとおり全身真っ黒に汚れており,蓮頭,糸巻全損ですが,胴体は比較的健全な状態のようです。

 てっぺんから見ていきましょうかね。

 蓮頭はありません。
 糸倉も真っ黒な状態ですが比較的健全。蓮頭を取付ける部分とちょうど真ん中のあたりのオモテがわに,少しネズミに齧られた痕があるくらいですね。
 棹上は山口のみが残っており,フレットは全損。
 黄色っぽい木に薄い指板を貼りつけてあるようですが,指板表面も真っ黒でなにが残ってるやら分からん状態です。

 延長材の接合部が片側割れており,裏板がわが開く状態になってます。

 ううむ…さすがにこんだけ真っ黒だと,見たいとこもよく見えズ。
 調査が進みませんので,先に棹だけ,軽く洗っときましょう。



 ………おおおおおおおお,山口さん。

 アンタ,実は白かったんだね!!

 てっきり黒っぽい唐木製品だと,思い込んでましたヨ。(w)
 胴のほうはまだ真っ黒なままですが,棹のほうが黒さ厚盛りでしたからね----これでようやくフィールドノートに色々書き込めます。

 糸倉の先端,背側のほうから左右側面にかけて薄いヒビが入ってるのを見つけました。
 どうやら補修済のようでハガレもグラつきもしません。

 あと細かいですがいちばん上の糸巻の小さいほうの孔に開けそこなったかした下孔の痕が残っちゃってるのと,一番下の糸巻の大きいほうの孔がやや端に寄りすぎかな?強度としてはギリギリなところかと。

 ふぅむ………

 初回にも書いたとおり,清琴斎の月琴は数打ちの量産品が多く,楽器としてはレベルがそんなに高くはありません。しかし,加工に近代的なというか西洋的な動力工具のようなものを使っているらしく,部品の工作精度がやたらと高いのが特徴----のはずなんですが。

 この棹,なんか微妙にヘンですねえ。

 ひとつには,先にヒビが入ってるのを見つけた糸倉の先端。
 ここがやたらと分厚い。
 ふだんの清琴斎のだと1センチあるかないかくらいですね。
 しかもこれ,よく見ると間木がない----弦池(糸の入る部分)が完全な彫りぬきになってるじゃないですか!

 量産品の楽器でこの部分の加工は,左画像の楽器みたいに,二股フォークのように間をざっくりと切りぬき,最後にてっぺんの開いてるところに木片をつめこんでふさぐのがよく見る方法。
 この楽器の棹のように,弦池全体を彫りぬいてゆくやりかたは,いちばん単純そうに見えますが,意外と職人技が必要なうえ時間も手間もかかり,経済性が悪い。
 二股フォーク法だと,途中までは手ノコ一本で一気に済ませられますからね。そのくらいまでは近所の奥さんアルバイトでもOK,最後に根元のところで真ん中を打ち落とすのだけ職人さんがやる----ってとこかなあ。電動糸鋸みたいな動力工具があるなら,それだけで全部済ませることもできなくはないです。

 ふたつに……ずいぶん仕上げが粗いなあ,これ。

 糸倉左右のバランスが悪く,先端に向かってちょっとねじれてるみたいになっちゃってますし,表がわの仕上げはガタガタ。
 糸倉背がわのいちばん盛り上がってる中心のあたりが少し平らになってるし,輪郭のカーブも見ての通り上下ともにかなりヘロヘロです。
 そのうえ,単純に表面処理が足りなく,全体に少しザラザラした感触。
 滑らかさがもっとも肝要な,棹横とか棹背の部分にも,指先に触るくらいのエグレやヘコミが残っちゃってますね。


 もしかしてこれ……棹だけ後補なんじゃないのかな?



 ここまでにも書いたとおり,清琴斎の楽器は当時としては高度な加工機材をもって,けっこうな工作精度で作られています。ゆえに素材が比較的安価な木材でも,各部材の精度が高く,組立てがしっかりしているので堅牢で長もちなわけですね。
 量産のため,各部品分業制で作ってた可能性も高く,棹と胴体の加工が違っていても不思議はないのですが,いままで扱った楽器でも,このレベルの棹が組み合わされていた例はありませんでした。ううむ,どうしてくれよう----

 とりあえずさらに棹の観察を続けます。
 材質はたぶんサクラですね。
 清琴斎だとホオが定番ですが,それよりはいくらか上等。

 後で作った棹だとすると,山口と指板はオリジナルから剥がしたのを使ったんじゃないかな。指板の材質と形状は,いままでの清琴斎でも見たものと同じですね。
 ただし,カタチはあちこち歪んでガタガタ,慣れてない感あふれる工作ではあるものの,シロウトの仕業ではなさそうです。

 三味線屋さんあたりか?

 なんかあまり扱ったことのない楽器の棹をお客にむりやり作らされ,壊れたオリジナルを横に置いて,見ながら作ってる様子が目に浮かびますね。
 仕事が粗いのは,そのうえかなり急かされてたんじゃないかな。

 うううう…想像したらなにやら可哀想になってきたぞ(w)

 とりあえず今はそんなとこで。
 オリジナルでないと分かったのなら,それはそれでいろいろと方法があります。
 材質はそんなに悪くないし,本人も自分が慣れてないのを分かってるのか,全体にかなり余裕を持った作りにもなっていますしね。

 さて観察を続けましょ。

 胴オモテ左肩の接合部がハガれて,側板に小食い違い,さらにその接合部のところから表板に裂け割レが入ってます。
 あとは同じく胴オモテ,半月の左,バチ布痕の左端あたりにやや大きなヒビ。ここも三四本が断続的に続く裂け割れになっています。

 この2箇所のほか,胴体に損傷・故障はいまのところ見つかりません。

 よくある表裏板のハガレもほとんどありませんし,内桁もしっかりと固定されています。何度も書いてるように,高い工作精度のたまものですね。
 オリジナルの棹はどうにかしてなくなっちゃったようですが。
 胴体のほうは,作られて百数十年たち,これだけ真っ黒になる劣悪な状況だったにもかかわらず,損傷・故障が小さな割れ2箇所………ある意味,驚異的な堅牢さです。(w)

 お飾りは左右のニラミが菊。
 5・6フレット間には扇飾りじゃなく四角い飾りが付いています。
 庵主は獣頭唐草,と名付けてますが,たぶん龍ですねこれ。

 胴体中央には凍石製の円飾り,こちらはよく見る鳳凰の意匠。
 いづれのお飾りにも損傷はありません。

 バチ皮・バチ布はなく,糊付け痕だけが残ってます。
 その糊痕の凸凹に,うっすらと布の模様がうつってますねえ。
 色は分かりませんが,細かな花唐草の布だったようです。

 半月は曲面タイプで模様が彫られています。
 ここも真っ黒ですが,糸孔に擦れ防止の骨材が埋め込まれているのが分かります。
 模様からオリジナルだと思われますが,よく見る清琴斎の楽器ではあまりない工作ですので,普及品より少し上のタイプだったのかもしれませんね。

 棹口の表板がわの角が少し潰れてエグレたみたいになっちゃってますね。
 これがたぶん,オリジナルの棹の壊れた時についたキズでしょう。

 内部はさほど汚れておらず。棹口からの観察や触診でも,上下内桁や響き線にさしたる異常は発見できませんでしたので,今回,胴はとりあえず開かずにおくこととします。

 観察結果をいつものようにフィールドノートにまとめました。下画像クリックで別窓拡大されまあす。

 んでは修理に向け,まずははずせるものをはずしちゃいましょか----と,その前に。

 半月とバチ布痕の横にヒビが走ってるわけですが。
 そのすぐ横,バチ布左端の中央あたりに,何か小さいながら黒くてかたくて丸いモノが……クギが1本打ってありました(^_^;)

 とりやいず,これは周囲をホジって引っこ抜いておきましょう。

 作業前に見つかってあわてて再検査したんですが,クギはこれ1本だったようですね。
 打たれてた場所は下桁の上----おそらくは表板のヒビ割れによる板の浮きを防止しようとしたんでしょうね。ちなみに板はほとんど浮いてません。さすがに堅牢。(w)

 お飾りやフレットの周縁にお湯を刷き,濡らした脱脂綿をかぶせてニカワをゆるめます。

 せっかく損傷の少ない胴なのですから,濡らし過ぎると余計なところにまでヘンな影響が出かねませんので,なるべく短時間で終わらせたいところです。しかし片方のニラミと真ん中の凍石飾りがなかなか頑固で----最終的に円飾りがバラバラになっちゃいましたが,なんとか無事剥離に成功。

 ああ,このくらいならほぼ元通りにできますんでぜんせん大丈夫ですよ。
 もともと,楽器としての操作性や音にあまり関係のない部品ですので,なによりそちら優先です。



(つづく)


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