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明笛について(28)52号(1)

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斗酒庵 長いものにまかれる の巻明笛について(28) 明笛52号(1)

STEP1 長いものにはマカロニ

 さて,モノは夏の草刈り帰省から帰ってすぐくらいに届いてたんですが。
 イロイロありまして報告が遅れております。

 明笛52号は管長575……お飾りもなく管がいくぶん細身なので,ちょっと見そんなに長いように見えませんが。これは庵主がいままで扱った明笛の中で,竹の管部分だけだと過去最長。ひとつ前の51号が更新したばかりの記録(560)が,またまた更新されました!

 頭部刻字の最後に 「小山」 と刻まれるこの作者の笛は,だいたい同じような姿寸法で,明治の明笛としてはちょっと古めかしいタイプに当たります。
 明楽・清楽の明笛の多くにはラッパ状の飾りが頭尾についています。これ,当初はごくシンプルなものだったのですが,明治の後半くらいになるとカタチも様々,デザインもやや派手に,大きく長くなってゆきます。

 これに対し,この作者の笛の飾りはだいたい,ごく短く頭尾ともに先端に開きのあまりないシンプルな筒状をしています。

 これは清楽流行前に 「南京笛」 と呼ばれていたタイプ----唄口や指孔の前後に籐や糸が巻いてある----今現在の中国笛子により近いスタイルですね。

 さて,その頭尾の飾りですが,今回はいづれも欠損。
 飾りがないのに取付の凸部だけ残ってたんじゃ見栄えが悪かったからでしょうか,どっちの端もキレイに削られちゃってます。

 明笛のお飾りは取付けが比較的ユルユルで,また素材が骨とか象牙とか牛の角とか動物質のものであることが多いため,落として壊れたりネズミや虫に食われてしまったりでなくなっちゃってることも少なくありません。
 お飾りが壊れたり無くなったりした後の対処として,これと同じように取付け部を削り,両端をふつうの竹笛みたいに整形しちゃってる例はけっこう見ますね。

 管内の汚れがスゴいです…真っ黒ですわ。
 響孔のところに紙を貼った痕もありますし,管のところどころに細かな傷もあり,これが楽器として使用されていたものであることは間違いなさそうです。

 唄口とその周辺には,補修らしき痕跡が見えます。
 その頭がわ少し上に,管をぐるっと巻いて何かが擦れたようなキズ。
 唄口真ん中あたりの縁には,削ったというより圧がかかって潰れたようなごく浅いヘコミができ,上下の縁にも同じようなヘコミが見られます。いづれもちょい見で分かるようなものではありませんが,唄口周辺,けっこう傷だらけですわ。
 唄口の寸法は指孔より一回り以上大きくなってますが,これも製造段階からこうだったのではなく,この修理後の調整・補修として前使用者によって拡張されたもののようです。

 たぶんなんですけどね…コレはまず唄口の上がわにヒビが入ってしまったので,接着剤を割れ目に流し込み,管を糸か細いハリガネで縛って固定したんじゃないかと思います。ところがその作業中に,こんどは唄口の下がわにもヒビが発生----接着作業をもう一度やったんですが,その際なぜかよりにもよって,唄口のど真ん中あたりを思いっきりふン縛ってしまったご様子。
 ……あわててたんでしょうねえ。

 ヒビ割れの処理は接着剤もウルシで当時の定石通り。キッチリきれいに仕上がっていますが,終わってみればエアリード楽器でいちばん大事な唄口の縁が壊滅状態。
 潰れたりへこんだりしてしまった縁をもう一度立てようと,唄口周縁を全体的に削り直した----ってとこでしょか。ただしこちらの作業は,ちょっと見にも縁の内壁がデコボコになってるのが分かるくらいで,お世辞にも上手とは言えません。

 損傷や不具合のある個所をまとめると----こんなとこでしょうか。

 まあ指孔のズレは後付けでなく原作者によるデフォルトなわけですが。
 全体にヨレてるわけではなく,右手・左手でそれぞれふさぐ三つづつで分かれてるので,もしかしたら人間工学的なことを考えて穴掘った結果かもしれません(うーん,たぶん3%くらいの確率だとは思いますwww)。

 中を洗ってちょっと吹いてみましたら……うん「音が出ない」というほどではありませんが,かなり息力がいる感じ。呂音はヒョロヒョロ,甲音は全く出ません。

 今回の修理のメインは,なによりこの唄口の再生になりそうですね。


(つづく)

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