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福州清音斎2(5)

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斗酒庵,清音斎と再会す の巻2021.5~ 清音斎(5)

STEP5 世界はスルピタのために,スルピタは世界のためにッ!!

 ゴムをかけ回し,位置を調整しながら,時折内がわから濡らして湿り気を足し,伸びた部分を矯正すること三日ばかり----
 ひどいところで2ミリ近くもあった側板のハミ出しも,だいぶんおさまりました。

 板が縮んだせいで合わなくなっちゃってた内桁も端を削り直し,表板から剥離してた(楽器正面から見て)左がわの部分もバッチリ再接着されてます。
 スキマがあってグラグラしていた右端は,桐板をはさみこんで止め,剥離していた裏板がわの木口面もニカワで付けなおしました。
 ついでに裏板の再接着が容易になるよう,切ったってわずかに飛び出ていた桁の両端を,少し斜めに削り落としてあります。

 側板を戻しましょう。
 まあ,そのまま組んだだけだと,まだあさーく板からハミ出ちゃうところもありますので,そこらは両端の接合部を調整して,なるべく許容範囲におさまるように再接着しました。接合部が単純に木口同士をくっつけたタイプだったら削るにしても足すにしてももっとラクだったんですが,例によって見栄えだけの凸凹継ぎなもんで,調整が少しタイヘンでしたね。

 Cクランプまみれで一晩。
 クランプをはずしたら,側板にかけまわしたゴムはそのままで,内がわから接合部の補強をします。
 上のほうで「見栄えだけ」と言ってるとおり,この接合部の工作は拙く。表面がわからちゃんと組み合わさって見えてるだけで,内がわはスカスカのスキマだらけだったりしてますので,そういうところは再接着の際,桐塑でスキマを埋め込んであります----遠慮なくベットリ盛られてますけどね,ここの桐塑には樹脂を滲ませていないので,濡らせばホレ,余分は布で簡単に拭きとれちゃいますのよ。

 思ったようなカタチになるまで,あるていど繰り返すことが出来る----桐塑の場合,パテのように硬化させる時にはさらに一手間必要ですが,「固める」と単に「詰め込む」工程の区別が出来るあたりは,木粉粘土と違って面白いですね。

 それぞれの接合部内壁に合わせて桐板を加工し,ニカワで貼りつけます。

 また一晩ほど置いて,接着の具合を確認したら,貼った補強板をできるだけ均等に薄く削りましょう。

 まあこのあたりは日本人しょくにんこんじょう的感性なんで,なにやら音響的な意味を大事に考えたうえとかいうことはありません。効能的にはただの小板をぺッと貼りつけただけでも,そんなに違いはなかろうもんですがね。

 胴体のカタチが「桶」に戻り,従前より安定した状態となったところで,棹のフィッティングに入ります----
 今回のはいつものと違って,棹茎が貫通してますからね。まずはふつうに挿してみて,あらためて現状どこがどうなっているのか調べてからにしましょう。

 表板の中心,円形飾りが付いてたあたりを基準とした時(月琴の表裏板は,内桁を中心とした浅いアーチトップ/ラウンドバックになっているので),棹の傾きは山口のところで背がわに約3ミリ----この点はこの楽器の設定としてほぼ理想値ですね。
 棹口にもお尻の孔にもそこそこスキマはありますが,前後左右へのグラつきはほとんどありません。

 ただこのぉ----内桁の孔がですね----

 見事にスカスカ。
 棹茎と触れているのは裏板がわの面だけ,ほかの3方向には5ミリ近くのスキマがあります。

 ここをこういう加工にすることについて,構造や音響の上で何らかの理由・利点があるものかどうか……二三日考えては見たのですが,まったく思いつけませんでした。(w)
 デメリットのほうはナンボでも思いつくんですけどね----
 たとえば,これだと現状,棹は上下側板の棹口だけで支えられているのと同じわけで----つまりはこれに糸を張れば,ほぼこの長い棹だけが弓なりになって楽器の構造を支えるということになりますな。清楽月琴は弦圧がそれほど高くないので,短期的にはそれでも問題はないでしょうが,まあそのうち逆サバ折りで四散しちゃいそうですね。
 そもそも共鳴胴の中心にこんな余計で不安定なスキマがあるということからは,ここで振動が止まったり,変なノイズの発生源になっちゃうだろうな~というようなことが容易に想像できるわけで……逆に何か,それによって特定の倍音とか,邪神を召喚するための特殊な音波を発生させるといった目的以外があったなら別ですが。
 ええ,もちろん。
 これを「楽器」として考えなければ,メリットはありますよね。
 流行のモノをひとつでも多く,効率よく,安く作るため,胴体と棹を別個に製作し,組み合わせて完成させるという工程の簡略化は,産業革命が起きてなくたって誰でも容易に思いつきます。
 ここですでに「箱」の状態になっている胴体に,別個に作った棹を挿した時,この内桁の孔が棹茎の寸法ギリギリだったら……孔のほうが修整できないだけに,ちょっとでもひっかかれば一発歩留まりになっちゃう可能性が高くなりますね。逆にこのくらいユルユルに加工しとけば,工作のバラつきがけっこうあっても,だいたいの棹は通るわけです。

 まあ,いつものように。
 「音」より経済的な理由のほうが優先されることの多い楽器ですんで,ケツロンとしてはたぶんこッちが真相だろうなあ----と。

 現在,楽器は裏板のない「桶」の状態になってます。
 製作時と同じように胴を先に完成させちゃった場合,内桁の孔は調整不能ですが,今ならナンボでも可能です。
 ここを通る棹茎をここで受け止めてやれば,弦の張力の負担も分散されますし,音響的にもむしろメリットがあります。ケーケン的に言っても,この楽器の音のヨシアシは,胴体がどれだけ 「キッチリした箱になっているか」 で決まっちゃうんですからね。

 内桁の孔のスキマには桐板を刻んで接着します。

 胴上下の棹孔のスキマにはホワイトラワンの薄板を。以上,胴体がわのスペーサの接着はすべてエポキ。内桁のなんかハズれたら困りますからね。
 一方,棹基部に貼りつけるほうはすべてニカワで。こちらは後でもけっこう調整しますんで。

 削ったり貼ったりで調整しつつ,棹の背がわへの傾きはそのままに,棹口には密着,指板部分と表板は面一に。抜き差しゆるぎなくスルピタを目指します。こちら大きなところはホワイトラワンの薄板,ブナの突板で微調整。

 いくらやっても外見的にはあまり反映されることない,地味~な作業ではあるのですが。楽器の操作性や音に最も影響の大きな部分ですので,例によって三日ほどかけて,地味~に完成……あ,これで終わりじゃないんですよ。

 胴体が箱になってからだって…何回も何回だって…アタシとアナタが,ぴったりスルピタになるその日まで……再調整してゆきますからね。(ヤンデレ的に)

(つづく)


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