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長崎からの老天華(1)

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斗酒庵老天華に出会う の巻2021.1~ 長崎からの老天華(1)

STEP1 春一番が通りすがりのサッシの窓に当ってバラバラ

 ひさびさに長崎の楽器屋さんからの依頼修理。
 帰省中にわざわざ実家のほうまで届けていただき,まことに有難うございました。
 さてさて,では予備調査を----

 うわぁお………

 これはまた…見事にバッキリと逝ってますこと。

 糸倉の下半分がふッ飛んでバラバラになってますね。
 カケラもいっしょに入ってましたが,組み立てても完全に欠けちゃってる部分があり,完全には拾いきれなかったもよう。

 裏面にラベルがあったので製作者はすぐ分かりました----例によってカケラしか残ってませんが,これだけあればまあじゅうぶん。

 福州茶亭街・老天華,ですね。

 清楽流行期に名器として知られていた天華斎ですが。
 名人として知られた初代・天華斎の楽器は,時代的にもまだそんなに楽器が輸入されていなかったので,日本にもまあほとんど残っていません。現在「天華斎の月琴」とされているものの多くは,実際には2代目,3代目の輸出用の作でしょう。
 2代目王師良が改名して開いたのがこの「老天華」だと言われております。「天華斎」の名跡を継ぐ店なんですが,この2代目も3代目も「老天華」のほか,楽器により「天華斎」のラベルをそのまま使っていたようなので,ちょっとメンド臭いことになっております。(^_^;)
 うちでも23号,53号のほか,出自のアヤしいのも含めて何面か扱ってますね。そこから言えるのは----「老天華」はほかの天華斎エピゴーネン…天華斎仁記や玉華斎,清音斎や太華斎なんかとはレベルが違います。他同様大陸的な加工のおおらかさ(w)は見え隠れしますが,その先に見える技術力はたしかなもので,すなおに「上手い」と思える出来のが多いです。

 さて----いままで扱った老天華の楽器の多くは,棹や胴が唐木で出来てましたが,今回の楽器はどうも違うようです。

 糸倉の割れ目や棹なかごで,染料で染まっていないところを見ると,黄色っぽい木色をしてますね…はて,なんでしょう。
 そこそこの硬さはありますが,黒檀や紫檀ほどは硬くなく…桐よりは硬いな,サクラよりは軟らかそう,クルミとかクリくらいかな,センにも似てなくはない。

 今回の修理・出来具合の如何は,この材が何かが分かるかどうかというところが,一つの大きなポイントになりそうです。
 そのへん,知り合いにちょっとした木材マニアがいますので,この糸倉の欠片を送って,ちょいと調べておいてもらいましょう。

 庵主の前にも,何度か修理はされているようですが,どうもその修理がよろしくない。

 この糸倉のマズい継ぎ直しのあたりは論外として,フレットや板の接着面からは接着剤がハミ出てるし,表裏板の割レを埋木で処理しているのですが,ちゃんと手順を踏んでやってないので,その修理したところからかえって割れちゃってますね,ええ,バッキリと。

 胴体構造の補強や安定化をしないで,板だけやろうとすると良くこうなります。場当たり修理の最たるものですね。
 ただしこの楽器の場合,この表裏の板自体にも問題があります。
 柾目板が使われることの多い国産楽器に比べると,唐物楽器では「景色のある」板目の板が使われます。

 木目が見て面白いような模様になっちゃってる板ですよ?

 要はでッかい節があったり,成長過程で発生した事情のため,木目がひねくれたり複雑に入り混じってたりしてるわけです。
 こういう板はもともと「暴れる」----極端に反ったり割れたり縮んだり歪んだりすることが多いのです。
 さらに,唐物楽器は国産の月琴にくらべると表裏板の矧ぎが少ない。
 たいていは板3~4枚くらいで構成されていて,真ん中に大きな板を一枚,左右を小板で埋めるという構成になっているのですが,いちばん「景色のいい」板が真ん中に来ることが多いわけです。

 暴れん坊がいちばん大きくてど真ん中に…どうなることかは火を見るより明らか。

 ですので,こういうのを修理するときには,その壊れた原因が,事故によるものなのか楽器の構造や工作によるものなのか,あるいは板自体の質のよるものなのかをきちんと調べてから,処置を考える必要があります。
 単純に「割れたから埋めればいーや」てな場当たりをすると,こんなふうにせっかく「修理した」箇所がむしろ次の故障の原因になり,かえって楽器の寿命を縮める結果になったりもするわけですねがっでむぷなーにぃ。

 あとはこれですかね----

 棹を抜いて胴を振ったら出てきましたよ,ええ,ニョロリンと。

 月琴のイノチ,響き線も脱落しております。
 根元からポッキリですね。
 胴から出てきたときの様子が,カマキリのお尻を水に漬けた時といっしょだ,と思ったのはナイショです。(w)

 蓮頭はけっこうきれいな縞黒檀の板ですが,明らかに後補部品ですね。元の部材が残ってなかったのか,あるいはとくに真似する気もなかったのか。
 天華斎や老天華に付いているものとは形も意匠もぜんぜん違ってます。

 山口は紫檀製。ですがこれも形状や大きさが合わないので後補のものでしょう。

 糸巻は4本残っており,そのうちの2本はおそらく材質からも加工からも天華斎のものではないかと思えるのですが,その2本にも大きさや加工にちょっと違いがあり,同じ楽器のものとするには少し疑問が残ります。
 あとの2本はおそらく琵琶か何かの糸巻を削って似せようとしたものじゃないかと。写真の1本はまあこれなら,ってくらいの加工になってますが,もう1本はヒドいですね,形がめちゃくちゃ…こりゃあちょっと使えそうにありませんね。

 糸倉は----まあどうやっても,オリジナルを継いでどうにかできるようなレベルではないので,別の板で作ってすげ替えることになりましょうな。
 大きな作業が必要そうな箇所はいまのとこそこくらいですが,ちょっと見にも前修理者がイロイロとやらかしているらしい様子がアリアリと分かるので,おそらくは前修理者のやらかしをいかにリカバーできるかが,今回の修理作業がどこまで上手くいくかのポイントとなろうかと。
 全体に,かなりヒドい状態ではありますが,主要な部品はだいたい揃っていますし,いちおうカタチも保たれています……まあなんとかなりましょう,なんとかしましょうよ。(www)

 ----といったところで,今回はここまで。



(つづく)


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