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月琴62号清琴斎(4)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴62号 (4)

STEP4 黒の戦士--三たび深紅に染まる

 前回,棹が後補であることが判明した62号清琴斎。

 いやあ----人間,見たくなかったことを見ちゃうと,二度見するんだということを実体験しちゃいました。正直,したくはありませんでしたが(w)

 はじめは手熟れてないフォルムのがたつき修整だけでいいかな,なんて思ってたもんですから,けっこうショックだったものの,気を取り直して,糸巻の孔も修正しましたし,棹の修理はいまのところ順調。

 おそらくは,折れたか糸倉が割れたかしたので,その山口,フレット,指板を使って作りあげたものだと思います。その素材がサクラであること,弦池が彫り貫きになっているのと,先端背側が浅く三角に突き出た構造と形状は,清琴斎の一般的な楽器よりは,いま同時進行で修理している石田不識の月琴(64号)に近いですね。

 壊れた時期が,月琴があちこちにあった流行期だったとすると,もしかすると石田不識の楽器なんかも参考にしたのかもしれません。

 棹のほうはあちこちアラだらけですが,胴体のほうはほぼオリジナルのままのようなので,たぶんそんなに問題がありません,たぶん(^_^;)

 胴四方の接合部のうち一箇所が剥離しています。
 これは経年による部材の収縮が原因。ほか,表板に二箇所裂け割れがありますが,これも原因は同じようなもので。
 製作後百ン十年を経,棹が交換されるような目にも会い,さらにこれだけ全体真っ黒々になるような環境に置かれていながら,損傷がこのていどというのは逆に誉むべきかな,ホサナ。

 まず接合部のスキマには突板を埋め込みます。
 先端を少し薄く砥ぎ,薄めに溶いたニカワを流し込んだスキマにぎゅぎゅっとな。
 表板二箇所の割レのうち一箇所は,この接合部の剥離が原因ですから,ここもいっしょに処理してしまいましょう。
 接合部がはじけたせいで裂けちゃったんですね。断続的な裂け割れになってるのを,刃物で1本のミゾにつなげ,桐板をさしこんで完成。

 接合部の木口の合わせに少し食い違いも出てますので,埋め木を挿したら周辺を湿らせ,当て木の上からゴムをかけ,軽く矯正しておきます。当該箇所がたわむ前に木が乾いてしまっては元の子もないので,当て木の下には湿らせた脱脂綿を敷き,ラップをかけておきましょう。
 変形はわずかなので,このていどで大丈夫なはずです。

 もう一箇所,ピックガード横の割れは構造には関係なく,おそらくはここに貼り付けられていたヘビ皮のせいですね。
 何度も書くようですが,月琴の桐板は生皮の収縮に耐えられるほど丈夫ではありませんので,長年貼っておくと必ずこういうことになります。もともと意味のない恰好つけのためのものなので,現在貼ってる人も早いところハガして布か和紙にでも貼り換えたほうが良いですよ。
 これも板が左右方向に引っ張られたことによる裂け割れになっています。3~4本のやや不規則な割れ目が連続してますので,ここも刃物でつなげて1本にしてしまいます。もともとの割れ目はさほど広くないのですが,この長さになりますと,せまいミゾでは埋め木をうまく奥までおしこめないので,さらにカッターで切り広げ,少し太いミゾにします。
 あとはしっかりおさまるよう桐板を加工して,ハメこみましょう。

 接合部の矯めもあるので,そのまま二日ほど放置。

 接着具合などを確かめたうえで,各補修箇所を整形。

 そのまま清掃に入ります。
 さあて,洗うぞお!

 例によって重曹を溶かしたお湯にスポンジ型研磨材のShinexをつけてゴシゴシです。

 キレイになると,それまで見えなかったものが色々と見えてきます。
 まずこの表板,かなり目の詰んだ柾目板で構成されてます。群馬あたりの桐だと思いますが,硬めで清琴斎の楽器にしては良い材です。
 中央周辺のバチ痕……けっこうスゴいですね。

 清掃中に見つけたエグレなどを埋め,左肩の割れ目補修痕を少し修整。裏板の清掃に入ります。

 裏板には目だった損傷がありません。
 右端になにやら虫食いのような不定形の溝がありますが,やたらキレイなんで,これも後で食われたというより,もともとこの材についてた粗みたいな気がするなあ。

 とりあえずけっこう大きいので,清掃はこれを埋めてからですね。
 比較的保存の良い清琴斎の後期ラベルは,資料として貴重なので清掃作業の前に保護カバーをつけておきましょう。
 んでゴシゴシっとな…うん,表板より裏板のほうがキタなかったのかな,こっちのほうが出汁が濃く出ました。

 板がキレイになったら,最後にラベルのカバーをはずし,きれいな水をふくませた脱脂綿を置いてラベルの清掃。綿が汚れを吸って色が変ったら取り替えて,ニ三度やるとかなりキレイになります。

 表裏ともにきれいに染められていました。
 砥の粉はやや少なめ,ヤシャブシはけっこういい質のものが使われていたみたいですね。

 表板が乾いたところで,半月の周辺をマスキングし,半月を油拭きしておきましょう。
 油切れで少しパサついてますが,損傷はなく,接着もいまのところ強固で問題がありませんので,今回はこのままにしておきます。

 さて,工房到着時のこの楽器はどこもかしこもヨゴレで真っ黒でしたが,その下からのぞく木肌は,ほぼナチュラルカラーといった薄い木の色をしてました。
 半月とお飾りそれにカリンの指板が目立つ感じですね。

 今回,棹の不具合あちこち徹底的に直しました関係で,棹はその補修部を隠すためにも,すこし濃い色に染める必要があります。そうすると,胴側の色がそのままではいまいち合わなくなりますので,バランスを考えると,こっちも同じように染めなおしたほうがよろしいかということになりました。

 まあ,色の濃い薄いはあるものの,もともと染められてたのが使用と保存環境のせいで,色あせてこんな色になっちゃってたんでしょうから,染めなおすこと自体にはさほどの忌避感はありません,どんどこイキましょう。

 まずはスオウですね。
 棹の補修で木を盛り足したあたりは,数度余計に重ね,周囲より少し濃い色に発色するようにしときます。

 ミョウバンで一次媒染して真っ赤に。
 それから黒ベンガラやオハグロを銜えて紫っぽい黒褐色にしてゆくんですが……胴体のほうは1度でうまくいったものの,棹のほうが。
 補修部分がうまく隠れ,自然に見えるように染めてゆくのが難しく,2度ほど失敗しちゃいました。(^_^;)

 イチから染め直しての3度目に,ようやく満足のゆくような染まり具合に。
 下地を隠したいところにベンガラを塗って真っ黒にしておきます。

 そしてオハグロ液の濃度を少しづつあげながら塗布。
 スオウに鉄媒染で,全体を紫がかった黒褐色に染め上げてゆきます。

 このとき,多少のムラがあるとかえって自然な感じになるのでいいんですが,逆にムラなく上手に仕上がっちゃうと,妖怪ぬり壁みたいにのっぺりとした表面になってしまいます。
 いかに自然な稚拙さを出すか----という,修理を重ねることでムダに技術が上がっちゃった庵主にとって,むしろ難しい課題をつきつけられました。

 それゆえの,三度目の正直----

 染めの初期段階まで戻すこと自体はそれほどタイヘンじゃないんですが,いちどリセットすると,木が乾くまでちょっとした時間を食っちゃうんですよねえ。

 胴側はチョコレート色。棹は画像だとかなり真っ黒ですが,実際にはあちこちに赤が透けて,もっと赤っぽく見えます。
 清琴斎の楽器でよく見る色合いですね。19号なんかがけっこうこんな色してました。

 オリジナルに比べるといくぶん派手な色合いになっちゃいましたが,数年もすればスオウが褪せて,もうすこし落ち着いた感じになりましょう。

(つづく)


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