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ウサ琴EX (3)

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斗酒庵 ひさしぶりにウサ琴づくり の巻2022.1~ ウサ琴EX (3)
-過去のウサ琴シリーズ製作記事へは こちら から。-


STEP3 淀の3200M

 さて,楽器の本体部分は,あと裏板を貼っちゃえばほぼ完成。
 そのほかの部分も作ってゆきましょう。
 まずは胴体上にのっかるテールピース。琵琶で言う覆手(ふくじゅ)にあたる部品ですが,月琴ではこれを「半月」と呼んでます。

 ウサ琴シリーズは,胴の主材に円形に撓められた既製品のスプルース材を使っており,この素材の規格の関係で,清楽月琴の標準より,胴が5センチばかり小さくなっています。
 ですが「清楽月琴の代替楽器」として,スケールや操作性などをなるべく損なわないため,有効弦長(トップナットからテールピースまでの寸法)はそれほど変えられないので,半月も取付位置を胴尻ギリギリまでズラし,さらに半月自体の寸法も縦方向を少し縮めて製作します。

 清楽月琴の半月は,底面の部分ではほんとうに「半月」な半円形をしてますが,今回の半月は木の葉を半分に切ったかんじで,ちょい細長くなってます----変化の理由も過程も違うのでしょうが,このあたりもけっきょく現在の中国月琴に近くなっちゃうあたりは面白いですね。
 いつもは量産工程の実験もあって,かんたんな板状の部品として作ってますが,今回はワンオフの進化形として作ってますんで,曲面にして彫りまくりました。とはいえ材料もカツラですし,透かし彫りにすると前回の天和斎みたいにぶッ壊れちゃいますので,浮彫ていどですが。
 ウサ琴の象徴であるウサギが2匹,上にはカエル----どっちもお月さんの眷属ですね。中央のカエルは左右の糸孔になってる銅銭を挿した紐を咥えています。

 これを糸巻といっしょにスオウで赤染め,オハグロで黒染めします。

 もとの木地がツートンカラーでしたので,それもちょっと活かして,イイ味が出るよう染めてゆきます。

 今回の製作は,清楽月琴の進化形---あくまでも音楽の道具である「楽器」としてどうなったか---を模索するというコンセプトの実験でもありますんで,その意味からは,装飾品である唐物月琴みたいに,胴の共鳴の邪魔にしかならないようなお飾りをゴテゴテと付けるわけにはいきませんが,日本の国産月琴はその「装飾品」を基にしたもの,という歴史は,それもアイデンティティの一部として残しておかなければならないかもしれません。
 まあ,すでに半月思いっきり彫っちゃってますので,装飾云々はいまさらという気もしますが,(w)楽器としての機能・性能を第一に考えて,基本的には最小限の装飾で留めたいところですね。

 ということで----つけるのは,蓮頭,扇飾り,ニラミ(胴左右につく装飾板)とバチ布とします。
 国産月琴の装飾としては,これがだいたい最少の構成ですね。ここにあと,胴中央に円形の飾りが足されるかどうかといったところ。さすがに,円形の共鳴胴のド真ん中に,振動を阻害するしか能のないアホな部品をへッつけることは,たいして理屈を知らない庵主でも愚行と分かりますので,これは却下。

 胴左右のニラミはコウモリで。
 半月なみに凝ったお飾りも考えましたが,いろんなデザインのなかでこれがいちばん邪魔にならず,サイズもきわめて小さめにできます。うちの7号ちゃんなんかにも付いてますが,この,コウモリが円形胴に貼りつく図は,「円銭蝙蝠」と見立てられ,音通で「眼前遍福」というおめでたい意味となります。

 扇飾りは,通常の清楽月琴のものと少し形状が異なり,上部に四角い切り抜きがあります。
 清楽月琴はもともと5音階の楽器なため,西洋音階で考えた時の高音域のファとシにあたるフレットが存在しません。現代の音楽を演奏したりほかの楽器とあわせる時に,これだとちょっと困ることが多いので,ウサ琴ではそのフレットを2枚足して,完全長2オクターブの楽器としています。
 まあ長音階さえ出せれば,あとの半音は,チョーキングやなんやらで,あるていど何とかなりますからね。
 その,清楽月琴に存在しない「高音ファ」のフレットが,このちょうど扇飾りのところに当たっちゃうんでこうなりました。
 さいしょは飾り自体をサイズダウンし,第6・7フレットのあいだに収めようとやってみたんですが,これを小さくすると,見た感じ,どうにもおさまりが悪くて……(^_^;) このお飾りは楽器的に,高音弦のオクターブの目印にもなってますので,あったほうが運指の際,咄嗟の目当てが効いて良いんです。
 これだとちょっと,お飾りからフレットが生えてるみたいな感じ(w)にはなっちゃいますが,全体のサイズはオリジナルの月琴に付いてるのとほぼ同じ,遠目にもより自然なバランスとなりましたね。

 最後に……ここは,ここだけは楽器としての音質や性能にほとんど影響のないところなので!

 てっていてきに凝らせていただきます!

 わはは----最初は『鳥獣戯画』的なウサギさんが,待て~~って感じでトラを追っかけてるのを彫ってみたかったんですが。スペースとウデマエの関係でさすがに断念(www)

 むかしの北京の秋の風物詩「兔兒爺(とぅるいえ)」です。中秋節に飾られる「兔兒爺」は,ごくごく素朴な張子や粘土の人形で,前に彫った時のはそちらに寄せたのですが,今回はそこにちょいとリアル風味を加えて----劇画版「兔兒爺」かな?

 こういう半立体の彫刻だと「裏彫り」が大事なんですねえ。
 むかーし,指物屋の親父が「やりすぎ,というくらい思いっきりやれ!」と言ってましたが,なるほど。

 裏彫による陰影の視覚効果でかなり盛り上がって見えますが,横から見るとほぼ板のまま,むしろ盛り上がってるどころかちょっとへっこんでますのよ。

 ここもスオウ染め,オハグロがけ。
 装飾部分は,胴体や棹の仕上げに比べると,工程をいくつかは省いていますが,それでもそれなりの色つやに仕上げてゆきます。

 さて,楽しいお飾りづくりもあらかた終わりましたので,次回はいよいよ組みたててゆきますよおっ!!

(つづく)


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