« 月琴64号 初代不識(2) | トップページ | 月琴64号(3) »

鶴寿堂4(4)

kaku04_04.txt
斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 鶴寿堂4 (4)

STEP4 昼間助けていただいたツルですと言って窓にはりつく深き者。

 鶴寿堂の胴体は4片の側板に薄いカリンの「飾り板」を貼りつけた構造になっています。

 この構造は継ぎ目が見えず見栄えが良い。
 しかもペラペラの薄板一枚貼るだけで下地を隠せるので,たとえばそれぞれ別の板から採った木目や木色の合わないバラバラの材で組むとか,極端に質の悪い木材を使うとかいった,裏の経済行為を行うには最適なのであります。(ふっふっふ…越後屋,おまえも悪よのォ)

 ----ではありますが,悪いことには○太郎侍かヤンキーな将軍様のお仕置きが待っているように,この楽器をしばらく作っていれば誰でもが思いつくであろう一見単純そうなこの工作は,現在はともかく,百年前のふつうの用具で行うとなると,異常に高い工作精度や技術力,そして精密無比な加工とそれらを支える根気と根性が必要なものなのです。

 曲面に曲面をくっつけるのが,平面と平面をくっつけるのより難しい,というのは幼稚園の工作の時間でもう分かってますよね?
 いまならたとえば,一瞬でくっついてくれる優秀な接着剤もあるし,接着剤が固まるまで固定するのにも,たとえばゴムみたいに,どんな曲面にも対応し,均一な力で包み込んでしめつけれるような素材があったりもします。

 しかし百年前。この円形胴に薄板を貼りまわした時,使った接着剤は? ソクイかニカワですよね。どちらも乾くまで時間がかかります。
 ではその間,どうやって固定した? 円の外がわから締めつけることのできる,ピッタリな型枠みたいなものがあれば完璧ですが,まあ無理ですよね。
 そうなるとふつうの紐でぐるぐる巻きにするか,良くって濡らした麻紐・革紐ってとこでしょうか。

 できないことではないですよ。

 でもそれで,実際にやってみれば 「思ってたよりも(ちょー)難しい!」 ってことをすぐ思い知らされる作業なんです。
 そして月琴の製作者で,これがカンペキに出来てて,「ふッ」とニヒルに笑えるような作家はとても少ない----

 「木の仕事」においては,きわめて高い技術力と工作精度そして美的感性を有する鶴寿堂ですが。何度も書いている通り 「接着がドヘタ」 です。
 今回の楽器でも,外面調査の段階で飾り板の浮きが複数個所,裏板を剥がしたら側板接合部にスキマまで見えてます。古物としてはほぼデッドストック品,新品同様みたいな状態ではありますが,楽器として使うためには,オーバーホールで接着部分の貼り直しは,この作家の楽器の「修理」において既定の工程。まあ,そもそもこの飾り板を貼り回す加工をされてる場合,そこを直すのにもどこを直すのにも,分解し,一回ひっぺがして貼り直すしか手段がないんですよね。

 側板に濡らした脱脂綿をはりつけラップで覆い,ギタースタンドにひっかけて一晩。浮いたとこからハガしてゆきます。

 62号の中央飾りと同じで,この側板の飾り板というものも,壊さずに剥がすのがタイヘンに難しいシロモノです,というかどんなに慎重にやってもたいていはどっかで壊れます。 今回も,ヒビはもうあちこち,途中から2つに分かれちゃいましたが,まだマシな結果ですね。あんまりヒドかったら,新しい突板買ってくるところでした。

 剥がした薄板の裏,側板本体表面には例によって大量のニカワ。
 ニカワをこそぐと,飾り板の浮いていたあたりには凸凹があったり,曲面の歪みがあったり……そういう工作不良のスキマを充填するためにも,ニカワを塗ったくったのでしょうねえ。

 表面をきれいにした本体はしばらく乾かし,薄板のほうは継いだり埋めたり削ったり,と,細かな作業を続けてゆきます。

 表板の接着はさすがに比較的マトモで。
 飾り板の剥離作業で濡らしても新たなハガレなどは発生しませんでした。大量の墨書もありますので,一箇所,地の側板付近にあった板のハガレを直し,現状はハガさずに,このまま修理してゆこうと思います。


 まずは側板接合部の2箇所のスキマ,これは埋めとかなきゃなりません。
 カツラの端材をうすーく削り,ピッタリの形に整形してはめこみます。

 こちら側には最大1ミリに近いスキマがあったわけですが,反対がわの対角線にある接合部二箇所の接着は,鶴寿堂にしては珍しくカンペキといって良い工作で。カミソリの入るスキマもない,どころか接ぎ目も見えない感じにしあがっております。

 が,もちろんこれは彼の技術力が部分的にスーパーサイ○人したのではなく,接合面が水分や接着剤の滲みこみやすい木口面であったことと,外周に飾り板を貼り回す加工をしたことによる偶然の結果ですね。おそらくは紐で締めつけたときに,こちらの対角線上のどちらか近くに結び目があった,とかじゃないかな?

 乾いたところで整形。
 これでまず,4片の側板が途切れのない一本の輪になりました。

 つづいて内桁の再接着。

 下桁のほうは中央部分がしっかり接着されてるようですが,上桁のほうは板にも側板にもほとんど着いておらず,指でつまんでカンタンに引っこ抜けるような状態になっています。

 上桁はいちど取り外し,例によってガサガサに劣化したニカワをこそいでおきましょう。

 まず下桁,わずかにスキマの見える両端を中心に再接着します。

 真ん中がちゃんとくっついてて,両端がダメなのは,前回も書きましたが,この上下桁に両端と中央部で最大5ミリもの幅の差がつけられているせいです。両端を側板と同じに真ん中を厚くして,浅いアーチトップ,ラウンドバックにしようという加工で,ほかの作家さんの楽器でも見る工作ではあるのですが,通常その差は2ミリていど。材質的に無理な加工とは思いませんが,厚みの差5ミリ,というのは鶴寿堂の接着技術を考えると分不相応としか言いようがありませんね,コラぁ。

 下桁がしっかりくっついたところで,新しいニカワを塗って,上桁を戻します。

 これで胴体が 「水の漏れない桶」 の状態となりました。

 月琴の構造はきわめて単純で,楽器としての音の良し悪しは,ほとんどの比重が胴の構造とその作りにかかっています。いくら高くていい材質でできていても高い技術力で作られていても,響き線がちゃんと機能していなかったら,内桁や接合部に一箇所でも剥離があれば,それだけでパフォーマンスはダダ下がりに落ちてしまいます。

 逆に棹なんかは,多少材料や加工がアレでもあんがいどうにかなるもんなんですけどね,ははははは。

 でもこんなのわ………さすがにらめぇ!!!

(つづく)


« 月琴64号 初代不識(2) | トップページ | 月琴64号(3) »