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月琴15号張三耗 再修理(2)

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斗酒庵張三耗と再開 の巻2020.5~ 月琴15号再修理 (2)
STEP2 張三耗の大黒様

 糸倉の破損で帰ってきた15号。

 そちらのほうは破断面を継ぎ,これでもかと補修を重ねました----この楽器の損傷としては重症の手合い。糸倉は最も力のかかる箇所のひとつですのでやってやりすぎ,ということはありません。お父さん,心配性なもので。それでも不安はないではありませんが,日常の使用にはとりあえず問題ありますまい。
 さて,修理痕を隠すため棹を黒染めしたものの,この楽器,もともと全体に色が薄めでしたので,さすがに棹だけ真っ黒になったんじゃげぇばえ(外映え)が悪いというもの。
 全体のバランスをとるため,胴側や半月も染め直したいとこですね。ついでに前修理の時にはできなかった箇所の再調整なんかもいろいろとやっちゃいましょう。

 まずなにはともあれ,表板からお飾り類をはずします。

 フレットやニラミはまあいいのですが,あいかわらず凍石のお飾りが頑固ですね……唐物や国産月琴でもいちばん困るのがこの石のお飾り。正直これ,楽器の機能上はほんと何の役にも立ってない「お飾り」ですし,こうやってメンテの時はジャマ以外のナニモノでもありませんで,いつもとッぱらってふてちゃいたいと思ってるんですが,これもふくめて「清楽月琴」という楽器に内包される文化の一部ですんで,あなおろそかにもできませぬ。
 とくにこの蝶のお飾り…庵主渾身の作なんですよねぇ。


 むかし上野の書道道具屋さんから譲り受けた,とっても良い石が使われおります。たぶんもうそうは手に入らん石なんで,なるべくなら壊したくない----そう思って当時ムダに頑丈にへっつけたもので,あんのじょう最後まで残りまして。けっきょくすべてのフレット・お飾りを除去するまでにあしかけ三日ほどもかかってしまいましたよ。
 次はメンテの時もうちょっとはずれやすいようにへっつけます。(w)

 はずしたお飾りのうち,左右のニラミは褪色により左右で色味が異なり,片方シッポが切れちゃってます。全体としては損傷のきわめて少ないほうでしたので前回はスルーしたんですが,今回はこのあたりも徹底的に。

 まずはホオ板からシッポを切り出し,接着。
 この時,破断面だけでなく継ぎ目を中心にその裏面にもエポキを塗り広げ,薄い和紙を当てて浸透させ,裏面に継ぎ目をつなぐごく薄い樹脂の膜を作ってしまいます。こうすると小さい部品でもふたたび壊れにくくなりますからね。

 補修部分の補彩とともに染め直しをしながら,左右の色味をそろえてゆきます。二三回のリテイクの後,なんとかそれっぽくそろえることに成功……うん,けっこう難しいですね。片方が薄いと思って濃くしたら,今度は反対がわより濃くなっちゃう,みたいな?

 塗装と違って,染め汁が乾いて磨いてからじゃないと色味の違いが分からない,というのも難点ですわい。薄めた染め液で少しづつやってくのが,時間はかかりますがいちばん確実かと。

 半月にゲタを噛ませ,山口をより唐物に近い富士山型のと交換します。
 唐物のパチモノが「倣製月琴」ですから,その本来の意図に沿った部品のほうがいいですわいな。

 最初の修理で胴側には部分的なアラ隠しのためベンガラと柿渋が塗られていました。当時はマスキングなんてこともしてなかったようで,今回帰ってきたのを見たら,木口についた柿渋が発色して,胴側との区別がつかないくらい真っ黒になっちゃってましたよ。

 いまならもう少しうまくできますな。
 まずはその真っ黒な表面を削り落としましょう。

 水拭きしキレイに磨いたら,板の木口と胴側板が見えてきました。この作業中に楽器のお尻あたりに板の浮きを発見。
 刃物ですこし広げ,薄めたニカワを流し込んで再接着しておきます。

 一晩おいて補修部分の接着が確認できたところで,表裏板の清掃。
 そんなにヨゴレてはいませんが,お飾り類の除去で予想外にてこずったため,ちょっと水ムレもできちゃってますんで。

 乾いたら半月の周辺と表裏板の木口をマスキング。
 染めに入ります。

 まずはスオウで赤染め----オリジナルのも前修理のも側板の塗装はまとめて削り落としちゃいました。そうしてようやく気がついたんですが,地と右の側板は真ん中にでっかい節がありますね。いままで気が付かなかったってことは,原作者はこれを隠す意図で塗りを施してたのかな?
 二日ほどかけてスオウを重ね,ミョウバンで媒染。
 同時進行の63号でも同じことしてるんですが,材質の違いからか発色の具合が異なります。こちらのほうがやや薄いので,あと数回スオウを重ねて赤味を足しておきます。
 一日休ませてから,オハグロで黒染めですね。

 棹のほうは黒染した上からカシューで固めてますが,こちらは柿渋と亜麻仁油で定着させてロウ磨きで仕上げます。

 ----そして1ヶ月!

 庵主,その間夏の帰省,北の大地で草刈りに励んでいたわけですが,あの酷猛暑の中,密閉された四畳半一間にとじこめてましたからね~。
 帰ったころには油も塗料も完ッ全に乾いておりました。

 棹は水砥ぎで塗膜を均し,亜麻仁油と研磨剤,カルナバ蝋で磨き上げます。
 塗りっぱなしではギラギラしてた棹が,しっとりと落ち着いた艶になりました。

 ----せっかく磨き上げた棹ですが,この塗膜の上からだとニカワのつきが悪いので,割箸に紙ヤスリを貼って作った「フレットやする君」でてきとうに荒してから,山口とフレットを接着します。

 山口は唐物月琴に多い富士山型でいつもより少し背が高めです。この楽器の棹は背がわへの傾きが浅く,そのままだとフレット丈が全体に高くなっちゃうので,半月には煤竹のゲタも噛ましてあります。フレットも山口と同じツゲで一揃い,新調いたしました。

 あとはお飾りを戻せばいいだけなんですが----ここで問題発生!
 フレットが前より少し厚くなった関係で,棹上2・3柱間に付いてたお飾りが入らなくなってしまいました。
 急遽,入るようなお飾りを彫ったくって交換します。

 あと,第1フレットが少しズレてついちゃってたのでやりなおしたり,いちばん上のお飾りを取り替えたり,バチ皮がどっかいっちゃたんでバチ布に貼り換えたり………最後の最後にけっこうバタバタしちゃいましたが,

 ちょこちょこッとクリア。

 5月のWSで受け取ってからですからね…ホントにおまたせしちゃいました。
 2020年9月19日,倣製月琴13号三耗,
 再修理完了です。

 メインであった糸倉割れの修理は上々。

 いまのとこ糸巻をどう操作してもぜんぜん大丈夫ですし,割れ目もまず気づかれないくらいキレイに埋まってます。
 ただ,修理部の保護補強のため,塗り棹にしちゃったんで。持った時の感触や見た目の質感が修理前とはかなり違っちゃってます----カシューの塗膜はきわめて丈夫なので,ヨゴレとかは付きにくいですけどね。庵主自作の実験楽器や創作楽器は塗り棹が多いので,自分ではあんまり気にしたことがないのですが……このあたりは実際に持ってみて好みの分かれるとこか。
 まーこれでまた壊れたら,次は棹丸ごと複製してやりますで,気にせずガンガン使ってやってください。

 できるところは調整しまくり前よりはいくぶんか使いやすく仕上がってると思います。フレット高を下げたので,高音域での響きが少し改善されましたね。前より音の伸びがいいです。楽器の調整の腕前はたぶん10年前よりは上がってますからねえ(w)

 記録を見ると,この楽器を最初に修理したのが2009年の暮れ…ああ,もう11年もたっちゃったんですね。

(おわりのはじまり)


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