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天和斎の月琴(6)

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斗酒庵 天和斎と邂逅す の巻2022.2~ 天和斎の月琴 (6)

STEP6 祝,ニシノフラワー実装!

 さて,ウマ娘メインストーリー第1部も天和斎の修理も最終章のきょうこのごろ,すみません朝ガチャ1発でフラワーちゃん引き当てた友人がストーリーで尊死して使い物にならなくなったので,一日バイトがトびました。そして,春のG1いまのところ全敗の庵主は,はたして皐月賞でふっかつできるのかッ!!

 ----まあ,それはともかく(w)
 伝統的な材料が多用される古楽器の修理は,天候に左右される要素が多く,今回の作業はずいぶん遅れてしまいました。使うべきところには最新の化学素材も躊躇なく使う庵主でありますが,それでも仕上げのあたりになると,伝統手法のほうが多いもので。
 二三日,低温雨降りが続いただけでかなり響きますねあなかしこ。

 前回用意したフレットを接着します。
 オリジナルフレットを使ったため,低音域はけっこう糸頭ギリギリになってますが,高音域がやや低めで。少し押しこまなきゃならないぶん,やや運指が重くなっています。清楽月琴のフレットは,通常ですと調整の労を回避するため全体に低めになってますが,本機で低音域のフレットが高くなっているのは,おそらく棹孔が割れていたことに関係しているかと。あのまま糸を張ると,棹が持ち上がりますから,フレット頭と糸との間隔は大きくなりますわな。それに合わせるとどうしても高くなるわけで。
 使用しているうちに違和感があるようなら取替えますので,まずしばらくはオリジナルの設定でやってみてください。

 つぎにお飾り類を接着。

 胴左右のニラミは何や言うてこの楽器の顔ですから,位置決めにはけっこう気を使いますね。これ,と思う位置が決まったら板に目印を付け,ニラミの裏にニカワを点付け。ズレないようマスキングテープでかるく固定してから,お飾りの全体に均等に圧がかかるよう,そこらにある重量物総動員でバランスをとりながら接着します。
 修理者泣かせの極薄部品でしたが,裏面からの補強がそこそこ成功したようで,再度の貼りつけも割れることなく成功。

 いちどへっつけたところで,クリアフォルダの切れ端を使い,浮いている箇所がないか確認します。一回目で付かなかったところは再度接着。この時にも,このクリアフォルダの切れ端は,裏面にニカワを滑り込ませる道具として使えるので重宝しております。
 クリアフォルダの片面に溶いたニカワを塗ってスキマにすべりこませると,浮いてるとこの裏面にだけニカワがついて,下の板への被害が最小限で済むんですね。

 最後に柱間の小飾りですね。
 7つ必要なところ,オリジナルは3つ残存。
 あと4つを削りました。
 凍石のお飾りは,すべて接着面に和紙を貼りつけてから接着しています。これは直接だと接着が強力過ぎ,メンテの時にハガせなくなっちゃうからですね。

 直接だと,ニカワが乾く時の収縮で,木材と凍石の間が真空状態のようになって超密着してしまううえ,凍石がまったく水気を通さないものですから,ハガしにくいことこの上もないのですが,こうして和紙を貼っておくと,濡らせば和紙の層に水気が入って,簡単にはずすことが出来るんですね。ちょっと前に,ほかの楽器でやっててはえ~と思い,真似しています。
 個々のお飾りの意匠の意味は正確には分かりませんが,だいたいの傾向は把握しているので,それに沿って作ります。
 今回はオリジナルの装飾が比較的多く残っており,庵主的にあんまり「遊べる」ところがありませんでしたので,小飾りの1コをちょいと----真っ赤な金魚ちゃんを彫りました。

 唐物月琴の装飾では,こういう赤っぽい石の飾りが最低1コは入っており,それらはたいてい魚か,それを大きく崩した魚と植物のあいのこみたいなデザインになってることが多いのですが,今回はモロおさかなちゃん。中国語で「魚(ユー)」「余(ユー)」と同音。「金魚」は「金余」なわけで----この楽器の半月の意匠は水関係ですから,そのつながりとしても悪くはないでしょう。
 けっこう上手く彫れたので,できればなくさないでほしいなあ。

 あとはバチ布を合わせて,切って貼って…

 令和4年3月末,福州洋頭大街天和斎。
 修理完了いたしました!

 各画像クリックで別窓拡大します。
 修理前の画像と並べると,もとのニラミの位置がかなり左右ガタピコ(w)になってたってのがお分かりになれるかと。ちょっと位置を上にして,左右をだいたいそろえただけですが,全体の印象がずいぶんと変わるもんです。

 カタチができて,糸を張れるようになってからおよそ1週間とちょい。糸をキンキンに張って,いつもよりちょっと長めに耐久テストを行いましたが,今のところ半月も棹孔も不具合は再発しませんでした。あそこまでバラけてた半月の再生(再作成じゃなく)はハジメテだったので,テストちゅうにまたぶッ壊れんじゃないかと,正直ちょっとシンパイしてましたヨ。
 この感じだと,三味線の絹弦で4C/4Gプラス長3度の調弦圏内なら,金属弦とかワウンド弦を張ったりしなければ,まあ大丈夫なんじゃないかと思います。

 フィールドノートは以下----

 各部寸法の詳細や,修理前の状態についてはこちらをご参照ください。
 百年以上前の大陸における工作が,製作時の状態で良く残っている保存の良い物件であったので,オリジナル工作の保護・保存のため,多少やり切れなかった部分はありますが。現状,楽器としての通常の使用上,大きな支障となりえるような不具合はないものと考えます。
 まあその「保存すべき」原作者の工作に,じつは「くっそ!いッそ直してぇ!」ってとこが含まれていたりもするんですがね。(^_^;)
 たとえばここ。

 いちばん上の糸巻の取付位置がすこし上過ぎて,糸巻の操作時に蓮頭が干渉することがあります。
 まあ「気になる」くらいで,操作不能なわけではぜんぜんありませんし,同じようなことは天華斎の53号でもありましたので,ある意味,福州月琴ではこれがデフォルトの設定だったのかもしれないです。

 あとは棹が少しねじれており,先端部がわずか~に左回りで傾いております。

 これも唐物月琴ではよくある事態なのですが,材が暴れやすいタガヤサンなため,単純に原作者の工作のせいなのか,後で自然にねじれたのかが現状定かでない(後者ならまだねじれる)ため,ちょっと様子見なのと。これ削るとけっこうな範囲で影響が出るわりには,実際の運指および音合わせの上で影響がほとんどないので,今回はそのままにしてあります----月琴は棹が短いので,このくらいなら三味線やギターほどの影響はないですね。

 音は例によって,国産月琴より明るめの唐物月琴の音です。
 響線が太いので,余韻は天華斎より玉華斎のほうに近いかな?
 うまくかかるとかなり重低音な効果がかかりますが,原作者の調整が完全ではないため,胴鳴り(演奏時に響き線がたてるノイズ)が出やすく,響線の効果を十分に発揮できる最善な演奏姿勢の範囲がややせまくなっています。

 記事中にも何度か書いたように,純粋な「楽器」としてより,利益率の高い「輸出用の装飾品」寄りに作られたものではありますが,作ったのは楽器屋ですし,楽器としての機能は十全に持っています。フレットの頭や胴上に使用による痕跡がついてますので,輸入された当時に,楽器として使用されていたことは間違いありませんが,どちらの痕跡も浅く,「使い込まれた」というほどには弾かれてなかったものと推測されます。

 半月が破壊された時期は不明ですが,そのほかにも庵主の所見したとおり,最初から棹口も割れていたとするなら。もとから弾けるにゃ弾けるものの,エラく弾きにくい楽器だったと思われますので,使用痕が浅いのも当然かと。

 そうした致命的な部分の故障や不具合はあらかた改善したものの,大きいの細かいのふくめて,まだ調整の余地はイロイロと残ってるんですが,今はまだどうしようもない部分もございますので,なにはともあれ弾いて……それこそまたぶッ壊れるまで大いに弾きまくってください。なんせ今は「壊れてない」んで直せないんです。壊れたら----直せます(小声)。庵主,斬って済むものなら,笑って馬謖くらい何人でもたたッ斬りますよ。

 現代の楽器にくらべると,「古楽器」というものは,その入手の段階からはじまって,メンテにするにしろ演奏するにしろ,さまざまに手間のかかるシロモノです。修理するにしてもいろいろな制限があるので,今の時点で「こうしたほうが良い」とは分かってても,迂闊に出来ないことも多いですね----まあ,そういうメンドくさい所も含めて「古楽器」の面白さではあるのですが。(w)

(つづく)


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