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福州南台太華斎2(5)

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斗酒庵 太華斎と再会 の巻2021.10~ 太華斎の月琴 (5)

STEP5 唐辛子紋次郎

 さて,前回までの作業で表板に側板がつき,いちおう「箱」の手前,「桶」の状態にまで戻った太華斎。まずは胴体の続きです。

 いつもですと,側板を輪にしてから入れる内桁ですが,今回は側板のほうの工作があまり良くなくまだ調整の必要があるため。内桁を先に固定し,楽器の中央構造をしっかりと固めてから,四方接合部の再接着という流れになります。
 ----で,その内桁。
 唐物月琴の場合,胴体構造を保持するのはこの内桁1枚だけですから,これが楽器の背骨でもあり腰骨でもあるわけですが,なにせオリジナルは反ってへにゃ曲がっててこんな状態ですんで,とうぜん使えませんな。

 オリジナルは桐板で,へにゃ曲がった状態でくっついていたことから,おそらくこの変形は,組立て時にサイズの合わないところに無理やり押し込んだためと考えられます----組みこんだ後で変形したのなら,表裏板との接着はハガれてたはずですからね,補修の痕もなかったし。
 というわけで,ここは新しく作らにゃなりません。
 板はオリジナルと同じ桐でもいいのですが,全体の工作(もちろん悪い)から考え,もうちょっと丈夫な材を入れたいと思いますので,今回はエゾマツの板でいきます。

 内桁の取付けに先立ち,これをはめこむ側板の溝を調整します。右側板(楽器正面から見て)の溝が少し斜めになっちゃってるんですね。
 前回書いたよう,左のは板厚ギリギリだったし,こっちは曲がってるし……なんですかこの胴体作った奴は,よほどの考えナシですか。
 修整の結果,少し幅が広がっちゃいましたが,新しく作った内桁はオリジナルよりわずかに厚かったので,むしろ好都合。
 内桁の両端は側板の高さに合わせてありますが,中央部分は端より1~2ミリ膨らんだカタチになっています。オリジナルは量産型のせいか手を抜いて,端から端までほぼ同じ高さになってましたが,ここは一手間----老天華なんかは量産品でもこの設定で工作されてましたけどね。このあたりは如実に職人格差。

 で,この板の中央に棹なかごを受ける棹孔を,端に響き線を通す木の葉型の孔をあけるんですが……ここでまた原作のアラを発見。

 月琴の棹は,通常(作者がちゃんと構造を分かっていれば)やや楽器背がわに傾いたカタチで取付けられます。
 修理前の前の測定で,この楽器の棹もそういう造りになっていることが分かっています。棹の指板部分の面と棹なかごは水平でなく,わずかに角度が付けられていており,棹なかごの上面--表板がわに向いてるほう--が,棹口から内桁の孔まで,表板とほぼ平行になるようになっているんですね。
 表板とほぼ平行,ということは。棹なかごと表板の間隔は,起点である棹孔のところから,終点である内桁の孔のとこまでほぼ同じになってなきゃならんわけですな。
 しかるにこの楽器の内桁の棹孔は……うん,ど真ん中に穿たれてますね。なンも考えてない,ど真ん中に。
 これだとどういうことになるのか----図説しましょう。(下図:クリックで拡大)

 棹はまともな造りになってるのに,胴体がやたらと----いえ正直言えば,かなりヒドい造り----工作があちこちバラバラなんですね。
 胴体も,表裏の板なんかは--表面柔らか,裏面硬く--と,ちゃんと材質が選ばれたりしていますが,その板自体の加工と組立てがヒドい。量産型なので複数の職人が分業でやっていたとは思いますが。素材と個々の工作技術はまあまあなのに,その間に立って調整したり,全体を統括してまとめたりする役がいなかったか,あるいはその立場にある者の能力もしくは責任感が著しく欠如している……うん,いまもブラック企業でよくある労働環境だったみたいですねえ。
 とりあえず,新しい内桁の棹孔は棹のほうに合わせ,あるべき位置(上図①)で開けときますね。

 唐物月琴の内桁についている響き線の孔は,くりぬいたものではなく,木口から鋸を入れ,そのまま木の葉型に挽き回して貫いてることが多く----

 天華斎(上右画像)でさえこの手でやってます。まあ,いくつか小孔をあけて,間をちまちまと挽き切って貫くより,こっちのほうが格段にラクですし,機能の面では孔さえあいてりゃいいわけですが。これと同じにやった場合,内桁の片端が二つに割れてるのと同じ状態になってしまい,これが原因となった不具合もいくつか見てますので,ここは庵主,馬鹿丁寧な日本の職人式に,切らず丁寧に刳りぬきます。

 最初のころは,一見手抜きにしか見えないこの工法,なにか楽器の性能上のヒミツが隠されているのか!?----とか考えたりもしてたんですが,どう考えても「手間」以外の問題はなく,庵主は納期までにいくつも作らなきゃならないわけでもなく,原価を下げたいわけでもないないので……あ,お出汁は昆布やニボシでちゃんととる派です。
 内桁・四方接合部の再接着の前に,右側板の内外に板を貼りつけておきます。この右側板,表板がわは比較的均等な厚みになっているんですが,裏板がわが極端に薄くなっており,さらに全体が両手でタオルを絞るみたいに,中央からそれぞれ逆方向にねじれてしまっています。ある程度は矯正したのですが,それでもこのまま接着すると,天の板との間にけっこうな段差ができて,現状だと端っこのほうを,最大で1ミリ以上2ミリ近く削らなければならなくなりそうです。

 再接合の際,さらに矯正するので,実際にはもうすこし小さい段差で済むでしょうが,どちらにしろ現状3ミリほどしか厚みがないところを1ミリ削るっていったらけっこうなもんですので,補強も兼ねて裏がわに板を足しておこうというわけです。

 同じく右側板,反対の地の板がわの端は,逆に外がわがへっこんでしまっているので,こちらにも板をちょい足ししておきます。

 そしていよいよ内桁と四方接合部を接着。

 つぎに桐板で作った補強板を,四方接合部の裏がわに接着します。同時進行の田島真斎は凸凹継ぎだったので,これを整形するのがすこし大変だったんですが。こちらはこちらで板自体の工作が見事にバラバラなため,接合部が3D的に不定型な形状になっており,かなりタイヘンでした----うまく合わせられなくて,板5枚くらい失敗しましたね(w)

 貼りつけた補強板はギリギリまで厚みを落し,外がわからもスキマを徹底的にふさぎます。

 さて,これで胴体構造はあるていど固まり,だいぶん安定してきました。あとは裏板でふさぐ前に,棹の取付け調整を徹底的にやってゆきます。
 まずは胴オモテに新しく楽器の中心線を決め出します。

 側板の棹口も内桁の棹孔も,オリジナルのはやや大きめにあけられており,棹の取付けはかなりユルユルです。補作の内桁の棹孔も,位置は変えましたが(既述参照)孔自体の寸法はオリジナルと同じくやや大きめにしてあります。
 以前にも書いたように,こうした唐物月琴の工作は,糸を実際に張ってみると,だいたいは使用可能な範囲で安定するようになってるものではありますが,こういうあたりがどうしても気にしィになる日本の職人としましては,角度バッチリ抜き差しスルピタを目指し,邁進してゆきたい所信であります。

 棹と胴水平面を面一にしたところ,棹の指板部分先端の右がわがわずかに高くなっていたので,擦り直しておきます。

 あとこの楽器の棹の背がわ基部には,ふつうほかの唐物月琴で表裏についている段差が,何故か無かったのですが----

 おそらくはこれも,胴体に棹挿してみたら棹がお辞儀して,背がわの根元に大きなスキマができちゃったため,誤魔化すために段差を削って均したものと考えられます。数打ちの量産楽器ですので,歩留まり回避のための辻褄合わせはしょうがないとしても……職人としてここまでやってイイかかなり悩む,ギリギリな工作ですね。
 今回,棹と胴の関係をマトモにしたら,その段差のあったあたりが棹口にひっかかるようになりましたので,その修整を兼ね---さすがにちょっと浅いですが---あるべきところに段差を復活させます。

 あと,棹と延長材の接合部に少々スキマができちゃってます。接着自体は頑丈で使用上の支障はありませんが,この手の工作不良は演奏中の音の狂いや調音の困難等の不具合の原因となりますので,ここもきっちりと塞いでおきましょう。

 さらにフィッティングを重ねてゆきます----庵主,この作業に関してはしつこいですよ。
 棹の角度も傾きも,そして抜き差し具合も,だんだんベストの設定に近づいてきました!

(つづく)


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