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天和斎の月琴(1)

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斗酒庵 天和斎と邂逅す の巻2022.2~ 天和斎の月琴 (1)

STEP1 太陽の貴公子

 コロナ禍で飲む機会が減ったうえ,友人Aは「お兄さま」に,友人Dは「お兄ちゃん」となり,日々うまぴょいに励んで他を顧みもしなくなっておるきょうこのごろ。てめーらこないだまでケーバなんてアホらしいとか言ってなかったかみなさまいかがお過ごしでしょうか?
 ちなみに,庵主がさいしょに好きになった馬はモンテプリンス(1977-2002)です。
 ステゴよりずっと前に,「無冠の帝王」の二つ名をもらってました----ウマ娘化キボンヌ。

 さて,去年から依頼修理のほうでは唐物楽器が続いております。

 今回の楽器もあちらの作ですね。メーカー名は「天和斎」。
 同じメーカーの楽器は,大昔にいちど見かけた気がしますが,チラ見ていどでほとんど覚えてませんねえ。
 裏面にラベルがあります----
ラベル(1)

 天和斎/老舗

ラベル(2)
 天和斎/
 住福省南門外開張
 洋頭大街坐東朝西
 〓造各款各琴定做
 十歓楽器〓 顧者
 〓〓〓〓〓記(印)
 ううむ,他に参照できる例がないので,これ単体での読み解きはここまでですね。画像クリックで別窓拡大されますので,ゲタのところが読めたらどうか教えてください。
 「洋頭大街」というのは天華斎のあった茶亭街のすぐ先,その名前からも楽器の作りからも,間違いなく福州天華斎エピゴーネンの一つだとは思われますものの,今のところ資料・記述発見されていなくて定かではありません。

 墨書は二箇所。
 棹基部の表板がわに「一」,裏板の上端,棹口のあたりに「乙」。どっちも発音「イー」で,数字の「1」として通用されますんで,書いてあるのは同じことですね。ハジメテ作ったモノなのか,その年あるいはその月の初号機か,サイズ「1号」みたいな寸法なのかは分かりませんが。おそらくは製作時,組み合わせる時に確認するための符号だったとは思われます。

 53号天華斎などに比べるとわずかに大き目に見えちゃうんですが,これはどうやら,胴の厚みが少しあるのと,棹と胴の大きさのバランスのせいのようです。全長615は唐物としては平均,国産月琴より数センチほど小さい感じです。

 全体にキレイですね。
 前回やった太華斎とかに比べると,表面に白茶けた感じもないので,解放空間に放置されてたのではなく,あるていど密閉された箱か袋かにずっと入れられていたのではないかと推測されます。板なんかに少し汚れも見えなくはないですが,ラベルなんて,ぜんぜん褪せてませんよ。

 ぱっと見,柱間の小飾りがいくつかなくなってるものの,蓮頭も糸巻もオリジナルを完備,余計な後補の手もあまり入っておらず,全体として保存は悪くないんですが----ここ,見事な透かし彫りの半月が…砕けちゃってますねえ。

 いや,いくら丈夫な唐木だからって,まあこんだけスカスカに透かし貫いたら,そりゃ砕けたりもするでしょうってばよ。
 欠けたぶんは同梱で送ってもらっており,ちょっと組んでみると,だいたいの部分は残ってるみたいですが----さてさて,ここはこの楽器でいちばん力のかかる部品のひとつだけに,どうなることか。

 工房到着時には気づきませんでしたが,蓮頭も割れてたようで,調べるのにこねくり回してたら,半分からバックリ逝きました。
 まあ上下ひっくりかえっているので,ここはもともと後で貼りつけ直されたとこでしょうね。
 四匹のコウモリが,丸く書かれた「寿」の字を囲んで飛んでます。4匹のコウモリ(蝙蝠=「蝠」が「福」の字音と同じ)が「寿」の字をささげもっているので,「四福捧寿」ですね。コウモリが5匹だと「五福」で,「寿・富・康寧・好徳・終天命」,このうちの「寿」を真ん中に取り出して,コウモリ1匹ぶん省略してるわけですね。さらに真ん中の「寿」は丸いので,いつもの(月琴の意匠に多い)「福在眼前(=蝠在円銭)」の意味にもなってます----ふむ,細工が凝ってるぶん,洒落も二重がけやな。

 ほかは柱間のお飾りがなくなってるのと,山口が棹の幅よりやや大きめになってたり,唐木のお飾りが極道的に薄作りだったりしてますが。糸巻も唐木のが4本残ってますし,フレットもオリジナルと思われる竹製のがついたまんまで,半月さえなんとかなれば,楽器として使用する上で必要なあたりはいちおうそろっている,かと。

 すごいなあ……このニラミや扇飾りの極薄ぐあい。部分によっては厚さが1ミリありません。ぺらっぺらですよ。
 表面が黒く塗られてますが,材はたぶんタガヤサン。
 よくもまあ,あの硬いだけで粘りのないモロい木を,ここまで薄くして,これだけ細かい細工が出来たもんです。
 扇飾りはちょっと凝った意匠ですね。ヨーロッパの貴族の紋章みたいな感じですが,何でしょう?
 左右のニラミは例の鳳凰もしくは鸞。本式ですと片方は横笛,片方が笙,と口にくわえているものが左右で違ってるはずですが,これは同じですね。十字になってるんで「笙」のほうかな。その下に付いてるバナナみたいなのは何だ?
 左のニラミに欠損はないようですが,右のほうは何度か割れたらしく,一部に継いだような痕が見えますね。

 とりあえず,これ以上ヒドいことになんないように,半月に保護カバーをつけてっと…さらに調査続行。

 表板,フレットのすぐ横あたりに割れが走ってますね。衝撃でバッキリ逝ったというより,素材的な問題でミシリ…と裂け割れした感じ。上のほうは前修理者が割れを継いだもようで,割れ目の中が少し黒っぽくなっています。

 つぎに,棹口に割れがあります。
 完全にバッキリ逝ってるわけではありませんが,棹を挿して動かすと薄くパクパクするので,このままだと調弦は難しそうです。
 棹なかごが異様に長いのですが,こないだの清琴斎みたいに胴を貫通しているわけではありません。胴径356に対し棹なかごは長265。棹口から棒を突っ込んで測ると,内桁はそこから173のとこにありますからね----そこから,9センチくらい突き出てるはずだなあ。延長材部分が赤く染められてるのもふくめて,はてこりゃなんのためなんでしょうねえ?

(つづく)


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