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ウサ琴EX (4)

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斗酒庵 ひさしぶりにウサ琴づくり の巻2022.1~ ウサ琴EX (4)
-過去のウサ琴シリーズ製作記事へは こちら から。-


STEP4 どけ,おれはおにいさまだぞ

 さて,国産清楽月琴の進化形を模索する,ウサ琴作りの旅。
 いよいよ最終章です。

 ちょくちょく書いてますが,月琴という楽器は,作り手のがわにとっては,材料費と手間のわりには利益率の高い商品だったので,流行期には国内で,そりゃもう粗製濫造と言って良いほどの数が大量に作られていました。

 しかしながら,石田不識や田島真斎といった,はじめから「清楽」という音楽分野に関わりのあったらしい作者は別として,ほとんどの作家は正直「はやりものだから作れば売れる」という理由で,その音楽に関しても楽器そのものに関しても「ほとんど知らない」,「よく分からない」ままに作っていたと思われます。
 まあ,実際,ギターやバイオリンに比べると,そんなに複雑でも緻密でもないモノなので,そんなぼやーっとした知識や認識でも,参考となる楽器さえあれば,比較的容易に作れちゃったんだとは思います。国産月琴の構造や工作に,ちゃんとした規格や統一性がほとんど見られないのも,そのあたりから来てますね。だいたい共通しているような部分の加工や工作も,量産優先のためにふつうの楽器に比べるとかなり雑になっており,見えない部分の手抜きなどには,思わずゲンノウ投げつけたくなるくらいの仕業も珍しくはありません。
 もちろん月琴の作り手は,プロの職人であることが多いので(ときおり楽器職以外も混じる),彼ら多くの本来のウデマエは,しょせんシロウトである庵主からすれば及ぶべくもない領域なはずなのですが,丁寧にやってる部分がちゃんと出来てるかと言えば,そっちはそっちで 「なぜソコをそうした!」 みたいな,意味のない余計なだけの工作をしでかしていることが多く,こちらもこちらで五寸釘で手足を戸板に打ちつけ,四條川原にさらしてやりたくなる事態のほうが断然に多いですね----「雑」なだけの仕事はやり直してやれるだけの余裕がありますが,「丁寧」なほうは,やり直しが効かないくらいすでに削られちゃったりしてますから。

 しかしながら----はじめに触れた『鼻行類』ではないですが,彼らのそうした「手抜き」や「余計な工作」が,逆説的に「なぜソコはそうでなければならないのか」の理由を教えてくれたことも多かったので,それらを発見し,向き合うことは,決してイヤではありませんでした----まあそれはそれとして,いつか全員ブチころがします。(怒)

 薄い表裏板,浅いアーチトップ/ラウンドバック,一枚板の側板,極限まで削り込んだ内部構造,単純かつ効果の高い響き線----今回の製作は,古い楽器の修理で積んだケーケンと,それによって得られた,過去の作家の工作の上澄み部分の知識をふまえ,「月琴」という楽器の,どこをどうすればより良い性能より広い音楽分野において使用可能な「一般的な楽器」となるのか,その一つのカタチを探ってゆく小さな実験でもありました。

 前回もちらッと書いたように,フレットは10枚。
 清楽月琴は8枚で,もとが基本5音階の楽器のため,高音域のファとシにあたるフレットがありません。まあその2枚を足しても2オクターブ,出せる音数がたかだか13から15コに増えるだけですが,あとはギターのチョーキングと同じテクで,だいたいの半音は出すことができます。複弦なため,音的には少々安定に欠けますが,慣れればそんなに難しいことではありません。

 棹は楽器背がわに少し傾いでおり,指板面は山口(トップナット)のところで,胴体表板の水平より3ミリちょっと下がっています。
 これにより,低音域のフレットは背が高く,チョーキングやハンマリング・プリングオフ,あるいは弦を推しこんでのbebung効果などがかけやすくなっています。低音域は多少ノイズが混じってもけっこう味になるので,フレットの頭に弦が触れてビビるかどうかといったギリギリの高さにし,弦を押しこまなくても軽く鳴る,ほぼフェザータッチの設定にしてありますよ。もっとクリアな音が欲しい場合は,調整しますね。

 フレットの丈は高音域で極端に低くなります。
 通常1センチほどの高さのある半月(テールピース)が,この楽器では7ミリしかないのと,胴中央部がわずか~に盛り上がったアーチトップ形状となっているせいなんですが……最終フレットなんてもうツマヨウジなみの大きさですってばよ。(清楽月琴の平均は5~6ミリ高ていど)
 高音域はフレットの背が高いと,操作性が悪くなったり,振動がキレイに伝わらず音が小さくなってしまうことが多いのですが,これだけ低いとノイズの少ない,かなりクリアな音が出せますね。

 フレットを接着した時点で,各所をチェックし,最後にお飾り類を接着して----
 2022年,4月28日。
 最終形態のウサ琴EX,完成です!

 記事のタイトルから想像できた方も多いかとは思いますが(w),銘は「ライスシャワー」。
 コンパクトにまとまった器体と,上出来に染まった棹と胴側の色味が,かの漆黒のステイヤーを彷彿とさせます。
 板厚や内部構造,オニが宿っちゃうくらい極限までそぎ落としてますしね………え~,もうラベルにも書いちゃったから変えないもん!

 フレットは煤竹,山口(トップナット)は国産ツゲ…自作のへなちょこ楽器ではありますが,このあたり,部品単価が無駄に高級品ですなあ(www)

 通常,月琴の響き線は,楽器を平置きにした状態だと先端が裏板(もしくは内桁)に触れてしまうので効かなくなりますが。今回採用した「天神」構造は,もともと三味線に仕込むために考案したこともあり,平置きの状態でも表裏の板にはあまり着かないようになっています----なんせ三味線の場合,そこにあるのは木の板じゃなくてパンパンに張った皮ですからね。そこにハリガネがぶッささる,なんて事態は考えたくありませんでしたから。
 月琴演奏中に,響き線が胴内部に触れてノイズを発生させることを「胴鳴り」と呼んでいます。響き線と言う構造は言うなれば,制御不能な状態で勝手に震えているハリガネに,弦の振動が勝手に絡んで,勝手にスプリング・リバーブ的な効果(エフェクト)がかかる,というモノなのですが,もちろんこの「胴鳴り」をしてる状態では,マトモな効果は得られません。

 Z線の構造は,振幅の方向をあるていど容易に調整することができますので,「天神」では前後(月琴の場合だと表裏板の方向)を小さく,さらに左右は楽器の縦中心方向へ大きく振れるように構成してあります。内部構造に干渉しにくいので,平置きの状態でも響き線の効果はかかりますし,楽器を逆さにするか,鳴らそうと思って意識して振らなければ,演奏中や移動中にもほとんど「胴鳴り」は出ませんね。

 うちでふだん教えている弾きかただと,ピックは弦の高さより下には落ちないんで,半月の手前に貼られているバチ布は,ほぼ無用のお飾りでしかないのですが,この楽器は半月(テールピース)位置での弦高が通常の月琴よりもずっと低いので,バチ布がピックガードとしてちゃんと機能しています----いやあ,正直,コレ貼ってないと板に穴があきますね。
 弦高は操作性と音質のために下げれるだけ下げたのですが,このせいで半月がわでの操作(糸替え等)がちょおっとヤリにくくなっちゃいましたねえ。そんなにヒドくはない欠点ですが,このあたりはいづれ何か考えないと。

 棹は唐木屋の楽器のコピーで,清楽月琴のものとしてはごくごくスタンダートなデザインですが,さすがに使いやすいですね。カタチとしては少し太めで糸倉も武骨な感じなものの,棹背にへんなひっかかりもなく,弦池(糸倉の弦を巻き取っている部分)もやや広めなので,こっちがわの糸の交換とかはラクです。手に直接触れる部分だけに,このあたりは余計なこと考えないで,実用の中で勝ち残ってきた,こうした定番のスタイルがけっきょく一番イイわけです。

 月琴よりいくぶん小さく,全体でもかなり軽いですが,なかでも胴が軽く,ややヘッドヘビー。
 重量バランスはけして良くはない----すでに月琴を弾いてる人にとっても初心者にとっても,取回しには些少の習熟が必要かな?
 いつもより少し意識して固定しないと,演奏中に腕から楽器が逃げちゃう。まあここいらは現在使用している素材や構造の面からは少し改善しにくいところかもしれませんね。
 もっとも,座ってでの演奏では問題ですが,辻楽士のような立位での演奏だと,逆にすごくおさまりが良いです。うむ,横出しのアルファさん風に,棹にひっかける型のストラップをつけるといいかもせん。

 操作のうえでの問題点はそのくらいですが,音の面ではいささか評価が分かれるところかな。

 音,かなりデカいです。
 この楽器を嗜もうなどと考える御仁には,着物でも着て独り部屋にゐて,司馬遼風幕末物語にでも思いをはせながら,チントンパラリみたいな事を思ってる酢豆腐……いやいや(w)風流人が多いようですが,せまい部屋で弾くにはちょっと合わない音ですね----いや,音自体の質は良いのよ,月琴にしては音量にすこし容赦がないだけで。
 あくまでも「月琴にしては」ですがね。ギターとかほかの弦楽器と合わせるなら,これでもちょっとパワー不足かも…ナイロン弦,いちばん細い番手の組み合わせなら張れるかな? 張れればもっと音量が出せるし,天候にも左右されにくいかと。

 あと三味線の時にも言われたんですが,「天神」の効果がハンパないです。
 「胴鳴り」はしませんが,楽器に耳を着ければ,指先で軽くはたいたくらいでも,「キーン」っと内部の線の振動が伝わってきます。感度,効果ともにすごく高い。
 長時間弾いてると,この金属余韻がちょっと耳にキますね。線長2/3くらいでも良かったかも。

 そのあたりいろいろと考えますと,現状,この楽器は古い月琴をすでに1本なり持ってて,庵主みたいにその性能になんにゃら不満を持ってる野心家プレーヤー(笑)向きかな?
 正直,初心者向けではないかもしれませんねえ。

 ひさしぶりのウサ琴製作----いかがでしたでしょうか?
 楽器としては絶滅してしまったといって良い清楽月琴の,存在しないはずの未来の記憶の1ページなり,感じとれた方がいらっしゃれれば幸いこの厨二病め。(w)
 いやあ,あんまりにもひさしぶりだったので,ラベルの木版を探すのに苦労しました。
 間にカメ2とか阮咸とか作ってるものの,ウサ琴のシリーズを最後に作ったのは,もう10年以上むかしのハナシでしたからねえ。ハンコ見つからなかったら,イチからまた彫るか,手書きでやらなきゃならんとこでしたよ。

(おわり)


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