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月琴64号 初代不識(2)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴64号 (2)

STEP2 配管工が乗ってるあの緑色のやつ

 さて62・63・64号と,今回の自腹月琴は3面ありますが。
 最初に来ていた62号と,見ただけで重症とわかる64号の修理を先行させます。
 依頼修理の楽器と合わせて4面の同時進行。
 経済的観点から見て,単独の修理よりは複数同時のほうがムダが出ないので良いものの,さすがにこれ以上は工房の物理的空間的制限(四畳半一間)の観点から不可能と判断。(www)

 で,その64号。
 まずは解体いたします。
 もうそりゃ,バラッバラにしまっせ~。

 打たれているクギの状態を知りたかったため,外面からの調査中に蓮頭をはずしてみましたが……うん,かなりサビちゃってますね。

 クギの頭,平たくなってる部分はペンチでつまむと砕けて粉になります。本体部分はまだしっかりしているので,かつての太清堂クギ子さんに打たれていたものほどではありませんが,クギ孔の周辺の木部は鉄分が滲みて黒っぽく変色しており,削るとザリザリとした茶色の粉になってしまいます。

 例によって,筆でお湯を刷き濡らした脱脂綿をかけて,お飾りやフレット,半月をはずします。
 棹上のフレットは塗装で塗りこまれちゃってるかな,と思ったんですが,ペンチでひねったら比較的たやすくポロリしてくれました。

 考えてみれば,糸巻はぜんぶなくなってるものの,そのほかの欠損は蓮頭の前1/4,最終フレット1枚とコウモリの片方の羽根先くらいですもんね。器体の状態を考えるとかなり少ない,残ってるオリジナル部品は大事に扱いましょう。

 ヨッシー(石田義雄)は接着が上手い。
 同時修理の誰かさんに,爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいですね。
 これだけ状態が悪くなってても,お飾りやフレットははずれてませんが,お湯を含ませてしばらくすると,自然にポロポロとはずれていってくれます。ちゃんとメンテナンスのことを考えた接着をしてくれてるんですよ。

 それに対して,半月の接着は強固。
 接着面をじゅうぶんに処理し,密着させているので,ちょっとやそっと濡らしても,水は中まで滲みていってくれません。今回の場合,半月の左右端に板の収縮によってできたわずかなスキマがあったので,そこにクリアフォルダを細く切ったのを挿しこんでしごき,内部に少しづつ水を滲ませながらはずしていったんですが,それでもあしかけ二日ばかりかかりました。

 ようやくはずれた半月。
 ヨッシーの月琴の定番の一つは,安い楽器でもここが唐木なことで…おや珍しい,これはホオかサクラを染めたものですね。はじめて見た。
 ほぼ同レベル,同時代の作と思われる27号でさえも,かなり低質ながらやっぱり紫檀だったんですが,それより後の量産化によるコストダウンの影響かな?

 半月取外しのためにかなり濡らしてしまったので,一晩乾かしてから本体の分解作業に入ります。

 表裏板のクギ打ちされてたところは,桐板がサビを吸って変色し,ガサガサになっちゃってますので,まわりごとざっくり切り取ってはずしてしまいます。

 表板をハガしたところで,目につくクギを抜き取ります。

 ペンチでどうにもならない状況なのは蓮頭の取外し作業で確認済み。小径のドリルでクギに沿うように孔をいくつも穿ち,えぐり出します。単純に引っこ抜くのからすれば大変複雑な作業ですし,抜いた痕もおおきくなっちゃいますが,サビが滲みて変色したりモロくなってる部分なんかもいっしょにえぐられちゃうのでむしろちょうどいいのです。
 数時間の格闘で,かくのごとし----

 表板がわのクギはなんとかすべて除去できました。

 地の側板が気になりますね。
 なんですかこのカタチわ。

 月琴の側板はたいてい,真ん中がいちばん厚く左右が薄くなってるものですが,この板は真ん中のあたりが薄く----それも極薄,うすうすのペラペラになっちゃってます!
 最薄のところで2ミリくらいですね。しかも,この極薄のところに何本もクギを!……まあ,そりゃ割れますわな,穴もあきますわな。
 材質もほか3枚とは若干違ってるみたいですし----ハテ?

 とりあえず,クギ抜き作業で出たゴミをはらい。真ん中の空間にラップを敷いて。サビ落としのため,響き線に木工ボンドをまぶしておきます。

 これが固まるまで,お休みお休み~~~。


 一晩たって。
 地の側板ともう一箇所,裏板がわに打たれていたのを抜いて,クギ抜き作業まずまず終了。

 側板も内桁も剥がして,完全バラバラ----「かつて楽器だったモノ」 まとめて一山の状態となりました。

 ちょっと前の記事でも書きましたが,楽器にいっぱい悪戯書き(?)を残してくれる鶴寿堂・林治兵衛さんと違い,ヨッシーこと石田不識は楽器に痕跡を残さない人です。
 目印とか指示線すらも,ストイックなまでに必要最小限。
 以前,ふつうはある,その手の指示線すら入ってないことに,分解しちゃった後に気がついて。戻す時,元の位置が分からなくなって焦ったことがあります。
 楽器の番号,今回の楽器だと「八」,27号だと「二十七」(偶然です----自出し27番目の27号は,棹を抜いたらなかごに「二十七」と書いてあった)といった漢数字以外で,いままで見た文字は「表」だったかというのが一件あったかな?
 文章らしきものなど,ほとんどキオクにございません。

 それが今回,分解してたら上桁の端っこに,何やらエンピツ書きを発見!

 「クラシマス」----かな?

 なんのこっちゃ。(www)

 あーよー,鶴寿堂ほど派手じゃなくていーから,いちど何かちゃんとした文章書いといてもらいたいね~。
 「お元気ですか?」
 ----とか。あ,それはそれでコワいか。

 側板のクギ孔をふさぎます。

 そのまんまにしておくとオモテもウラも薄々なんで,他の作業中,余計に壊れちゃいそうですからね。
 抜くときに周りをエグってるので,比較的大きな埋め木でいいのが逆にラクですね。ぴったりハマる小さいの作るほうがタイヘンですから。

 続いて板のクギ孔。

 こちらははずすときに大きく切り取って,孔でなく細い切り欠きにしてありますので,細切りにした桐板を挿しこむだけのラクな作業です。

 うむ,トゲつき月琴。

 ついでにヒビ割れたところやそのほかのカケ,ヘコミ,エグレの酷いところなんかも補修。

 表板は裏も表も丁寧に作業してゆきます。

 分解修理で組み立て作業の基点・基準となる部品はこの表板です。

 ここをオロソカにしますと,小さな誤差でも,組立て後の結果に大きな支障が生じますからねえ。

 分解作業も終わり,内部も記録いたしましたので,フィールドノートをどうぞ。

 今回はヤバい箇所多めのため,真っ赤だな(www---クリックで別窓拡大)

(つづく)


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