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月琴62号清琴斎(3) »
鶴寿堂4(3)
kaku04_03.txt
2020.3~ 鶴寿堂4 (3)
STEP3 昼間助けていただいたツルですと言って来た四方赤良です。
鶴寿堂4,前回の調査の続きです。
棹孔から内部をのぞくと,まあ,表にも裏にも,何か文字…というか文章が書いてあるようです。2~3文字どころでない,けっこうな数の字が見えますねえ。
鶴寿堂・林治兵衛
は楽器に文字を仕込むのが好きらしく,庵主が最初に出会った5号月琴でも----
師範代のとこに嫁った22号でも----
と,板裏に墨書が残されておりました。あ,でも,もう1本手がけた「バラバラ鶴寿堂」だけは表板裏に「三裏」としかありませんでしたねえ。
数打ちの量が多すぎてまず何か書いてあることのない清琴斎とか,石田義雄みたいに意地でも書き込まん!みたいな感じの作家さんもいるんですが,庵主としましては,
楽器の製作年とか作者のことが分かったりするんで,
どんどこ書んどいてもらいたいとこではあります。(w)
書いてあったからと言って,オープン修理の必要がなければ拝めないものではありますが,今回は側板が飾り板で覆われているため
「分解しないと修理が出来ない」
構造となっておりますので,あとでじっくりと拝見させてもらうことといたしましょう。
楽器外部からの調査は完了。
外見的には良い状態ですが,側板の飾り板の工作に難があるほか,各部の歪みや浮きの原因となった何らかの故障,もしくは
工作不良が内部にある
ことは間違いありません。
いつも言ってることですが,楽器はいくら各部材の工作精度が高くても,内部に問題があれば,その本来のスペックを発揮できません。いくら外面が繕われていても,
内部がダメなら置物です。
ブレーシングのはずれてるギター,魂柱が盛大にズレてるバイオリン,中に黒猫の詰まってるバスドラム…どれも姿かたちはちゃんと楽器してますが,「音を出す道具」としては
「壊れた道具」
でしかないですからね。
さあ,はじめましょう!
まずは
表板上のものをすべて
はずします。
今回は半月も,端のほうにわずかな浮きが見えますので一度はずして付け直しです。
棹上,第2フレットは最近の補修(?)により,透明なボンド系の接着剤で止められていました。カリカリした感触なので
木瞬
かもしれません…後始末が厄介だな。
バチ布はキレイな裂地ですので,ハガして裏打ちをし直しておきます。
ほか
2箇所ばかり木瞬と思われる接着剤
で再接着された場所がありましたが,範囲は狭いので被害は少ないかと……キレイにこそがないと,場合によっては表面を削り取ってしまわないとニカワでの再接着ができなくなるんですよ。
もう,ホントにヤめてくださいよね,
楽器に木瞬使うのわ!!
今回は
「一生涯,美味しいものを食べるたびに,口の中にかならずアルミホイルの欠片が出現する呪い」
でカンベンしてあげます。
((((ヽ( ゚Д゚)ノ)))オオオオオオオオ
そのほかだいたいの部品はさして難なく剥がれてくれました。今回の楽器に関しましては,「接着がヘタクソ」という作者の特性もございますが,お飾り類については,ふだんはちょっとやそっとのことでは外れないのに
ちゃんとした手順を踏めばスグにはずれてくれる,
というのが理想です。この楽器はちょっと何かいぢろうと思えば,必ずフレットやお飾りをはずさなきゃなりませんからね。
板が乾いたところで,板の縁に
4箇所ばかり小さな孔
をあけておきます。
この楽器では,側板に飾り板を貼り回している関係で,飾り板の厚みのぶん,
表裏の板の縁が胴材本体からはみだして
います。いつもの修理なら板を戻して多少ズレがあっても,板の端か胴材を少し削ればいいんですが,飾り板はちょー薄いので「削って調整」というわけにいきません。
部材の収縮や修理工作の関係で,多少のズレが生じるのはしょうがありませんが,そうした場合の本体への被害を最小限におさえるため,いつもより正確に板を
「元の位置」
に戻してやる必要があるのです。
この1ミリない小さな孔が,
今回の修理の命綱,
みたいなものですね。
再接着の時,ここに細い竹クギを刺して板のガイドにするわけです。
さあて,では裏板をひっぺがしましょう!!
----あそれ,ベリベリっとな。
((((ヽ( ゚Д゚)ノ)))オオオオオオオオ!!
----いや,呪ってませんよ。(w)
出ました出ましたァ!!
うぉ…表板がわ,鶴寿堂としては
過去最高規模の書き込み
ですねえ。
一部内桁に隠れて読みにくい部分もありますが…いくつかのブロックに分かれているようなので,順に読んでゆきましょうか。まずは上桁より上の部分,横1行,縦1行,これは----
燕花林/表板
「燕花林」
というのが,この楽器の銘かと。
「燕花」は帝から賜与される
ごほうびのお花
のことですが,22号の銘「花裏六」が雅な魔よけの下げもの「訶梨勒(かりろく)」の音通だったことを考えると,この「燕花林」にも何かそういうもう一捻りが施されてるかもですね。
つぎに楽器中央,いちばん墨痕鮮やかに書かれている部分。
これがメインかな?
胡床倦坐(起)凭/欄人正忙(時)我/正閑却是(閑)中/有忙處看(書)纔/了又看山
( )のところは部分的に桁に隠れちゃってる字ですが,出てるぶんでだいたい分かる感じ,これは
楊万里の「静坐池亭」
ですね。
胡床倦坐起凭欄
人正忙時我正閑
却是閑中有忙處
看書纔了又看山
胡床に倦み坐起して欄に凭る
人正に忙時なるに我正に閑たり
却って是れ閑中に忙有るの處
看書纔く了して又た山を看る
板右端一部側板に隠れてる2行は,同じこの絶句の最後のあたり,「有忙處看書纔了又看山」のようです。
同じ文を2回も…書き損じか練習かしらん。
漢詩の左に,作者名と年記が見えます。
明治二十五年十月/名古屋市上園町/鶴屋治兵衛製造
「明治25年」は
1892
年ですね。
うちで扱った月琴5号が26もしくは27年,22号が32年。最初の記事でも書いたよう,蓮頭や半月のデザインも一致してるし,やはり月琴5号に近い楽器のようです。
つづいて左端の2行----ううむ,これはどこにひっかかるのか。
文化丁卯季冬 南畝覃題于鴬(上)
之遷喬楼
「文化丁卯」は文化4(1807)年です。
「遷喬楼」は「南畝覃」こと
お江戸の大趣味人・太田南畝=蜀山人
の晩年の住居ですね,金剛寺坂の上にあったそうで。その下一帯を「鶯谷」と言ってたそうです,え?上野じゃありませんよ,小石川です。
金剛寺坂の下には誰だったか,文豪の実家があったかと……
あと,下桁の下,漢詩の部分の下にもなにやらこちゃこちゃ書かれてるんですが,墨も薄いし,どうやら途中で切れちゃってるようで,読めない部分も多い。読めたぶんだけ並べると----
〓〓/〓〓〓/董堂
复与行楮/正堪寶/寶堂況
別 出一(機)軸馬/謂 龍跳神
----って感じになります。たぶんここらが,左端の「南畝覃題」に関係してるんじゃないかな。そう考えると「董堂」は中井董堂,「宝堂」は文宝亭文宝でしょうか?
裏板のほうは1行書「燕花林 裏板」ですね。「花裏六」のもそうですが,ウラオモテ両方に銘を書くのがこの人の流儀みたいですね。
5号には銘らしいものが入っておらず,お店の名前と住所だけでしたし,バラバラ鶴寿堂なんて板の指示だけでしたので,これはぜんぶの楽器に入れてるわけじゃなく,飾り板のついてるような
ちょっと上等品
にやったんでしょう。
そのほかの内部構造について----
響き線は2本,
中央部に長めのが1本,下部に短いのが1本。
方向を違えて取付けられています。
線の材は柔らかな真鍮,胴に直挿しで,基部に
煤竹の竹釘
を打ってとめてあります。
側板本体の
材質はカヤ。
飾り板で隠れちゃうとこなのに,けっこう厚めで良質な板が使われています。
右上と左下,対角線にある接合部が破断して,スキマが見えます……いや,違うな,これたぶん
最初っからついてなかった
んじゃないかな。
これと逆の対角線上の2箇所はぴったりくっついており,カミソリの刃が入らないどころか
接ぎ目が見えない
くらいになってます。何度も書いてるとおり,この作家さんは基本「接着がヘタクソ」なので,こちらのほうはおそらくは飾り板によってうまく締め付けられた結果でしょう。
側板と裏板との接着面にも鶴寿堂の「接着がヘタクソ」な証拠が,過分なく残っております。
左右側板
接着面の表面に残るこのムラムラ模様
……空気に触れて劣化したニカワなんですが,これはここが
最初から密着していなかった
ことを表しています。塗ったニカワが板との間のスキマで水分を失い,バブル状に乾燥していった痕なんですね。
ハガすときにも気づいてましたがこのあたり,
板の縁のほう,ほんの数ミリ
がへっついてくれてたおかげでカタチを保っていたようです。
そして,「接着がヘタクソ」という作者の特技に加え,さらにここがこうなった原因が,
この内桁です!
内桁の材はヒノキ,四角い音孔を左右に切って,胴材の溝にハメこんであります。下桁は表板にほぼちゃんとくっついてますが,
上桁はもう接着がアレ
でアレで……ちょっとひっぱったら抜けそうですね。
さらに測ってみますと,どちらも左右端はほぼ30ミリですが,上桁は中央部が32ミリ,
下桁はなんと35ミリ
にもなっています。つまり中央部を太くして表裏板を内がわから持ち上げ,
浅いアーチトップ・ラウンドバック
にしてるんですね。
この加工自体はほかの作家さんの楽器でも見るので,そんなに珍しくはないのですが----おい,鶴寿堂さんよ,分かってんのか。
アンタ接着がクソだろう!?
裏表合わせて2ミリくらいならともかく,
5ミリ
って…そりゃ。
ミノホドをわけまえなさい。
(怒)
というあたりで内部の観察もほぼ終わり,フィールドノートに記録します----いや,書き込みが多くてけっこうタイヘンでしたよ。
側板や裏板に残る
「お役に立てなかった」可哀想なニカワ(たっぷり)
を濡らしてこそぎ,キレイいしておきます。ニカワが活きてるともっとベトベトした感じになるんですが,もう劣化し果てて
砂のようにザリザリ
ですわ。
次の作業は飾り板の剥離です。
なるべく飾り板だけを湿らせたいので,脱脂綿を胴側の幅に切ってお湯をふくませ,それを貼りつけたあとラップで覆います。
この状態で下手にどこかに置くと,お湯が垂れてエラいことになるんでこう----
ギタースタンドにひっかけ,下にボウルを置きます。
さてさて,毎回エラく苦労するんだよなあ,この作業。(^_^;)
(つづく)
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