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ウサ琴EX2 (終)

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斗酒庵 ひさしぶりにウサ琴づくり の巻2022.5~ ウサ琴EX2 (4)

STEP4 バラのお肉はグラム¥118


 さて,ウサ琴EX2の製作も終盤!
 今年も斗酒庵工房四畳半のフルエコ・エアコン「大自然」は絶好調ですので,夏帰省前には仕上げたいところですな!

 胴側の染めも仕上がり,まずここまで表裏板の木口を守ってくれてきたマスキングテープをはがします。染め初めから半月余り----赤染めて,黒かけて,油で拭いて,下地剤かけて磨いて,トップコートにニス刷いて…真っ黒のパリパリになったマスキングテープには,ここまでの製作の歴史が滲みこんでおりますなあ(物理)。

 表裏板の染めは,ヤシャブシの汁砥粉を入れて沸かしたとこに,少量のヤマト糊(でんぷん糊)を加えたもので。
 これまで数多くの古い月琴をジャブジャブ洗ってきた(w)ケーケンから察するに,唐物の場合は砥粉がほとんど入っておらず,ヤシャブシのかわりに阿仙などのタンニン系染料も使われているようですが(ちゃんと調べた人がいないみたいなので何とも言えん),国産月琴の場合は桐箪笥の仕上げとほぼ同じ。


 庵主の工法もほぼそれに倣ってますが,作者によって砥粉の量や汁の濃さがかなり異なります。不識なんかは汁濃いめ砥粉かなり多めで行ってますが,唐木屋はどっちもごくあっさり,出荷時にはかなりの色白だったもよう。
 ヤシャブシというのは反応の良い染料なため,表裏板の色は使用や保存の環境によってかなりの変化をみせます。納屋や蔵みたいなとこにぶるさげられてれば空気に触れて真っ黒にもなるし,布袋や箱に入れられていればそれより古い楽器でも真っ白のままだったりしますね。
 ウサ琴はもちろん出来立てですので,基本まっちろで仕上がりますが,味付けに工房謹製の月琴汁(過去の修理で楽器を洗った時に出た汁を煮詰めたもの)をごく少量加えてるので,やや変化が早く。先行のEX1号機あたりでも,1ヶ月そこらでうっすら色があがってきてますね。

 楽器の中心線を計り直し,半月の貼りつけ位置を決定します。
 そう,誰も信じちゃいけない----最初からどんなに精確に作ろうがどんな名人が作ろうが,木工では計画上の数値が仕上がり時にもピッタリ同じ,なんていうキセキは起こらないのですよ。他人を疑いオノレの腕前を疑い,紙のコトバも,この世のすべてを,つねに疑ってかかるのです!あ,やっぱり2ミリずれてた(www)

 半月を接着したら,一日置いてフレッティングの開始です。
 今回もフレットはムダに材料単価の高い(w)煤竹製。いえ,資金が余ってるとかいうわけじゃなく,煤竹の端材がダブついてましてちょっと消費せんばならんとです。

 フレットの高さはヨシ----前作とほとんど同じですね。
 今回のシリーズ,山口(トップナット)の高さはだいたい清楽月琴の標準と同じですが,半月(テールピース)がかなり低くなっている(7ミリ)のと,胴表面がごく浅いアーチトップとなっているので,フレットの丈は高音域で一気に低くなり,最終フレットはツマヨウジくらいになっちゃいます。
 まあここまで極端ではありませんが,「いい月琴」のフレットの高さの変化にはだいたいこれに近い傾向がある,と思ってください。ギターとかの製作者さんが「月琴」を自作しようとした場合,どうしても「弦高全体」を平均に低くしてしまう傾向があり,結果,出来た楽器は「ギターの亜種」にしかなっとらんという例をよく見かけますが。月琴の「フレットの高さ」には,それなりの意味と機能がある,というあたりは,作る前に知っといてもらいたいもンですな,ふんす。

 できあがったフレットは,ざっと磨いてまずエタノールに1~2時間。そのあとラックニスにドボンしてニスを染ませ,数日乾かします。今回は煤竹なので,染めたりしないぶん手順が少なくなってますが,それでもたかだか竹製のフレットにここまで手間かけるヒトはそういないかもせんです,ハイ----だって仕上がりと経年変化がキレイなんだもん。

 フレットが仕上がったところで二次フレッティング,ニカワで楽器に貼りつけます。
 ウサ琴は新楽器ですがここはやっぱりニカワ付け----はい,ですのでポロリもあるでよ。これもやはりメンテ上の理由や,楽器の経年変化による変形等に即応可能なためですね。「月琴のフレットはポロリするもの」,聖書にもそう書いてあります(w)。まあ演奏中にポロリする懸念はあっても,長い目で見れば楽器と演奏者にとって利のほうが多いので,はずれても衝動的にボンド付けとかしないように。

 棹上は フレットこする君(細棒の先に紙ヤスリを貼った) で接着位置を軽くあらしてから,胴上のフレットは フレットやする君(竹片に紙ヤスリを貼った) で底にわずかなアールをつけてから接着します。

 フレットがくっついたら,最後にお飾り類を接着します。
 これら胴上のお飾りやフレットの接着は,基本的に「点づけ」で行います。ニカワを全面にべったり塗るのじゃなく,ちょんちょんと点を打つように盛るんですよ。
 接着の強度を考えると一見問題ありそうですが,必要な箇所に必要なぶんをちゃんと点し,適度な圧をかけて接着すれば,通常の使用において簡単にはずれてしまうようなことはまずありません。

 これも「いい楽器」の職人さんが,まず必ずやっているワザ。下手クソや後先考えてないニワカ職人ほど,こういうとこにニカワをべっとり盛って,修理やメンテの時,後の人(おもにワタシ)を困らせて藁人形にクギ打ちつけられますね。
 楽器は「道具」です。ノミやカンナは使ったら砥ぐし,ノコギリやヤスリは目立てするように,道具にはメンテナンスが必要です。「使い捨て」が基本の今出来の道具ばかり使っていると忘れがちですが,古くからの良い「道具」というのは本来そうしたものです。
 良い状態で,できるだけ永く使ってもらいたいから,後々のメンテナンスを考えた作りにしとくのが「良い作り手」というものだと思いますよ----あ,お飾りとれた。

 お飾り類を取付け,最後にバチ布を貼って。
 2022年6月22日,
 ウサ琴EX2号機,完成いたしました!!

 今回も,そこそこ可愛いらしく仕上がりました。
 まあ1号機より構造を多少強化したぶん,高音域での音の伸びがやや落ちましたかね----作った本人じゃないと分からないくらいの小差ですし,構造が強くなってナイロン弦を張れれば,かなりの音量増加が望めます,湿気にも強いので,楽器として活躍できるステージが広がりますからね,功罪相比ぶれば,このくらいはしょうがないかと。

 前作と同じく月琴製作の「上澄み技術」を結集して作った楽器です。絹弦張ってても,そこらの清楽月琴よりははるかにデカい音が出てますし,デカいことをのぞけば「月琴の音」としての質も,そこそこ良いほうだと思いますよ。

 名古屋「鶴屋」鶴寿堂・林治兵衛の棹のレプリカ----やっぱり棹背のラインが美しく,さわり心地も最高ですね(w)
 もっともこの「美しさ」ゆえ,操作上に若干のクセが出てますが,このあたりは使い手のほうに慣れてもらうしかありません。
 前作同様,古物の「清楽月琴」の音や操作感を知らない,まったくの初心者には向かない楽器ですね----楽器としての音や操作性ということからだけ考えれば,「ふつうの楽器」並みの音量と月琴特有の音質は,逆に万人向けではあるのですが。これに慣れちゃうと,たぶん「ふつうの(古物の清楽)月琴」のほうが弾けなくなっちゃいますからね(w)

 いやあ,比べちゃうとね…やっぱりこッちのほうが,断然ベンリなんすよ。

 わしゃあ月琴では清楽曲しかやらん!というような変態さんはともかく,四畳半フォークからボカロ曲,アニソンまでやろうとかいう庵主みたいなふつうの弾き手(ナニ,反対だって?)にとっては,ふつうに音量が出ると言うだけでPAさんの靴をペロペロする必要がなくなり,フレットが2本足されて2オクターブの長音階が出せるという点だけでもラクに弾ける曲の領域がグンと広がりますので「そこ,音がないから弾けん!」と逆ドヤして他の出演者に引かれるなんてことも少なくなります。(庵主の演奏者環境に関しましては黙秘させていただきますwww)

 作者希望といたしましては,すでに1本,古物の清楽月琴なりを手にしていて,日ごろ「もう少しこうだったら…」みたいな満ち足りない想いを抱えている方が使ってくれるとサイコーなんすが……(あ,青汁ドキュメント的な再現Vが脳内に流れた)

 とりあえずお嫁入りさき募集中です。
 ワレと思わんかたはご連絡あれかし,お待ち申し上げております。

(おわり)


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