田島真斎(5)
![]() STEP5 今宵星降る刻こぼれ堕つ調停者 ![]() 原作者のもともとの工作が巧いので,前修理者の「修理」箇所を徹底的に除去するほかは,簡単な虫食いの処置といつもの補強以外,あまりすることのない胴体ですが。 木の仕事はだいたい巧い田島真斎が,イマイチど下手クソなのが 「桐板の接ぎ」 なのですね。 裏板にはもともと割レが複数個所入ってたんですが,内部修理のための剥離作業でほぼバラバラになってしまっております----あんまり上手じゃないくせに,10枚以上も接ごうなんてするから……無茶しやがって。 ということで,このアベリベリバラバラな裏板を接ぎ直します。ついでに,再接着時に困らないよう,間に二箇所スペーサを入れて左右の幅を少しだけ広げておきましょう。 ![]() ![]() ![]() いつも切ったり貼ったりで使っている作業台に小板を並べ,簡易的な板接ぎ台にして一晩。 スペーサを均したら,裏板は再生完了。 接着位置を決め,板クランプではさんでまた一晩。 ![]() ![]() 側板にマスキングテープを巻いて,周縁のハミ出しを削り,表裏板を清掃します。 最初のほうでも書いたかと思いますが,この楽器の表裏板はナニヤラ油が染まされちゃっており,色濃くまっ黄ッ々になっちゃっています。 ![]() なんですかね,木製品->油ヌルみたいな本能が古物屋には生まれつきあるのかもしれませんがモノを考えろ。ちょっと和箪笥とか知ってるヒトなら…いえそうでなくてもマトモな古物屋なら必須知識なんですが----桐板を使った箪笥や木箱に油は厳禁です----シミになっちゃう。 さらに,塗るとしてもふつうなら亜麻仁油みたいな乾性油でしょうに……これ,何ですかね? オリーブ油? いやいや,地中海のヨーロッパ家具じゃないんだから。 現状,ギトギトもヌルヌルもそれほどしてはおりませぬが,マスキングテープでさえ貼ってもスグにぺろりんと剥がれる状態。この後の作業にも支障がありますので,まずはこの表面の油を抜いてやらなきゃなりません。 ![]() ![]() いつもの重曹液に中性洗剤を一たらし。 いつもよりちょい強めに Shinex で磨いては,浮いてきた月琴汁をしごくように拭い取ります。 一度,全体を磨き切ったところで一旦乾かし,様子を見ます----おのれ古物屋(もしくは前修理者)! どんだけぶッかけたのォ!? ![]() ![]() しばらくしたらまた,表面に油が浮いてきたので,取り切れなかったところを中心に,このあと二度ほどくりかえしましたでがっでむ。 ![]() ![]() まあ何年かしたらまた滲みこんだぶんが浮いてくるかもしてませんが,とりあえず,表面と木口はマスキングテープが貼りつくくらいまでは脱脂できたようです。最後に水拭きをして数日乾燥させます。 さて,同時進行で棹をスオウ染めます。 ![]() ![]() 今回は糸倉も新しく接いでますし,指板も貼ったし基部も再生----糸倉はラワン,基部はマコレ,指板は縞黒檀,本体は前修理者の補作棹を使ったホオで,間木と延長材がサクラ。ほかにもスペーサやなんやらで,つごう木材5種類以上は使ってます。 ![]() ![]() ド派手にツギハギしましたので,誤魔化しのためにも最終的には黒染めですね。棹本体の真ん中あたりを少し薄くして,なんちゃってサンバーストに仕上げましょう。 糸巻も削ります。 田島真斎の糸巻は一般に石田不識のとほぼ同形。国産月琴の定番である六角1本溝で,溝の彫りが深く帽子(握りの先端)がやや突き出ているものが多いのですが,高級品だとやや太目で,帽子にさらに一手間,彫りが入ってたりすることもあります。 ![]() 先端が細く,握り部分側面の立ち上がりがややキツくなっているのも特徴ですかね。ラッパ状に広がってゆく側面のラインがキレいです。 こちらもいつものように材料は定番の¥100均麺棒。 前回,素体を多めに作っておいて良かった----おかげで今回は削るだけ,ほんとうに助かります。 ![]() ![]() 先端がきわめて細いので,補強のため,糸倉に入る部分や糸孔を中心に樹脂を滲みこませ,少し強化しておきます。 ![]() ![]() こちらはスオウで赤染め,オハグロは薄めにしてダークレッドに染め上げます。 ![]() ![]() ![]() ほかの工作もしながら,棹のフィッティング作業を繰り返します。もう第何次か分からん! 棹が半分になってもいいんや~,ワイはキッチリスルピタをめざすんや~。(w) ![]() ![]() 表裏板の木口木端口をマスキングして,側板部分のお手入れ。作業でついたキズを落し,磨き直し,亜麻仁油と柿渋を軽く刷いておきます。 「田島真斎」という人の仕事の良さは,ここからも分かりますね----この薄い胴体が,何の支えもなしに,ほぼ正確に楽器の中心線どおり真っ直ぐ自立します。なんという工作,なんというバランス。作る時に削りかすの重さとか測りながらやってるのかしらん? 棹は前修理者と庵主の合作みたいなもので,ひどいツギハギですから重量バランスもへったくれもないはずなんですが。コレ挿してもちゃんと自立しますもんね。スゴい。 (つづく)
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