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福州南台太華斎2(1)

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斗酒庵 太華斎と再会 の巻2021.10~ 太華斎の月琴 (1)

STEP1 唐揚げにはレモンをかける派?

 さて,秋となりました!----てか暑ッ!暑すぎイッ!
 と,10月になってなお30度近い気温のなか,依頼修理の楽器がやってまいりました温暖化バンザイ。

 ご先祖さまが使ってたものだそうで。
 ほぼお蔵か納戸から直送,って感じですね。
 最初に送ってもらった画像から,唐物かな?----っていう感じはあったんですが。
 おぅ,裏板にラベルの残片が残ってますね…真ん中にちょうど板の割れ目が走ってて,そのためか,文字のある真ん中部分がほとんど無くなっちゃってます。
 残ってるのは枠線と,文字のカケラ,ともいえないくらいの点やら線ですが。
 庵主におまかせ!----コレですね。

 福州南台・太華斎。

 前回の清音斎と同じく,こちらも過去に一度,扱ったことがあります。34号…だったかな。首ナシだったのを直したやつですね。(過去記事:34号太華斎 へ。)名前からも分かる通り,天華斎エピゴーネンの一人,本家や老天華に比べると,細工の腕前は少し劣りますが,楽器の音色は明るく,いい音で鳴ってました。

 うーん,老天華に清音斎…やっぱり今年は唐物漬け?
 貴重なデータが録れて,庵主的にはうれしい限りですが,どんな運命の歯車が回ってるのやら。

 さて,調査です----まずは外面から。

 ぱっと見て分かる損傷は,上から,蓮頭の欠ケ,糸巻全損,バチ皮および半月欠落。あとは楽器のお尻,地の側板がはずれかけてることくらいでしょうか。
 地の側板はほとんどハガれちゃってますが,ほか三枚にはさほどの剥離もなく。側板の接合はもっとも単純な木口同士の擦り合わせ接着ですが,地の側板左右以外はこれもほとんどユルんでいません。
 地の側板のハミ出てるとこから見て,主材は春先にやった老天華や清音斎と同様の南洋材----ラワンの類----と思われますが,よく染めてますね~。
 このところのなかではバツグンに染めが上手く,こういうふうに木地が出てるところがなければ,もうふつうに唐木製と思っちゃいそうです。

 全体のヨゴレは棹指板部分から楽器肩,胴オモテが激しく,胴側左右下と裏面にはあんまりかかってませんね。
 柱にでも吊るされてたか,斜めに立てかけてあったんじゃないかな。汚れの具合から30年以上は動かしたことがなかったんじゃないかと。

 ヨゴレの割には,左右のニラミや柱間の小飾り,フレットや山口といった部品はほぼ完全に残ってますね。ぜんぶオリジナルかどうか,この時点では分かりませんが,意匠的におかしなものはありません。

 糸倉にやや変形が見られますが,これはもともとの材の加工が悪かったんだと思います。唐木より柔らかい材でこんなカタチにして,こんなに薄く(糸倉左右厚8ミリ)したら,このくらい変形しても何の不思議もありません。
 で----いちばん気になるのはやはりこのへんでしょうか。

 棹や糸倉にポツポツとあいたウロンな小孔……振ると細かい木粉が落ちてきます。

 春先にやった老天華でも,半月が指で押したら孔あくくらいまで食われてましたが。唐物月琴で流行後半期に使われるようになったこの南洋材,ほんとに虫害に弱いみたいですね。

 上のほうで,この楽器が保存されていた時の姿勢についてちょっと触れましたが,それも関係してるんでしょうね。虫食いの箇所はほとんど糸倉の先から棹全体,そして天の板の左右にあって,ほかの箇所にはあまり見当たりません。

 細いハリガネをつっこんで触診してみた感じ,深いものは2センチ以上ありそうですが,数がそれほどないのもあってスカスカで使用不可能,とまではなっていないもようです。まだ発見されていないところにUFOが出てくるくらいの巨大空洞が隠れている可能性が無きにしも非ず,ではありますが。現状,見た感じ,楽器として再生することはできる状態と思われます。
 とはいえ糸倉や棹,天の側板など,いづれも力のかかる箇所でありますので,今回の修理では,この虫孔がうまくふさげるか,適切な補強が可能かというあたりが一つの山場になりそうですね。

 胴を振ると,虫食いの木粉が落ちてくる(w)のといっしょに響き線もごわんごわん,健康そうな音で鳴りますので,そのあたりもだいじょぶそう。

 棹を抜いてみましょう----なかごが真っ赤です。
 棹全体にスオウがかけられてますね。同じ事態は23号茜丸でも経験済ですが,こちらには白っぽい木地を染めるためという理由があるものの,あちらの棹本体はタガヤサンだったので赤染めの必要はなかったはず。となると,これは染色の結果ではなく,おそらく何らかの意図があって染められているものと考えたほうが良いでしょう。
 あんがい量産のため,大ダライに染め液満たして部品丸ごとドッポンみたいなことをやってたのかもしれませんが,何か呪術的な意味合いや,染め液の防虫効果を期待してみたいなことだったかもしれません。

 あと変わった点としては,棹本体付け根の棹背がわに段差がありません。これはハジメテ見るパターンですね。
 棹背がわの根元にストッパーがないということになりますが,棹取付けの安定的に,これはどうなんでしょうね?

 全景写真で気がついた方もいらっしゃるかもしれませんが,この楽器の胴体は完全な円形ではなく,縦が横より1センチくらい長くなってます。
 もともとも工作もありましょうが,板がかなり収縮しているのも事実。地の側板がはずれかけてるのもこれが原因でしょうが----表板の右端裏板の左端の小板ですね。どちらも節だらけの板目板。表裏同じがわに問題板があるうえに,表板はさらにその節目のデッカイのが板端になってるせいで,大きな裂け割れが入っちゃったりもしています。
 国産の月琴の場合は小板を数多く接いで一枚の板を作っているので,よほどヒドい材を使わない限り小板個々の影響はそれほど大きくないんですが,唐物の場合は接ぎ数が少なく,さらに景色重視でこういう板目板の使われることが多いので,板材の収縮が楽器全体に与える影響が,国産のものより若干大きめになります。

 虫食いのほかには,この板の収縮が側板や内部構造などの各部材にどのくらい影響を与えているのか,が気になる所ではあります。

 次回はそのあたりを中心に,分解しながらフィールドノートを仕上げてゆくことといたしましょう。


(つづく)


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