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柏遊堂の月琴 (5)

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斗酒庵 六度輪廻で柏遊堂 の巻2023.2~ 柏遊堂の月琴 (5)

STEP5 柏の遊びせんとや

 続いては欠品の補作へとまいります。

 一般的には「修理」というと,こういう目に見えて「なくなってる」ものをどうにかすることが分かりやすいんだろうけど。「楽器」というものは「道具」なので,「刃を研ぐ」とか「角度を調整する」といった,パッと見には分からないところのほうがよっぽど重要で大切だったりします。楽器の修理はカタチだけととのっていても,ちゃんと道具として 「使い物」 になってなきゃ問題外なんですから。
 まあ,蓮頭・糸巻・山口にフレットと,どれも独力の完全手作業でイチから作るのですから,タイヘンっちゃあタイヘンなんですが……すでにそこにある,自分でない誰かが作った部分を,どうにかしてどうにかする(w)作業に比べると,ぜんぶ自己責任なんでいくぶん気持ち的にラクな面はありますね。

 まずは糸巻。

 握りのところが六角一溝。各面軸尻のほうに向かってわずか~にたちあがり,全景ではごく浅いラッパ状のシルエットになってます----ただの六角錐じゃないんですよ(w)
 先端はやや太め…ただこれは量産品なので,一般的な品に比べ5ミリほど短くなってるせいでそう見えるだけかもしれませんね。

 今回はブナ系の木材だったのでけっこう硬かったですね~。
 あと木固めをして染めなきゃなりませんが,とりあえず完成です。

 もうひとつ。小さいけれども大事な部品----山口さんも作っときましょう。
 ギターで言うところのトップナットですね。

 この楽器のオリジナルは,棹上のフレットとともになくなってしまっていて,工房到着時には三味線の上駒みたいな象牙の細板がへっつけられてました。原状では棹の傾きがほとんどない楽器でしたから,あれで音が出せたとは思えませんね~何のつもりだったんだろ?
 まえに琵琶屋さんからもらった国産ツゲの端材でこさえます。キレイな黄色じゃ。
 柏遊堂のオリジナルは確か,左右は平面で浅く斜めに削っただけだったかと思いますが,定番の富士山型にしときます。

 蓮頭はオーナーさんのご希望により,「蝶」の意匠で何か彫ります。
 うむ……「蝶」か。細かいとこが多いから,ちょっといい材料じゃないとなー。

 というわけで。世界堂さんに行った時に版画用のカツラの板材を購入。
 ホオでもいいんですが,個人的に細かいとこ彫る時の感触は,こっちのほうが若干良い気がします。
 買ってきた板は,普通サイズの蓮頭ならちょうど4枚とれる大きさでしたんで,四ツ切りにして両面テープで重ね,予備の素体もまとめて作っちゃいます。

 細かい意匠の彫りものは,最後のほうでポロっと失敗しちゃうかもしれませんからねえ。スペア大事。
 南画のお手本やら実物の動画やら,いろんな資料見てよさげな蝶の姿をスケッチ。
 頭の中でおおかたまとまったところで板に書き込み,まずは透かすところだけ彫り下げておきます。

 今回は大きな空間が空く所はないので,小径のドリルビットで孔を空けては,宝飾用の糸鋸でちまちまと広げて細かく透かしていきました。だいたい彫れたところで底面を削ってトンガリのほうを薄く,お尻のほうを厚くして彫り面にテーバーをつけます。
 ここまでやったところで一度木固め。
 中彫りから仕上げ彫りへと,さらに手を細かくしてゆきます。

 はははは,素体からで一週間近くかかりまいた。なんか指攣った。
 蝶の羽根の表現ってむずかしいねえ。
 今回の意匠はWハッピーに蝶が2匹。「喜喜蝶蝶」「喜事畳々(いいこと次々)」
 背景に牡丹(富貴)柘榴(子孫繁栄)も付いてます。

 さてここで修理に戻って----下桁の改修にまいります。
 下桁には裏板を剥がした時についた傷が少々あるくらいで,現状「壊れて」はいませんが。その工作にはいろいろと「ヘンなところ」があります。

 ひとつめは,左から右へと薄くなってゆく板を使用していること。

 すでに記事にしたように,これに関しては同時期の他作家の楽器の構造を参考にしたのではないかと考えられたものの。音響的な特性や加工の難易等さまざまな面から考察し,楽器製作のSNS等で尋ねてみたり,ちょっとした実験もしてみましたが……うん,やっぱりどう考えてもどうやっても,この加工にはアリンコのおならほどのメリットもありませんね。

 ふたつめが,その取付けについて。

 もともとの唐物月琴が一枚桁で,下桁というものは国産化されてからの後付盲腸的構造であるところから,その取付け工作は概して雑なものになっていることが多いのですが。本器の下桁は片側の端が胴側板の内壁にぴったり合わせて接着されているのに,厚くなっている反対がわの端は側板の直前で真っ直ぐに切断され,内壁にはくっついてません。
 これについてもいろいろ考えてたり実験してみたのですが,まったく不明です。同様の下桁を入れていた松音斎の楽器では,両端どちらもついてましたし。

 最後が板中央の四角い切りとり。

 音孔のつもりなのは間違いないのですが,なぜ上桁のように板の真ん中を貫かずに切り抜きという工作を選択したのかが分かりません。ここの加工に関しては,メリットどころかデメリットのほうしか思い浮かびませんね。

 まあ,後期生産型のBタイプでは,下桁は平らな板に丸孔をあけただけの数打ち月琴でよくある構造となっていますし。

 本器のこれら工作は,どれもこれも月琴作り手探り期思いつきだけの実験みたいなもんで,何らかの成果を真剣に追求したもの,とかは考えない方が良さそうです。もし何かしらいくぶんでも成果があがっていたのなら,その後も多少の痕跡が工作上に残るはずですし。

 以上,本器下桁の「思いつき工作」には,とッぱらって交換しなければならないほどのデメリットは総じてないものの,何らかの不具合を発生させうる可能性のある部分に関しては,予防的な改修が必要なものと考えられます。

 まずは真ん中の切り抜き。
 通常の状態では問題ありませんが,桁と板との接着面に断裂部分があるのはよろしくない。真ん中部分の両端が少しでも板から剥離すると,場所が場所(半月直下)だけに,ひどいノイズの発生源となる可能性があります。
 そもそも半月にかかる力を受け止めなきゃならないような場所に,こんな加工するというあたりが考えナシですね。

 凹の両端を少し切ってブリッジを渡しましょう。
 段になってるところは左右を少し斜めに切ってあるので,上にひっぱっても抜けませんよ。

 次にくっついてないほうの端と,側板の間のスキマを埋めます。
 そもそも内桁というのがなんのために付けられているのか?----胴体構造を保持するためなんじゃないんですかね。それも片方だけくっつけてあって,もう片方がフリーなんてまったく意味わかめです。

 桁と同じ針葉樹の端材を削ってスペーサを作り,削った時の木粉をまぶしてつッこみました。
 どちらもニカワ接着で,一晩置いてから整形します。

 後者のほうはホント分かりませんが,前者のほうはあんがい,入れてみたらサイズが少し足りなかった,とかかもしれんですな。

 ----といったあたりで,今回はここまで!

(つづく)


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