田島真斎(3)
2021.10~ 田島真斎 (3)
STEP3 あんしゅはさくらんしている。 うーん…うーん………1d100で振っても振っても出目が。 …(隠)ここにゃァむかし川橋さんってヒトが住んでなさってな。(与)カワハシさん。(隠)この川橋さんが,エロい!(与)エロいッ!(隠)で,近所の子供らがうちの前ェ通るたびに 「エロ川橋!エロ川橋!」 と囃したてたのが訛って「江戸川橋」。 ………はッ!………夢か。 あやうくギャグの暗黒面に飲み込まれてしまうところでした。 この数日で,上のような小芝居を夢に見させられ,夜中に爆笑しながら突然目覚め,むせ返って悶絶すること数度。 二面同時修理中の斗酒庵主人でございます。 そして,現実は悪夢よりもツラいのでありますよとほほほほ。 これでもかとばかりの大量のエポキシどろどろでネックが固定されていた田島真斎。 さすがにここまでやられちゃいますと,これを無事に引っこ抜く方法はありませんので,まずは---- ----ゴトリ。 ………やっちまった。 かァちゃん,オレ,とうとうやっちまったよ。 おいらの手は月琴の返り血で真っ赤っかさ。 というわけで,首ちょんぱした切断面にもエポキがこびりついてますのでこれをこそげ落し,棹孔が見えるように……うん,ここもみっちりエポキ。スキマもナニもありませんね。こりゃまあ,ほじくるしかしようがない。 つぎに,棹のなかごの胴内部に入り込んでる部分を取り除こうと,これを棹孔の内がわと内桁の上面二箇所を切断したんですが----ビクとも動きません。 両端たしかに切れてるのにね,ひっぱってもゆすっても,持ちあがりもしませんね。 とりあえず天の板の棹孔のほうから棹茎をほじって,なんとかひっぺがしてみましたら,まあなんと大量に塗られたエポキが流れ,表板との間に溜まって固まり,棹なかごを表板にがっちりくっつけてておりましたとさ。 hahaha…ヘイ,ジョージ,こいつァ何のジョークかな? 答えのないジョージの脳天に俺の44マグナムを突きつけつつ,挽き回しなどを使って二箇所の棹孔をほじくり直します。 さて,切り取った棹のほうは,表面に塗られていた茶色い塗料をこそげ落します。 はじめのほうの回で書いたように,もともとこの棹には,田島真斎のオリジナルにしては加工が粗いため,後補部品である疑いがあったのですが,ここまでの作業でさらにそのアラがいろいろと増えまして。 「疑い」はいまや「可能性」にまで到達しております。 さらにその「可能性」が「確信」にまで変わった理由がコレ---- (解説画像クリックで別窓拡大) 国産月琴では左右の糸巻が,糸倉を中心にそれぞれわずかに楽器前面に向かって突き出すかたちで取付けられるのがふつうです。この傾きは上下方向にもあるもので,補作の棹を作る時など庵主はいつもこの3Dの穴あけ工作に悩まされるのですが,対してこの楽器,左右の軸がそれぞれ前後反対方向に向かって突き出しています。すなわち片方の糸巻は楽器前面,反対がわは背面に向かって突き出してるわけですね----いかにも使いにくそうだなあ。 前も書いたとは思いますが。 田島真斎,という作家さんは,いくらなんでもこんな阿呆な工作をする人ではありません。 ここまでなんとかこの棹を修整して使おうと,あれこれやっていたんですが,この糸倉の工作でもって諦めがつきましたね。糸巻の角度自体は,軸孔をいちど埋めて開けなおす方法で修整は可能ですが,今回は糸倉自体がかなり細めに作られているのでそれもちょっと難しい。 そこでこうすることに---- 工作があんまりな糸倉を切り取ってすげ換えます。 前の糸倉も,全体のフォルムや軸孔の位置などはいちおうオリジナルを模していると思われますので,新しい糸倉は基本的にそれに準拠しましたが,真斎の他の楽器の画像や,形状の近しい石田不識の楽器の糸倉などを参考に,よりオリジナルに近い形状を目指します。 あとは前修理者より工作精度をずっとあげてまいりましょう,おのれジョージ!(かなり色んなモノが見えています) で,糸倉に,問題の糸巻の孔をあけます。 庵主は3D的な数学に弱くかつビビリですので,穴あけ作業は慎重に,段階を踏みます。まず下孔は2ミリくらいのビットで----このくらいなら全然修整利きますもんね。 竹串などを挿して角度や傾きを確認したところで,長いドリルで下孔を通し,リーマーで広げ,最後は焼き棒でじゅわッっと焼き広げて仕上げます。 真斎や不識の糸巻は先端が細く,糸倉の孔は太いほうで9~10ミリ,細いほうは7ミリくらいです。 ヘイ,ジョージ! これがほんとうの糸巻の角度ってもんだぜ! 糸倉の反対がわ,胴との接合部は,切断の際に数ミリ削れてしまいましたので,そのぶんも足せるような工作にしなきゃです。 補材はマコレで作りました。 この角ばったおしゃぶりみたいのを棹と合体させます。 そして整形して,棹本体と一体化。 胴の中に入る基部の部分も削り出します。 ----田島真斎と石田不識の楽器では,棹は一木からの削り出しで,棹なかごの部分も一体であることが多く,前修理者の補作の棹も,不恰好ながらそうなっていたことから,オリジナルも一木作りだったとは思いますが,今回はふつうに棹基部に延長材を接ぐタイプの工作とします。 前にも何度か書きましたが,この楽器における「一木作りの棹」というモノには「一木で作ったから音が良いはずだ」というロマンしかありません。工作として難易度が高いだけで,音質に特別な差異はないですね。のちのちのメンテや調整上の面倒が多いだけなので,ここは庵主,断固として変えさせてもらいます。 春先の老天華同様,糸倉すげ換えの粗隠しを兼ね,指板部分には黒檀の薄板を貼りました。 あとは実際に胴体に挿しこみながら取付角度を調整。 延長材はふつう杉や松といった針葉樹材が多く使われますが,今回はサクラ材を選択----まあこの材質の違いにもあまり意味や効果はないんですけどね。もとが一木作りだったみたいなのでなんとなく。(w) これでようやく,ボンドで固められ,抜けなくなってた棹が,もともとの着脱可能な状態にもどりましたあ!! 帰ってきたよ…ここがインスマスさ。 (つづく)
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