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明笛について(28) 53号(2)

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斗酒庵 長いものにまかれる の巻明笛について(28) 53号(2)

STEP1 

 内部のインチキ塗料が多少劣化しているほか,管体にさしたる故障はなく----まあお酒を飲んだ直後に吹くとエラいことになるだろうなーという以外,演奏するにもさして支障のなさげな状態の明笛53号ですが。

 庵主はお酒飲みなので,これを吹くにはとても困る(w)ということもあり,まずはこの塗料をできるだけ削っちゃいましょう。

 ときに,この明笛53号の管体には派手に見事に黒い斑模様がついていますが,これはふつうの篠竹を高価な「斑竹」に見えるよう薬品で処理したものです。
 この「人工斑竹」の作りかたは,明治時代の「工芸裏ワザ集」みたいな本によく載ってますが,簡単に言うと皮付きの状態で薬品をふりかけて表面を焦がし,ザッと削って磨いて仕上げるというもの。
 その工法上,管体の表面に竹でいちばんカタい表層部分が中途半端に残ってしまっているため,素材としてはやや不安定で,場合によってはただの皮付竹や完全に皮を剥いた管より割れやすくなっていることがあります。
 量産型で加工が粗いのもありますし,ここは管体保護のためにも表裏ちゃんと磨き,塗り直してやらなきゃなりますまい。

 ----これも粗い加工の賜物。(www)
 管内を削り直してる作業中に,管頭の詰め物がすぽんと抜けとれてしまいました。

 うーむ,ふつうもうちょっとちゃんと固定してあるんですが,これはほぼ紙丸めてつっこんであっただけみたいですね。ちょっとつついただけでポロリですわ。反射壁(唄口に向いたがわ)は塗料で塗りこめてしまうので,それで固定されると考えたのでしょうか。

 ともあれ。
 以前の修理でも何回かありましたが,この管頭の詰め物は笛の製作年代を知ることのできる貴重な資料です。
 さっそく慎重に展開してみましょう。

 出てきたのは,いつかのどっかの新聞の切れ端だと思いますね。
 残念ながら何年何月発行,みたいな部分は残ってなかったものの,記事のひとつに少し興味深い部分がありました。
 記事自体が断片で全体は分かりませんが,今ある部分から察しますに,桑名の物持ち,諸戸清六さんが,建ててから一度しか足を踏み入れたことのないような豪邸を大隈重信の未亡人に寄贈した,というものらしい。
 大隈候が死んだのは大正11年ですから,この笛はそれ以降に製作されたもの,ということになります----比較的新しい明笛ですね。ぴったり何年何月みたいな情報ではありませんが,笛の場合は製作年代の下限が分かっただけでもかなりのみッけもんです。

 詰め物を入れ直します。
 元の詰め物は固定がユルユルだったうえに,ピッチもかなり合ってなかったようなので,そのへんもついでに多少なんとかしておきたいところですが----ま庵主,笛専科じゃないんで,キッチリとはいきますまいが(汗)

 新しい詰め物はコルク。

 コルクは管内に少しユルめにおさまるよう削り,和紙を巻いておさめます。何度か軽く吹いてみて,位置を探りながらピッチを整えたら,管に触れている縁の部分に唄口から,溶いたニカワを筆で挿して和紙に吸わせ,固定します。
 最後に,反射壁になる面全体にニカワを刷いて,管尻から挿した棒の頭でトントンと軽く叩き,表面を平らに整形したら出来上がり。
 あとはしっかり乾燥させてから塗るだけです。

 固定するまでの調整がラクなのと,紙を丸めただけのものだと,塗料を吸っていつまでも乾いてくれないことがありましたので,庵主はこの方法でやっていますね。

 さてこれで残りは表裏塗り直すだけ。
 一日一塗りで,塗った後は何もできませんから,この間にお飾りにも手を入れておきましょうか。
 前回書きましたように,この笛管尻のお飾りは欠けてしまっています。これは「使ってる」うちどっかにブツけて欠けちゃった,とかではなく。「作ってる」うちに材料が粗悪で欠けちゃったのを 「まあいいか」 ということでそのままにした(^_^;)もののようです。

 この製作者には,割れ面をすべすべに加工しておく,くらいの気持ちはあったようですが,そもそもこれを使わない,交換するといった選択肢は,精神面からも経済面からもハナから無かったご様子----まあなんてことざまぁしょう!

 というわけで,後代これを手にした貧乏性で神経質な者が,さンざに文句を言いながら尻拭いをする,という歴史構図となっております,がっでむ,つーよーにー(w)

 牛骨フレットの端材を使いましょう。
 ちょうどいいくらいの厚みのものを切って削って,欠けてる部分にエポキで着けて,磨きます。
 小さいうえに固いんでけっこうタイヘン。
 ----色味が違うので多少BJ先生感は否めませんが,まあこんなところでイイでしょう。

 そうこうしているうちに(とは言っても1ヶ月くらいかかっちゃってますのよ),管体の塗り直しも終わりましたのでさっそく試奏!----うん,これはダメだ。

 この段階では笛を「使用可能な」状態にしただけですので,塗装を削ったり表面を磨いたりはしたものの,唄口や指孔はほぼ製作当時に近い状態のままなんですが。

 唄口の加工が劇的にヒドいですね。
 笛表面に見えている孔の縁は比較的キレイなんですが,孔自体が内がわに向かってわずかに先細りになっている上,内壁がひどく凸凹しています。ちょっとおおげさに描くと上の図みたいな感じになっちゃってますよ----どんな加工具を使ったらこんなふうにできるのか,とりあえず鉄製の椅子に縛り付け両手両足に指締め具を噛ませてから尋ねたいくらいです。

 とりあえず,唄口の孔の縁を整形。
 内がわの凸凹を均し,孔の縁が図下の右みたいに,まっすぐ切り立ったカタチになるよう削り直しました。

 だいたい削れたところで組み立ててお外に出ます。

 頭尾のお飾りの取付けが少しユルくなってたので,持って歩いてもはずれないよう,薄い和紙をニカワで貼って調整しました。接着してはおらずきっちりハメこんであるだけですが,イザという時のメンテナンスを考えたらこのほうがイイです。
 公園に出かけて試奏です。冬なのでちと寒いですが我慢我慢----思いっきり吹いて確かめたいですからね。
 唄口はいちばん大事で繊細な部分です。
 実際に吹きながら,細い丸棒の先にペーパーを貼った治具でさらに調整してゆきます。

 元が劇的にヒドかったので,多少の粗が残るのはカクゴしてたんですが…唄口をざッと削っただけで,ビックリするくらいイイ感じで鳴るようになりました,イヤほんと。
 調整終了後,削り直した唄口や指孔の縁を塗り直し,あらためてオモテもウラもピカピカに磨いて完成です!

  ○ □ ●●● ●●●:合 4C-20
  ○ □ ●●● ●●○:四 4D+40
  ○ □ ●●● ●○○:乙 4E
  ○ □ ●●● ○●○:上 4F#-35
  ○ □ ●●● ○○○:上 4F#-20
  ○ □ ●●○ ○●○:尺 4G#-40
  ○ □ ●●○ ○○○:尺 4G#-30
  ○ □ ●○○ ○●○:工 4Bb-40
  ○ □ ●○○ ○○○:工 4A+45
  ○ □ ○●○ ○●○:凡 4B-5C
  ○ □ ○●● ○●○:凡 4B+25
  ○ □ ○●● ○●●:凡 4B+20

 全閉鎖「ド」のいわゆる 「ドレミ笛」 ですね。
 チューナで測ると全閉鎖から第3音までの間隔が多少おかしいのですが,まあただ聞いてるぶんにはさほど違和感はありません。呂音での最高は ○ □ ○●● ●●● で5Cと5C#の中間くらい……ちょっと高めか…うーん,ピッチの調整,もう少しだったかな?
 ふだんは響孔をマスキングテープでふさいで吹いてるんですが,ひさしぶりに笛膜使ってみたらまあビビるビビる(wwほんらい明笛ではそれで正常)触れてる指や唇にけっこうな振動がくるぐらいです。
 清楽の楽器としてはちょっと使いにくいものの,ドレミ音階の明笛としては悪い出来ではないかと思われますな。


(つづく)

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