« 天和斎の月琴(4) | トップページ | 天和斎の月琴(6) »

天和斎の月琴(5)

TW01_05.txt
斗酒庵 天和斎と邂逅す の巻2022.2~ 天和斎の月琴 (5)

STEP5 剣の流星・天空神,その名は!

 ウマ娘の影響で,去年からとつぜん競馬を観始めた----なんてヒトは幸運でしたね。去年は史上まれに見る激アツ当り年。今年も引き続きレイパパレ,パンサラッサ,ジャックドール…と,世代に1頭出るか出ないかの個性的逃げ馬が次々登場,同じ世代でブチあたるなんてのは,そうそう見れるもんじゃおへんえ。秋に海外遠征組と国内組のガチ対決希望。
 今年のクラッシック路線では,オニャンコポンですねえ。いや,名前カワイイし…お父ちゃんのエイシンフラッシュには,毎度馬体詐欺喰らわされた思い出しかありませんが(w)----皐月賞がんばれ!後世に語り継がれるオニャンコポン王朝の幕開けだぁ!!

 ともあれ,胴体の補修や清掃も終わり,棹のフィッティング,並行してやってた上物の細かな補修もあらかた目途が付いたので。
 いよいよ半月を戻します。

 正直緊張しますね。
 やれることはやれるだけやったので,少なくともクランプかけた途端にふたたびバッキリ~ッ!!----なんてことにゃならないとは思いますが,あの細工の細かさでオリジナルの部品のまま再生,というのは,いままでにもほぼなかったことなので,庵主この後もどうなることか,正確には分かりません。
 まずは半月の接着位置の確認をします。
 棹を挿し,指板の三箇所にテープを貼って中心を出します。その三箇所を結んだラインを胴体のほうに延長して,楽器全体の中心線を確定。

 半月の上辺(まっすぐなほう)はこのラインと垂直になっているのが理想的----うむ,だいたいオリジナルの指示線と合致してますね。
 「半月の中心」は半月自体の大きさにが関係なく,外弦左右の糸孔の真ん中ということになります。上辺のラインに沿って半月を置き,中心線に合わせます----はい,左右もほぼオリジナルの指示線どおりの位置に収まりました。このあたりは天和斎,かなりしっかりやっているみたいですね。

 さらに糸倉から色糸を引いて,中心や左右のバランスを何度も確認します。
 半月はお飾り類とちがい,一度くっつけちゃうとまずそうそうハガれないようガッチリと接着しますので,このあたりの検証はどんだけやっても丁寧過ぎることはありません。

 接着位置の検討が整ったところで,作業中にズレないよう,半月の周りに当て木を噛ませて位置を固定。半月の材のタガヤサンは水滲みが悪いので,接着面をぬるま湯で湿らせたら,ガラス板やクリアフォルダのようなすべらかなものの上にしばらく置いて,じゅうぶんに水気を吸わせてからニカワを塗ります。こうしないとすぐ外れちゃいますからね。
 やや薄目に溶いたニカワを,何度も塗っては拭い取るのを繰返し,接着面にニカワが滲みて,触れたら何も塗ってなくても指先が少しくっつくくらいになったところでようやく接着。
 Fクランプでやさしくしめつけます----せっかく修復した半月ですから,壊さないためでもありますが,実際ニカワの場合だと,接着剤たっぷりでぎゅうぎゅうに締めつけるのより,接着剤薄めで軽くほどほどに固定したほうがより強く接着されますよ。

 さて,半月接着の折にひさしぶりで棹を挿し糸巻もつけ,いちおう組みたてた状態で,中心出しやら糸のコースの確認やらしてたわけですが,先に進む前に,その際に気付いた不良個所をいくつか直しておきます。

 まずは糸巻を指す孔の調整。いちばん上の孔の加工がひどく,糸巻がガタガタ動いて安定しません----まあ,小さいほうの孔なんか,完全に楕円形になってましたからね,さもはんきんぽーさもありなん。
 黒檀の欠片を削って孔の一部に接着,リーマーで削って丸く整形します。作業後,下地が出てしまった孔の周縁はオハグロで補彩。

 楽器に付いていた山口(トップナット)は,材質・工作から見て,オリジナルのもので間違いないとは思うんですが,幅が指板より1ミリほど大きく,従前は棹から左右わずかに突きでた状態となっていました。

 楽器としての機能上はさほど問題ありませんが,演奏時に指先や服の裾などに少しひっかかります。まずはこれを棹幅ピッタリに。

 つづいて,その上面に刻まれている糸溝の間隔がわずかに広く,そのままだと胴との接合部付近で外弦が棹幅ギリギリになってしまいますので,いちど糸溝を埋め,ちょうど糸1本分ぐらい中央に寄せて切り直します。

 糸がフレットの左右端ギリギリですと,かなり正確に指を落とさないと,フレットの角に糸が引っかかって音が死んじゃいますからね。修整はわずかですが,これで3フレットあたりでもそれなりの余裕ができたかと思います。

 低音弦がわ,内弦の糸溝は2本彫ってあります。

 これは切り間違えたとかじゃなくて,わざと。画像の設定だと狭いほう,もう1本のほうにかけ替えると,弦間がわずかに広くなります。
 庵主は手指が異様に小さいのでこれで良いのですが,押さえた時に糸と糸がくっついたりして音が響かないようなら,広いほうにかけ替えてみてください。

 補修の終わった棹と胴側を油磨きします。

 唐木の類は油切れすると割れやすくなりますからね。
 しかしながら,この春は思いのほか気温の低い日が続いたもので塗料や油の乾きがおそく,この手の作業が遅れに遅れて難渋いたしました。

 そうこうしている間に,裏板に新たなハガレが生じたりもしたので,そうしたところを補修しつつ,部品の乾きを待ち。当初の予定より遅れることおよそ二週間ほど----

 ようやくフレッティングにまでたどりつけました!
 第1~3フレット頭に多少使用の痕跡はついていますが,不具合が生じるほどの減りもなく,状態も悪くないので,今回はここもオリジナルの部品を清掃してそのまま使用します。
 オリジナルの位置で組んだ場合の音階は,このようになりました----

開放
4C4D-234Eb+374F-44G-144A-365C-145D-365F-6
4G4A-324Bb+305C-115D-325Eb-5E5G-455G#-5A6C-27

 作りから考え,かなり装飾品寄りに組まれていたということもありましょうが……けっこう波瀾。老天華,清琴斎あたりはもう少し揃ってましたね。
 第1・2フレットがかなり低めなのは,棹孔が割れていたせいでもありましょう。従前では,糸を張ると割れ目が開き糸倉がわがわずかに持ちあがったはずなので,接合部から遠い場所ほど音は安定せず狂いが顕著だったろうと考えられます。
 3フレット以降はさほどヒドくもありませんが,5・7フレットの誤差が大きいのも,これらが1・2フレットの音を基準としているせいでしょうね。

 オリジナルの音階を採ったところで,フレットを西洋音階準拠に並べ直すため,再びチューナーで各個の位置を探ります。
 ついでに,オリジナルではまっすぐに切り立っていたフレットの左右端を少し斜めに削り直します。これもまた楽器としての機能上の問題ではありませんが,そのままだと置いてる時に何かにひっかかって倒れちゃったり,弾く時に袖裾とかがひっかかったりしやすいので,たいていの作家さんは少し斜めに落としていますね。上でも書いたように,山口の糸溝を切り直して間隔を狭くしたので,元は端ギリギリに糸がかかっていた第3フレットあたりでも,いまは左右に少し余裕があってこの加工が可能です。
 加工した両端に新しい断面が出ちゃいますので,ヤシャブシと月琴汁(清掃時に出た板のヨゴレを煮詰めたもの)で染め直し,ラックニスに漬けこんで補強もしておきますね。

 ニスから引き揚げて数日乾燥,リューターで磨いて完成です!

(つづく)


« 天和斎の月琴(4) | トップページ | 天和斎の月琴(6) »