« 福州清音斎2(3) | トップページ | 福州清音斎2(5) »

福州清音斎2(4)

POPE01_04.txt
斗酒庵,清音斎と再会す の巻2021.5~ 清音斎(4)

STEP4 異世界しめつけ上級者の冒険

 さて,それでは楽器の再生に向け,修理作業を本格化させてまいりましょう。

 まずは過去の損傷や上物の除去,および板の剥離の作業で傷んだ部分の補修です。

 裏板や側板の接着部を中心に,エグれたところに桐塑を盛りつけてゆきます。
 フレークタイプの木粉粘土の払底により,前回くらいから使い始めた桐塑ですが,慣れちゃうとまあさほどの違和感もなく,前と同様に作業が出来ますね。

 桐の木粉を寒梅粉で練って作る桐塑は,木粉粘土にくらべると粘着力が若干劣るのですが,粉粘土より粒子が細かいので,乾燥後の整形では前よりもっと精密なことが可能になりました。粘着力のほうも,どうしてもという時は少量の木工ボンドを混ぜると,木への食いつきがかなり良くなりますね。作業箇所にあらかじめニカワを塗っておき,乾かないうちに盛るという手も有効のようです。

 あとでエポキを染ませますので,盛った後の整形は軽く平らに均す程度にします。エタノールでエポキをゆるめたものを細筆で塗布,一晩以上置いてから整形してゆきます。
 一度盛った部分を修整する時も,エポキを染ませる前なら,ちょっと水をつけただけで簡単にハガせるというのもいいですね。

 つづいては天の側板の(楽器正面から見て)左の接合部
 ここは裏板を剥がす前からヒビが入ってガタガタしてたんで,エイッとモギとりました。
 左側板はほとんどはずれてましたし,板の収縮による歪みも相当なものだったでしょうから…このモロい接合部分への被害がこの程度でむしろ安心したというか----

 破断面の中心に2ミリの孔をあけ,竹棒を挿して接着します。接着面がせまい割に,構造上力のかかる箇所なので,ここはエポキを使います。
 破断面をエタノールで拭い,少し染ませてからエタノが乾く前にエポキを少量,竹棒と孔にはたっぷりつけて押し込みます----このとき取付け位置を微調整できるよう,竹棒は孔より少しだけ細めに削ってあります。
 位置が固定されたら,破断箇所より少し大きめの範囲で,エポキで裏面に薄い和紙を貼りつけます。

 硬化後,最後に表がわにハミ出たぶんを軽くこそげて完成です。
 裏面に和紙を貼るのは薄いエポキの層を作って補強するためですね。ペーパーで表面を少し荒らしておくと,この上からニカワもつきます。

 接合部の補修も済んだので,いちど側板を戻して仮組みしてみましょう。

 剥離していた(楽器正面から見て)左の側板が全体に1ミリほど板の縁から飛び出てるのをはじめ,地の側板が少し伸びてしまっているようです。板の中央を板縁に合わせると,左右の接合部が少し浮きあがってしまいます。

 どちらもおそらく,原因は表裏の板の収縮でしょうね。
 事前の計測でこの楽器の胴は,縦が350横が345と横幅が5ミリほどせまくなってました。もちろんこの差5ミリがぜんぶ縮んだ結果ではないでしょうが----表裏ともこれだけでっかい節目のある板が使われているのですから,1ミリや2ミリ小さくなっちゃってても庵主は不思議に思いません。逆にこれだけ問題の出そうな板を使ったうえ,数十年の放置の結果がこの程度,というほうがむしろ僥倖と言えるくらいかもしれませんね~。
 現状の破損や部材の変形への過程を推察するなら,おおよそこんな感じかな----

 1)板が左右方向に縮む。内桁は板ほど縮まず。
 2)左側板が内桁に押し出されるようなカタチとなって,板から剥離。
 3)地の側板が左右側板に引っ張られ,薄い接合部付近が伸びた。

 地の側板の全体が伸びず,接合部に近い左右だけが変形しているのは,ここに棹がささっていたからもありましょう。

 とりあえず,このまま組み合わせても合いそうにはないので。まずは板の縮んだぶん内桁を少し削って左側板が板の縁におさまるようにしますね。

 左側板がおさまるようになったところで,内桁の表板から剥離している部分を再接着。ついで,ふたたび仮組みし,側板の変形部分を矯正します。この時点では,剥離していた側板はまだ接着してません。

 板縁から浮いてしまっている部分の内がわを筆で濡らし,さらにお湯を含ませた脱脂綿を貼りつけてゴムをかけまわし,しめつけておきます。
 一気にやるととつぜんバッキリと折れたり割れたりする可能性があるので,時間をかけて何度も,ゆっくりと修整してゆきましょう。
 まあこの手の変形の原因は,まま材料の質自体に因るところもありますので,「完全に元通りにする」というのは難しいですから。ハミ出しが0.5ミリ以内……うまく0.2ミリくらいになってくれて,範囲が狭ければ,いッそ削って均しちゃってもいいかもですね。

 側板の矯正作業中は胴体に手出しが出来ませんので,ほかの部分を進めておきましょうかね。
 まずは,なくなっている糸巻1本の製作。
 最初のほうの回で書いたように,唐物月琴の糸巻は通常,こういうカタチをしています(下左画像)----

 これに対し,本器についていた糸巻は国産月琴と同じ,角ばった六角面取りのタイプでしたので後補が疑われたわけですが,後であらためて調べてみますと,流行晩期の楽器には,唐物であっても,これと似たようなタイプの糸巻(上右画像)が使われたりしてたようです。
 今は天華斎仁記の作じゃないかと考えている25号(しまうー)についてた虎杢の糸巻も,木目は派手ですが,同じ六角面取り,無溝でしたね。

 また糸孔の大きさや面取り部分の表面処理の加工が,日本の職人さんの手と少し違ってますので,これはこれでオリジナルと考えてもよさそうです。

 というわけで,いつもの通り,ちゃっちゃとめん棒を削ります。前回の余った素体で一度作り上げたのですが,いざ付けてみるとほかの3本と長さが合わず,もう1本素体から作り直すことになりました。
 オリジナルの糸巻,測ってみたらいちばん長いもので13センチ近くあったんですよね。ふだん36センチの長さのめん棒を3等分して素体を作ってますので,1センチ近く足りなかったわけです。まあ今回必要なのは1本だけなので気はラク。

 次に山口(トップナット)
 もともとついてたコレ(下左)は,材質や糸溝の加工などからして,おそらくオリジナルの部品だったとは思うのですが。ギター化魔改造を目論んだらしい前修理者の手により,高さ6ミリくらいに削られちゃってますのでさすがに使えません。
 唐物月琴の山口は,国産月琴のに比べるとやや高いことが多いので,とりあえず13ミリで作っておいて,後で調整に際し必要に応じ削ってゆけるようにしておきましょう。

 材料はタガヤサン(鉄刀木)。むかし銘木屋さんでもらってきた切れ端で,割れ止めの樹脂も貫入してるような部分ですが,このくらいの大きさの部品ならじゅうぶん切り出せそうです。

 カマボコを縦割にしたカタチに削り出し,幅や高さを調整したら,次に左右の木口をなだらかに整形して富士山型にします。素材がちょっとアレなので,今回はエタノとエポキで樹脂浸透,強化してあります。

 同じ樹脂浸透を,弦の反対がわになるこっちの部品にもほどこしておきましょう。

 この楽器でいちばんグラム単価の高い部品かも----タガヤサン製の半月ですね。たびたび書いているように,この木はある日突然理由もなくバッキリ逝っちゃうこともある,あまり性質の良くない木材です。鉄のように硬いかわりに粘りがなく,とてもモロいのですね。
 とはいえ,タガヤサンの崩壊はたいがい,木の内部から発生します。樹脂を表面に塗ったくったくらいじゃあんまり意味がありませんので,ジップロックに入れて,エタノールで緩めたエポキの液に漬けこんでやりました。

 ポイントは口を閉じるとき,袋のほうを水に漬けるなどして,中の空気をできるだけ抜いておくことですね。あと半月本体にあらかじめエタノを滲ませておくのもいいかと。

 エポキの硬化時間にもよりますが,10~30分も漬け込めば良いです。硬化時間を越えて漬け込んでも,滲みこめなかったエポキがダマになってプカプカし出すくらいであまり意味はありません。細かい装飾のあるものだと,そうした樹脂の塊が付着して,後始末がタイヘンになりますのでご注意。また,素材がぶ厚かったり大きかったりする場合は,この方法だとちょっと無駄ですね。

 そもそも工場や研究所でやるような真空浸透法には遠く及びませんが,これでただエタノを塗りつけたのよりはなんぼか深く滲みこみますよ。
 あとは良く乾かして磨くだけ。「塗った」のと違って表面に層ができませんので,下地の木目やいかにも手作業といった細かな作業痕なんかはそのまま残ります----前々回の老天華(量産型)の半月も,あんなに虫に食われてなければこの手で再生したかったですね。
 ちなみにエポキだとこの後もちゃんと塗料がのりますし,表面を少し荒らしてあげればニカワでの接着も可能ですよ。

(つづく)


« 福州清音斎2(3) | トップページ | 福州清音斎2(5) »