月琴64号(4)
2020.3~ 月琴64号 (4)
STEP4 だがしかしのいか ついてた地の側板が,後補で使えないことが分かり。 側板一枚でっちあげてハメこんだ,月琴64号初代不識…… それでもいまのところ,修理は順調----と言えますね。 表裏真っ黒,クギ打ちに板割れにヘンな塗装……おもに前修理者のシワザ中心ですが,あれだけの損傷・不具合があったにしては,さしたるストレスもなく,再生に向け順調にコマを進めております。 これはひとつに。 ふだん庵主の使ってるのが同じ作者の楽器なので,この楽器について,てのひらのところで熟知しているというところがあります。 はじめの1号から,現在使っている27・61号もぜんぶ,自分で分解し,直し,使い続けてますので,アタマのなかにはこの人の楽器の事が,内部構造や工作のクセも含めて細部まで叩きこまれてる感じ。 あと,最初のほうでも言いましたが。 古物のくせに,保存状態が良く未使用みたいなキレイな楽器は,かならずその内にトンでもない悪魔を抱えており。修理をしてるといづれそいつがトンでもないジャマを仕掛けてくるものですが。 表板の使用痕などから,この楽器は62号同様に歴戦の勇者,いわゆる「使い込まれた楽器」であります。楽器という道具は不具合をメンテしながら使うもので,使われるうちに不具合が矯正されてゆくものです。すなわち,この楽器には厄介な「初期不良」はあまり残っていナイ。 さらにここまできちゃなくヨゴレ,クギまで打たれまくっちゃってますと,貧乏神も住めないアバラ家みたいなもので,ジャマをしかける者もなく,河童の川流れのように(誤用)物事もスッキリと流れてゆくものであるらしいです,ハイ。 庵主の修理を妨害するものがあるとすれば----それはふたつ。 「前修理者」と「原作者」のシワザ,で,あります。(w) 「前修理者」のほうはまあ,無邪気にクギを打ったり,ヘンな色塗ったり,ボンドでへっつけたりするくらいなものでカワイイものですが(でも呪う) 「原作者」のシワザは,その奥に「手抜き(メンドウ)」とか「吝嗇(ケチ)」とか「無茶」とか,時には 「むしゃくしゃしてやった,どうでも良かった。あとヨロシク。」 と言った理由が透けて見えたりするうえ,間違いなくすでに故人なので(ゲンノウで)殴るのに殴れないという腹立たしさがあります。 とりあえず写真の残っているような奴は,画像拡大コピーしてダーツの的にでもしておきましょう,エイッエイッ! さて,64号,棹の修理に入ります。 糸倉の先端に,欠けた蓮頭をけっこうぶッといクギ2本,ブチ込んでとめてましたが,これは調査の段階ですでに引っこ抜いてあります。これ自体はけっこうインパクトのあるシワザではあったものの,実のところこの他には,棹に「損傷」と言えるような箇所がありません。 壊れているとはいえ蓮頭もあり,山口やフレットもオリジナルのものがそろっています。基本的には,表面になぜかムラムラに塗られたムラサキ色の塗料をこそげ落し,糸巻を4本新たに作れば修理完了,なのですが……… こないだ見つかった鶴寿堂4の棹の指板部分の歪みは,棹を基部と糸倉の二方向から工作していったことが原因だと思われます。ブ○タモリでやってた札幌の街のハナシのように,両端から作っていって合わせ目のところで合わなくなっちゃったので誤魔化した,みたいなものですね。問題はそれを 「ま,いいかあ」 と放置しやがったことで(呪) 同じような棹の歪みは,この初代不識の楽器でも見られました。ただしこちらの場合は,そういう工作加工が原因ではない----いや,ある意味その「工作加工が原因」なのですが,鶴寿堂の場合とはいささか異なる原因理由により生じてますね。 初代不識の月琴の棹は,蓮頭を除く糸倉の頭からなかごまで一木で作られています。 もともと,高価な唐木製の唐物楽器でも,胴体に入る棹基部から先には針葉樹材を継ぐのが一般的な工作です。初代不識・石田義雄は清楽の東京派流祖・鏑木渓菴の弟子だったらしく,彼の月琴もまた渓菴自作の楽器を模していると考えられるので,そのあたりから継承された構造だったのかもしれませんが,彼の楽器は安い量産版から高級な総唐木製のものまで同じ構造,棹は一木彫り貫き削り出しとなっています。 一木作りの棹は一般的な構造のものより加工の難度が高く,それでいて不具合が出やすい。さらには後で調整・修整するにも限界があるため,製品としての歩留まりが発生しやすいものです。さらに言うなら,一般的なものと比べてとくに強度が上るわけでもなければ,思ったほど音響的な効果が顕著に出るわけでもありません。 「なかごを継いだものよりは一木で作ったほうが音は良いはずだ!」 という現実軽視の妄想的満足を除けばムダとしかいえないこの工作(もうヤメてあげて!一木棹のHPはマイナスよ!)の数ある欠点の一つとして,一般的な構造の棹より大きな材料が必要となるため,材料由来の歪みや狂いが出やすいというのがあります。歪み・狂いは木取りの関係で,とくに細くなる棹の先端部(糸倉の手前あたり)と基部なかごの部分に発生しやすいですね。 棹の狂いは,だいたい基部がわから糸倉のほうを見た時に,全体が右か左にねじれるようになっていることが多く,そうしたねじれは製作時にすでに生じていたこともあったようで,はじめから山口やフレットがそれに合うように左右に傾けて加工されていた例も見たことがあります。たいていは何年か経ってから生じていたようで,使用者がフレットの頭を削ったりして修整対応しているのをよく見ます。 この楽器では棹基部の指板面を水平の基準とした時,糸倉がわが右やや高く,左方向にわずかにねじれたようになっていました。 取り外した山口やフレットに,左右の高さを調整したような加工の痕跡はなかったので,使われなくなってから生じたものかもしれません。 ありがたいことに,変形の度合いはそれほど大きくなかったので,表面を擦り直して均せば直るくらいのものではあったのですが,不識の楽器はどこもかしこもかなりギリギリな寸法で作られているため,調整で削ったぶん,表板と指板部分の間に段差ができてしまいました。一般的な構造の楽器なら,棹基部の調整でカンタンに修整できるのですが,上にも書いたように,一木造りの棹は,後で修整するのが難しいので---- 削ったぶんを足してやることで調整することにします。 材料は紫檀の板。 かつて銘木屋さんからもらってきた端材で,白太(色のついてない部分)が混じってたために切り捨てられた部分だったんですが,おっちゃんが 「これ…けっこういい紫檀だったんだよなー。」 と,板撫でながら惜しそうにしてた逸品(w)ですね。 埋めたい段差は1ミリ以下なので,3ミリの板を2枚に挽き割ります。 サイズからすると3枚に割りたいところですが,道具の関係でさすがにできません。 まあ,やったことのある人は分かると思いますが,このサイズでも手道具でやるのはかなーりタイヘンです。 2時間ちかくかけてようやく2枚に~~(疲) 表裏を均し,修整して胴体面と面一にした指板面にへっつけます。 おおーぅ……悪くないんじゃないですかあ? この楽器はもともと指板のついてない量産版タイプだったんですが,これだけで1ランクレベルが上がっちゃいますね(w) 続いては,糸巻をこさえます。 全損ですので4本ですね。 毎度言ってますが,庵主,「糸巻を六角に削る」から先の作業はキライじゃないんですよ? その前の「材料四面を斜めに切り落として素体を作る」という作業が大ッ嫌いなだけなのです。(w) 今回はほかにも全損のやら足りないのやらがあるためアキラメて,最初のほうで素体を14本ぶんも作っちゃいましたので気が楽です。何本か失敗してもだいきょうぶですからねえ。 不識の月琴の糸巻はやや細め長めで,六角一溝,握りの帽子の部分がちょっと突き出てるタイプが多いですね。 毎日のように握ってグリグリしてる部分,てのひらがカタチをオボえてますので削るのもサクサク---- ----とは言っても,まあ1本小一時間はかかりますが。(汗) 月琴の糸巻は,側面が握りの先端に向かってラッパ状に反り上がってるのが多いのですが,不識の糸巻は弦池に入る部分が細いのもあって,その反りがすこし顕著です。 素材のクセもあり,なかなか思ったような曲面にならないことも多いのですが,今回は4本ともに,何とかそこそこ,うちゅくしい曲線に仕上がったかと。 これであとは欠けた蓮頭----糸倉の上にへっつけられてるお飾りだけですね。この手のモノの修理,庵主は得意中の得意です! まずは剥離の作業中にクギ孔のところから2つに割れちゃったのを継ぎます。 ど真ん中に2つあいたクギ孔は木片で埋め,欠けた前縁部分を整形。 もぎ取られたようにガタガタになってたのを,まっすぐに加工してから補材を接着。その補材を同じ作者でほぼ同レベルの楽器,27号の蓮頭などを参考に,もとのカタチを模索しつつ加工してゆきます。 右がわに打ち込まれていたクギは,打ちこむときに曲がったらしく,真ん中の円形になった部分にクギ頭の横たわった痕がくっきりついてました。ここらは木粉パテで埋めてあとで彫り直します。 整形中に補材の一部を欠かしてしまい,ちょっと修整したりもしましたが。あちこちのモールドを彫り直すついでに,表面に塗られた塗料もハガしてしまいます。 最後にスオウとオハグロで染め直し,カシューを2度ほど刷いて完成です! 補修中のようす,右にあるのが参考にした27号の蓮頭です。 はっはっは----毎度言うようですが,こういうのを修復したものだと一目で見破れるようなヒトは何らかのヤバいプロですのでむしろ注意してくださいヨ。(w) (つづく)
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