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福州南台太華斎2(6)

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斗酒庵 太華斎と再会 の巻2021.10~ 太華斎の月琴 (6)

STEP6 唐揚げは二度揚げで表面がカタい

 さてさて,側板の接合・補強も終わり,胴体がしっかりとした「桶」にまで戻った太華斎。
 これで裏板を戻せば,胴体は元通りの「箱」の状態となるわけですが,この裏板がちょいと曲者でして。

 板の接ぎはしっかりとしており,剥離の際にも割れることなく一枚板状態で分離されたものの。板のあちこちに厄介な節があるうえ,板ウラには加工アラの大きなエグレ。測ってみたら厚みが所により2ミリ以上違ってます。そしてなによりも----

 かてェよ…板が硬ェんだよ。(泣)

 ふつうの桐板は,5ミリくらいの厚さでも,このくらいの大きさになれば両端持ってポヨンポヨンと軽く歪ませられますがコイツ…ビクともしません。桐板とは思えない硬さです。まあ,こんなに節だらけで木目の入り組んだとこ切り出したらそうなるわな。
 この手の弦楽器の工作として考えれば,オモテが柔く,ウラが硬いというのは,振動が楽器前面に反射されるので,音を響かせるためには有効です。うむ,さすが。それを見越しての材選びか…………とか,いちどは考えましたが。
 たぶんこれ作った人,そんなことミジンコほども考えてませんね。

 板ウラの大きなエグレは,薄板として切り出す時に,混んだ木目と板の硬さのため失敗したもの。板の厚みがマダラに違っているのも,表面を均したとき硬い部分が残っただけの話しのようです。いちおう全体を均一にしよう,とした痕跡はわずかに見られるものの,やっぱり板が硬すぎ,作業がタイヘンだったので,早々にあきらめた模様。

 さらに節目が多せいで,コレ,かなりの暴れ板です。
 手で曲げようとしてもビクともしないくせに,端を少し濡らしたぐらいで,全体があっちゃこっちゃの方向に強力にそっくり返ります----このまま戻したら,保定の間に楽器を壊しかねません。いや逆に,よくこれまであの程度の状態で済んでたなあ。

 板ウラの大エグレは桐板を薄く削ったので埋めるとして,板全体の変形を小さくするため,現在3つの大きめな小板で構成されているのをいくつかに分割し,間にふつうの柔らかい桐板をスペーサとしてはさみこんで,変形時の緩衝帯を作ります。

 そして厚みを均一に,削る削る削る削る削る!!!

 ……さっきも言いましたが,桐板とは思えない硬さです。
 このくらいの厚みのふつうの桐板ですと,紙ヤスリの#120とか#80あたりをかければ,数分で穴があくと思うのですが,#60番という,およそ桐板に使うもんじゃないような番手でも歯が立たず,ひさしぶりにアラカン(工具)ひっぱりだしました。
 それでも歯が立たず,けっきょく厚みのある部分を挽き回し鋸でガリガリっとひっかいては,アラカンで削り,紙ヤスリで均すといったぐあい。

 つごう二日ほどかけ,全体をほぼ3ミリ均とすることに成功しました。もともと周縁附近で3ミリほどしかなかった板なのに,けっこうスゴい量の木粉が出ました----うううう,肩があがらん!

 裏板にてこずってる間に,胴体オモテがわのほうは完成させておきましょう。棹とのフィッティングもあらかた終わっているので,あとは響き線を戻すだけですね。

 例によって,響き線の木部につっこんであった分はかなり錆び朽ちており。その先端一部が木のなか残っちゃってるのと,周囲に鉄分が滲み,変色・変質してガサガサになっちゃってるので,少し大きめのドリルで周辺ごとエグって取り除いてあります。
 そこを木粉を混ぜたパテで埋め,あらためて小孔をあけて接着。表面がわにズボっといかないよう,ちょうどいいところにテープを巻いて印にしておきましょう。

 ここの接着はさすがにエポキです。
 何回も書いてますが,よくここの接着に使われてるニカワは,長い間に湿気を含んで従前のように鉄を錆び朽ちさせてしまいます。知識のある人は,線基部に柿渋を塗布したりウルシを塗ったりしてあるていど防錆しようとしてるようですが,いずれも完全なる防錆には到らず。腕の良いヒトはニカワなんかつけなくても,孔あけて竹釘挿しただけで見事に留めちゃってますが,木そのものも呼吸しているので保存状態によってはやっぱり錆びちゃいますね。
 今回は線そのものの状態が比較的良かったので,基部の先っちょがちょっと欠けちゃったほかは,オリジナルのほぼそのままです。サビを落し柿渋やラックニスで防錆処置した線を入れ,接着剤が硬化するまで板との間に木片を噛まして,ベストに近い位置で固定します。

 二日かけて,ようやくふつうに言うことを聞いてくれるようになった板を,さっそく胴体に戻します。

 胴体が「箱」になり,スペーサを噛ましたぶんのハミ出しを切り取って,木口・木端口を均したら,今度はそこをマスキングして側板を染め直します。
 まだかなりの部分でオリジナルの染めが残っていますが,天の板や右の側板など補修の手のかかったところは,さすがに削っちゃいましたからね。

 スオウをかけミョウバン媒染。そのあと薄めたオハグロを何度もかけて,オリジナルの色味に少しづつ近づけてゆきます。
 染まったところでシーラーを塗布し,染めた側板の表面を保護。さらに木口のマスキングテープを一回はずして,こんどは側板のほうをマスキング----表裏板の清掃に入ります。側板の染めに使ったスオウは,表裏板の洗浄に使う重曹(弱アルカリ)にも反応してしまうし,トップコートの塗料も溶かしてしまうので,どのタイミングでこの作業を行うのかちょいと迷いましたね。
 今回はそこらのDIYでも売ってるアクリル系のシーラーを使いました。古楽器の修理ではいささか反則感はないでもありませんが,これなら洗浄剤にも反応しませんし,この後の磨きでほとんど削り取っちゃいますからね。

 表板のヨゴレはそれほどキツくはなかったんですが,かなり頑固な手合いの黒ずみ。同じようなヨゴレは炭鉱町から出たとか,北海道みたいに石炭小屋になってる物置みたいなとこにほおりこまれてた楽器で何度か経験しました。
 たぶん石炭なんかに含まれてる成分---鉄分とか硫黄---が,板に使われてる染料のヤシャブシに反応したものだと思います。

 部分的にくすみが少し残ってしまいましたが,表板には樹脂で埋めたものの,虫食いでスカスカになってた部分もあるので,あんまりゴシゴシともできませんな。まずほどほどのところで。

 裏板のほうはたいした虫食いもないのでぞんぶんにゴシゴシできますが,厚みを均す作業で,表面もだいぶん削りとってしまいましたので,清掃よりはむしろ補彩が必要な状態。部分的に残ってるオリジナルの部分を清掃しつつ,ヤシャブシ液に,修理の際,表裏板から出たヨゴレを煮込んだ斗酒庵特製の「月琴汁」を垂らしたもので古色をつけつつ染め直してゆきます。
 上にも書いたとおり,表板のヨゴレが落ちにくかったので,清掃してはいちど乾燥させ,様子を見てからもう一度,というぐあいに数度繰り返しました----うーん,それでも完全にまっちろ,は無理かなあ。数年したらまたそこそこ濃いめの色に戻るかと。

 季節がら,乾燥してはいるものの,気温が低いので塗料やら水分は乾きが遅うございます。
 とはいえここで無理したり急いではナニが起こるか分かりません。いつもより,ちょっとのんびりやらせていただいとります。

(つづく)


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