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長崎からの老天華(6)

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斗酒庵老天華に出会う の巻2021.1~ 老天華(6)

STEP6 Wohl mir,daß ich Jesm habe.

 前回「桶」まで行った胴体。

 この状態で表板を叩けば,うちわ太鼓くらいには音が出ます。
 その前までの段階は,部材各個をバラバラに補修していただけなのですが,ここからがそれを "楽器として" 再生するための作業になるわけですね。

 この時点ではまだ,表板と輪っかになった側板がくっついてるだけで,内桁は作業上,その胴体の形状を保つためにハメこまれているだけです。
 国産月琴では表板が完全な平面となっている例もあるのですが,月琴の表板というものは,この内桁によってごく浅いアーチトップ,ラウンドバックになっていることのほうが多いのです。

 一般に,月琴の内桁は両端より真ん中が1~2ミリほど太くなっています。

 これを平坦な表裏の板で挟むと,桐板は柔らかいので真ん中がわずかに持ちあがります。これで側板と表裏板周縁部との接着がしっかりしていれば,平面の板を平面に接着した時より,板にテンションがかかる----すなわち,より 「響きやすく」 なるわけです。

 この工作の欠点は二つ。

 ひとつは,それなりの工作精度が必要なこと。盛り上げすぎるとそもそも組みこめないし,浅すぎるとあまり効力がない。接着も上手くないと板がはがれて意味がないし,板の性質も読みつつ,ほどほどのラインを見極められなければなりません。
 ふたつに,当然のことながら板に負担がかかるので割れやすくなります。ただこれも,元の工作の意図が理解できていれば補修は容易ですが。

 ----で,原作者のそういう「意図」がまったく理解できてなかったのが前修理者。

 最初見た時,板の真ん中,逆にへこんでましたからね。
 内桁が剥離したのをへっつけ直そうと,ニカワ流しこみまくったうえに,何かやたら重たいものを載せてムリヤリ接着したんでしょう。
 おかげで剥がすのがタイヘンでした。

 原作者の意図は分かりましたが,原作者が思っていたより板の性質がヒドかったらしく。例の節目集中地帯は板が痩せてヘコんでしまっており,内桁を戻すと,ここにだけスキマができてしまいます。

 というわけで内桁を戻す前に一手間。
 ちょうどスキマができるあたりに薄板を接着,整形して表板のヘコみに合わせます。

 スキマはわずかなので,何もせんでもまあ,前修理者みたいにニカワを盛ってへっつければムリヤリにでもへっつくのでしょうが,この単純な構造の楽器で内桁は楽器の腰骨背骨。ここは少なくともカンペキにくっついていてくれないと,構造や音への影響が大きすぎます。

 内桁が接着され,胴体の構造がまずまず安定しました。
 補強板や内桁の端を側板と面一にし,表板の板縁を整形します。
 これであとは裏板をお迎えすれば,本体はほとんど完成と言っても良い状態になるんですが,その前に棹の組み付け調整をします。

 工房に来た時,棹なかごの先端には前修理者が貼りつけたらしい桐板製のスペーサがベタベタと貼られていました。組付けるとこの楽器の設定としてはちょうどいい角度になっていたので,ここはかなり苦労して丁寧に調整したらしい様子が見て取れました----が。

 状況を確認するためスペーサを剥がすと,オリジナルの部分の先端が厚さ2ミリもないくらいになっちゃってます。さすがにこんなに薄くなると強度的な問題が生じてきますねぇ。なにせここは弦圧に対抗する棹を支えるところ,それなりに力のかかる箇所ですから。
 そもそもここまで削るくらいなら,はずして角度を変えて再接着するか,いッそ別材で作り直しちゃうほうが正解なのですが,角度を修整するほうにばっかり気が行って,そもそもこれがどういう部品なのかを忘れちゃったんでしょうね。

 端材箱にあった針葉樹材の板で作り直します。
 前修理者がオリジナルをかなり削っちゃったので,元の寸法の目安がたてられません。

 まずはかなり大きめに作り,ここから実物合わせで調整しながら削ってゆきましょう。

 これらと並列で進行ですが。
 糸倉に新材を入れたので,棹本全体を染めてこれを目立たなくします。まあ演奏するのが目的だけなら,糸倉がまっちろなままでも問題はないのですが,さすがにそれも可哀想な気がしますしね。

 まずは色の付いてない糸倉部分を下染め。
 ついで継ぎ目の目立つ指板部分は黒檀の薄板を貼って隠します。
 端材入れからマグロ黒檀の薄板が出てきました。以前二枚に挽き割ったうちの片割れですね。多少板裏に問題があったのですが,今回は強度の要らない化粧板なのでパテなどで修整して使用します。

 指板がくっついたところでこれを整形。
 棹全体を染めてゆきます。

 あるていど調整が終わったところで,棹に延長材を接着します。
 オリジナルの延長材と同じく,前修理者がはりきって削りすぎちゃったらしく,棹背がわの基部にスキマができちゃってましたのでスペーサを入れることにしました。
 最終的には黒染めになるので,指板に使った黒檀の端材を入れます。

 いつもだと更なる微調整に苦心して前修理者みたいにスペーサ貼りまくるところなんですが。今回庵主の加えたスペーサは,棹全体の角度調整のために内桁の棹孔に入れた一枚と,指板を貼ったぶん棹を下げるための一枚だけで済みました。このあたりからも原作者のもともとの作りの良さが見て取れますね。前修理者がやらかす前の状態だったら,この楽器は糸倉以外は基本的に 「一度バラして組み直す」 だけでほぼ直ったはずなのです。

 棹オモテは表板接合部の端と面一,棹背がわにもスキマなし。
 中心は楽器の中心とほぼ一致,山口のあたりで背がわに3ミリの傾き,とほぼカンペキ----このあたりはおそらく原作者より無駄に精密精確な工作,だってニポン人だもの。(w)


 棹と胴体の調整作業が終わり,これ以上加工が必要なくなったところで,さらに染めを進めます。この時点で新材の糸倉もオリジナルも真っ赤っか,どこからがナニなのかほぼ判別つかなくなってますが,シャア専用月琴を作るわけではないので,黒染めして唐木のフリをさせます。

 うん…なるほどね。

 原作者が唐木の代用としてこの材(ラワンの類)を選んだ理由の一つが分かりました。

 この木,こうして染めると表面の風合いが唐木----紫檀や黒檀の類----にかなり近くなるんですよ。
 楽器を実際に手に取らなきゃ分からないレベル…ううーん,老天華のレギュラー品はタガヤサンなど重たい木で作られてますが,工作技術が高く,胴材なんか最大厚が5ミリあるかないかの薄々なので,棹の部分以外は,重さでも分からない。全体がオリジナルの半月くらいの色(右画像周縁や中央部分みたいな色)に染められてたらもうダメでしょうね。

 というわけで庵主は原作者の意図を汲み,この楽器全体を(一見)唐木製みたいに仕上げてゆこうと思います。(w)

 うちに来た時,棹には紫檀製の山口が付いてましたが,高さも足りないし形状も唐物の一般に合わないので,後補部品だと考えられます。

 古い唐物月琴の山口は国産のものと比べるといくぶん背が高く,左右がなだらかに広がる富士山型になっています。端材箱から唐木の角材を引っ張りだし,ギコギコと削って1コ----あら,この材料,紫檀だと思ってたんですが,タガヤサンだったみたいですね。

 黒染めの終わった棹や小物類の表面に亜麻仁油を染ませます。
 二日ほどおき,油が乾いてから柿渋を塗って仕上がりですね。

 再組み上げの時が,刻々と近づいてきていますねえ。

(つづく)


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