田島真斎(2)
![]() STEP2 SAN値直月琴! ![]() さてさて…蓮頭の接着剤を見て,この後の展開が 「この先,呪われ島。」 と書かれた看板が海の中に突っ立っているのよりハッキリと見えてしまった斗酒庵主人です。「イヤな予感」はすでに「予感」を超えて現実になってしまっているようですが,作業を進めてゆきましょう。もうなるべくこのクソみたいな現実を見なかったことにしながら生きていきたいと願っています。そう,寧々さんのいる世界がボクの世界で,いまのボクは寧々さんのいる世界のボクが見ている夢の中のボクなんですあなかしこ。 棹はいまだ勇者を待つ聖剣のように,胴にささったまま抜けませんが,とりあえずはこのままで分解作業へとまいりましょう。 ![]() ![]() ![]() 左右のニラミと中央の飾りは,オリジナルと思われるニカワ接着だったので,いつもの手順で比較的かんたんにハガれてきました。 フレットと,この柱間にあった釣鐘型の凍石のお飾りの接着は……エポキですね。もう後補部品の接着は,ぜんぶエポキシだと考えたほうがイイようです。 エポキシ接着剤は無駄に強力ですが,粘性が高いため,そのままだと木材へあまり浸透はせず,こうやって硬い層になって接着物との間に残ります。棹先の蓮頭の場合と違い,胴表裏の桐板はきわめて柔らかな木材ですので,水を含んで柔らかくすれば,接着されているものをエポキの層ごと引きはがすことが可能----とはいえ,表面に被害がまったく出ないわけではないので,あえてやってほしいようなことではありません。犯人は見つけしだいフンコロガシましょう。 ![]() ![]() ![]() 最後に残ったのが半月……力のかかる大事な場所だけに,ここがエポキ付けだったらどうしよう,と思ってたんですが,さいわいなことにここも,接着はオリジナルのままのニカワ付けでした。とはいえ上にへっついてた薔薇のお飾り,通称「ヴェルサイユ」はばっちりエポキ接着。半月は桐板と違って硬く水通しの悪い唐木なので,さらに一晩濡らし,なんとかこそげ落とすことに成功。そいでもやっぱり,ちょっとキズがついちゃいましたよ----うぉのれ「ヴェルサイユ」! ![]() ![]() 表板の上物がぜんぶハガれました。 数箇所,エポキがこびりついてましたが,さっきも書いたとおり,ほとんど木地に浸透しておらず,固まって層になっていただけなので,後の始末は基本的に,板上に残った接着剤をキレイにこそげるだけ。木目に滲みこんで固まっちゃう木瞬に比べるとまだマシとはいうものの,こういう楽器に,ひとつ間違えれば取返しのつかなくなるような接着剤を考えナシに使うという行為には怒りと嘆きとフンコロガシしか覚えません。 一日二日乾燥させたところで,裏板をハガします。 それバリバリバリッ!----うぉ,なんと剥がれるごとにバラけてゆきますヨ。もともと割れの入っていた箇所もあり,虫食いで接合の弱ってた箇所もありましたが,見事にほぼ小板単位完全バラバラになってしまいました。そういえばこの作家さん,木の加工は巧いんですが,唯一板接ぎがあんまりなんですよね。なのにこんなに何枚も何枚も接ぐから…無茶しやがって。 さあ,いよいよ内部とご対面です! 抜けない棹は,いったいどんなことに----- ![]() ![]() ![]() くぁwせdrftgyふじこlp と,地下奥深くの闇宮殿から響くがごとき,人間の声帯では発音不可能な怨嗟の波動が,四畳半一間の部屋から,ほぼ数十秒間にわたり,超新星爆発のパルサーのごとく,全世界全次元の全方位方向へと発せられました。自分じゃ見れないけど,思わず血涙ぐらい流れてたかもせん。 テラテラですよテカテカですよ。 どんだけ塗ったねん。なんてモンつッこんでくれてんねん。 エポキシ接着剤の大盛り特盛,地獄盛り。 輝いてますね,光ってますね,青春ですね,そりゃ抜けませんわな(www) 思わず手に握りしめた五寸釘とトンカチと藁人形(エポキ樹脂入り)を下に置き,とりあえずはそのほかの内部構造の観察へとまいりましょうぐすん。 ![]() 内桁は2枚,材質はヒノキ。上下ほぼ正確にパラレルで,上桁には棹孔の左右に2つ,下桁には3つの木の葉型音孔が穿たれています。 ![]() ![]() ![]() 内桁の両端は上下とも,先端に向けわずかに厚みが削がれ,側板の溝にしっかりハメこまれています。 ![]() 板の左右両端,少し斜めになってるとこの真ん中へんに,ふつうの四ツ目錐であけたような小さな孔が一つづつありますが,何のための小孔でしょうね?----ちょっと分かりません。 響き線は1本,やや細めでほぼ直線。 前修理者がナニするまでの保存状態がよほど良かったのか,まったくサビは浮いてません。 基部の木片は単純な立方体か台形になってるのが一般的ですが,この楽器のはちょっと面白い形に削られてますね。側面は角ばらないようなだらかに削られてるし,はめてある側板の溝にもわずかにテーバーがつけてあります,凝ってるなあ。 直線の響き線の長所の一つは,弧線のに比べると調整がきわめて簡単で,基本つっこめばいいくらいなことなんですが,この楽器の線は細く反応が繊細なためか,直線にしてはかなり神経質に調整された痕が見受けられます。このあたりもさすがは真斎というべきか,現状でいつも庵主がやってるみたいに,楽器を演奏姿勢にしたときに最高のパフォーマンスが発揮できるような状態になってますね。 ![]() ![]() ![]() 側板はほぼ全面,内がわが波状に刳られています。おそらく三味線の綾彫りみたいな効果を狙ったものでしょうね。棹孔と四方の接合部の付近のみ,彫りがなく,やや平らに均してあります。材はサクラじゃないかと。 前にも書いたように,月琴の側板の接合部をこんなふうに凸凹継ぎにするのは,楽器の構造や材取りから言うとほとんど益も意味もなく,ほぼ製作者の自己満的工作に過ぎないのですが,さすがは内国博覧会受賞者----厚みの差による段差は多少あるものの,部材同士の接合はほぼ完璧。裏から見てもほとんどスキマがありません。 この工作,意味がないくせに技術的にはさりげなく高度な腕前を必要とされるので,そこらの作家さんの場合は,表面キレイに仕上がってても,裏がわから見るとスカスカでちゃんと「接ぎ」になってないことがほとんどなんですよ。これにはお見事,と言うしかない。 総じて基本的な構造は石田不識の楽器と同じなんですが,どこも加工がやりすぎってくらい丁寧ですね。 (つづく)
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