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月琴15号張三耗 再修理(1)

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斗酒庵張三耗と再開 の巻2020.5~ 月琴15号最終利 (2)

STEP1 張三耗の大冒険

 月琴15号が帰ってまいりましたあ。

 15号か----記録によれば最初に修理したのが2009年の暮れ……もう11年も前のハナシなのですねえ。

 倒れてぶつかった拍子に,糸倉が根元のところからパックリ逝ったとのこと。

 重症ではありますがなんとかしましょう。
 庵主,11年前よりはずっと誤魔化すのが上手くなってますからね(「修理が上手くなった」とは言わないwww)。

 当時はまだ,いまみたいに詳しい記録をとってませんでしたので,フィールドノートもペラ1枚で,図もテキトウ,書き込みもほんの備忘録程度でしたから,今回は再修理のついでにいろいろと調べ直しちゃいます。

 この楽器は,いわゆる「倣製月琴」。
 唐物をコピーして日本で作られた楽器です。
 琴華斎とか太清堂の楽器なんかと同じですね。
 コピー品ではありますが 「贋物」 として作られたわけではなく,国産月琴の中で,唐物楽器を手本にしたもの,唐物楽器の影響が強く出ているやや古いタイプの楽器,といった分類となりましょうか。ちょっとした形状だったり材質や内部構造に,日本の職人さんの独自性や国内事情による変更が加えられている場合が多いです。

 この楽器の場合,唐物にしては糸倉のうなじが曲面になっちゃってるのと,指板左右に曲線付けちゃったのはちょっと余計でしたが,全体的には 「唐物っぽい」 感じにちゃんとなってると思いますよ。内部構造は1枚桁で,響き線も唐物と同じ肩から胴内をほぼ半周するスタイル----外からは見えないとこですが,このあたりもしっかりおさえてありましたしね。

 ちなみに庵主が振った銘,「張三耗」の「耗」は 「耗子(ハオツ)」,北京弁で「ネズミ」を意味します。
 うちにきた当初は,糸倉のあちこちが派手にネズミに齧られ,ボロボロだったんですよねえ。

 表面にカツブシでもまぶしてたのかな?----とか思うくらいでしたが,これをこうやって修理して,上から補彩して……このあたり,11年前のシワザですが。
 自分でやったことながら,今回修理の過程で塗装を落としてようやく「あ,ここも補修してたんだっけ」って気が付く----

----そんな程度にはちゃんと誤魔化せてました。
 なんか嬉しい(www)

 てことで,まずはフィールドノート。
 今回の損傷の記録というより,工房に来た当初の状態を思い出しつつ,実機で確認しながらの再記録となります。

 ***画像クリックで別窓拡大***

  なお,15号前回の修理報告へは こちら からどうぞ----



STEP2 張三耗の逆襲

 まずは糸倉を継ぎましょう。

 左右2箇所づつの4箇所に,竹棒を通すための孔をあけます。
 この棒はクギみたいに,それ自体で割れを継ぐとか補強するものではなく,接着の時に各部を正確な位置で固定するためのガイドの意味合いのほうが大きいですね。

 竹棒に部品を通し,割れ目がピッタリと噛合うことを確認したら。破断面をエタノでよく洗い,少し緩めたエポキで接着します。
 同じことはニカワでも出来るんですが,ここは楽器の中でも力のかかるところですので,強度と耐久性を考え現代的な接着剤を使います。そもそもここは,月琴の「道具」としての使用上は,本来「壊れるべきときに壊れるべき」場所ではありません。その時になしうる最良の手段を以って,出来る限りの万全を尽くすとしましょう。

 エポキシ接着剤は強力なので,きちんと継げていればこれだけでもいちおう使用可能な状態とすることができますが,楽器の将来を考えるとあと2~3手補強を加えておいたほうが,より安心して長く使い続けられますね。

 明日のために打つべしその1,として,次にチギリを打ちます。
 糸倉の左右,軸孔をはさんでその両側。中央で割れ目を渡るよう,輪鼓(りゅうご-ディアボロ)の形に刻みを入れ,板の半分くらいのとこまで彫り下げます。

 ツゲの端材からチギリを削り出し,接着剤を塗って埋め込み,一晩おいて整形。
 ここまでやるともう,よっぽどのことでない限り割れが再発することはありません----が。

 チギリってけっこう目立っちゃうんですよねえ。
 庵主自身は糸倉にこういうのがついてたとしても,いかにも 歴戦の勇者 みたいな感じで悪くはないと思うのですが。15号の棹や糸倉はやや小ぶり,全体的に繊細な印象のフォルムをしているので,これだと少し悪目立ちしてしまうところがあります。

 ということで,この補修痕の目隠し兼さらなる補強のため,糸倉の左右にツキ板を貼ることにしました。
 ツキ板にもいろいろありますが,ここは木地の色味の近いマコレを使います。

 より強度が必要なら,黒檀や紫檀といった唐木材を使うところですが,今回はこの貼る板自体に強度を求めていません。糸倉左右の表面を薄いエポキシ樹脂の層で覆ってしまうのが目的。
 補強だけのためならば,エポキを練って全体に塗りつければ済むだけの事なんですが,樹脂で覆っただけだと表面の質感が異常になって,ほかの部分から浮いてしまいますし,基本透明なので,そもそも補修痕を隠すこともできませんからね。

 いま使ってる接着剤はだいたい一晩で硬化するタイプなので,片面づつ,足かけ三日の作業です。
 両面一気に貼っちゃえば?----って。いや,それやっちゃうと後で軸孔を開けなおすのがけっこうタイヘンなんですヨ。(経験済ww)
 片面を貼ったら余分を切り落とし,軽く整形して,反対がわの孔から工具を通し軸孔をあけ直します。ツキ板は薄くモロいので,孔の縁とかチップしちゃわないよう,ネズミ錐で下孔をあけ,リーマーで慎重に広げて…ぐりぐりぐり………
 ちなみにこのツキ板は,棹本体の木の目と交差するような向きで貼ってあります。

 ツキ板は薄いので,このくらいならパッと見,太くなったようには見えませんし。
 悪くはないんじゃないでしょか?

 まだ糸倉オモテとうなじのところに小さな補修痕が見えてますが,ここらはこのあとの作業で----

 糸巻を挿してみます。
 グリグリしても壊れません。
 うむ,まずまず一安心。

 では,修理工程次のフェイズに入ることといたしましょう。
 棹全体を磨き直し,スオウで染めてゆきます。

 この棹はちょっと面白い木取りの材で作られています。
 木はクワかエンジュあたりでしょうか。どちらも中心に近い芯材と皮に近い辺材で質に違いのある木材なんですが,これはそのあまり太くない樹の,芯材と辺材の中間あたりから採られたもののようです。

 こういう芯材と辺材で違いの顕著な材の場合,ふつうまあ避けるような部位ですね。
 辺材がわはかなり皮に近く,軽く病変か腐朽した部位も混じってたようです。棹背の「峰」のあたりが,木色マダラでかなりモロくなってました。原作者は全体を染め,生漆あたりを軽く塗って誤魔化したみたいですが,ツルツルに磨くはずの仕上げの作業で,そうした木地の問題で却ってついてしまった変なエグレや細いミゾ傷なんかが,そのまま残っちゃってました。

 庵主,スオウ染めのとちゅう,ようやくこれに気が付いたので,急遽染めを中断。エグレや傷を埋めエポキでシーラーをかけて,モロくなってる部分の表面を固めました。

 んで,再開。

 こんどこそツルツルに磨いたら,スオウ染め,ミョウバン媒染。
 オハグロをかける前に,前回と今回の補修箇所に目隠しの黒ベンガラを点しときます。


 ベンガラは隠蔽性が高いので,修理のアラ隠しには最適。前回はオリジナルの色にあわせて茶ベンガラでやりましたね
 ベンガラが乾いたら軽く擦って,余分を落し,色味を周囲になじませておきます。

 そしてオハグロで全体を黒染め。
 これで修理個所は自然なかたちでほとんど見えなくなります。
 画像だと真っ黒ですが,このあと油拭きしたり磨いたりしているうちに落ちて,もうちょっと赤っぽくなってゆきますよ。




(つづく)


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