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月琴62号清琴斎(終)

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斗酒庵春にさかる の巻2020.3~ 月琴62号 (5)

STEP5 黒の戦士--最後の戦い!

 この楽器は,胴体に損傷らしい損傷や加工上の問題がなかったので,棹さえ直ってしまえば,あとはルーチン----なくなってる部品を補充してあげればよいだけです。

 まずは糸巻。
 ここまでの調整は他の楽器の糸巻を借りてやってましたが,4本,新しいのを削りましょう。

 清琴斎の糸巻はこのころの楽器としてごくごく一般的な形状,六角一溝で,量産化のためか,少しだけ短めで11センチくらいです。
 同時進行の不識や鶴寿堂の糸巻と比べるといくぶん太めですね。
 ----というか,あッちが細すぎるンじゃ。(w)

 今回は棹が後補で軸孔も開け直したもの,孔それぞれが完全に同じ寸法,とまではまいりませんので,それぞれにきっちり合うよう削りました。

 糸巻の先端にはシルシが入っており,どれがどこに入るのか分かるようにしてあります。いちばん下から1・2本線,3つめは無印でいちばん上はX印です。

 スオウ下地のベンガラ・オハグロで黒染めし,柿渋と亜麻仁油で定着させます。

 不識の糸巻より,握りの帽子の部分が浅い。でもこのくらいのほうが当時の月琴界(w)では多数派ですね。

 おつぎは蓮頭----うちに届いた時にはなくなってましたが,棹のてっぺんにはニカワがついてましたから,オリジナルの棹が交換されたあとも,なんらかのものが貼られていたとは思います。このクラスの清琴斎の楽器だと,

 ----こんな感じのがついていたかと思うんですが。
 まあ,時節流行にのりますか。(w)
 祈願もこめまして----

 アマビエ様!
 こう,海からドバーンと出現!----みたいな感じで。(w)

 彫りあがったビエさまは,スオウとミョウバンで僻邪の赤に染め,
 ベンガラで不穏な黒靄をムラムラにまとわせてから,
 破邪漆黒の黒へと仕上げます。

 うむ,思ったより色モノっぽくなりませんでしたね。
 ただまあ,数年後にこれが何だか分かる人がいるかどうか(w)

 おつぎはフレット。
 オリジナルが5枚無事で加工に問題もありませんので,新たに作るのは棹上の3枚だけ。

 ここはワンちゃんのおやつ,カットボーンで補作。
 だいたい板状のところまで加工してくれてるんで,従前,骨まンまから切り出すのよりははるかにラクですが,硬いですからねえ,手工具だとそれなりにタイヘン。
 ヤシャブシで染めてロウ磨きで仕上げます。

 山口はオリジナルのが残ってますので,これを取付け----この部品,いまは白いですが,最初汚れて真っ黒だったので,洗うまで黒い唐木製のものだと思ってました----糸を張って音階計測開始です!
 棹上の目印は整形作業で消えてしまいましたので,フィールドノートを頼りに原位置にエンピツでシルシをつけます。
 まあそもそも棹自体が後補別人の作ですので,計測結果がどこまで当初の楽器のそれに近いのかについては疑問が残りますが……

 オリジナル位置での音階は----

開放
4C4D+404E-204F-284G+144A-35C+145D+285F+19
4G4Bb-484B-285C-335D+85E+155G+45A+116C+17

 うむ…もうシルシつけてる時点で思いはしたんですが----第1フレットの位置がヘンです。半月がわに寄り過ぎ,半音近く高いです。第3音が西洋音階のドレミより20~30%低いのが清楽器の特徴ですので,第2フレットの音はこれでヨイ。
 ただそれに釣られた感じで第3フレットの音も3割ばかし低くなってますから,これは明笛などほかの清楽器の音を参考に位置決めをしたわけじゃないようですね。5度の第4,オクターブの最終フレットはだいたい合ってますので,完全にテキトウというわけでもなさそうですが。

 さて,部品は揃いましたね。
 まずはフレットを最低音4Cの西洋音階に近い配置でたて直し,接着します。

 柱間の飾りと左右のニラミはオリジナルのまま。
 かなり質が良く,丈夫な唐木製なのでキズもほとんどありません。

 裏面,花の部分の中心に刻まれてるスジは,反り防止のためのものですね。このあたり,木使い…いや気遣いがしっかりしております。
 軽く油拭きするだけで元通りのしっとりツヤツヤです。

 剥離の時割れちゃった中央飾りは修復済。胴上に日焼け痕が残っておりレイアウト的にも問題はないので,どれも元の位置に戻すだけですが。
 左右のニラミなどは唐木製,通常の方法で接着してから,部分的に浮いちゃってるようなところを,クランプなどを使ってガッリリおさえこみ,再度接着しています。
 硬い素材でできており,通常のお飾りよりいくぶん厚めなので,浮いたところがあると変なビビリの発生源ともなりかねませんし,ハガレが出た時,ここまでの接着は器具がないと出来ないでしょうから,次の人が困らないように,しっかりやっておきます。

 いつもは悩むバチ布ですが,
  今回は蓮頭をアマビエさまにした時点でこれに決まりですね!

 「荒磯」----蓮頭が浜辺ならここらは水中,半月を海底といたしましょう。

 そんなこんなでコロナ禍騒動のただなか
 2020年4月23日,
 月琴62号,浅草蔵前片町清琴斎二記・山田縫三郎作,修理完了!

 棹が後補だと分かってから後の展開がけっこう怒涛でした。
 とくにあの糸巻の配置は……はじめてのことでしたので目を疑っちゃいましたよ。
 多少慣れてない感はありましたが,工作自体はそんなに悪くなかったし,見た感じ,たいした問題もなさそうだったんですが。
 あとでフィールドノート見たら,数字はちゃんと物語ってましたもんねえ。
 いやいや,庵主,さんすうが不得手なもので 「数字のコトバ」 が届かなかったのですよハイ----ええ,反省してもうちょい勉強します。(汗)

 さて。
 一般的な清琴斎の月琴の,楽器としての評価はだいたい「中の上」くらいです。
 工作は精密ですし見た目も悪くない。

 操作性にクセはなく,音もそこそこ。
 よく言えば「万人向け」なんですが,ふだん,ピーキー気味ながらポテンシャルの高い不識の楽器なんか使ってる庵主としましては,物足りないところがナイでもナイ----そんな感じです。

 今回の楽器は,お飾り類がけっこう良い唐木で出来てたあたりから見て,清琴斎の月琴としては高級品の部類に入るものであったと推測されます。とはいえ,楽器自体の材質や構造が,量産数打ち品とそれほど違うわけでもありませんが,出来は良い。うちに届いた時点では,うかつに触るのもちょっとハバがカラレルくらい真っ黒でしたが,棹以外は部品の欠損・損傷も少なく,特に胴体は意外と良い状態で保たれていました。

 現状,かなりいい音を出してます。
 そしてなにより弾きやすい。

 楽器のバランスがよく,ヘンなクセもないので,演奏姿勢や運指のポジションが多少違ってても,ちゃんと鳴ります----演奏者に優しい楽器ですね。

 はじめて手にする清楽月琴としてはじゅうにぶん。
 思ってたより良い楽器に仕上がってると思います。ああ…アマビエさまが気になる方は言ってください。(w)何かふつうのに取替えますから。

 お嫁入り先,ぜっさん募集中です。


(おわり)


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