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月琴63号唐木屋(4)

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斗酒庵夏にもさかる の巻2020.3~ 月琴63号 (4)

STEP5 フレッシュ・カラキヤ!

 いちおう 形は保っていたものの,各接合部はハガれ分離し,構造としてはほとんど分解寸前だった胴体のほうは,再接着も済み接合部の補強も完了----水も漏らさぬ「桶」の状態となっており。次なる目標,裏板の再接着に向け着々と進行中でございます。

 この裏板は製造当初から内桁にほとんどくっついていなかったようで,接着剤をつけた痕跡はしっかりとあるものの,内部にたまったゴミが,その痕跡のうえにへっついていたうえに,くっついてたとこは濡らすとじゅうぶんに接着力のある状態でニカワが活き返りました。すなわちこれは保存環境が悪くてニカワが劣化したためにハガれたのではナイということです。

 裏板がちゃんと接着されなかった原因のいちばんは,作者・唐木屋Bによる雑な仕事----というあたりが結論とはなりますが,「どこ」を「どう」雑にしたためなのか,というあたりは,裏板を胴体に戻す前にきっちり調べておかないといけますまい。

 で,さっそく発見。

 桁の接着面がかかるところに,段差がありました----画像,黒っぽいホコリのついてるがわがヘコんでますね。
 継いだ小板の厚みが均一でなかったことによるわずかな段差ですが,この上から桁を接着しても,この段差になってるところがスキマになり,この周辺だけ接着されません。貼りつける前に表面一撫でしておけば確認できた類の失態ですな----あるいはそんな余裕もない労働環境(泣)だったのかもしれませんが。

 前回書いたように,ニカワというものはこの季節,ちょっと油断するとたちまち腐って接着力を失ってしまうようなナマモノなのですが,接着面の工作が精密で密着している状態だと,容易に分離できないくらい強固な接着力がいつまでも持続されます。しかし,このように一箇所でも浮いたところがあると,そこからベロンとハガれてしまうのですね。

 このままくっつけても,またすぐに裏板が剥離しちゃう未来が目に見えてますので,ここは埋めときましょう。

 桁のかかる部分だけでいいですね。
 木粉パテで埋めてきっちり平らに整形,緩めたエポキを浸透。そのほかにも数箇所,虫食いや板表面が荒れてる箇所があったので,同様に処理しておきます。


STEP6 ハートキャッチ・カラキヤ!

 さてもうひとつ。

 第二回の内部構造のところでも述べましたように,オリジナルの響き線は,基部のあたりがすでに朽ち果てており,ほおっておいても早晩ポロリとれちゃいそうな状態となっております。

 まあ書くの忘れてましたが,作業でゆすってるうちにもうポキンと逝きそうだったし,音孔の整形でジャマだったのもあり,先手を打ってさっさと折り取ちゃいました。 あんのじょう,基部に埋め込まれていた部分は完全に朽ち果てており,てンで抜けません。線ごとドリルでえぐったらザリザリの茶色い粉になって出てきましたよ。

 このばあい修理の正道からいえば,

  1)朽ちた根元を切り縮めたオリジナルを入れ直す。

 か,あるいは

  2)同じ形状の響き線を新しく作り,完全に調整したうえで取付ける。

----の,いづれかが定石なわけですが。

 そもそもこのオリジナルの響き線は,その形状や寸法と胴内の動作空間がびみょーに合っておらず,健全であった時でもまったく機能していないか,効果にかなりのムラがあったものと考えられます。

 響き線,というものは,金属の線がプヨプヨと勝手に動いているところに,弦を弾いた音が勝手に入ってきて,金属音のエフェクトが勝手にかかるというシロモノで。基本長ければ長いほど余韻にかかる効果が期待できるのですが,長くなるほどに振れ幅は大きくなり,線の自重による変形も考慮しなければならなくなります。
 何度も書いてるとおり,月琴という楽器の胴体内部はせまい。動いている線が内桁や胴内部に一瞬でも触れてしまいますとエフェクトは消滅しますので,月琴製作者はそのキワメテ限られた空間の中で,どうすれば,どれだけの演奏姿勢の幅で,どこまで最大の効果が得られるのかということを----うん,ほとんどみんな考えてませんね。(w)
 「月琴だし…まあ入ってりゃいいや」ていどでテキトーに入れてるほうが多いみたいですが,まあマジで考えるとなると結構タイヘンだ,ってくらいに思っといてください。

 直線型の場合,長さの限界はどうやっても胴の直径+わずかくらいなものですが,曲線の場合は極端な話,胴内を何周もぐるぐるとめぐらせることもできなくはありません。ただし,直線型に比べるともともと振れ幅の大きい曲線型は,ある程度の長さを越えるとちゃんと機能するようにセッティングするのがきわめて難しくなりますので,現実的には唐物月琴のようにやや太目の線で胴内を半周くらいが限界でしょう。

 今回の63号----作者が同じと思われるうちの7号コウモリや31号では,線形は同様ながら,もう少し先を切り詰め,響き線が胴内にひっかからないようになっていましたので,おそらくこの楽器を作った時,作者はまだ最適の長さや曲がり加減を模索実験していたのかもしれません。

 さて庵主,修理の目的はオリジナルの構造・工作や音階など基本的なデータの収集。基本的な構造・工作のほうはすでに調査済のうえ,すでに内桁音孔も改造しちゃってますのでコレに骨董的な価値はあまりナイ。 音階のほうは,楽器が使用可能な状態に戻ってくれさえすればふつうに調べられますので,正直なところ元から分からないオリジナルの音色とやら百年前と同じ響きに乾杯とやらはどうでもよろしい。

 あとは調査後の運用を考え,令和に生きる月琴弾きとして,楽器としての使いやすさやとか,「伝統音楽」やら「明清楽」やらといったバイアスのない,現在ふつうに聞いて美しい音とかを追及させていただくことといたしましょう。

 まあ,上下桁が完全にはずれてくれるような状況ならば,桁の配置を唐木屋Aと同じにして,松派・唐木屋で共通の山鎌型の曲線を入れ,唐木屋Bのボディに唐木屋Aのタマシイ(響き線)の宿る 「真・唐木屋合体月琴」 をでッちあげたとこなのですが,現状,この基部の位置,この動作空間で機能することが保証されるのは,オリジナルより曲りの浅い曲線か直線,もしくはZ線型の響き線と考えられます。
 オリジナルの基部の位置を無視するなら「渦巻線」という選択肢もありますが,曲線直線タイプとはまったく異なる音色になっちゃいますし,作る手間を考えるとなるべくやりたくありませんね。手がマメだらけになっちゃう。(w)
 曲りの浅い曲線は,そもそも響き線として効果が低く,その割には調整が難しくなるだけのシロモノです。また基部と上桁がきわめて近い位置関係にあるため,直線の場合,上下の振幅に制限ができ,これもあまり効果が期待できません。

 残るZ線。
 これは工作や調整も楽ですし,基部の位置も今と同じでよろしいうえに,この63号のような比較的狭い動作空間においてもきちんと機能することが,ウサ琴での実験や56号「烏夜啼」改造結果などでも実証済み----取付け位置が横なタイプの中では,庵主これが最も進化したカタチの一つだと考えてます。

 この型は,根元の曲げ方と直線部分の傾けかたで,さまざまなセッティングが可能です。基本的には 「Z」 の縦寸法を短く小さくするとより直線風に,長くすると曲線風の効果になるようですね。今回はオリジナルの曲線と似た感じで,かつこの動作空間内でもしっかり機能するよう調整してゆきたいと思います。
 オリジナルの線の根元をバイスで固定し弾いてみて,この線が万全に機能していた場合,どんな感じになるのか確かめ,比較しながら,Z線を曲げます。
 ほんとうはもう少し斜めに傾けたほうが効果が強く出るのですが,動作空間を考え,演奏姿勢に立てた時に直線部分の先端が,下桁から1センチほど上で止まるくらいの位置で止めます。いちばんプルプルしてる先端部分のすぐ外で,ピックが弦を弾いてる,って感じが理想ですね。

 だいたい思ったとおりの角度や曲りになったところで焼き入れ。

 曲線タイプはこの「焼き入れ」を均等にするが難しいのも欠点の一つですが,Z線は基本直線なのでペンチでつまんでコンロにかざし,水を張った金ダライにつっこむだけ。慣れればさほどの問題がありません。
 水気をふきとり根元の表面をペーパーで少し荒らしたら,基部の孔につっこみます。ニカワを使って悲劇をくりかえしたくはないので,ここは線の根元にエポキを盛ったうえで煤竹の竹釘をおしこんで固定----こういう場合のエポキは,硬化してしまえば最強なのですが,カタまるまでに時間がかかります。それまでの間,せっかく調整した設定が万が一にもくずれないよう,途中や根元に支えを置き,線の角度や位置を保定しておきましょう。
 一晩たって,根元がガッチリ固まったところで,線の基部をもう一度微調整。その後,線の表面にラックニスを軽く刷いて防錆処置を施しておきます。


STEP7 すうぃーと・カラキヤ

 接合部の調整と補強,音孔の整形,裏板の補修,響き線の交換……楽器の修理は外から見えない内部がいちばん大切です。弦楽器の内がわは,糸の音が 「楽器の音」 になるところ。ここがしっかりしていてハジメテ,楽器はその楽器らしい音で鳴ることができるようになるからですね。

 内桁の角のわずかに出っ張ってるところや,側板の裏板接着面等をきれいにし。不備不良なきよう何度も確認したら,いよいよ裏板の再接着です!

 例によって,板を真ん中に近いところから2枚に割ります。
 今回の経年誤差は,左右片側をピッタリに合わせた時,反対がわに1ミリあるかなしか足りなくなる部分ができる程度。
 このあたり狂いが少なくて済んでるのは,唐木屋Bの工作が少し雑なものの,棹も側板も太め厚めの余裕ある材取りをしてくれてるおかげですね。

 切り分けて断面を整形した裏板を,少しだけ離し。整形時になるだけ縁を削らないで済む----もっとも被害の少なそうな配置で接着します。百年間の部材の収縮は一定ではないので,均等に離しゃ済むというわけではありません。事前になんども確認し,マスキングテープなどで貼りつけ位置が分かるように目印を付けておきましょう。

 前回書いたとおり,時期的にニカワの扱いが難しいのですが,基本どおり,作業中に接着面が乾かないようじっくり湿らせ,ニカワを染ませ。あとはなるべく手早く作業を終える方向で。

 一晩置いて,接着具合を確認したら,桐板から切り出したスペーサを削って埋め込みます。これでまた一晩。
 翌日,ハミ出したスペーサと裏板の縁を整形します----ふんふ~ん,いつもどおりでルーチンルーチン(w)……ザリッ!!

 あぅ……………

 側板の一部に傷をつけてしまいました
 うううう…とりあえず均しておきますが…ああ,オリジナルの塗りが一部ハゲチョロに。
 まあ,接合部付近でも狂いによるわずかな段差を解消するため削りましたし,もとより染め直しは既定の路線ですのでいいんですが,やっぱ何事も気を抜いてはイケませんね。(^_^;)


(つづく)


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