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月琴63号唐木屋(2)
G063_02.txt
2020.3~ 月琴63号 (2)
STEP2 プロレタな響き線
さて----コロナコロコロ日も暮れて,
万年貧乏底空飛行生活の庵主にも,それそこに影響ございまして。
そこに6月初旬の毎天熱暑。
完全エコロジーの全自動エアコン 「大自然」 完備のわが工房ではとても作業にならず,少々間が空いてしまいましたが----
63号唐木屋,修理を開始いたします。
例によって----
1) 保存状態がやたらと良い。
2) 使用痕がほとんどない。
3) 一見,糸張ればそのまんまで使えそう。
----という感じの
「キレイな古楽器」
(ふるがっき) というものには,かならずいやらしいアクマが棲みついております。
「道具」というものは本来,メンテナンスをしながら使うものです。
包丁や鑿なら砥ぎますし,ノコギリなら目立てします。筆だって使ったら洗うでしょう?
そのように道具がちゃんと 「道具として使われてきた」 場合の故障は,いくらでも「直す」手段があるのですが,日常的なメンテナンスもない状態での
「使われていない道具」の故障や不具合
というものは,ほとんどの場合,さかのぼって
はじめから作り直したほうがよっぽど早い
ようなことが多く。ちょっと前の鶴寿堂みたいに,作業がどーんと進んでからとつぜん,ふつう
修理者が思いもしないような
エラい状況が発見されたりするので,庵主としては今回も,ちょいとヤな予感に身を震わせておりますですあなかしこ。(w)
まずは小部品の除去と分解を。
棹上に残ってるのは山口さんだけ,胴体のほうはフレットとお飾り類です。
いまのところ半月の接着はだいじょぶそうですね。
こないだ同じ製造元のぼたんちゃんが,オリジナル接着の半月ふッ飛びで帰ってきたばかりですが,さてこやつはちゃんと保つのかな?----作業しながらちょっと見守ってゆくことといたしましょう。
工房到着時はついてたんですが,調査でいぢくッてるうちに蓮頭はとれちゃいました。接着面を見ると
ニカワが劣化して白くポロポロ……
ほかの部分の接着が少し心配になってきましたねえ。劣化したニカワをこそぐため棹先端に濡らした脱脂綿を一枚,あとは細切りにした脱脂綿で山口の底部にぐるりと囲みます。
バチ皮はでんぷん糊----「そくい」かな?
しばらく濡らしたらペロ~っとハガれてくるんで,あとは残った糊をこそげればおしまいです。
柱間のお飾りとフレット,山口なんかは10分ほどではずれましたが,
頑丈にがんばったのが胴左右のニラミ
----今回のは意匠が少し細かいので,接着剤のついてる部分が多いんですね。途中から,水がより細部まで行きわたりやすいよう,小さく千切った脱脂綿をお飾りのスキマに詰め込みました。2時間ぐらいふやかしたところで,周縁のわずかに浮いてるとこに
クリアフォルダを挿しこみ,
しごいてこそげとります。
接着はすべてオリジナルでした。
最期にニラミでちょっと苦労はしましたが,ボンド類での再接着箇所とかがなかったので,そのへんはラク。
さすがは老舗・唐木屋。この楽器についてある程度
「分かって作ってる」
ので,基本的にメンテナンスの時はずせるものはちゃんとはずれるように組まれてましたね。
つづいて板を片面ハガして内部の確認をします。
表板も裏板も,天地の側板部分を中心に同じくらいハガれてるんですが,後々の作業を考えると,
やっぱり裏板
をハガすほうが無難かと。
すでにはがれている部分に刃物を挿しこんで,ぐるりと回してゆきます。ふつうは最後に,内桁から板を剥がすため曲尺をつっこんで挽いたりするんですが,今回は胴体の縁を一周したら「パッコン」と音がして,あっけなくはずれてきました。
内桁の裏板がわの接着面にホコリが……板のほうにも…ついてますね………
これ,もしかしたら
製造当初から
ちゃんとくっついてなかったんじゃなかろか?
さてでは,内部の観察とまいりましょう----
内部構造は二枚桁で,
上桁がやや中央がわ
に寄り,一番上の空間がいちばん広くなっています。二枚の桁は
完全な平行にはなっておらず,
下桁がわずかに傾いて,画像だと左がわのほうがほんの少しだけ広くなっているようです。
同じ関東の作者では,石田不識をはじめ,ここはほぼきっちり平行なことが多いんですけどね。
二枚の桁が平行になっていないこの内部構造は,関西の
「松派」の楽器の影響
だと庵主は考えています。「松音斎」や「松琴斎」など,名前に「松」のつく大阪の作家…いままで何面か修理してきましたが,卑近だと50号フグの「松鶴斎」なんかもそうですね。
「松派」の楽器では唐木屋のと同じように,二枚の桁を平行ではなく片がわをわずかに広げて配置しています。構造としてそのほうが安定している,とかいうことはありませんので,おそらくは
長い弧線を胴内におさめるための工夫
であったとは思われますが,これは彼らと唐木屋の楽器のほかではあまり見られない内部構造です。
このほかにも唐木屋の月琴は,彼らの作る楽器と
寸法や構造がきわめて似通っています。
たとえば前にも書きましたが,関東の月琴は渓派の影響で棹がやや長く,第4フレットが棹上に置かれていることが多いのですが,唐木屋の月琴はここも関西準拠で,胴体の端に置かれていることが多いですね。
上下桁ともに,胴体との接合は
木口と内壁の単純な接着
によるもので,内桁を固定するための溝や補助材はついていません。
上桁は薄く
厚さ5ミリ
ほどしかありません。下桁は
8ミリ
ありますが,加工が粗く板の表裏がちょっと不均等に凸凹してますね。
上桁は棹茎のウケ孔を中心に左右に音孔,下桁は中央に長く一本貫いてますが,どちらもまあ見事に
テキトウな切り抜き加工。
ラインはヨロヨロ,孔のフチがガタガタです。
上にも書いたように内桁と裏板の
接着は雑で,
へっついてなかった部分のほうが多いくらいでしたが,
表板がわとは全面かなりしっかりと接着されており,
こちらにハガれているところもハガれそうな気配のあるところもありません----上下桁ともに胴材との接合も剥離しちゃってますから,この楽器は正直,この部分がついてるってだけでなんとかカタチを保ってた,という状況ですね(w)
響き線は鋼線。線の太さは0.8ミリくらい。
楽器正面から見て左がわ,
上桁の下に基部
を置いて,そこから弧を描き,先端は上桁の音孔から少しつき出ています。
基部はサクラの木片で,側板の内壁と表板に接着されていますが,
裏板からは6ミリほど離れ,
上桁との間にもわずかなスキマがあってくっついてはいません。
いままで扱った唐木屋の響き線は,これまた松琴斎などの楽器と同様に,根元のところでぐいッとキツく下方向に曲がり,下桁に近づいてから横方向へゆるくカーブしてゆく----そうですね~
旧ソ連の国旗に描かれてた山鎌
(下画像参照)みたいなカタチ----になっているものが多かったんですが,今回のようなカタチは庵主ハジメテ見ましたね。
これまで見てきた唐木屋の響き線と比較すると,アールが浅く
ちょっと中途半端で不格好
な感じがします。
演奏姿勢に立ててみますと,
いちおう機能はしてる
んですが,振幅の三回に一回ぐらいは先っぽがどっかに当って止まっちゃったり,上桁の端に刺さっちゃったりしているので,正直「響き線」としてマトモに働いてた感じはありません。
航研機の木村先生もおっしゃってるとおり,「機能」と「美しさ」というものがあるていど連動してるってのは本当ですわい。
この響き線は,基部の木片に孔をあけて線の根元をつっこみ,短い竹釘で止めてるのですが,この時,竹釘を固定する目的か,余計な心配からか,根元に
ニカワをたっぷりと盛った
らしく。そのせいで現状,
響き線の根元が朽ちてしまっている
ようです。アートナイフの刃先でちょっとコスったら,モロモロとどこまでも削れてしまいました。
響き線のほか大部分は,それほど酷いサビつきもなく健全なほうなんですが……こりゃどッちにせい,ほじくり出して付け直してやらんとイカんかと。
側板の接合部は4箇所ともにトンでますし,内桁も左右がはずれてます。おまけに調査でいぢってるうちに地の側板もポロリしちゃいました。蓮頭接着部のこともありますので,保存環境に,ニカワにキビしい何かしらの問題があったろうとは推測されますが,こちらははずれた痕がやたらとキレイ。これは使用したニカワが薄すぎたか,
もともとの接着作業が雑
だったんでしょうね。
そのほか,内部構造で書いておくこととしましては
書き込み
でしょうか。大したものはありませんが,上桁と表板ウラなどに指示線がいくつか,あと
いちばん上の空間右手に大きく「62」
に見える数字が書かれています。
うむ…どう見ても「62」なんですが,たしか
棹なかごに書いてあった数字は「12」
だったかと----シリアルだとするとどっちが正しんでしょうねえ?
書き込みはかなり薄めかすれ気味ですが,どれも墨線。ただし,線に沿って少し圧による筋が見えますので,おそらくはこれらは筆でなく,竹や木を削いだ道具……
たぶん 「墨さし」
によるものだと考えられます。
板中央に「こっちがウラ面」というつもりで付けたと思われる,
圧縮痕による目印
があるんですが,これもおそらく同じ道具によるもの。墨を付けないで使ったんでしょう。
楽器職や指物屋なんかの人が使うのは
もう少し線が細い
のですが,この楽器についてるのは,
大工さんが家の柱の加工とかで使うのの太さそのまんま
ですね。加工が大雑把なこともあるし…この楽器作ってた人は,大工さん出身のニワカ楽器職だったのかな?----なんてことも考えてます。
はやいろいろと問題は出てきたものの,とりあえず内部構造の確認まで終わりましたので,あと詳細の確認は,恒例のフィールドノートでどうぞ----
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(つづく)
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