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松音斎(2)

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斗酒庵松の葉音のすゑに聴きゐる の巻2021.3~ 松音斎(2)

STEP2 泣いて馬謖を切りました。(二人目)


 うえーん。

 虫食いの被害状況確認のため,保存状態のいい胴体に刃物を入れた依頼修理の松音斎。
 原作者の接着が上手く,必要最小量のニカワしか使われていなかったためか,虫食いの被害は数多いもののどこも限定的で,板の接ぎ目や板と胴材の接着面が浅く食われているていどであったようです。
 外見はキレイだがじつは中身がスカスカくらいの最悪の結果もありえたので安心する反面,このくらいの状態だったなら,ここまでせんでも良かったのにいぃ!ああ,カンペキなオリジナル状態の胴体ぃ!----と悔やむ古物愛好家の庵主でもありました。

 ともあれ----

 損傷の詳細が判明しましたので,あとはその補修と調整,そして組み直しを粛々とこなしてゆくだけですね。

 まずは上桁まではずし,桶状態にした胴の構造補強から。
 側板四方の接合にニカワを流し込み,胴にゴムをかけて再接着。
 もともと工作が良く,木口同士の接着面はまさに 「カミソリの刃も入らない」 ほどの精度で擦りあわされてますし,各部材もだいたい寸法がそろっているので,裏がわには段差もあまりありません。
 今回接合の補強は和紙を重ね貼りするていどで良いようです。

 すこしゆるめに溶いたニカワを染ませ,硬めの筆でたたくようになじませながら,目を交差させて3枚。
 薄めの和紙ですが,これだけでもかなりの強度になります。
 接着剤がニカワなので,防虫を兼ねつつ柿渋を塗布して補強。さらにその上からラックニスを軽く刷いて完成です。

 接合部の補強と同時に,響き線のお手入れもやっておきましょう。
 前回も書いたように,多少のサビは浮いているもののかなり良い状態です。

 表面の錆を丁寧に落し,柿渋を塗って黒錆の被膜を発生させます。
 塗って10分もしないうちに真っ黒になりますね~,カガク反応スゴいです。
 赤錆の粉とかこの黒汁が板に落ちるとエラいことになりますので,下には紙を敷いて作業をしています。桐板に使われているヤシャブシは鉄との反応が良い----良すぎますからね。ゼッタイ落ちないシミがついちゃいますよ~。
 数日乾かしたら,響き線全体と留め釘にラックニスを刷いて完成です。

 つぎに上桁
 分解の時に少し傷ついたものの,オリジナルも残ってはいますが----これあまりにも質がアレなので,手持ちの材で新しいのを作って交換します。
 オリジナルは厚さ8ミリ,松の板のようですが,腐ってもいないのに木目沿いに指でちぎれるくらい柔らかいというか,やたらスカスカした板です。板にする時の乾燥や保存が悪かったのか,もともとかなり若い樹----間伐材か何かから採った板だったとかかなあ。

 前に月琴ラックを作る時に使った松板がまだあるので,それで作っても良かったんですが----ここを少しいい材で作った時,この楽器の音がどう変わるのかに少し興味がありましたので,広葉樹のカツラの板で作ってみました。

 新しい上桁を取付け,胴の構造が固まったところで,いよいよ表板の虫食い退治です。

 表板は,板裏から確認できるだけで11枚接(は)ぎ。9箇所ある継ぎ目のうちじつに6箇所が食われており,そのうち3箇所は接ぎ目から光が透けて通るくらいスキマが開いちゃっています。

 食害の左右への広がりが最も大きい,左から三番目の継ぎ目は接ぎ目を中心に左右に5ミリほど,完全に板の上下を貫通している右から4番目の接ぎ目は,左右1ミリづつ切り取りました。
 そのほかスキマにはなっていないがしっかり食われちゃってる中心線あたりなど,数箇所を切り取ります。

 この感じだと,今回手を付けていないほかの接ぎ目も,おそらくは何かしらどこかしら食害を受けてるとは思うのですが,現状強度上の問題がなく,ズボっと孔があきそうにないようなところ以外は,とりあえずそのままにしておきます。そちらはいづれ割れ目が生じたり,ズボッと逝った時……未来に託しましょう。

 さて,掘った穴は埋めねばならず,あいたスキマはふさがにゃなりません。
 まず材料ですが----このところの修理で古い桐板の長い寸法のものが払底してしまいましたので,ネオクでちょちょいと調達。
 古い桐箱ですね。椿椿山なんて書いてありますが,もちろん中身は空。

 月琴の修理で使う桐板は,幅はそんなに要らないですからね。
 このくらいでじゅうぶん。箱一個あればしばらくだいじょうぶなんですが,なんかまとめ売りで…誰か桐箱要りませんか?(www)
 これをバラして切り刻みます。

 各補修箇所に合わせて整形し,ニカワで接着。
 桐箱の板は月琴の表裏面板より若干厚めなので加工がしやすいです。
 一晩置いてハミ出てる部分を削って整形します。

 裏がわもキレイに!
 ふさいじゃえば見えなくなるところですが,こういう部分こそが大事だってことはいつも言ってるとおりです。

 裏板を貼りつける前に,棹と胴体のフィッティングをしておきましょう。
 ふつうに挿してみますと,表板の水平面に対して指板の片側がわずかに下がってしまっているのが分かります。

 まあこういう時まっさきに疑うべきは新作した上桁の孔なんですが,今回の場合,そちらは問題ナシ----原因は 側板の棹孔の加工不良 ですね。2枚目の画像,丸で囲んだ右上の奥のほうが出っ張ってるのと,ガッチリ測ってみましたら,左下の角も反対がわより0.5ミリほど高くなってました。

 楽器を道具として使用するがわからしますと,こういうところが演奏上いちばん大切な部分なのですが,松音斎も松琴斎も,木部の加工や接着の技術はきわめて高いのものの,楽器がカタチになってからの,こういう 「調整」 がきわめて雑です。このあたり国産月琴の作者には多いですね,「仕上げ」は丁寧 ですが 「調整」が雑----月琴を作っている本人が「楽器としての月琴」のおさえるべき「ツボ」をちゃんと勉強していない,って感じですね。


 平行四辺形だった棹孔を四隅90度のカンペキな長方形にしますと,そのぶんユルくなっちゃいますので,棹基部には新たに突板を何枚か貼って調整。そのほか延長材とのV字接合部分が片側ハガれていたので再接着しておきます。

 あちこち調整・補修しながら再び挿してみますと,表面板の端と指板は面一になったんですが,こんどは基部の棹背がわのあたりにすこしスキマができるようになりました。

 この楽器,前修理者が基部を一度調整しており,スペーサのところから見るに,最大で1ミリ近くも削りこんじゃってるみたいですが。ここまでの状況から考えるに,音合わせの障害やフレットのビビリの原因を,この棹基部の加工不良とみて胴とピッタリ噛み合うように加工してしまったものじゃないかと----でもたぶんそれ,上で修理した延長材のハガレが原因だったようですね。
 ここがハガれてますと,糸を張った時の弦圧で棹頭が持ち上がります。これで音合わせをすると,糸巻を握りこんでる間は音が合ってても,手を離すと棹が動いて音がズレますわな。また楽器全体がわずかに弓なりになってるので,中音域でビビリが出たり音がミュートしちゃったりもしますね。

 へんな加工痕があるな…とは思ってたんですが。工作は実に丁寧できれいに仕上げされており,前修理者はここの調整にかなりの労力と時間をかけたようではありますが無駄でしたねぇ----まあここは,この楽器を知ってるとこういう場合真っ先に疑う箇所なんですが,これもケーケンがない場合しょうがないかもしれません。


 先に調整した指板と面板の接合部に影響が出ないよう,そこを支点として棹全体を棹背がわにわずかに傾け,前修理者の加工した接合部が,胴材とぴったり密着するように調整します----難しいことを言ってるって? やることは簡単なんですよ。上桁の孔の表板がわの辺を少し削って,削った分のスペーサを反対がわに埋め込むだけのことです。


 なんやかんやでこの作業,けっきょく今回も足かけ三日かかりました。

 その甲斐もあり,現状棹の出し入れはスルピタ。
 棹基部にも360度スキマのない見事な密着ぶり。
 ここの調整だけで,楽器としての操作性や音色がずいぶんと違っちゃいますからね。毎度のことながら時間をかけてしっかりやらせていただいております。

(つづく)


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