ウサ琴EX2 (2)
![]() STEP2 バスカーヴィルの犬型ロボット ![]() 初歩的な問題だよ。 そもそも弦楽器とは,弦が張ってなければ,ただの木の箱なのだ。 というわけで。 前回,胴体構造を構成する各部品はだいたいそろいましたので。今回はこの木の箱を「弦楽器」とするための作業と,基本的な部品を色々とこさえてゆきます。 とりあえずはその前に,むかし作った棹の糸倉に,糸巻の孔をあけときましょう。 ![]() ![]() 軸孔の位置や糸巻の角度等は,棹のモデルにした鶴寿堂の楽器の記録から。あとは実物合わせで微調整します。また各位置における糸倉の幅の中心を出し,握りのほう(太いほう)がそれより1~2ミリ上(楽器前面がわ)になるようにします。これにより各糸巻は,握りの部分がわずかに楽器前面に傾くわけなんですが,このわずかな傾きで楽器の使用感が変るあたり,人間工学って面白いな,と毎回思います。 庵主の脳はファミコン旧機なみに3D未対応(w)なので,毎度穴あけはちょっと間違ってもリカバ出来るよう,ドリルの細いほうから段階を踏んで,少しづつ大きくしていってますよ。 そしてドリルからリーマーへ。 あるていど広がったところで,仕上げは焼き棒をつっこんで焼き広げます。 庵主の使ってる「焼き棒」は,¥100均で買った鉄製の「釘締め」をちょっと削ったもの。3センチの幅で10>7くらいのテーバーがついてて同じような鉄製品なら,何でも良いとは思いますぜ。 焼き焦がされることで,軸孔の内壁の繊維が癒着し,割れにくく丈夫になる,という,黒檀やら紫檀やらで棹を作る三味線のテクですが,月琴の場合,棹自体の材質がカツラだとかホオだとか,比較的やわらかい木のことが多いので。最終調整の1~2回前くらいに,エタノでゆるめたエポキを二度ほど染ませて数日おき,孔の内壁を補強してから最後の削りをしてます。 ![]() 続いて,そこに入れる糸巻を。 ![]() ![]() 今回の糸巻はやや細め。棹が優美な曲線美なのに,ぶッ太い糸巻ってのも変でしょ? 3本素体からこさえましたが,以前の修理の予備で六角まで刻んだのが1本出てきたので,それも削り直して使ってます。 ![]() 鶴寿堂の糸巻では,握りの溝を各面3本刻んだものがやや多いですね。 この溝,増えたからと言って機能的にさしたる差異はなく,単に手間が3倍に増えるだけですが,まあこのあたりは原作準拠で。 材料にしてる¥100均の「めん棒」は,少し前までブナとかナラとか樫・ドングリ系の硬い材質のものが多かったんですが,最近はやわらかい白楊(ポプラ)のようなので,これも全体に樹脂を染ませて強化しておきます。 まあ,マッチの軸と同じ材質とはいえ,音響的には悪くないし,三味弦を使っている限り月琴の弦圧なぞたかが知れてるので,強度的にもそのままでさして問題はありませんが,繊維がボサボサしているので,樹脂浸透で表面をカッチリさせてからのほうが,精密な微調整とか溝切りとか仕上げの作業はやりやすいですよ。 続いては半月。 前作はウサギx2,カエルx1の月面動物オールスターでしたね。 今回も似た路線でまいりましょう。 ![]() 2枚ある型紙のうち,左のが平均的な月琴のサイズ。 横幅は変わりませんが,縦幅がウサ琴のほうが1センチくらい狭く,横長のカタチになってます。 ![]() ![]() 材は前回と同じカツラ。 縦幅が3センチしかないので,そこそこ小さな端材板でも作れますね~そこらは経済的なんですが…… ![]() ![]() 例によって,彫りまくりますんで労力は非経済的。(w) ![]() 今回の意匠は「水晶宮」----「月宮殿」とも言いますね。 お月さん領主の一人・西王母さまの居城----まあ,彫ったのはその玄関先ですが。 少し前にやった天和斎の半月の「海上楼閣」と基本的なデザインはいっしょですが,この場合,手前を埋め尽くす渦巻は「波」ではなく「雲」となりますので,このウサギ2羽は「波乗り兔」ではなく「雲跳び兔」といったところでしょうか?。 別に狙ったわけではないのですが,このウズウズの部分は,庵主がふだんやってる楽器の持ちかただと,弾く時に器体を固定するのにちょうど良いひっかかりになるみたいです。 弦の反対がわの端,山口(トップナット)も前回同様,現在では高級素材の国産ツゲですが,前作より厚みを1ミリばかり落としてあります。 ![]() あまり薄くすると安定が悪くなりますが,このくらいならまあ大丈夫でしょう。 ![]() ![]() 高13ミリ。富士山型はこのところの定番ですね。 鶴寿堂の本物の棹だと,指板部分先端で板が切れており,山口はその一段低くなった部分に接着されます。この工作はおそらく,山口の固定補強を狙ったものだと考えられますが。今まで修理したり見たことのある鶴寿堂の楽器で,山口が残っていた例が少ないことから,あまり効果はないようですね。初期のウサ琴などで実験したところからいうと,この工作は指板がかなり厚めでないと効果が期待できない感じです。庵主の棹だと3P構造の補強と粗隠しを兼ねて,指板はそこそこ厚めのが貼られますが,鶴寿堂の原作だと,指板の厚みは1ミリあるかないかなので,あまり意味はないかと考えられます。 まあそもそも鶴寿堂,部材の加工精度やデザインの腕前は抜群に良いのですが,残念なことに 「接着がヘタクソ」 という欠点もありますから,山口が残ってないのはそのせいかもしれませんがね。 今回も胴のお飾りはシンプルに左右のニラミと扇飾り。 標準的な月琴よりも一回り小さい胴体ですし,音質や操作性を重視するなら,もちろんゴテゴテと飾り付けるわけにもいきませんな。 そもそも日本に輸出された月琴に飾りが多かったのも,東のほうの野蛮人に装飾品として高く売りつけるためのようなもんですから。ちゃんと楽器として使いたいなら,そんなのを有難がってはイケない(w) ![]() とはいえ「清楽月琴」は「飾りのついてるモノ」。まったく無いのもサミシいですし(お飾り作るの好き),妥協して必要最小限にしてます。 さいしょ「ちょっと凝ってやろう」とか思って上画像みたいのを彫ったんですが----実際に楽器に当ててみるとこれがまた見事に似合わない。 EXシリーズのニラミは胴体に合わせて,ふつうの月琴よりも一回り以上小さめの寸法。その中で,彫りも細かいし,単体ではデザイン的にも悪くないと思ったんですがねえ。 気を取り直して。 いつものように伝統的な意匠のなかから,月琴に乗せて意味の通じるものを。 ![]() ![]() 「ザクロ」ですね。 種子が多いので「多子(子だくさん)」のめでたい象徴。いままでの修理ではよく,「多汁(=多什,物持ち)」のモモ,「多宝」のブシュカンと合わせて「三多」という意匠で使ってますが,モモ以外の2つは,ニラミの意匠としてもそれぞれ良く使われていますね。 三つのなかで,ニラミの意匠としてモモがあんまり見られないのは,うにゃうにゃと先端の分かれたブシュカンや,実がはじけて種子の見えてるザクロにくらべると,つるんとしていてやや印象が薄いせいかな? 両面テープで二枚重ねてだいたいの輪郭を切り出したら,2枚に分けて樹脂を染ませ,裏に薄紙を貼って割れ対策をします。 ![]() ![]() 「ボツ」のほうと比べると彫りも少ないし,「貫き」は2箇所しかないというシンプル・デザインですが,やっぱりこういうののほうがしっくりくるというかなんというか。細かいことやったからといって,必ずしも「凝った」ことにはならないという実例を体験しましたね。 ![]() 扇飾りは今回も真ん中にフレットを生やしますので,それを前提にしたデザインにします。 ![]() ニラミをザクロにしちゃった関係で,蓮頭も植物系となる予定,そうなると今回はコウモリさんを入れる場所がない。「眼前遍福」は月琴につきものみたいな意匠ですので,どっかに入れてやりたいですねえ----ということで。 ![]() ![]() 今回は扇飾りをコウモリさんに。 フレットを翼で抱きかかえてるみたいなデザインに仕上げます。 ![]() ![]() 石田不識の月琴ではここにコウモリを内に入れた扇飾りが付いてたり,コウモリそのものが入ってたりしますが,コウモリそれ自体を扇型にデザインしたモノというのは意外と見たことがないなあ。 腕翼で抱え込んだフレットに,チュウしてるみたいになる予定。 (つづく)
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