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ウサ琴EX2 (1)

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斗酒庵 ひさしぶりにウサ琴づくり の巻2022.5~ ウサ琴EX2 (1)

STEP1 ホルヘ師の図書館

 さて,先月完成させたばかりなんですが,ふたたびのウサ琴作り。
 前回ひさしぶりの製作のきっかけは,修理で使わなかった予備の面板の再利用でしたが,今回のきっかけはこちら----

 棹----ですな。
 最近,資料を探して本棚をひっくりかえしてたら,並んだ本の向こうから出てきました。(w)

 前回使った棹も,唐木屋という関東のメーカーの棹の複製として作ったものでしたが,今回出てきたこれは,名古屋の鶴屋・林治兵衛さん(鶴寿堂)の楽器の複製品ですね。
 その店名にあやかってか,鶴の首のようにたおやかな,美しい背のラインをもつ棹です。
 これも以前の修理の時に,資料として実験製作したもの。こういうのはいくら図面で詳細に記録しても,実寸の立体物にはかないませんし,「なぜそうなっているのか」「なぜそうしたのか」といった加工や工作の理由,それに伴う工程の差異なんかを解き明かすのも,実際に作ってみたほうが分かりやすいですもんね。

 作ったはいいものの,そういやずっと忘れてましたわ。
 置き場所に困って,本棚のスキマにつっこんどいたんですが,いつのまにか本の向こうに転げ落ちていたもよう。

 せっかく出てきてくれたので,今回はこの棹のために,ウサ琴,作りましょう!

 これまでのウサ琴製作は,いちどに複数を同時に製作し,その量産の過程から,月琴の工作の意味や理由の不明な点を解き明かそうというということだったり。棹と胴の組み合わせ,響き線の形状の違い,主構造の違いなどから,音色や音質の差異等を調べる,といった実験でしたが。
 今回のEXシリーズは,逆に 「"数売ってナンボ" の月琴を,最上の設定で,バカ丁寧に作ったらどうなるか?」 という意図のもと,1面づつ時間をかけて製作しております。
 そのぶんいろいろと負担も増えちゃいますが,100年以上むかしの流行期と違って,今や「作りゃあ売れる」ということもございませんからね。(w)庵主あらんかぎりの知識と趣味全開で,凝りまくった楽器に仕上げてまいりましょう。

 前回の製作で,どこをどうすればよりトンでもない楽器になるのか,はだいたい分かりました。米浴号も音はデカいわ響くわで,月琴の仲間としてはたいがいな性能の楽器となってしまいましたが,今回はあれを越えなければなりません,そうですね,目指すのは淀の3200Mを世界レコードで走り抜けたうえで,中山1200Mでも完勝するくらいのあたりでしょうか,できれば障害G1を7年連続ぐらい走っててくれるとさらに良い。

 胴の主材は,前回と同じくエコウッド径30センチ。

 この素材,製造元がもう一般売りはしてないらしいので,うちにあるぶんを使いきったら,ウサ琴シリーズもおしまいですね。
 材質はスプルース,一枚の板をたわめて円形に加工したものなので,清楽月琴と違い,胴の継ぎ目は1箇所だけになります。(月琴は通常4箇所)

 だいぶん前にウサ琴製作の予備として作ったのが,まだ数本ありました。
 エコウッドの輪に,カツラ材のネックブロックとエンドブロックを接着してあります。

 内桁は円の中心より1センチほど棹がわに取付けます。

 2枚桁の国産月琴だと,もっと大きく棹寄りだったりもしますね。唐物月琴の場合でも微妙に中心線を避けてる場合が多い。
 おそらくは,楽器を落としてしまったり倒れたようなばあいに,衝撃の中心に接合部がくるのを避けるような意味合いがあるものと考えられます。
 前作と同じく材は杉板で,真ん中が左右端よりわずかにふくらんだカタチに整形。ここに表裏桐板を貼って,ほんのりアーチトップ/ラウンドバックに仕立てます。

 前回の製作で,どのくらいまで削るとバッキリ逝くかもわかったので(実際2枚ほどバッキリやった),挽き回しでザリザリっと孔をあけ,サクサクバリバリ肉を落してゆきましょう。
 極限まで削り込むと,オニが宿り,おにいさまが自然発生してまいります(w)

 内桁から10センチほど下の表板がわに,半月(テールピース)の構造補強として薄板を1本接着します。これはヒノキ材。

 内桁は側板の内壁に浅い溝を,下部補強材は同表板との接着面にクボミを彫り込み,きっちりハメこんであります。もちろんニカワで接着しますが,溝の壁をびみょーに斜めに切ってあるので,このままでも噛合ってて簡単には落ちませんよ。

 いにしえの月琴製作者は,このあたりをオロソカにしている人が多いですね。
 あたりまえのことですが,共鳴胴の接合部がスキマだらけだと,振動の伝達が悪く,音は響きません。
 職人さんの腕の巧拙,名の高卑,発想力。材料の貴凡や装飾の華素に関わらず,「おっ,これは」と思うようないい音の楽器はかならず,胴体がしっかりとした「箱」になっていました。逆に言うと,こういうとこさえきっちりやっててくれれば,あとは多少ナニが不味くても,そこそこ使えるものになるんですよ,この楽器は。

 裏板がわの中央には,縦方向の補強として薄板を1本通します。
 板は端材箱からカツラの角棒が出てきましたので,これを半分に挽き割って作りました。ネックブロック・内桁・エンドブロックには,これと噛みあうよう溝を彫り込んでおきます。
 前回もちょっと書きましたが,この部品,なんて呼べばいいのか分かりませんので,庵主はとりあえず船の構造から「竜骨(キール)」と呼んでいます。
 ギターの背板にも同じような部品は付いており,これに横向きの力木を噛まして補強としてますが。ギターのは本来,背板中心の材の接ぎ目を補強するために貼られているもので,これ自体が楽器胴体の「背骨」となっているウサ琴のコレとは意味が違います。
 名は体をあらわし態を呈し,意味の違いは,工作の違いにもつながってきます----
 前回はギター等の製作を参考に,これを裏板に接着して最後にハメこみましたが,今回は最初から胴体に組み込んでおきます。
 ウサ琴の場合,これは「裏板の補強」ではなく「胴体構造の補強」だからですね。

 板は前作の板を作った時の余りと,新しく挽き割って作った小板を組み合わせて表裏2枚ぶん。

 うちにある桐板はだいたい厚さ6ミリ以上。
 前の板と同じくこれを木端口から縦半分に挽き割って,3ミリの薄板を作るわけですが。桐板みたいに柔らかな板でも,手鋸で縦に薄く正確に挽き切るってのは,けっこうタイヘンなんですよ。  また,いつもの板の2/3から半分の厚みなので,横に接ぎ継ぐのにも,接着面が半分しかないわけですね。接着面の擦り合わせも,かなり慎重にやらないとアカン。

(つづく)


2022年6月 月琴WS@亀戸

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斗酒庵 WS告知 の巻2022年 月琴WS@亀戸!6月!!



 

 

*こくちというもの-月琴WS@亀戸 水無月場所 のお知らせ-*


 いまだコロナ禍も完全にはおさまらぬなか,前回もWSに足をお運びいただいた方々,まことにありがとうございます。


 さて,本年度 月琴ワークショップ 第2回 開催ですぅ!!!


 6月の清楽月琴ワ-クショップは,月末第4土曜日,25日の開催予定。


 会場は亀戸 EAT CAFE ANZU さん。
 いつものとおり,参加費無料のオーダー制。
 お店のほうに1オーダーお願いいたします。

 お昼下りのみなづきといえばういろう開催。
 美味しい飲み物・ランチのついでに,月琴弾きにどうぞ~。

 参加自由,途中退席自由。
 楽器はいつも何面かよぶんに持っていきますので,手ブラでもお気軽にご参加ください!

 初心者,未経験者だいかんげい。
 「月琴」というものを見てみたい触ってみたい,弾いてみたい方もぜひどうぞ。


 うちは基本,楽器はお触り自由。
 1曲弾けるようになっていってください!
 中国月琴,ギター他の楽器での乱入も可。

 


 弾いてみたい楽器(唐琵琶とか弦子とか阮咸とか)やりたい曲などありますればリクエストをどうぞ----楽譜など用意しておきますので。
 もちろん楽器の取扱から楽譜の読み方,思わず買っちゃった月琴の修理相談まで,ご要望アラバ何でもお教えしますよ。相談事は早めの時間帯のほうが空いててGoodです。

 とくに予約の必要はありませんが,何かあったら中止のこともあるので,シンパイな方はワタシかお店の方にでもお問い合わせください。

  E-MAIL:YRL03232〓nifty.ne.jp(〓をアットマークに!)


 お店には41・49号2面の月琴が預けてあります。いちど月琴というものに触れてみたいかた,弾いてみたいかたで,WSの日だとどうしても来れないかたは,ふだんの日でも,美味しいランチのついでにお触りどうぞ~!

 



 現在,ウサ琴EX2号機を製作中。
 量産型と違いやたら時間のかかる加工実験ばっかしてるので,間に合うかどうかは微妙ですが,ちょっと頑張ります(w)

 

ウサ琴EX (4)

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斗酒庵 ひさしぶりにウサ琴づくり の巻2022.1~ ウサ琴EX (4)
-過去のウサ琴シリーズ製作記事へは こちら から。-


STEP4 どけ,おれはおにいさまだぞ

 さて,国産清楽月琴の進化形を模索する,ウサ琴作りの旅。
 いよいよ最終章です。

 ちょくちょく書いてますが,月琴という楽器は,作り手のがわにとっては,材料費と手間のわりには利益率の高い商品だったので,流行期には国内で,そりゃもう粗製濫造と言って良いほどの数が大量に作られていました。

 しかしながら,石田不識や田島真斎といった,はじめから「清楽」という音楽分野に関わりのあったらしい作者は別として,ほとんどの作家は正直「はやりものだから作れば売れる」という理由で,その音楽に関しても楽器そのものに関しても「ほとんど知らない」,「よく分からない」ままに作っていたと思われます。
 まあ,実際,ギターやバイオリンに比べると,そんなに複雑でも緻密でもないモノなので,そんなぼやーっとした知識や認識でも,参考となる楽器さえあれば,比較的容易に作れちゃったんだとは思います。国産月琴の構造や工作に,ちゃんとした規格や統一性がほとんど見られないのも,そのあたりから来てますね。だいたい共通しているような部分の加工や工作も,量産優先のためにふつうの楽器に比べるとかなり雑になっており,見えない部分の手抜きなどには,思わずゲンノウ投げつけたくなるくらいの仕業も珍しくはありません。
 もちろん月琴の作り手は,プロの職人であることが多いので(ときおり楽器職以外も混じる),彼ら多くの本来のウデマエは,しょせんシロウトである庵主からすれば及ぶべくもない領域なはずなのですが,丁寧にやってる部分がちゃんと出来てるかと言えば,そっちはそっちで 「なぜソコをそうした!」 みたいな,意味のない余計なだけの工作をしでかしていることが多く,こちらもこちらで五寸釘で手足を戸板に打ちつけ,四條川原にさらしてやりたくなる事態のほうが断然に多いですね----「雑」なだけの仕事はやり直してやれるだけの余裕がありますが,「丁寧」なほうは,やり直しが効かないくらいすでに削られちゃったりしてますから。

 しかしながら----はじめに触れた『鼻行類』ではないですが,彼らのそうした「手抜き」や「余計な工作」が,逆説的に「なぜソコはそうでなければならないのか」の理由を教えてくれたことも多かったので,それらを発見し,向き合うことは,決してイヤではありませんでした----まあそれはそれとして,いつか全員ブチころがします。(怒)

 薄い表裏板,浅いアーチトップ/ラウンドバック,一枚板の側板,極限まで削り込んだ内部構造,単純かつ効果の高い響き線----今回の製作は,古い楽器の修理で積んだケーケンと,それによって得られた,過去の作家の工作の上澄み部分の知識をふまえ,「月琴」という楽器の,どこをどうすればより良い性能より広い音楽分野において使用可能な「一般的な楽器」となるのか,その一つのカタチを探ってゆく小さな実験でもありました。

 前回もちらッと書いたように,フレットは10枚。
 清楽月琴は8枚で,もとが基本5音階の楽器のため,高音域のファとシにあたるフレットがありません。まあその2枚を足しても2オクターブ,出せる音数がたかだか13から15コに増えるだけですが,あとはギターのチョーキングと同じテクで,だいたいの半音は出すことができます。複弦なため,音的には少々安定に欠けますが,慣れればそんなに難しいことではありません。

 棹は楽器背がわに少し傾いでおり,指板面は山口(トップナット)のところで,胴体表板の水平より3ミリちょっと下がっています。
 これにより,低音域のフレットは背が高く,チョーキングやハンマリング・プリングオフ,あるいは弦を推しこんでのbebung効果などがかけやすくなっています。低音域は多少ノイズが混じってもけっこう味になるので,フレットの頭に弦が触れてビビるかどうかといったギリギリの高さにし,弦を押しこまなくても軽く鳴る,ほぼフェザータッチの設定にしてありますよ。もっとクリアな音が欲しい場合は,調整しますね。

 フレットの丈は高音域で極端に低くなります。
 通常1センチほどの高さのある半月(テールピース)が,この楽器では7ミリしかないのと,胴中央部がわずか~に盛り上がったアーチトップ形状となっているせいなんですが……最終フレットなんてもうツマヨウジなみの大きさですってばよ。(清楽月琴の平均は5~6ミリ高ていど)
 高音域はフレットの背が高いと,操作性が悪くなったり,振動がキレイに伝わらず音が小さくなってしまうことが多いのですが,これだけ低いとノイズの少ない,かなりクリアな音が出せますね。

 フレットを接着した時点で,各所をチェックし,最後にお飾り類を接着して----
 2022年,4月28日。
 最終形態のウサ琴EX,完成です!

 記事のタイトルから想像できた方も多いかとは思いますが(w),銘は「ライスシャワー」。
 コンパクトにまとまった器体と,上出来に染まった棹と胴側の色味が,かの漆黒のステイヤーを彷彿とさせます。
 板厚や内部構造,オニが宿っちゃうくらい極限までそぎ落としてますしね………え~,もうラベルにも書いちゃったから変えないもん!

 フレットは煤竹,山口(トップナット)は国産ツゲ…自作のへなちょこ楽器ではありますが,このあたり,部品単価が無駄に高級品ですなあ(www)

 通常,月琴の響き線は,楽器を平置きにした状態だと先端が裏板(もしくは内桁)に触れてしまうので効かなくなりますが。今回採用した「天神」構造は,もともと三味線に仕込むために考案したこともあり,平置きの状態でも表裏の板にはあまり着かないようになっています----なんせ三味線の場合,そこにあるのは木の板じゃなくてパンパンに張った皮ですからね。そこにハリガネがぶッささる,なんて事態は考えたくありませんでしたから。
 月琴演奏中に,響き線が胴内部に触れてノイズを発生させることを「胴鳴り」と呼んでいます。響き線と言う構造は言うなれば,制御不能な状態で勝手に震えているハリガネに,弦の振動が勝手に絡んで,勝手にスプリング・リバーブ的な効果(エフェクト)がかかる,というモノなのですが,もちろんこの「胴鳴り」をしてる状態では,マトモな効果は得られません。

 Z線の構造は,振幅の方向をあるていど容易に調整することができますので,「天神」では前後(月琴の場合だと表裏板の方向)を小さく,さらに左右は楽器の縦中心方向へ大きく振れるように構成してあります。内部構造に干渉しにくいので,平置きの状態でも響き線の効果はかかりますし,楽器を逆さにするか,鳴らそうと思って意識して振らなければ,演奏中や移動中にもほとんど「胴鳴り」は出ませんね。

 うちでふだん教えている弾きかただと,ピックは弦の高さより下には落ちないんで,半月の手前に貼られているバチ布は,ほぼ無用のお飾りでしかないのですが,この楽器は半月(テールピース)位置での弦高が通常の月琴よりもずっと低いので,バチ布がピックガードとしてちゃんと機能しています----いやあ,正直,コレ貼ってないと板に穴があきますね。
 弦高は操作性と音質のために下げれるだけ下げたのですが,このせいで半月がわでの操作(糸替え等)がちょおっとヤリにくくなっちゃいましたねえ。そんなにヒドくはない欠点ですが,このあたりはいづれ何か考えないと。

 棹は唐木屋の楽器のコピーで,清楽月琴のものとしてはごくごくスタンダートなデザインですが,さすがに使いやすいですね。カタチとしては少し太めで糸倉も武骨な感じなものの,棹背にへんなひっかかりもなく,弦池(糸倉の弦を巻き取っている部分)もやや広めなので,こっちがわの糸の交換とかはラクです。手に直接触れる部分だけに,このあたりは余計なこと考えないで,実用の中で勝ち残ってきた,こうした定番のスタイルがけっきょく一番イイわけです。

 月琴よりいくぶん小さく,全体でもかなり軽いですが,なかでも胴が軽く,ややヘッドヘビー。
 重量バランスはけして良くはない----すでに月琴を弾いてる人にとっても初心者にとっても,取回しには些少の習熟が必要かな?
 いつもより少し意識して固定しないと,演奏中に腕から楽器が逃げちゃう。まあここいらは現在使用している素材や構造の面からは少し改善しにくいところかもしれませんね。
 もっとも,座ってでの演奏では問題ですが,辻楽士のような立位での演奏だと,逆にすごくおさまりが良いです。うむ,横出しのアルファさん風に,棹にひっかける型のストラップをつけるといいかもせん。

 操作のうえでの問題点はそのくらいですが,音の面ではいささか評価が分かれるところかな。

 音,かなりデカいです。
 この楽器を嗜もうなどと考える御仁には,着物でも着て独り部屋にゐて,司馬遼風幕末物語にでも思いをはせながら,チントンパラリみたいな事を思ってる酢豆腐……いやいや(w)風流人が多いようですが,せまい部屋で弾くにはちょっと合わない音ですね----いや,音自体の質は良いのよ,月琴にしては音量にすこし容赦がないだけで。
 あくまでも「月琴にしては」ですがね。ギターとかほかの弦楽器と合わせるなら,これでもちょっとパワー不足かも…ナイロン弦,いちばん細い番手の組み合わせなら張れるかな? 張れればもっと音量が出せるし,天候にも左右されにくいかと。

 あと三味線の時にも言われたんですが,「天神」の効果がハンパないです。
 「胴鳴り」はしませんが,楽器に耳を着ければ,指先で軽くはたいたくらいでも,「キーン」っと内部の線の振動が伝わってきます。感度,効果ともにすごく高い。
 長時間弾いてると,この金属余韻がちょっと耳にキますね。線長2/3くらいでも良かったかも。

 そのあたりいろいろと考えますと,現状,この楽器は古い月琴をすでに1本なり持ってて,庵主みたいにその性能になんにゃら不満を持ってる野心家プレーヤー(笑)向きかな?
 正直,初心者向けではないかもしれませんねえ。

 ひさしぶりのウサ琴製作----いかがでしたでしょうか?
 楽器としては絶滅してしまったといって良い清楽月琴の,存在しないはずの未来の記憶の1ページなり,感じとれた方がいらっしゃれれば幸いこの厨二病め。(w)
 いやあ,あんまりにもひさしぶりだったので,ラベルの木版を探すのに苦労しました。
 間にカメ2とか阮咸とか作ってるものの,ウサ琴のシリーズを最後に作ったのは,もう10年以上むかしのハナシでしたからねえ。ハンコ見つからなかったら,イチからまた彫るか,手書きでやらなきゃならんとこでしたよ。

(おわり)


ウサ琴EX (3)

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斗酒庵 ひさしぶりにウサ琴づくり の巻2022.1~ ウサ琴EX (3)
-過去のウサ琴シリーズ製作記事へは こちら から。-


STEP3 淀の3200M

 さて,楽器の本体部分は,あと裏板を貼っちゃえばほぼ完成。
 そのほかの部分も作ってゆきましょう。
 まずは胴体上にのっかるテールピース。琵琶で言う覆手(ふくじゅ)にあたる部品ですが,月琴ではこれを「半月」と呼んでます。

 ウサ琴シリーズは,胴の主材に円形に撓められた既製品のスプルース材を使っており,この素材の規格の関係で,清楽月琴の標準より,胴が5センチばかり小さくなっています。
 ですが「清楽月琴の代替楽器」として,スケールや操作性などをなるべく損なわないため,有効弦長(トップナットからテールピースまでの寸法)はそれほど変えられないので,半月も取付位置を胴尻ギリギリまでズラし,さらに半月自体の寸法も縦方向を少し縮めて製作します。

 清楽月琴の半月は,底面の部分ではほんとうに「半月」な半円形をしてますが,今回の半月は木の葉を半分に切ったかんじで,ちょい細長くなってます----変化の理由も過程も違うのでしょうが,このあたりもけっきょく現在の中国月琴に近くなっちゃうあたりは面白いですね。
 いつもは量産工程の実験もあって,かんたんな板状の部品として作ってますが,今回はワンオフの進化形として作ってますんで,曲面にして彫りまくりました。とはいえ材料もカツラですし,透かし彫りにすると前回の天和斎みたいにぶッ壊れちゃいますので,浮彫ていどですが。
 ウサ琴の象徴であるウサギが2匹,上にはカエル----どっちもお月さんの眷属ですね。中央のカエルは左右の糸孔になってる銅銭を挿した紐を咥えています。

 これを糸巻といっしょにスオウで赤染め,オハグロで黒染めします。

 もとの木地がツートンカラーでしたので,それもちょっと活かして,イイ味が出るよう染めてゆきます。

 今回の製作は,清楽月琴の進化形---あくまでも音楽の道具である「楽器」としてどうなったか---を模索するというコンセプトの実験でもありますんで,その意味からは,装飾品である唐物月琴みたいに,胴の共鳴の邪魔にしかならないようなお飾りをゴテゴテと付けるわけにはいきませんが,日本の国産月琴はその「装飾品」を基にしたもの,という歴史は,それもアイデンティティの一部として残しておかなければならないかもしれません。
 まあ,すでに半月思いっきり彫っちゃってますので,装飾云々はいまさらという気もしますが,(w)楽器としての機能・性能を第一に考えて,基本的には最小限の装飾で留めたいところですね。

 ということで----つけるのは,蓮頭,扇飾り,ニラミ(胴左右につく装飾板)とバチ布とします。
 国産月琴の装飾としては,これがだいたい最少の構成ですね。ここにあと,胴中央に円形の飾りが足されるかどうかといったところ。さすがに,円形の共鳴胴のド真ん中に,振動を阻害するしか能のないアホな部品をへッつけることは,たいして理屈を知らない庵主でも愚行と分かりますので,これは却下。

 胴左右のニラミはコウモリで。
 半月なみに凝ったお飾りも考えましたが,いろんなデザインのなかでこれがいちばん邪魔にならず,サイズもきわめて小さめにできます。うちの7号ちゃんなんかにも付いてますが,この,コウモリが円形胴に貼りつく図は,「円銭蝙蝠」と見立てられ,音通で「眼前遍福」というおめでたい意味となります。

 扇飾りは,通常の清楽月琴のものと少し形状が異なり,上部に四角い切り抜きがあります。
 清楽月琴はもともと5音階の楽器なため,西洋音階で考えた時の高音域のファとシにあたるフレットが存在しません。現代の音楽を演奏したりほかの楽器とあわせる時に,これだとちょっと困ることが多いので,ウサ琴ではそのフレットを2枚足して,完全長2オクターブの楽器としています。
 まあ長音階さえ出せれば,あとの半音は,チョーキングやなんやらで,あるていど何とかなりますからね。
 その,清楽月琴に存在しない「高音ファ」のフレットが,このちょうど扇飾りのところに当たっちゃうんでこうなりました。
 さいしょは飾り自体をサイズダウンし,第6・7フレットのあいだに収めようとやってみたんですが,これを小さくすると,見た感じ,どうにもおさまりが悪くて……(^_^;) このお飾りは楽器的に,高音弦のオクターブの目印にもなってますので,あったほうが運指の際,咄嗟の目当てが効いて良いんです。
 これだとちょっと,お飾りからフレットが生えてるみたいな感じ(w)にはなっちゃいますが,全体のサイズはオリジナルの月琴に付いてるのとほぼ同じ,遠目にもより自然なバランスとなりましたね。

 最後に……ここは,ここだけは楽器としての音質や性能にほとんど影響のないところなので!

 てっていてきに凝らせていただきます!

 わはは----最初は『鳥獣戯画』的なウサギさんが,待て~~って感じでトラを追っかけてるのを彫ってみたかったんですが。スペースとウデマエの関係でさすがに断念(www)

 むかしの北京の秋の風物詩「兔兒爺(とぅるいえ)」です。中秋節に飾られる「兔兒爺」は,ごくごく素朴な張子や粘土の人形で,前に彫った時のはそちらに寄せたのですが,今回はそこにちょいとリアル風味を加えて----劇画版「兔兒爺」かな?

 こういう半立体の彫刻だと「裏彫り」が大事なんですねえ。
 むかーし,指物屋の親父が「やりすぎ,というくらい思いっきりやれ!」と言ってましたが,なるほど。

 裏彫による陰影の視覚効果でかなり盛り上がって見えますが,横から見るとほぼ板のまま,むしろ盛り上がってるどころかちょっとへっこんでますのよ。

 ここもスオウ染め,オハグロがけ。
 装飾部分は,胴体や棹の仕上げに比べると,工程をいくつかは省いていますが,それでもそれなりの色つやに仕上げてゆきます。

 さて,楽しいお飾りづくりもあらかた終わりましたので,次回はいよいよ組みたててゆきますよおっ!!

(つづく)


ウサ琴EX (2)

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斗酒庵 ひさしぶりにウサ琴づくり の巻2022.1~ ウサ琴EX (2)
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STEP2 菊の花の咲くころ

 太華斎に使う予定だった板は,オリジナルのいちばん薄い部分に合わせて作ったもので。ふつう月琴の表裏板の厚みは4~5ミリほどですが,これは3ミリあるかないかといったところです。

 ギターのスプルースなんかと比べても桐は柔らかですが,三味線の絹弦を使用している限りにおいて,月琴の弦圧はそれほど高いものではないので,このくらいでも大丈夫----かと思いますが,まあ,月琴の板としてはかなりギリギリの厚みですね。
 さすがにちょいと気にはなりますので,裏から少し補強することとしましょう。

 まずは表板(上左画像)。
 内桁は唐物と同じく1枚ですが,半月の上辺(糸の出る真っ直ぐなところ)の前あたりに,細い板材で補強を入れ,さらに半月が接着される一帯に薄いツキ板を貼っておきます。
 裏板(上右画像)には縦方向の補強材を入れます。
 清楽月琴の胴体には本来,縦方向への支えがほとんどありません。円形に組んだ胴材を,表裏から板でサンドイッチしただけの構造ですんで,あえていうならこの表裏の桐板が,弦の張力とかを受け止めてるわけですね。

 最初に書いたように,今回の板はこの楽器のものとしてもうすーいシロモノですんで,そのあたりにはやっぱり不安が出ますから。
 この細板自体は裏板に接着されますが,ネックブロック,内桁,エンドブロックの中央には凹が彫り込んであり,板接着時に補強板がガッチリはまり込むようにしてあります。

 胴中央を支える内桁は,針葉樹材で厚7ミリ。
 清楽月琴の標準だと,厚みは1センチくらいのが多いですね。胴材の内壁にごく浅い凸を刻んで,そこにはめこんであります。
 この内桁は,中央部分が左右端より2ミリほど幅広くなっており,板がかぶさると,表裏,ごく浅いアーチトップ/ラウンドバックになるようにしてあります。左右の音孔部分を強度の限界まで削り,さらに内がわに向いた面の角も丸めて,極力共鳴空間の邪魔にならないようにしてます。
 現在の大陸の月琴では,この内桁に相当する部品が一枚の板ではなく,庵主が板ウラの補強材に使ってるような,胴内を渡る薄くて細い板と,棹のなかごを受ける中央の四角い小板を組み合わせたものとなってることが多いのですが,板を削ったか3ピースかの違いはあれ,窮めてゆくとけっきょく,似たような発想,カタチに落ち着くもんですわい。
 内桁以外の補強材はすべて広葉樹材で,ネック/エンドブロックやバスパーはカツラ,ツキ板はブナですね。

 響き線は庵主お気に入りのZ線。
 工作と調整がしやすく,弧線に近い余韻の効果が期待できる構造で,たぶん,この楽器に日本人が加えた種々の改造のなかでは,いちばんマトモで画期的なものだったのじゃないかな----ぜんぜん広まりはしなかったようですが。(w)
 今回はそれをWで。
 34号などで見られたオリジナルの構造は横向きですが,庵主はこれを縦向きにして,ネックブロックのところから左右下に展開させます。
 空からカミナリが降ってきてるみたいなんで「天神」と名付けたこの構造は,以前,三味線の胴に響き線を仕込むという依頼を受けた時に思いついたもので。制限のあるせまい空間のなか,いろいろと実験した中で,もっとも効果の高かった組み合わせでした。

 棹は前回書いたように,以前の修理のとき予備として作ってあった唐木屋の楽器の複製品を使いますので。
 これに糸巻の孔をあけて,胴に入るなかごの部分を削りこんだら,あとはぶっぴがぁーんと合体させるだけ。
 糸巻もまえに染めに失敗して放置したのが1セット見つかりましたので,これを削り直してぶすッっとな。今回は黒染めしちゃいますので,多少の染めムラは問題ナシです。
 ----まあもっとも,イチから作らなくて済んだだけで,取付け位置や細かい角度の調整で,三日も四日かかっちゃうところは変わりませんが。(泣)



(つづく)


ウサ琴EX (1)

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斗酒庵 ひさしぶりにウサ琴づくり の巻2022.1~ ウサ琴EX (1)
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はじめに-マンモスハナアルキの夢-

 『鼻行類』という本があります。

 南洋の孤島に,鼻で歩くという独自の進化を遂げた生物群がいる,として。その生態や分類,進化の過程が書かれた本ですね。
 もちろん,ハナアルキは実在しませんが,ハナアルキが実在しないということは,逆に我々がなぜ今あり,このような姿になっているのか,ということを考えさせもするわけですな。

 庵主言うところの「清楽月琴」というモノは「絶滅楽器」です。

 大元の大陸や台湾には,いまも「月琴」という名前の楽器が実在し,実際に演奏されていますが,現在の大陸の「月琴」は,胴体構造も弦制も古い月琴とは違うものになっています。この,現在通販とかでも気軽に買える現行の中国月琴は,伝統的な月琴の外面(ガワ)をもとに,解放後,「改良」の名のもとに創作された楽器なので,名前は同じであっても庵主は「中国現代月琴」もしくは「モダン月琴」と呼んで,4弦2コースの中国月琴や清楽月琴と同類の楽器とは考えていません。

 あー,だからそこの今デキ月琴抱えて幕末ごっこしてるヒト……それ,名前が同じだけの違う楽器だからね。

 中国南部および南西部では現在も,清楽月琴と同じく4弦2コースの月琴も作られ,弾かれていますが,構造的には現代月琴と大差ない頑丈な胴体をして,棹の極端に短いものが多いですね。台湾で「月琴」といえば長棹のほうが有名ですが,短い棹の月琴も存在しています。こちらも基本は4弦2コースですが,胴がぶ厚く,側部がギターのように薄板で構成されているものが多いようです。月琴が日本に伝わってから百年ちょっと,最大で見積もっても二百年かそこらですが,鳥のくちばしが短くなるように,その間にもそれぞれの進化は続いていったのですな。
 清楽流行当時,日本に渡ってきた古い中国月琴---「古渡り」とか「唐物」とか呼んでるやつ---は,中国月琴の古形をそのまま今に伝えている,とか言いたいところではありますが。これらは「輸出用」の装飾品として作られていたフシがあり,当時の「楽器」として一般に使われていたモノとは別個のモノであったと考えたほうが良いかもしれません。ですので,厳密には「楽器」でないかもしれないモノも含む,これら清楽に使われた「唐物月琴」と,それのコピーからはじまった「国産月琴」というモノは,「月琴」という名前の楽器の歴史のなかで考えるなら,進化の流れからははずれ,どんずまりの中へと消えたギガントピテクス(途絶えた一族)みたいなモノなわけですね。

 清楽/明清楽の衰退とともに,音楽の表舞台から姿を消した月琴ですが,明治のころにはすでに,主流は輸入品ではなく,国内で生産された楽器となっていました。流行に乗じて,けっこうスゴい数が作られたようで,国内に現在も残っている楽器の多くは国産品です。
 すでに書いたよう,国産月琴ははじめ,輸入された唐物月琴のコピーからはじまりましたが,その短い流行期の間に独自の進化を遂げました----いや「遂げかけた」というくらいが正確なところかな?

 文化文政のころ,お江戸の文化人の間に中国音楽が流行ったことがあります。当時,学問的にちょっとした変換点があって,その必要から「子曰く」みたいな古典的文章ではなく,「白話」と呼ばれるふだん使いの中国語に近い文で書かれた小説などを読むのが流行ったのですな。
 いまもむかしも,活きた外国語をまなぶうえで有効な手立ての一つが,歌----音楽です。そこで長崎に留学経験があり,清国の人と交流があったような先生連の中から,そういうのも習ってきたようなヒトを招いて「最新の中国音楽を聴く会」みたいのが開かれたりもしました。
 幕末から明治にかけて流行した「清楽」「明清楽」というのはその流れを汲むもの……ではありますが,実は学者先生を中心に広まったこの第一次の流行との間には一世代以上の途絶があって,後で流行ったほうはある意味,「中国風」を騙るインチキ音楽であります。一部に勘違いしている方もいますが,「清楽」とか「明清楽」とかいうのは,当時これに関わってた連中が勝手につけた呼び名で,べつだんそういう名前のひとかたまりの音楽が,大陸から伝わったとかいうわけではないんですよ。さしたる脈絡もなくバラバラに伝わった音楽をそれらしくまとめ,自分たちで捏造した「中国風」の楽曲や邦楽の俗曲でふくらましたのが,この第二次の流行,「清楽」とか「明清楽」と呼ばれた音楽なのです。

 明笛でも唐琵琶でも阮咸(双清)でもなく,月琴という楽器が主流になった背景には,極論すれば,これがそのインチキ音楽を「それらしく見せる」ための効果的な「小道具」として,一番有効なものであったからとも言えます。小さく可愛らしく物珍しく,見た目にインパクトがあり,取り扱いが容易で教えやすい----そして,他と比べて「利益率」が大変によろしい。(www)
 まあ,インチキだの詐欺行為だと言っても,やらかしてることは落語「酢豆腐」の若旦那ていどのものなので,あまり目くじらを立てないでいただきたいものではあります。
 とはいえ「詐欺」とか「インチキ」というものは,100%の虚偽ではまずもって成立いたしません。もちろん,清楽や明清楽の音楽が100%日本人による捏造なわけもないのですが,第一次の「お偉い先生たち」が気に入って弾いたり聴いたりしていた曲にすら,ほんとうに中国人から教わったのか怪しげなものはあり,当時捏造された創作曲も,教わる時に何もおことわりがなければ,二人目からは「中国の曲」になっちゃいますので,どれがホンモノでどれがニセモノなのかを判別することは,曲が古くなればなるほど難しい。
 ましてやレコードもカセットテープもCDもMDもICレコーダもない時代,もともとの中国人が鼻歌レベルで覚えていたような曲が,どれだけ原曲を伝えているのかも知れたもンではないでしょう。
 研究者として清楽やら明清楽の資料を見る時は,まずもって根っこのとこから真偽を疑う,というあたり,胸の奥に留めておく必要はありますよ,ぜったい。

 さて,清楽や明清楽というものがインチキであることは,開国開化を経て,さまざまな情報が入ってくるようになると,ちょっと鼻の効く,勘の良い連中はたちまち気づいてしまいました。楽器のカタチや使い方の違い,日本式のやり方で読めない楽譜,教わったのと合致しない音楽理論,「流行ってた」ハズなのに,向こうの人が誰も知らない歌や曲----そうした連中(とくにこの分野に関わって上のほうでドヤ顔してた類)は,周囲に気づかれないうち,静かに河岸を変える(琵琶とか尺八とか一絃琴とか)とか,そこからフェイドアウトしてゆくとか,あるいは「清楽」というものそれ自体を「なかったこと」にして,以降見ぬふり聞かぬふりをキメこんだわけですな。
 「日清戦争」という大事件と,それに向かう対清国感情の悪化というのも,これを「ホンモノ」として商売していた連中にとってはもちろん大きな打撃でありましたが,それ以上にそしてそれ以前から,新しく押し寄せた「情報」という大波によって,「清楽」という音楽分野はすでに根幹から破綻しつつあり,その象徴楽器として一蓮托生だった「月琴」とともに消えてゆく運命にあったのだと,庵主は考えております。

 ----前置きのハナシが長くなりましたが。
 庵主は思う,音楽分野自体の衰退によって,独自の進化を「遂げかけた」で終わった国産月琴でありますが,もしこれが「ちゃんとした楽器」として,あのまま進化していったら,どのような楽器になっただろうか,と。


STEP1 皐月のころはまだつぼみ

 今回の製作のきっかけは,ちょっと前にやった「太華斎」の修理でした。

 この楽器の表裏板は工作がヒドく,質的にも問題が多かったので----庵主,もしオリジナルの板が使えなかった場合のため,楽器表裏に貼れるくらいの大きさで同じくらいの厚みの桐板を接いで作っておいたんですね。
 けっきょく,オリジナルの板をなんとかして戻すことには成功したんですが。そのため,用意しておいた板が余っちゃいました。
 いざという場合の予備としてこさえただけのものではありますが,コレ,なんかもったいないなぁ……

 そうだ,ウサ琴つくろう!

 胴側はウサ琴の最後のシリーズを作った時に,予備として途中まで組んだものが3セットほど残ってましたので,これを使います。
 円形に撓められたスプルースの板を輪に接合して,ネックブロックとエンドブロックが付けられた状態になってます。

 棹は過去の修理で,今回の桐板みたいに,予備として作ったものや,研究用に複製してみたものがいくつかありました。
 そのなかから今回は「唐木屋」の棹の複製品を選択します。

 やや太めいくぶん頑丈そうに見えるタイプなのですが,いままで触った中では,これがいちばんクセがなく,使いやすいカタチだと思います。
 ちなみに----棹の造形としての美しさで言えば,名古屋の鶴屋・林治兵衛の楽器のなんかがキレイでしたね。店名にかこつけたわけではないでしょうが,鶴の首のような優しい曲線を描く細身の棹が特徴でした。ただし,キレイなことはキレイなんですが,鶴屋とか石田不識の棹とかには独特のクセがあって,「弾きやすいか」どうかはまたかなり判断が分かれる,とも思いますね。

 さあ,これでだいたいのコンセプトが決まりましたので,ひさびさに,いっちょう作ってまいりましょう!

(つづく)


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