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長崎からの老天華(5)

hirano5_05.txt
斗酒庵老天華に出会う の巻2021.1~ 老天華(5)

STEP5 大陸的オーラキャノン

「おぅ,徳,なにィ怒ってやがる----

  ナニ,胴材の裏がわがガサガサだぁ?
 板ぁつけちまえば,どうで見えねくなるとこじゃねえか…
  それが "大陸的おおらかさ" ってェやつよ。
 ケッ…いッつも考えすぎなんだよ,手前ェわ!
  ちょいとケバだってるてェくれェで,
   何でもかんでもツルツルにしやがるもンだから
 見ねぃ,手前ェの嬶ぁのあの面まで
  カンナかけたみてぇに凹凸がなくなってるじゃねぇか。(w)

 貞吉…お前ェもか?

 ナニぃ,内桁の板がヘニョヘニョだぁ?
  気にするねぃ,それが "大陸的おおらかさ" ってェやつよ。
 そいつぁ内がわでつッぱってるだけのシロモノだ,
  端から端までとどいてりゃまあいいってもんさ。
 へッ!お花坊にもとどかねえおめぇのヘニョヘニョよりゃ,
  なンぼかマシってもンよ!

 それで使えるんだからぁ気にするねぃ!!!」

----と,いうように。原作者の多少の工作の粗は "大陸的おおらかさ" の名のもとにスルーしてゆく庵主ではありますが,一つ一つは細かいながら日本人のビ・イシキやらショクニ・ンコンジョ~やらに微妙に突き刺さるところのある次第で。 "大陸的おおらかさ" が3つぐらい続くと,原作者に一発 "大陸的オーラキャノン" をぶちかましてやりたくもなってまいります今日このごろ。

 ともなん。
 前段階として楽器を完全分解,前修理者の所業を剥ぎ取り削り落とし。楽器をひとまず前修理者の 「修理(w)」 がおよぶ以前の破損状態に近づけ,ようやく 「修理(マジ)」 のできる地点にまでたどり着いたのですが。
 これまでは前修理者を一方的にボコる(言葉責めも含む)だけでしたが,ここからはいよいよ,原作者とのガチ・ドツキ合いへとまいります。

 まずは引き続き 「板を継ぐ日々」----

  そもそも何でこんな板使った!?(右ストレート,顔面)
   見た目がキレイだったからじゃッ!!(右フック,脇腹)

 ぐッ…地味に体力削ってきやがる。
 月琴の分解修理において,もっとも大切ですべての基準となるのが表板です。なにせここから音が出るわけですからね。よもオロソカにはできませぬ。
 性質の悪い節目のいっぱい入った板目の板とはいえ……なにせ百年以上前の中国の桐板ですからね,オリジナルで残せるならぜひ残しておきたいところです。前回,板の変形の原因かつ中心となっていると見られる一帯を,一度もぎとって戻すという手で処置しました。板が壊れる前に壊れるところからあらかじめ壊してしまおう,というかなりな荒療治ではあったのですが,現在この中央の板は前よりずっと安定した状態で,作業後の変形も従前とくらべればはるかに小さくなっています。

 ここからも引き続き,この不良板をさらに更生させていきましょう----まずは前回処置した場所のすこし上,大きなカケがあります。節がポロっとはずれちゃったんでしょうね。木端口にかかっており,矧ぎ直しの際の障害となりますので,ここは桐板の端材で埋めておきます。

 左右の小板もふくめ,補修の多かった箇所の裏と,内桁や側板との接着部分にあるヘコミやエグレは,木粉粘土で埋めエタノで薄めたエポキを染ませて樹脂強化しておきます。

 矧ぎ面を調整していよいよ矧ぎ直しです。
 例によって,ふだん作業台に使っている板に角材や太ゴムをわたし,臨時の矧ぎ台とします。

 そして一晩。矧ぎ直し自体は上手くいったんですが,もともと板の厚みがかなり違っていたようで,左の小板との間に段差ができてました。

  板の厚みくれェそろえろやッ!!(左アッパー,空振り)
   くっついててたんだからエエやないかッ!!(右クロス,顔面)

 うぐッ……パテで誤魔化すにはちょっと広範囲なので,へこんでる一帯に板を貼りつけてくぼみを埋めます。
 板オモテはちょっとした段差やヘコミがあっても 「板の景色」 で誤魔化しが効きますが,板ウラのヘコミや段差はわずかなものでも内桁や側板の剥離の原因となり,楽器の構造に大きな影響を与えかねないのです。板ウラを平坦に均しながら,さらに慎重に,細かなヘコミやエグレ等の問題箇所を処理します。

 板ウラが仕上がったら,側板を貼りつけてゆきましょう。
 その側板ですが----そろえてみるとなんかずいぶんガタガタしてますねえ。この部品,基本的には四つとも同じ形状・寸法のはずなんでですが…

 うえ,幅が最大で1ミリくらい違っちゃってますよ!

  てめェ,なにしてくれんのんッ!!(怒りの右フック,顔面)
   ぺッ…なかなかイイ一発だったぜ。(ガード,失敗)

 …これはもう大陸的オーラキャノンかますしかないようでつね。

 擦り板で削って,高さをきっかりそろえました。神経質でもイイ,だって,ニポン人だもの。

 板裏に新たな楽器の中心線を引き,それに合わせて天の側板から接着してゆきます。例の節目の部分が原因だとは思いますが,この板,左右に1ミリ程度は縮んでますからね。
 いつもですと,完全に測り直すところから始めなきゃならないんなんですが,今回はありがたいことに,板端の上下に原作者が打ったと思われるオリジナルの中心の目印が残ってましたので,それを参考に板の収縮による誤差を考えた上で,若干の修正を加えて位置を定めました。

 天の側板がくっついたところで,左右,最後に地の側板と接着してゆきます。前修理者が手掛けた時には,四方の接合部に1ミリ程度のスキマができてたようですが,イチから組み直したら,ほぼスキマなくピッタリと噛合いました。まあニポン人の目から見ると処々に雑なところはあるのですが,百年経ってこうなってるということは,原作者の木を見る目や部材の工作技術自体はかなり高かったという証明ではあるのです。

 四方の側板がつき,胴は「桶」の状態になりました。
 この時点で四方の接合部や内桁はまだ接着されていません。
 次に,四方接合部に補強の板を接着します。補強板は桐板で,接合部の内がわの形状に合わせてそれぞれ整形します。

 まず接合部の木口にニカワを落として行き渡らせ,胴周りに太ゴムをかけまわして軽くしめつけます。つぎに補強板を裏がわに貼りつけ,Cクランプで側板の表裏から圧着。
 これで胴体の輪っかが一つになりました----いよいよ "楽器としての再生" が,はじまります。

(つづく)


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