明笛について(26)49号/50号(5)
![]() 春先に襲来した月琴の修理もひとだんらく。 修理報告もあげたところで,ちょっと時間軸を巻き戻し。 その前にやってた明笛の修理報告,完結篇をお送りいたします。 これ,書いてる途中で月琴のほうが修羅場ったんで,ずいぶん放置しちゃってました。申し訳ない(^_^;) STEP7 明笛49号 さて,残すところ内塗りの乾燥をのぞけば仕上げの磨きくらいしかありませんが,明笛49号。 箱を修理しておきましょう。 ![]() ![]() 最初の回で書いたように,この笛の入ってきた箱は,この笛のために作られたいわゆる 「共箱(ともばこ)」。 前所有者の落款なども貼られてますので,それなりに貴重なものです。 この箱は左右板の木端口近くに溝を切り,そこに上蓋をすべらせる形式になってます。 まあ,薄くしたところに板つっこんで出したり入れたりするわけで,構造上当たり前の故障なんですが,その溝のところに,まず割れが入っています。 蓋のついてるがわを表,「明笛」と書かれたラベルのあるがわを上とすると,右がわの板は上から下までほぼバッキリ,左がわも2/3くらいまで割れてますが,どちらもニカワによる修理が施されています----ほんと,大事にされてたみたいですね。 しかし,経年の劣化により,現状修理個所右がわは全長のおよそ半分ほど,左がわも端が10センチくらいハガれちゃってますね。 ![]() ![]() まずはここを再接合。ニカワによる修理は何度も出来るのが特徴です----壊れたら,また直せば良い。 割れ目に薄目に溶いたニカワを流し,閉じたり開いたりして全体に行き渡らせてから,ゴム輪などで固定。 過去の補修箇所もいちどお湯で濡らし,割れ目の周囲にあふれてるニカワなども拭き取って,キレイにしておきましょう。 ![]() ![]() つづいて,箱表の上端。 蓋のストッパーになる部分が欠けちゃってますので付け足しておきます。 前所有者の貼った「明笛」の古いラベルに少しかかっちゃうとこなので,ちょっと慎重に……何年か前に桐の余り板で小物箱ばっかり作ってた時期があったんですが,ここにきてあの経験が役に立ってますね。なんでもやっとくもんだ。(w) ![]() ![]() この小板は,蓋がスキマなくおさまるように内がわが段になってます。 このあたりの寸法は,実際にあてがい,蓋を入れてみながら実寸合わせで工作。ぴったりの部品が出来たところで接着し,最後に工房特製「月琴のしぼり汁(w)」などで古めかしく補彩して完了です。 ![]() 直った箱に笛を詰め,いざいざ試奏まで----
数字だけ見るとやや波瀾ぶくみの音階にも見えますが,平均して-30%ほど低くなってると考えれば,全体としてはそろった音階で,聞いててあまり不自然さはありません。 管の細い笛は鳴らしにくいものなんですが,この笛は比較的鳴らしやすいほうです。もちろん管が細いため,唄口に息の当る角度に微妙な制限がありますが,それを考えて楽器のバランスをとってあるのか,ふつうに構えればだいたい自然と「鳴る」角度に笛がおさまってくれます----でっかい管尾の紐飾り,演奏の時は少々ジャマっけなんですが,どうやらこれもそういうためのウェイトになってるみたいですね。 甲音(息を集束させて出すオクターブ上の高音)が出しやすいです。唄口の小さい明笛だと,ふつう甲音が出しにくいものですが,この笛だとがんばれば大甲音の上くらいまでイケそうですね。ただそのぶん,ふつうの息遣いで吹く呂音のほうが少し不安定なようで,ちょっと力んじゃうと甲音が混じっちゃいます。 息の向きをやや管尻がわに傾けると低音が,管頭がわにむけると高音がやや出しやすい----同じような傾向は他の笛でもふつうにありますが,この笛ではそれが少し顕著です。これらも管が細いための現象かと思われます。 音色的には----意外とやや重たい音がします。低音,ということではなく,音圧が高めと言いますか,ギュッと中身がつまったような,ドスのきいた響きですね。 内外しっかり塗り込められてるせいもありましょうか。ちゃんとした笛膜を貼って吹いてみたら,笛全体がビリビリ震えるくらいの共鳴がキました。よくある甲高い倍音,ってより重低音ウーハーの横にいるみたいな感じ,日本人の感覚だとちょっとコワい音かもですわい。 ![]() 笛自体の調が西洋音階からは少しハズれてるので,こちらを基音としない限り,単純にほかの楽器とコラボするってのにはちょいと難しいところがありますが,清楽器として合奏してみるのはかなり面白いかもしれません。 STEP8 明笛50号 ![]() 50号も塗装の乾燥と仕上げを残すのみ。 こちらは管の内外両方塗りましたが,まあ手間としてはさほど違いはありません。 管外はShinexや水砥ぎペーパーの細かいのに石鹸水をふくませ,塗装中に付着した微細なホコリなどを削り落とし均して,柔らかい布に研磨剤と亜麻仁油をつけて,管内も細棒の先にShinexをくくりつけたので磨き上げました。 ----どやぁ! オリジナルの状態では表面処理が雑で少しザラザラしてたんですが,割レ継ぎついでに磨いて塗って……とぅるっとぅるのお肌です。 割れ目が微妙に見えちゃってますが,しっかり継がれているのでまあ再発はしますまい。逆に,あの瀕死の大怪我状態だったのがこの程度に直ってるんですからホめてくださいよぉ(^_^;) さて,ではこちらも試奏へ!-----
いわゆる「ドレミ笛」ですね。 ただ第3音が20%ほど低くなってるのは,清楽の音階の名残かもしれません。 清楽の運指にした時,「工」 がやや不安定なのですが,これはこのあたりの割れがいちばん酷かったせいもあるかもしれません。管自体が少し変形しているため,指孔の縁が微妙に歪んでいるようなんですね。そこから少し空気が漏れちゃうのかも。 まあ,もともと量産楽器のため,指孔の加工自体がやや雑,「開けただけ」みたいになっているのも原因でしょうね。押さえるのに少々コツが要りましたが,庵主より指の太い人だとなんともないようですので,これは手が小さく指の細い庵主の特殊事情もあったかもしれません。 そのままだとちょっと扱いにくかったので,リューターのバフで指孔の縁の角をほんのちょっと丸めてやったら,低音域での不安定さはかなり改善されました。 全開放は 5B と 5C の中間くらいで安定せず。呂音の最高も ○ ■ ○●● ●●● で C# に近いくらいまでいきましたが,これも当初は安定せず。あとで指孔の縁を丸めてから再挑戦したら 5C+20 で安定しました。甲音は少し出しにくく,息道を若干変えたり,笛を少しひねったり,ちょっと工夫をする必要があります。 ![]() まあ難しいことをしないのなら,鳴らすこと自体はたやすい笛です。 呂音ではよく鳴りますね。 49号に比べると,音は明るく軽め----うんポップスの笛ですわ。 (おわり)
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